※『Colorful Romance Story』最終回以降の2人の設定です。心身ともに両想い。
※夢主視点。彼女がつけている航海日誌のような感じです。
<連載未読の方でもこれだけ知っていればOKな人物紹介>
…… 元海軍本部大佐。マルコに気に入られ紆余曲折あって今は白ひげのクルー。白ひげのことは父様(とうさま)と呼んでいる
マルコ …… 白ひげ海賊団1番隊隊長。何かと多忙。にべた惚れ。独占欲が強い。むっつりスケベ親父
サッチ …… 白ひげ海賊団4番隊隊長。マルコの親友兼悪友。↑の2人の応援団長。料理が得意
ヴィヴィアン …… (オリジナルキャラ)白ひげ海賊団のナース長。とっても美人で優しい。の味方
■9月5日 晴れ
この暑さは夏島が近いせいだろうと航海士さんが言っていた。
頭上高くから降り注ぐ刺すような陽射しに、その日はみんな朝からずっとまいっていた。
服を脱いで上半身裸で過ごす人、頭から水をかぶって涼を得る人、冷気で涼もうと冷蔵庫を頻繁に開け閉めして料理長さんに怒られる人。
みんなが各々の方法で暑さを乗り切ろうとする中、「よし! 久々にやるか、あれ」と膝を叩いたのはサッチさんだった。
「かき氷作ろうぜ!」
彼の一声にへばっていたクルーたちの目が一瞬でキラキラと輝きだした。
急ぎ倉庫から運び出されたのはかき氷製造機。
サッチさんが額にねじり鉢巻きを巻いてガリガリと氷を削り、山盛りにした氷山の上から色とりどりの甘いシロップをかけていく。
氷は貴重なものなので滅多にできない、今日みたいにどうしようもなく暑い日に特別に許可されるデザートらしい。
かき氷を頬張るクルーたちの顔は一様に小さな子どもみたいにワクワクしている。
「ちゃんはどの味がいい? 定番のイチゴか? さっぱりしたけりゃレモンだな。俺のおススメはブルーハワイだけどな」
ニシシと歯を見せて悪戯っぽく笑いながら彼が勧めてくれたのは海みたいに真っ青なシロップ。
どんな味がするのか想像できなくて、面白さを求めて私はそれを選んだ。
サッチさんは青いかき氷を渡しながら「半分ぐらい食べたら鏡に向かってアッカンベーしてみな」と笑って言った。
どういう意味だろう?
お礼を言って受け取ったブルーハワイのかき氷を少し緊張しながらスプーンですくって口に入れる。
初めて食べたその味をなんと表現していいかわからず、私は無言のまま2口目、3口目を口にしていく。
黙って食べ続けているとサッチさんに「どうだい?」と味の感想を訊かれた。
「不思議な味です……。果物の味ではないし、シュワシュワしていて口の中がさっぱりします」
「合わねぇようなら他のに替えてやるぜ?」
「いえ、おいしいです。ほんのり甘くてちょうどいいです。なんていうか、海を食べているみたいで面白いです」
「はは。なら良かった」
不思議な青い氷の味は意外と私の味覚に合っていたらしい。
半分ほど食べたら、というサッチさんの言葉を忘れて夢中で食べ進め、気が付いたら器が空っぽになっていた。
ごちそうさまでしたと器をキッチンのカウンターに置くとサッチさんに黄色いシロップのかかった山盛りのかき氷を手渡された。
「マルコに持っていってやってくれるかい? たぶん部屋で新聞やら電伝虫やらと睨めっこしてると思うからよ」
サッチさんは「俺が持っていくよりちゃんが持っていってやった方があいつも喜ぶしな」とニヤニヤ笑いながら言う。
恥ずかしかったけれど、私は正直嬉しくもあった。
暑さで溶けないうちにと早足でマルコさんの部屋へと向かう。
風を通すためだろう、半開きになっている扉を2回ノックし「マルコさん、いらっしゃいますか?」と声をかけるとすぐに「おぅ」と返事が返ってきた。
入室の許可をもらい「失礼します」と中に入る。
彼は机に向かい黒電伝虫から伸びるヘッドホンを片耳にあてて情報収拾している真っ最中だった。
海軍か、はたまた白ひげの縄張りに侵入した海賊の電伝虫の会話を盗聴しているのだろう。
サラサラとメモをとりながら時折舌打ちをして「勝手なことしやがって」とぼやいている。
その作業がひと段落すると彼は掛けていた眼鏡を外してようやく私の方に体を向けてくれた。
「お疲れ様です。もうよろしいんですか?」
