ドリーム小説
港に戻ると予想通りレイダーが片腕にのコートとジャケットをかけての帰りを待っていてくれた。の姿を確認し、ピッと敬礼をして出迎える
「おかえりなさい、大佐。時間ぴったりです」
「ただいまです。レイダーさん、修理から何からありがとうございました」
「いえ。自分は何も。仕事のほとんどはクザン大将の部隊がおこなってくれましたので」
「そうですか。じゃ、本部に戻ったら青雉さんに御礼を言いに行かないとですね」
「はい。・・・ところで大佐。ひとつお訊きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか」
「・・・?はい。なんでしょうか」
レイダーから受けとったジャケットを羽織り、は何を訊かれるのだろうと瞬きして待つ。けれどレイダーの顔は笑ったままで、何も言わないままただ彼の視線は一点に注がれていた。の細い首筋に咲いた真っ赤な花に
「・・・!!」
食い入るようにじぃーっと一点を見つめられ、さすがのもレイダーが何を凝視しているか気付いたらしい。花が咲いているであろう首筋をバッと手で覆い隠すも、そんな行為はもはや何の意味もない
「レイダー、さん・・・?」
「お戻りになられて早々で申し訳ありませんが、・・・大佐」
「・・・はい」
「お話があります。出航まであと15分。お時間よろしいでしょうか?」
「・・・、・・・はい」
爽やかすぎる笑顔のレイダーくん。その笑顔の額の片隅に青筋が浮かんでいるのをは見つけ、「あぁ・・・怒られる」とは観念する。湾岸でエンジンを噴かし出発を待つ軍艦の群れ。その横で、出航前のレイダーのお説教が始まるのだった
act 9 : 船の風紀が乱れますので
「グランドラインは先の読めない海。いついかなるときも乗組員には冷静さが求められます」
「はい・・・」
「しかし航行は長時間の男所帯での生活。兵士の多くは働き盛りの男ばかり。そこにキスマークを多量につけられたうら若い女性が乗り込めば、屈強な海兵一団とはいえ理性を揺るがされます」
「そう、ですか・・・?」
「そうなんです。大佐はいい加減ご自覚ください。普通に歩いていらっしゃるだけで一般男性は一度はあなたを振り返ります」
「・・・そんな珍しい顔ですかね、私」
「・・・」
ぺたぺたと自分の頬を触るに、レイダーはどっとため息をつきたいのを我慢する。ソファーに腰掛けるつるに「無駄だよ。この子は自分の容姿のことになんて一切関心ないからね」と言われてしまう始末
レイダーのお説教は船が本部に到着しての部屋に戻ってからも続いていた。の帰りを待っていたつるも同席のもと、レイダーは何度も繰り返し語るのだが全然彼女に沁みてくれないのだ
「ともかく。船の風紀が乱れますので、今後はもう少しお控えになられてください」
「はい」(棒読み)
「本当にご理解いただけていますか、大佐」
「わかってますよ」(棒読み)
「真剣みが足りないようだねぇ。レイダー、もう少ししぼってやってもいいんじゃないのかい」
「そのようですね」(怒)
「そんな・・・お婆ちゃんまで」
反省していますよ・・・、としょぼくれるに、つるも茶をすすりつつ呆れた顔を向ける
「まったく・・・。嫁入り前の年若い娘が出かける先々で男ひっかけてきて、だらしないったらありゃしないよ」
「・・・以後気をつけますから」
「何が以後だい。説教されるたびに同じこと言って、まったく直りゃしないじゃないかい。フォローするレイダーの身にもなってごらんよ」
苦労の絶えない部下をつるは労う。レイダーは自分よりも遥か上の上官の後援を受け、直立不動で音を立ててかかとを揃えつるへの礼として返した
「毎回毎回ご苦労さんだよ、レイダー」
「労いのお言葉痛み入ります、つる中将」
「。お前、一体どれだけレイダーの世話になっているのかわかっているのかい」
しょっちゅうキスマークを残して帰ってくるは、彼女をよく思わない将校たちのからかいの恰好の餌食になる。回廊でを見つけては「おーおー。福招きの大佐殿。また良いものを首につけてお帰りで」と下卑た笑いで揶揄してくる将校たちがいる
『やぁやぁ、大佐。今回の出兵先は夏島ですかな?随分と「悪い虫」に食われたご様子で』
『・・・あはは。はい、まぁ』
