ドリーム小説
人通りの少ない朝の早いうちに二人は宿を後にした。朝飯でもと思ったが、こんなに早い時間じゃ店は何処も開いていない。「散歩でもしましょうか」彼女の提案にマルコは賛同し、二人は島の中心に位置する森(マルコが偵察に使っていた辺り)の中をゆったりと歩くことにした
「悪いな。聞くつもりはなかったんだけどよい」
マルコは子電伝虫のメッセージを聞いてしまったことを彼女に告白した。彼女は目を丸くして驚いていた。そりゃそうだ、そこに自分の素性や軍に関係する情報が満載なのだから一般人に教えるのは憚られる。彼女はばつが悪そうに苦笑いする
「・・・何か知りましたね?」
「あぁ。正直ちょっと驚いたよい」
「・・・ですよね」
「海軍本部将校、大佐さん」
「・・・あはは」
は苦笑し頬を掻く。軍人ともあろう者が素性漏洩・機密厳守に緩すぎるのはいかがなものか。ばれたら絶対に怒られる
「まぁ、知られてしまったのなら今更隠すつもりも否定するつもりもありませんが」
「・・・あんた、本当にゆるゆるだねい。優秀そうな部下が随分と心配してたのはそういうことかよい」
「あぁ・・・彼ですね。はい、とても優秀ですよ。こんなダメな上官のことをいつも心配してくれて、見捨てることもせず甲斐甲斐しく世話してくれる・・・私にはもったいないぐらいの方です」
きっと今もレイダーは港でを待っているのだろう。レイダーにとっては、階級はずっと上でもまるで妹のような存在。品行方正に欠けた妹のせいで彼の心配は尽きない
「私がしっかりすればいいだけなんですけどね。でも私はきっとこれからも変わらずこんなんですし。彼には早く私を追い越して上に行って欲しいんですけどね」
「へぇ。出世欲がねぇっていうか・・・随分と部下思いの上官だよい」
「はは・・・、違いますよ。そんなんじゃない。早く昇進して私から離れていってほしいだけです」
突き放すような言い方は、けれどレイダーが嫌いだからじゃない。それはなりの優しさ。ずっと自分なんかの下にいたら、いつまでも自分と一緒くたにされて侮蔑や揶揄の的になってしまうから
(特に赤犬さんなんて露骨だもんなぁ・・・)
本部内で顔をつきあわせれば「海軍の恥さらしが」と叱咤される。あまり人を嫌わないだが正直言ってサカズキはちょっと苦手だ
そんな猛者たちがひしめき合う本部に、もうそろそろ帰らなければならない。自由に与えられた時間もこれで終わり。の顔にはほんの少しの寂しさが混じっていた
*
森の中心にそびえる大きな樹の枝に二人並んで腰掛け、港を眺めた。停泊している海軍の船が端から順に帆を張り始めている。出航の準備が始まっている。そろそろ行かなければ
「海軍と賞金首ハンターさんではもう会うこともないでしょうね。縁があれば海の上で、でしょうか」
の言葉にマルコは曖昧に返事をする。あぁ、そうだった。はマルコの素性を知らないのだ。自分ばかり彼女のことを知ってしまってアンフェアだとは思ったが、むざむざ「俺は海賊であんたは海軍。敵同士なんだよい」と教えることもない。どのみち白ひげの1番隊隊長の顔と名は本部に戻ればばれること。いずれ海の上で敵同士で再会する日が来るのだから、せめて今だけは彼女に笑顔のまま去っていって欲しかった
「それじゃ」
お別れです。彼女はあっさりと笑顔で別れを告げる。ワンナイトラブを信条とする彼女には未練などないのだろう
彼女との別れに未練たらたらなのはむしろマルコの方なのだ。引きずる女は苦手だよい、とか言っておいて、あぁ情けねぇ・・・。けれど芽生えてしまった彼女への想いはもう消すことはできない
「あぁ」
「さよならです」
「とりあえずはな」
「・・・?」
離れるのが惜しいと思った女はお前が初めてだよい
彼女への想いがマルコの体を突き動かす。彼女の耳元に口を寄せて、想いを乗せて初めて口にするその名を静かに呼んでやった
「」
「・・・!」
「なに驚いてんだよい」
「や・・・なんだか慣れなくて、ですね」
