■9月10日 小雨のち嵐
マルコさんが単独で2日間の偵察に出発した。
先日かき氷で盛り上がった日に彼が盗聴していたのは白ひげ海賊団の縄張りを荒らそうとする海賊の情報だった。
「懸賞金がまだ1億もいかねぇ、粋がったルーキー中のルーキーだ」
「話をつけてくる。俺ひとりで十分だ」と父様に進言し、許可を得て彼はひとりで海賊団の説得に向かった。
「マルコひとりで大丈夫かよ。説得が討伐にならなきゃいいけどよ」
「エース、お前じゃあるまいし。マルコなら心配ねぇ、うまくやるだろうよ」
「あぁ!? なんで俺じゃダメなんだよ!」
「うるせぇな、火の玉小僧。お前、雨の日は調子崩すこと多いだろうが」
「昔の話だろう! 今は問題ねぇよ!」
「はいはい、わかったわかった。エース君は強い子でちゅね〜。いい子だから黙ってお兄ちゃんの帰りを待ちましょうね〜」
「……〜〜腹立つ! サッチ、手合わせ付き合えよ! 今すぐ!」
偵察に不向きな性格のエースさんはいつも単独での偵察任務を許可されず、こうして不貞腐れてはサッチさんにあたることが多い。
ここに来て最初の頃は喧嘩を止めなくていいのかと焦りもしたけれど、今ではもうすっかり見慣れた光景になっているので私は慌てることなく「まぁまぁ」と不機嫌な彼をなだめることに徹した。
「エースさんは偵察よりも先陣を切る役の方が向いていると思いますよ。私が知る限りでも2番隊が前線に出たときの戦いが一番被害が少なかったかと」
彼をなだめるために言ったことだが、けして嘘や方便ではない。
本当に彼が最前線にいるときの方が他の隊が出たときよりも決着がつくのが早いのだ。
私の言葉はどうやら彼の自信を鼓舞させることに成功したらしい。
うなじをさすりながら「そっかー」と彼は嬉しそうに笑う。
そしてそんなエースさんの斜め後ろでは私に向かって両手をあわせて「サンキューな」と苦笑いしながらお礼を言うサッチさんの姿があった。
「あと1時間ほどで時化が来る。全員持ち場に戻れ。急いで帆を畳め!」
普段指揮を執るマルコさんの代わりに今は3番隊隊長のジョズさんが場を仕切っている。
彼の号令にクルーたちは声をあげ、小雨が降る中での急ぎの作業が始まった。
私も身軽さを生かしてマストに昇り、水を吸って重くなった帆をみんなと力を合わせて巻き上げる。
巨大帆船モビーディックのすべての帆を畳む頃には小雨はすっかり激しさを増していた。
「見張り以外は船内に引っ込め。間違っても海になんて落ちるんじゃねぇぞ」
「特に能力者はな。助けてやれねぇぞ」とイゾウさんが煙管を咥えた口を吊り上げる。
誰のこととも言っていないのに自分のことだと思いこむエースさんが「落ちねぇよ!」と叫び、周りからどっと笑いがあがって場が和んだ。
「1番隊から順に風呂に入れ。濡れ鼠のままでいて体調崩すなんてことはねぇようにしろ」
再びかけられたジョズさんの号にクルーたちはありがたいと足取り軽やかに大浴場へと向かっていく。
私はどのタイミングでお湯をもらおうかと思っているとイゾウさんに「お前もさっさと入ってこい」と背を押された。
「若い娘がいつまでも体冷やしたままにしておくもんじゃない。気にせず先入ってきな」
「イゾウさん。……すみません、ありがとうございます。じゃあお言葉に甘えて」
彼の気遣いに感謝し、ぺこりとお辞儀をして早速お風呂をもらいに行く。
女風呂は当然私ひとりきりでほとんど貸し切り状態だ。
長風呂したいところだが、濡れたまま待機している他の隊のクルーに申し訳なくて早めにあがった。
着替えて濡れた髪をタオルで拭きながらみんなが集まっている大食堂に戻ると料理長さんがいれてくれたホットワインで盛り上がっているところだった。