「おぅ。必要な分の情報は得られたからねぃ。悪ぃな、待たせちまって」
「いえ、私は全然構いません。あ、でも」
「……?」
「氷の方はちょっと待ちくたびれて溶け始めちゃいましたね」
トレイにのせて持ってきたかき氷を机の上に置くと、彼は「サッチからか」とすぐに理解し他のクルー同様表情を緩ませた。
私が手渡したスプーンを受け取り、「ありがてぇ」とお行儀よく両手をあわせてかき氷を食べ始める。
ひと口食べて「あー……うめぇ」と感極まった声をあげる彼の姿に思わず私は肩を揺らした。
「暑い日はこれにかぎるねぃ。、お前ぇは?」
「はい、私もさっきいただきました。おいしかったです」
「そうか。何味食ったんだい?」
「サッチさんおススメのブルーハワイです」
初めて食べましたと伝えるとマルコさんはなぜかさっきのサッチさんと同じように片眉を上げた悪戯っぽい笑みを浮かべた。
そしてスプーンを口に咥えたまま机の引き出しから小さな鏡を取り出すと私の方へ向けた。
「……? あの」
「舌出してみな。ベーって」
「はぁ」
そういえばサッチさんにもそんなことを言われた。
何なのだろうと口を小さく開けて舌を出した私は、鏡に映るそれを見て思わずギョッとしてしまった。
「えっ? なにこれ、青いっ」
「はは! いい反応するねぃ」
「食べさせ甲斐があるよい」とマルコさんは楽しそうに笑いながら鏡を片付ける。
「大体どのかき氷を食べてもそうなる。かかってるシロップの色素が舌にうつっちまうんだよい」
「そうなんですか……知らなかったです。びっくりしました」
「特にブルーハワイは青が強く出るから、面白がってあえて選ぶ奴も多い」
「確かに……。普通の人体の色っていう感じではないですもんね」
口の中にしまった舌の表面を前歯でざりざりとこすってみる。
青い色素は少しは削れただろうか?
マルコさんは「ほっときゃ勝手にとれる。気にするな」と言って黄色いシロップのかき氷を食べ進める。
「マルコさんのそれは何味なんですか?」
「レモンだよい」
甘すぎず、クエン酸の酸っぱさが疲れた体に効いてちょうどいいのだと彼は言う。
「食ってみるかい?」
シャクリと一口分をのせたスプーンをこちらに向けてくる。
口元まで運ばれてしまい口を開けざるをえなくなり私はいただきますも言わずにパクリとスプーンに齧りついた。
口の中に溶け気味の氷の冷たさとレモンの酸味が広がる。
「おいしい……さっぱりする」
「だろい? もう一口食うかい?」
「ありがとうございます。でも、大丈夫です。あとはマルコさんが召し上がってください」
ごちそうさまでしたとお礼を言い、口の中に残るレモンの味を反芻する。
マルコさんはシャクシャクとスプーンで氷の山を崩しながら「なんでブルーハワイにしたんだい?」と私に問いかけた。
数ある色とりどりのシロップの中から私が青を選んだことが彼は気になるらしい。
「青ってぇのは食欲を減退させる色だからねぃ、普通は避けがちになるもんなんだが。初見でよく選んだもんだ」
「そう、ですね。でも、うん、なんだか面白そうだったので」
「へぇ。お前ぇがんな好奇心の強い奴だったとは知らなかったよい」
そう言った後、けれどすぐに彼は「あぁ。けどよく酒場で見たことねぇカクテル頼んでるな」と私の行動を思い出し考えを改める。
青い色の食べ物に食欲減退の効果があることは私も知っていた。
それでもその色をあえて選んだのには、サッチさんが勧めてくれたということ以外にも理由がもうひとつある。
「氷にかかった青が澄んだ水色に見えて。……ちょっと似てるなって思ったんです」
誰かさんの炎の色に。
面と向かって言葉にするのはちょっと気恥ずかしくて視線を外して彼に伝えた。
シャクリと氷の山にスプーンの頭が埋まる音が聞こえる。
けれどその後に続くはずの氷山が崩れる音はせず、刹那、予告なく突然腕を引かれ私の体は彼の方にぐらりと傾いた。
引き寄せられ、氷で冷えた唇同士が重ね合わせられる。
冷たいと感じたのは最初だけ。
唇を軽く浮かせては角度を変えて再び重ねる行為を何度となく繰り返すうちに、すぐに冷たさなんて遠のいていった。
