ドリーム小説
それはとても静かな朝だった。波は穏やかで、いつも強いくらい吹いている海風も凪いでいて、それはまるで嵐の前の静けさ
「いよいよかぁ・・・」
2週間ぶりに袖を通したスーツは何だか違和感があった。ズボンが少し緩くなっていて、痩せたことは嬉しいけれど原因が気苦労のせいだと思うとなんだか複雑な気分。はペンを取り出し、壁掛けのカレンダーの今日の日付に×をつけた。×で埋まった14日間を眺めて感慨深いため息をつく。ペンをテーブルに置き、白いコートを腕に下げるとは扉を開けて戦いの地への一歩を踏み出した
*
「いよいよだね」
少し重たい空気に包まれたセンゴクの執務室。つるは客用ソファーに座って茶をすすりデスクで重苦しい顔をするセンゴクに声をかけた。センゴクはデスクの後ろの大きな窓の前に立ってマリンフォードを見下ろしている
「が来るのは夕刻だったね」
「えぇ」
「そうかい。それじゃあ、・・・面倒事が起きなきゃいいね」
「・・・」
忠告のような警告のようなことをぼそりと呟いてつるは茶をすする。センゴクは重たいため息をついて振り返ると、デスク上に設置された映像付き電伝虫のTV画面に視線を投げた。そこに映っているのは一昨日のマリンフォード裏街の様子。マリンフォード内には監視用超小型電伝虫が無数に張り巡らされている。そのことを知っているのは海軍本部でも大将以上の人間とつるのような特別な者だけ。再生ボタンを押して流れてくるのは裏街の路地に座り込み親しげに話をする二人の男女の姿だった。一人は謹慎中のだ。そしてもう一人、その特徴的な髪型はもう十何年も手配書に載っている、白ひげ海賊団1番隊隊長を務める男
『明後日の夕暮れ時、またここに迎えに来る、』
センゴクはピッとリモコンを押してそこでモニターを消した。その顔には疲れと苛立ちと戸惑いが入り交じっている
「来るって言うんだから、きっと迎えに来るんだろうね」
「・・・それ以前にだ。厳重警備、難攻不落の海軍本部がこうも易々と敵に侵入されているようでは沽券にかかわる!」
「だから今日に限って警備人員を大幅に拡大したんだろう?まぁ、何もここまで強化しなくてもいいと私は思うけどね」
「いや、まだ足りないくらいだ。相手は白ひげの右腕たる男だからな」
「気合いいれてるねぇ。そんなにを海賊に奪われたくないかい」
「おつるさん、履き違えられては困る。警備拡大は海賊を捕らえるためのものだ」
「まぁそういうことにしておくよ」
ふっと笑ってつるは湯飲みを傾ける。元帥という立場はある意味中立でなければいけない。という娘が大切だと思う一方で、海の女神の力を持つを海軍に置いておきたいという私利私欲もあるのだろう。つるにスルリと交わされ、センゴクはどことなくわざとらしい咳をした
「とにかく。この大海賊時代、今の我々にはの力が必要なのだ。みすみすごろつき共に持っていかれるいわれはない」
「・・・そうだね」
海軍本部にはの底知れぬ力が必要だ。そんなこと本当はみんなわかっていたはずだ。その言葉をどうしてもっと早くあの子に伝えてあげなかったのだろう。そうしていたらの気持ちが海賊に奪われることもなかったのかもしれない。けれどどんなに「たられば」の話をしてももう遅い。の気持ちはほとんど固まっていることをつるだけは知っていた
「私は同席しないよ。いいかい?」
「えぇ。同席者はもう頼んである」
「・・・?誰だい」
「サカズキに」
「なんだって・・・?どうしてよりによってあいつなんだい」
さすがのつるもその決定には渋い顔をした。にとって一番の天敵ともいえる軍人を選んだセンゴクの意図がわからない。けれどセンゴクに迷いはないようで毅然としていた
「万が一ここに不死鳥が乗り込んできたとき、奴に対抗できそうな最も有力な人材を選んだつもりだが」
「そうかい・・・まぁそう言うなら反対はしないけどね。けど、サカズキがを毛嫌いしているのはお前もわかっているはずだよ。赤犬があの子を助けたりするかね」
「十中八九・・・ないだろう。サカズキはを助けるためではなく、不死鳥を捕らえることのみを条件に同席を受諾したからな」
「本気かい・・・それ。尚更悪いじゃないか。わかっているはずだよ、サカズキの性格は。あいつにそんな条件を許しちまったら・・・」
赤犬は任務のためなら仲間の死も厭わない冷徹な軍人だ。不死鳥を捕らえるのを口実に、忌み嫌うまでともに殺しかねない。それを想定できないセンゴクではないだろうに。あぁ、もうなりふり構っていられないというわけか。つるは渋い顔で目を閉じ、ため息をついた
「智将の名が泣くよ」
「・・・なんとでも。私はこの海軍本部を守る最善の策を講じるだけだ」
難攻不落の海軍本部の名に傷を付けるわけにはいかない。自分が元帥である間はここを全力で死守する。たとえ侵入を許したとしても、海賊になど何一つ奪わせはしない。センゴクは揺らぐことのない絶対的正義を両目の奥に宿し、窓の外に広がる平和な街を見下ろした
*