「ちゃん!」と声をかけられ、そちらを向くとサッチさんとイゾウさんが向かい合って座っていた。
2人とも髪が濡れているせいで普段のセットが下りていて見慣れない姿をしている。
「お風呂いただいてきました。お先にすみません」
「あー、いいってそんなん。女の子なんだから体冷やさねぇようにしねぇと」
「ありがとうございます、お気遣いいただいて。でも私、皆さんが思っていらっしゃるほど体弱くないですからね」
「そういう問題じゃないんだよ、」
「……? はぁ、あの」
「お前を濡れ鼠のままにして風邪なんかひかせたら、後で俺たちがマルコに叱られちまうんだ」
「え。いや、まさか……そんなことは」
「あるんだなぁ、これが。ちゃんのことが世界一大好きなおっさんが額に青筋立てて俺たちに文句言う姿がありありと目に浮かぶわけよ」
サッチさんは片手で頬杖ついて私を見ながらにやにやと笑う。
イゾウさんも「それだけお前は愛されてるってことだ、」と煙管をふかしながら口元を緩ませる。
私は2人の言葉を否定することができず、する気もなく、照れ隠しに赤くなった顔をそっぽ向けることしかできなかった。
料理長さんにホットワインを勧められたが、マルコさんがいないところではなるべく飲酒しないよう決めていたので申し訳なく思いながらも丁重にお断りした。
すると料理長さんは代わりにとホットレモンをいれてきてくれた。
私のためだけにわざわざだ、申し訳ない。
「気にするな」と笑う料理長さんに頭を下げてお礼を言い、サッチさんの隣に腰掛け、いれてもらったあたたかいカップにありがたく口を付けた。
甘酸っぱいレモンの味がジィンと体の奥深くに沁み渡っていくのが感じられて思わずホッと息をついてしまう。
「ところでちゃん」
「はい」
「マルコへのプレゼントは何にするか決まったのかな?」
「へ?」
「って言ってもまだ5日しか経ってねぇもんな。決まらねぇか」
ははは、とサッチさんは笑いホットワインのグラスを傾ける。
彼の言う通りだ、マルコさんへの誕生日プレゼント案はまだ何も浮かんでいない。
おふたりには何か考えがあるのだろうか。
もしあるのならぜひ参考にさせてほしいと訊ねるとイゾウさんは次に上陸する島で良さげな煙草を買うつもりだと言う。
一方のサッチさんは当日の特大ケーキを担当するとのこと。
「あとはそうだな、今年も酒でも贈ろうかなって」
「煙草、それにお酒……なるほど」
どちらもマルコさんが好んでよく嗜むものだ。
同じものよりかは別のものを贈った方がいいのだろう。
プレゼントの案の中からお酒類と煙草が早々に消えた。
ただでさえアイディアが枯渇しているというのに選択肢が更に狭まれ、私は眉間に皺を寄せて考えてしまう。
珍しく難しい顔をしたものだから2人には笑われてしまった。
「悩んでんなぁ」
「悩みますね……。全然アイディアが浮かばなくて」
「ま、そう悩まずともお前からのプレゼントなら何だって喜ぶだろうけどな。マルコは」
「そう、でしょうか」
「そうそう。だからあんまり深く考えず、サクッと決めちまった方がいいぜ」
「サクッと、ですか……」
そんなに簡単に決められたらいいのだけれど。
とりあえず私も次に上がる島で何か探してみることにした。
いろいろなお店を回れば、案外これだというものに巡り合えるかもしれない。
そんな偶然の出会いに期待することにした。
■9月15日 晴れ
マルコさんはモビーを出発した日からきっちり2日後に予定通りモビーに帰還した。
縄張りを荒らそうとしていた海賊団を無事に説得できたとのことだった。
そしてそれから更に3日後の夜、甲板では大宴会とまではいかないまでもそこそこ大きな酒盛りが催された。
マルコさんが説得した海賊団が父様の、白ひげ海賊団の傘下に加わることを承諾したのだ。