今までワンナイトの相手に名前を名乗ったことなどあまりなかった。少し照れたように笑う彼女はそれはそれは可愛くて。思わずマルコは首を伸ばして彼女の唇にキスしてしまった。触れるだけのキス。ゆっくりと唇を放して、額がこすれるような距離で彼女の瞳を見つめ、マルコはもう一度彼女の名を呼んだ
「」
「なんですか・・・」
「もっと早くに名前聞いとけばよかったよい」
あぁ、もっと早く聞いておけば。そうすればお前の名を呼びながら抱くことができたのに
マルコは彼女の耳たぶにキスをし、それから夕べ自分でつけた首筋の赤い痕の上に口付けた。そのまま強く吸って昨夜つけた痕を色濃くする。さすがのも目元を赤くして困惑した
act 8 : その痕はトレジャーマーク
彼女が怯んだその一瞬の隙を見つけて、マルコは彼女のスーツのポケットに置き土産を忍ばせた。彼女が気付くかはわからない、気付いても捨てられてしまうかもしれない。そのときはそれまでの縁だったと諦めるだけだ
「・・・困るんですけど。私こういうの消えにくい体質なので」
「なら好都合だよい。虫除けになる」
「・・・?」
マルコの言葉の意味が図りかねる。眉をひそめるにマルコはぺろりと舌なめずりをして笑ってみせた
「他の男に触れさせたくねぇよい」
この言葉の意味がわかるかい?問いかけるような眼差しで彼女の瞳を見つめれば、賢い彼女はすぐにその意味を察する
その痕は、トレジャーマーク。離れても、いつかまた海の上でお前を見つけられるように
「あんたが気に入ったんだよい。一度きりで終わらせたくねぇ」
「・・・面倒な関係はお好きじゃないのでは」
「あんたは別さ。俺のもんにするよい」
この言葉の意味がわかるかい?
マルコの瞳の問いかけに、彼女は「わかりますよ」と視線で応える。けれど素直にイエスと動じてくれる瞳ではなかった。ワンナイトラブには緩いくせに、そのラインを越えることには頑なだ。困ったように笑ってマルコに諦めることを促す
「お話ししましたよね。この広い海で、会いたくても会えない恋に身を焦がすのはごめんです」
「あぁ言ったよい。けど大丈夫さ」
「え?」
「あんたが会いたいと思ったら俺はすぐに飛んで会いにいってやれるよい」
「素敵な殺し文句ですが、・・・なんだかあなたらしくないですね、そんな夢見がちな冗談。そんなできもしないことを、」
「できるよい」
静かだけれど力強い声での言葉を切る。にやりとマルコは笑うから、は眉をひそめて首を傾げた。マルコのその言葉が真実であることをは今はまだ知らない
「次会うのはきっと海の上だな」
「・・・まぁ、そういうことにしておきましょう。時間です。それではお先に」
「行くのかよい」
「はい。また奇縁があれば」
最後までにこりと笑っては高い樹の枝から軽々と飛び降り着地してみせた。降り積もった木の葉が舞う。そのまま行ってしまおうかと思ったが、ふとの足は止まった。そういえば自分は彼の名前すら聞いていなかった。まぁ、もう会うことはないのかもしれない相手だから聞いてもそれで終わりかもしれないが・・・、どうしてだろう。いつもなら大して関心もないことなのに・・・。彼には少しだけ興味を惹かれた。は振り向き、今飛び降りたばかりの枝を見上げた
「あの、名前を」
空を見上げた形のままの言葉は途切れることになる。見上げる先には、もう誰もいなかった
「・・・はや」
一瞬の早業で一体どこへ消えてしまったのか。は敬礼するように額に手を当てて眩しい光に眼を細める。そのとき、バサリと森のどこかで翼をひるがえす音が聞こえた気がした。は眉をひそめる。生い茂る木々の葉の隙間に微かに青い輝きを見た。遠ざかっていくそれは見たこともない不思議な青い鳥
(綺麗・・・)
太陽を目指し飛んでいく青い鳥をは眩しそうに眼を細めてしばらく見つめていた
※トレジャーマーク・・・宝の在りかを示す印
やっと出逢い編が終わりました・・・、長かった
鳥類の猛アプローチで終了です
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