太陽が西の空に傾き始めている。センゴクとの面会時間が迫っていた。は廊下の丸窓から街を見下ろし、なんだか今日は随分見張りが多いなぁと海兵の数の多さを不思議に思っていたときだった。背筋をぞわりと悪寒が駆け抜けた
「そんなところで何しちょる」
突然背後から覇気剥き出しの不機嫌な声に威圧された。はぎこちない動きで彼、サカズキの方を向く。けれど目を合わせる勇気は出ず、彼の胸に刻まれた薔薇の刺繍に視線を合わせた
「・・・」
「センゴクさんが呼んどる。行くぞ」
「・・・はい」
命令されるがままは彼の後についていく。まさかサカズキが迎えに来るとは思っていなかった。彼の背を追いかけ着いた先、サカズキはセンゴクの執務室の扉を開けるとを先に入室させ自分は後から入って扉を閉めた。まるで逃がさないと言われているかのようで落ち着かない。顔を上げるとセンゴクが大きな窓の前に立っていた
「2週間ぶりだな、」
「はい。お久しぶりです、センゴクさん」
「ゆっくりできたか」
「まぁまぁ・・・ですかね。長いようで短い2週間でした」
「そうか」
少し緊張するピリピリとした空気が部屋を満たしていた。サカズキは門番のように扉に寄りかかり大して興味もなさそうに二人のやり取りを聞いている。はデスクの前まで歩み寄るとセンゴクと視線を合わせた。そのまま数秒間、二人は視線だけで会話を交わした。答えは出たのか、とセンゴクが問いかける。は口元を少しだけ緩め、はいと答えた。センゴクの両目が静かに閉じる。ふぅとひとつため息がつかれ、ゆっくりと開いた両目で真っ直ぐにを見つめた
「では、決意を聞こうか」
「はい」
は音を立ててかかとを合わせ、右手を額にかざした。左手は腰の後ろに。指先まで神経を張り巡らせて。いつも力の抜けた背筋を張って、真っ直ぐにセンゴクを見つめ返した。あぁ、きっとこれが私の・・・
act 39 : 最後の敬礼
敬礼の姿勢を解き、はセンゴクに決意を伝えた。簡潔に一言だけ、自分は海軍を抜けると。相変わらず真剣味の薄い気の抜けた笑顔で。の決意を聞いたセンゴクは眉を寄せて渋い顔をした。予想していなかったわけではない。ただ改まって聞かされると思いの外ショックを受けた
「その決意は本気のものか」
「はい。2週間考えて出した結論です」
「そうか。・・・・・・ならばしかたがないか」
「今まで本当にお世話になりました。最後の最後にご迷惑をおかけしてしまい申し訳ないです」
「そんなことはいい。それよりもお前に抜けられることの方が残念だ。私はお前に海軍に残ってほしいと思っているのでな」
「センゴクさん・・・」
「荒れ狂う大海賊時代。今の海軍にはお前の力が必要だ。、お前にとっては居づらい場所かもしれない。だがこの海を守るためにはお前の強さは絶対不可欠になる」
できることならば考え直してもらえないか。海軍本部の頂上に座る元帥にそこまで言われ、は素直に嬉しいと思った。力を認めてもらえたことが、必要だと言われたことが何よりも嬉しかった。けれどその言葉をもっと早く聞きたかったとも思い、は少しだけ寂しそうに笑った
「私にはもったいないぐらいのお言葉です。ありがとうございます。・・・でも私は、」
「考えは変わらないか」
「はい」
「そうか」
ならばしかたないな、とセンゴクはため息をつく。「すみません」とは申し訳なさそうに笑う。つる同様センゴクにもずっと良くしてもらった恩義がある。恩を仇で返すようで申し訳なさが募る。けれどの決意は変わらない。今日をもって海軍を抜ける。そして・・・
「海軍を抜けて、そしてその足ですぐに海賊に転職するのか」
「え・・・」
突然それまで話を聞いていただけのサカズキに声をかけられ、は思わず扉の方を振り返ってしまった。扉に寄りかかったままのサカズキは帽子の鍔の下で厳しい目つきをしてを睨んでいた
「正義を捨てて悪に走るとはな。なんとも波瀾万丈な人生じゃのぉ」
「何を言っているのですか・・・」
「しらばっくれても無駄じゃい。お前と不死鳥マルコの密会の記録は撮れている」
「え・・・――」
「今日の夕暮れ時じゃったな。もう間もなくか、奴がこの本部にやってくるのは」
にやりと笑いながらサカズキは言う。「本城周辺及び四方の尖塔の上部で海兵が待ち伏せちょる。たとえ敵が空から現れようと打ち落とせるようにな」と。は気持ちを悟られないように表情に焦りが出ないように努めた。けれど予期せぬ事態に鼓動は早くなるばかり。まさか海軍本部の情報網がここまでとは思いもしなかった
「すまんな、。海軍本部の治安を維持するのが私の仕事なのでな」
敵の方からわざわざやってくるのがわかっていてみすみす取り逃がすような真似はしない。海軍本部元帥の責任を全うしようとするセンゴクの冷厳な視線にの頬を一筋の汗が流れ落ちた。瞬間だった。マリンフォード全域にけたたましいほどの大音量で警報が鳴り響いたのは
※コミックス読み返したらセンゴクさんの部屋窓なかった・・・(汗)。捏造捏造
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