「さっすがは俺たちのマルコ隊長だぜ! ルーキーを口説き落として仲間にさせちまうなんて、普通はできねぇよ!」
1番隊のクルーたちは隊長の功績を称え、彼への尊敬の念を更に深くし、ぜひお酌させてほしいと順番待ちの列まで作る始末。
おかげでマルコさんの杯は乾く暇なく、注がれた酒を延々と飲み干し続ける羽目に。
私はその様子を甲板と食堂を行ったり来たりして料理のお皿を運ぶのを手伝いながら眺めていた。
1番隊の全隊員からのお酌が終わると、それを待ってましたとばかりにサッチさんたちが彼を囲んで座り始めた。
遠くて声は聞こえないけれど、マルコさんのうんざりした顔から察するに「もういい加減にしてくれよい」とでも言っているのだろう。
その宴会は夜が更けても尚遅くまで続いた。
延々と飲まされいつになくひどく酔っ払ったマルコさんは、一体どんな話をしているのか、時折指笛を鳴らされ真っ赤な顔で「うるせぇよいっ」と苛立ちを露わにしていた。
結局その晩、彼は部屋に戻ることもできず珍しく甲板に横たわって寝落ちることに。
私はサッチさんに「悪いけど、なんか掛けるもん持ってきてやってくれるか」と頼まれ、ブランケットを手に彼の隣に腰を下ろした。
硬い甲板の上で体を横向きにして眠る彼に毛布を掛け、起こさないよう力加減を慎重にポンポンと肩を叩く。
すると寝ているはずの彼に手首を掴まれ、私はその場から身動き取れなくなってしまった。
正面で杯に残ったお酒を舐めていたサッチさんが肩を震わせて笑う。
「ふはっ。いや、ほんっと……愛されてんなぁ。ちゃん」
「寝てても手放したくないって、どんだけだよ」と言われ、私は照れくさくも嬉しさを感じずにはいられなかった。
眠っているからだろう、私の手首を掴むマルコさんの指の力はそれほど強くはない。
振りほどこうと思えば容易にできる。
でも私はそうせず、その晩は彼の隣に座ってうとうとと微睡むことにした。
ありがたいことに夏島がまだ近くにあるおかげで夜でも寒さを感じず過ごすことができた。
身じろぐたびにずれるブランケットを掛け直し、小さな声で「お疲れ様です」と労いの言葉を彼にかける。
意識は夢の中にあるはずなのに私が声をかけると手首を掴む彼の指がぴくりと動いて、それが不思議に思いつつ同時に嬉しくも感じられた、そんな夜だった。
■9月20日 曇りのち晴れ
モビーがログポースの指し示す島に予定通り上陸したのはちょうど正午を回ったあたりのことだった。
久しぶりの陸地に物資補給の当番以外のクルーたちは浮足立ちながら街へくり出していく。
「ちゃん、準備できた? そろそろ降りるわよ」
「はい、今行きます! それじゃ、マルコさん。すみません、ちょっと行ってきます」
「おぅ。気を付けて行ってこいよい」
手を振るマルコさんに見送られ、私はナース長のヴィヴィアンさんの後を追いかけ船から陸へと下ろされたスロープを駆け下りる。
イゾウさんにはすれ違う際に「なんだ、珍しいな」と声をかけられた。
確かに、私は普段島に上陸するときは大抵マルコさんと行動をともにしている。
けれど、今日ばかりはそうするわけにはいかなかった。
なぜなら今回の私の上陸目的は彼への誕生日プレゼントを見つけること。
一応秘密にしてあるので、贈る相手と一緒にいては落ち着いて品を眺めることはできない。
だから彼と別行動をとるために、ヴィヴィアンさんにお願いして少々芝居をうってもらったのだ。
今日の私はナースの皆さんに誘われ女同士での買い物デートをするということになっている。
昨夜そう告げるとマルコさんはつまらなそうに唇を尖らせ、「俺とのデートよりナースとの買い物を優先するのかよい」とあからさまに不貞腐れた態度をとって私を苦笑いさせた。