は言い返して喧嘩になるのが面倒くさくて、基本言われっぱなしのままだ。内心ではうんざりげっそりしているが、ごたごたを起こすくらいなら泣き寝入りでかまわない・・・。そんなふうに諦めている彼女に代わり、反論してくれるのはいつもレイダーなのだ
『えぇ、本当に少尉のおっしゃる通りでして。今回上陸しました島には突然変異した巨大な蚊がおりまして。大佐はそれに噛まれ、やや貧血状態ではありましたがそこはさすが海軍本部大佐。体調不十分でも戦意が欠けることはなく、見事敵船を海に沈めた次第です』
でっちあげのレベルもひどいそんな言い訳で堂々と勝負に行く。将校に楯突くことを意に介さず、レイダーはの盾になる。難癖つけてきた相手の大半はからかう気を削がれ、「ふん・・」と鼻息荒く不機嫌になって返っていくのだ
何から何までレイダーには世話になりっぱなしだ。ゆえにはつると彼には頭が上がらないのだ
「。あんたしばらく自主謹慎でもしてなよ」
「へ・・・?」
「へ・・・?じゃないよ。あんた、もう一番見つかりたくない奴に見つかって睨みきかされてるんだから。少しは大人しくしてな」
「あ、・・・うーん、まぁ・・・そうなんですけど」
「自分もその方がよろしいかと思います、大佐」
「んー・・・」
こればっかりはしょうがないかな・・・。も観念する。それもこれも、さっき到着していの一番に、が本部内で一番苦手とする相手・・・大将赤犬に出くわしてしまったせいだ
任務報告のためにセンゴクの執務室に行く途中でばったり鉢合わせ、は「あ・・・」と渋い顔、レイダーは「まずい・・・」と焦り顔、そして向かい合うサカズキはムッとした不機嫌な顔で対峙。ただでさえサカズキはを煙たがっているのに、それに合わせて彼女の首筋に性的な関係を示す痕を見つけ、余計に眉をひそめた
『正義を背負うちょるなら、そがいなバカンス気分で戦いに行かれちゃ困るんじゃがのぉ』
『・・・・・・』
『大方、自分には福がついとるけぇ手を抜いても大丈夫だとでも思うちょるんじゃろ』
『・・・、・・・っ』
サカズキの覇気にはへの怒りが込められている。・・・はこれが苦手なのだ。もそれなりに覇気を遣えるが、自分の気を遣っても彼の覇気にあてられると脂汗が流れる
「・・・」
思い出すだけでじっとりと手のひらに汗が滲む。と同時に、あまり感情が揺れることのないの心に波が立つのだ。・・・悔しい、と
「福を招く力なんてないんだけどなぁ・・・」
サカズキに言われたことを思い出して思わず独り言が零れた。つるとレイダーは顔を見合わせて困った顔で笑う
「。サカズキの言葉を気にする必要はないんだよ」
「でも、」
「大佐。自分も中将に賛同いたします。大佐の本当のお力を、自分はわかっているつもりです」
「・・・、・・・」
つるとレイダー。ずっとの味方で居続けてくれている二人の存在は彼女にとって大きかった。福招きと呼ばれてもう何年も経つ。が乗る船は沈まない、は不思議な力をもっている。始めの頃は「は強い」と言われているようで正直嬉しかった。けれど月日が経つにつれ賞賛は嫉妬へ変わり、いつしか皆の本当の力を直視しなくなっていった
「大佐が我々を守るために血を吐くような訓練を積み重ねてくださっていること、自分はわかっていますから」
「・・・はい・・・」
「」
「・・・ん?」
「心配するんじゃないよ。お前のことをちゃんと見てくれる人はいるさ」
つるは厳しい。けれど、のことは本当の孫娘のように可愛がっている。だから心配でしかたがないのだ
いつからかは心から笑わなくなった。彼女の笑顔はいつもどこか寂しげで心は渇いている。だからかもしれない。枯渇した心を一時でも潤すために、彼女が一夜限りの愛を求めにいくのは。ふらふらとしていて捕まえられない蝶々のように
贅沢なのかもしれない。けれど望むことを許されるのなら、愛と自由が欲しかった。それがどこにあるのかはわからないけれど
※心配がゆえのお説教です。つるさんもレイダーくんも大佐が大好き
赤犬ファンの方、いらっしゃいましたらごめんなさい・・・。完全に悪役だ・・・(嫌いじゃないんですけどね)
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