だらりと下げていた腕をあげて彼の二の腕をするりと撫でれば、それを合図にしたかのようにキスは深いものに変わる。
彼の舌が歯列を割って入ってきて青く染まった私の舌をお返しだというように優しく撫でた。
青いシロップを味わうように何度も舌を舌で撫で、甘く吸い、口の中の熱を上げていく。
しばらくして冷えた息もすっかり熱くなってきた頃、彼は唇を離しぺろりと舌なめずりをして笑った。
「ごちそうさん」
「……お粗末様、でした」
こんな昼間に、それも続きを期待させるような熱いキスをしておいて、この先はお預けだとばかりにあっさりと離れていく。
私の恋人は自分勝手で酷い人だ。
けれど彼のスイッチを入れてしまった原因はもしかしなくても私の発言かもという自覚もあるので文句は言えないし言うつもりもない。
せっかく氷で涼しくなれたのに、また体に熱が戻ってきてしまった。
おそらくにやつく彼の視線の先にある私の耳は赤く染まっていることだろう。
気恥ずかしさに耳にかけている髪を指でおろしてそれらを隠す。
「悪ぃな。すぐに食っちまうから、器下げてもらえるかい」
食べ終えたらすぐに次の海域の盗聴に取り掛からないといけないらしい。
1番隊隊長にして白ひげの右腕である彼の忙しさは他の隊長さんたちの比ではない。
私はマルコさんがかき氷を食べ終えるのを机上に広げられた新聞をなんとなく眺めながら待った。
カチャンと音を立ててスプーンが空になった器に置かれ、私はそれをトレイの上にのせる。
キッチンに片付けにいこうと部屋を出ようとしたところで「」と呼び止められ、首だけを彼の方に向けた。
「続きは夜に、な」
「……!」
再び眼鏡を掛けた彼が横目でこちらを見てにやりと笑う。
髪で隠した私の耳は更に赤くなってしまったことだろう。
私は何も言わず足早に彼の部屋を後にした。
それが私の照れ隠しであることなどきっと彼にはお見通しに違いない。
空の器をのせたトレイを持ってキッチンに行くとサッチさんがかき氷製造機を洗って片付けていた。
山のように積み上がったガラスの器と大量のスプーン。
「手伝います」と言って私はスポンジと洗剤を手にする。
「あー悪いな、ちゃん。助かるわ」
「いえ、これぐらいさせてください。おいしいかき氷を振る舞ってくださったお礼です」
「あーもう……、やっさしいなぁ。他の野郎どもに聞かせてやりてぇよ」
「あいつら食うだけ食って片付けしねーんだもん」と唇を尖らせて器機を拭く彼に思わず笑ってしまう。
大量の食器を私が洗い、サッチさんが拭き、キッチンを作業前と変わらぬ姿に戻したところで片付けは終了。
濡れた手を拭いて一息ついていると、ふとサッチさんが冷蔵庫にかけられたカレンダーを見て「あ」と声をあげた。
「やべ。あとひと月じゃねぇか」
「……? 何かあるんですか」
「何かって。あぁ……そっか。ちゃん、初めてだもんな。マルコの誕生日」
「たん……、えっ!」
思いがけず知った彼の誕生日。
モビーではクルーの、特に各隊長の誕生日は盛大に盛り上げるのがいつからか習慣になっているのだと彼に教えられた。
マルコさんの誕生日は10月5日。
今日からちょうどひと月後だ。
「去年の誕生日が過去最大の盛り上がりようだったからなぁ。今年はどうすっかな」
大きなケーキを焼いて、普段は買わないような高いお酒とプレゼントを用意して、とサッチさんは楽しそうな顔で計画を口にする。
今度マルコさん抜きで集まっていろいろと話しあわないとと彼は言う。
「ちゃんはどうすんだ? 何かプレゼントすんだろ?」
「え? あ、はい、もちろんですっ」
不意に問われ、私は反射で答え首を縦に振ってしまった。
もちろん何かしらプレゼントしたいとは思う。
けれど言ってしまってからふと冷静になって考えるのだった。
プレゼントって何をあげたらいいのだろう?
マルコさんが喜ぶようなものって一体なに?
私に果たしてそれを見つけられるのだろうか。
その日思いがけず知ったのは大切な彼の誕生日。
そしてそれはこれから始まる私の大いに頭を悩ませる日々の幕開けでもあった。
□
→
続きます。
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