さすがに何を買うつもりなのかまでは問い詰められることはなかったけれど、なかなか機嫌を直してくれない彼をなだめるのに少々苦労はした。
「それじゃ、。また後でね」
「はい。ヴィヴィアンさん、本当にありがとうございます」
モビーの姿が建物に隠れて見えなくなった辺りで私はヴィヴィアンさんたちと別れて単独行動にうつることに。
「良いものが見つかるといいわね」と幸運を祈ってくれる彼女に手を振り、足をメインストリートの方へ向け直す。
何をプレゼントするか具体的な案もないまま捜索を始めた。
滞在できる時間も多くはないので足早に数軒のお店を梯子する。
衣料品店、アクセサリー店、貴重な本を取り扱う古書店、武器屋さんに雑貨屋さん。
候補からは外していたけれど、一応リキュールショップとシガレットの専門店にも寄ってみた。
いいなと思う物はいくつかあった。
けれど手に取って見ても本当にこれでいいのかなと迷いが生まれ、そっと棚に戻してしまう、その繰り返しだった。
そうこうするうちに陽はどんどん落ちていき、気付けばヴィヴィアンさんたちとの待ち合わせの時間に。
結局プレゼントを購入することはできず、帰船後マルコさんに訊かれたときの誤魔化し用に服を数着買い、メインストリートの中央にある広場へダッシュで向かった。
ナースさんたちはみんな両手いっぱいに紙袋を提げていた。
モビーを下りたときとは違う衣装を身に纏っている人もいる。
満足気な顔をしているところを見るとみんな良い買い物ができたということだろう。
敗戦に終わった身としては正直ちょっと羨ましく思える。
「その顔を見るに、プレゼントは見つけられなかったってところかしら?」
「あー……、はい。残念ながら」
「あらあら。せっかく嘘までついて隊長さんとの貴重なデートの機会を見送って来たのにねぇ」
「申し訳ないです……。ヴィヴィアンさんにも、マルコさんにも」
「私のことはいいのよ。それよりプレゼントよね。まぁ、あと一度くらいなら上陸のチャンスはあると思うからその時に、ね」
「はい……次頑張ります。きっと見つけられると信じて」
「そうそう、その意気よ、前向きにね。それじゃ、はい」
「……?」
「頑張るちゃんに私から」とヴィヴィアンさんは小さな、けれどとても可愛らしくてオシャレな紙製の手提げ袋を私に手渡した。
上から覗くと中にはピンクのリボンが掛けられた白い小箱が入っているのが見える。
「これは?」と訊ねると彼女は笑顔で「香水よ」と中身を教えてくれた。
「女性しか入れない特別なお店があってね。そこで調香してもらったのよ」
調香師さんに私の容姿や性格を伝え、私のイメージの香りを作ってくださったとのことだった。
ヴィヴィアンさんは「ちゃんにぴったりの香りに仕上がっているわ」とまるで自分が調香したかのように自信ありげだ。
「女同士で買い物してきたっていう感じがするでしょう? マルコ隊長への報告としては申し分ないんじゃなぁい?」
「ね?」と華麗にウインクされ、私は彼女のこれ以上ない気遣いに感謝し、頂戴した品を胸に抱きしめ頭を深々と下げてお礼を伝えた。
ナースさんたちとモビーに戻った頃には空全体が橙色に染まっていた。
降りたときとは反対にスロープを昇っていると「おかえり」と声をかけられ私は声がした方に顔を向けた。
船縁に両腕をのせて寄りかかり煙草を吸っているマルコさんを見つける。
私はスロープの残り半分を足早に駆けあがり、彼のもとへと向かった。
「ただいま戻りました。遅くなってすみません」
「全然遅くないよい。まだ陽も沈んでないからねぃ」
まだ降りていったクルーの半分も戻ってきていないと彼は言う。
ふと煙草を口に咥えた彼の視線が私の手の中の荷物に向けられた。
あぁこれは訊かれるかなと身構える。
「楽しかったかい? 女同士でのデートは」
「はい。あの、とても楽しかったです」
「ふぅん。なに買ったんだよい」
あぁ、やっぱり訊かれた。
まるで事前に解いていた予想問題が昇級試験にそのまま出たかのような清々しささえ覚える。
私はこのためにわざわざ買った服の紙袋を見せ、それからヴィヴィアンさんからいただいたこれ以上ない武器を彼に提示した。
「香水です。女性しか入れないお店をヴィヴィアンさんが紹介してくださって」
「あぁ。なんか甘い匂いがすると思ったらこれかい」
ヴィヴィアンさんの言葉をそのまま借り、購入者のイメージで香りを調香してくれることを彼に伝えた。
マルコさんは「香水なんて、お前ぇにしては随分と珍しいもの買ってきたねぃ」と興味深げな横目で私を見やる。
確かに、私はナースさんたちと違って香水どころかお化粧にもオシャレにも疎いしあまり興味を示すこともしないのでそう思われてもしかたがない。
「ナースの皆さんがあまりにも楽しそうだったので私もつい。たまにはこういう買い物もいいかなと思いまして」
「有意義な時間が過ごせたみたいだねぃ。なら良かったよい」
「はい。本当に楽しかったです」
実際は私ひとりで街中を駆け巡り彼へのプレゼントを探しまわっていたのだけれど、そんなことは言えるはずもない。
笑顔で誤魔化していると彼の腕が伸びてきてぽんぽんと頭を軽く叩かれた。
「次は俺とデートしてくれよい」と煙草を咥えたままの口の端を上げてニッと笑われる。
どうしよう……次の島でもプレゼント探しのためにひとりで行動したいのだけれど。
だがそんなことは言えるはずもなく、私は笑顔のまま「……はい」と答えるしかなかった。
「荷物、部屋に置いてきます。マルコさんはまだこちらに?」
「おぅ。これ吸い終わるまではここにいるよい」
「その後は」
「飲みに降りてった親父を迎えに行ってくる。今頃親父に酒奪われたって泣いてる奴らがわんさかいるだろうからねぃ」
「あー……お疲れ様です。父様きっと、まだ帰らないって駄々こねますよね」
「だろうねぃ」
「あの人を連れ戻すのは骨が折れるよい……」とマルコさんは紫煙とともに今から疲労の入り混じったため息を吐きだす。
数多いる息子たちの中でも長男的存在である彼の責務は大きく、その苦労は計り知れないものがあるのだと改めて感じさせられる。
自分も手伝いに行きましょうかと声をかけたが、大丈夫だとひらひらと手を振られてしまった。
しかたなく私は彼に背を向け自室に荷物を置きに行くべく足を進める。
けれど数歩しか進まないうちに「」と呼ばれ、私は上半身を捻って彼の方に顔を戻すことに。
「何か?」
「今日買ったその香水」
「……?」
「今夜俺の部屋に来るとき着けてきてくれるかい」
「え? ……、ぁ……」
それが何を意味するのかわからないほど私は子どもではない。
たまにしかできない陸地でのデートを棒に振ってしまった分、せめて今夜の私の時間はすべて俺に寄こせと、そういうことなのだろう。
本当に、私の恋人は独占欲が強くて、自由で、身勝手な人だ。
けれどそんな彼の強すぎるほどの愛を心地いいとすら思ってしまうのだから、私もまぁ大概だ。
「マルコさんがそう望むなら……」
甘ったるいバニラの香りがあなたの部屋に沁みついた銘酒や煙草の香りを消してしまっても構わないというのなら。
湯で清めた身に数滴落として私は今宵あなたの部屋を訪れましょう。
返ってきた彼からの返事は私が予想した通り、「楽しみにしてるよい」と鼻歌でも聞こえてきそうなほど明るいものだった。
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