ドリーム小説
スネーク少尉の部隊壊滅という凶報は瞬く間に海軍本部内を駆けめぐった。そして同時に「あの福招きの大佐がいて海軍側が敗北した」という事実も本部の将校らに衝撃を与えた。特に彼女の福の恩恵にあやかっていた小狡い将校たちは手のひらを返したようにに声をかけなくなった。それだけならまだいい。を本当に苦しめたのは公には発表されることのない裏の真実だった。海軍内の不和を表沙汰にすることはできず、結果としては船に同乗しながら加勢もせずにスネーク少尉の一軍を見殺しにした最低最悪の将校として処理された。すべては海軍の名誉のため。一人が犠牲になるしかなかった
センゴクに「お前の処分は私が決める」と言われたその3日後の夕方。センゴクに呼ばれて執務室に赴いたに下った処分は「期限付きの自宅謹慎」というものだった。海軍本部から一旦離れろと言われショックはショックだったが、そこに秘められたセンゴクの気遣いに気付いた瞬間は甘んじてその処分を受けようと思った。今や海軍本部内はにとっては針のむしろ。どこにいても将校や海兵たちの奇異の目にあてられ、落ち着く場所などない
「2週間だ。海軍本部を離れての自宅謹慎を命ずる」
「アイ、サー。・・・拝命いたします」
「。2週間後の夕刻、再びここに一人で来るように」
「はい」
「そのときにお前の決意を聞こう」
「決意・・・」
決意とは、つまりは海軍に残るか去るかの二択を選べということだろう。それはがずっと逃げてきた分かれ道。皮肉なものだ。冤罪を着せられて、ようやく現実と向き合うことになるなんて。けれどどちらを選んでもにとっては苦しい道になるのだろう。残る道を選べばそれは海軍での長く苦しい人生となり、去る道を選べばそこで彼女は自分の居場所を失うことになる
「悩みっぱなしの2週間になりそうですよ・・・」
眉を落としては笑う。センゴクは渋い表情で黙って彼女を見つめ返した
「あ、そうだ。センゴクさん。一つだけ我が儘を聞いていただけないでしょうか」
「なんだ」
「謹慎が解けるまで本部には足を踏み入れませんので、鍛錬場には何度か足を運ばせてほしいんです」
「鍛錬場?あぁ、別に構わんが」
「ありがとうございます。2週間も何もしないでいたら体が鈍りますからね」
は朗らかに笑って緩く敬礼し、執務室を去っていった。一人きりになった部屋でセンゴクはひとつため息をつく。威厳ある態度をとってはいたが、への処分がこれでよかったのか両手の指を組んで額を押しつけ自問した。しかし悩んでも悩んでもこれ以下の処分もこれ以上の処分もできはしない。ガープが言っていたとおり彼女は無罪であり被害者なのだ。それなのに彼女一人を犠牲にして海軍本部を守らなければならないなど・・・
「すまんな・・・」
彼女をスネーク少尉の船に乗せることを受諾したのはセンゴクだ。が将校たちによく思われていないのはわかっていた。けれど苦しい想いをしながらも反抗ひとつせずに従順に任務をこなしてくれる彼女に甘えてきてしまった。その結果がこれだ。を余計に苦しめることになってしまった。センゴクは苦しげな重たいため息をつき片手で額を覆って目を閉じた
*
狭くとも愛着のある仕事部屋。ここともしばらくお別れだ。私服に着替えたは小さめのスーツケースひとつを片手に扉の前に立ちドアノブに手をかけようとして。ほぼ同時にガチャリと扉が外側から開き、びっくりして顔を上げればそこにはレイダーの姿があった
「レイダーさん、」
「大佐。お出になられるところでしたか。ちょうどよかったです」
お迎えにあがりました、とかかとを揃えて敬礼をしたレイダーはふっと笑う。それからの手に持たれたスーツケースに視線を向けた
「お持ちします」
「え、・・・や。いやいやいや、大丈夫ですよ。自分で持てますから」
「いいんです。やらせてください」
そう言ってレイダーはの手からスーツケースを奪った。呆然とする彼女を他所にレイダーは「行きましょう」と廊下を進み始める。は慌てて彼の背中を追いかけた。彼の背中を見つめながら歩くのはなんだか不思議な気分だった。いつもは上官であるが前を行き、彼は後ろをついてきてくれていたから。階級はより下だけれど年は彼の方が上。いつも甲斐甲斐しくの世話をやいてくれる。レイダーは優秀な部下であり、そしてにとっては頼りになる兄なのだ
「レイダーさん」
「はい」
「ごめんなさい、ご迷惑をおかけして」
「・・・?迷惑とは何のことでしょうか」
「気を遣ってくださらなくていいですから・・・。私のせいで副官のあなたもいわれのない中傷を受けているのでしょう?」
「え?・・・あぁ、なんだ。そんなことですか」
「そんなことって・・・」
そんな軽く言い切れるようなことですか。は彼の背中を見つめ眉をひそめる。レイダーは振り返ることはなかったけれど、広い肩が僅かに揺れていた。何を笑っているのかと思えば
「何を今更ですよ、大佐」
「え?」
「あなたの副官になってから、自分はあなたをネタにからかわれなかったことなんてありませんから」
「へ・・・、あ・・・すみません」
それはそうだった。規格外想定外のことをするの行動に、何度レイダーがフォローをいれてくれたかわからない。彼には世話になりっぱなしだ。レイダーからすれば何を今更なのだろう
「確かに今回の件でも同期の奴らに言われました。『お前の上官が何もしなかったからスネーク少尉の部隊が壊滅したんだろう』って」
「はい・・・」
「くだらないことこの上ない。そうやって人を誹謗中傷するしか脳がない奴らです。だからあいつらには自分からよく伝えておきましたので」
「え、」
「大佐が加勢しようがしまいが関係のないことです。2億そこそこの海賊集団に負かされているようでは新世界では生き残れません。どんな死に様になるかもわかりませんし、海の藻屑となってご遺体があがらないことも少なくありません。ならば、先の戦闘で壊滅状態にされても骨を拾ってもらえた少尉殿の隊は幸せな方でしょう」
「・・・」
「なんてことをもう少し歯に衣着せずにお伝えしておきましたので」
レイダーはちらりと後ろを振り返り、に向かってニッと笑ってみせた。すぐに前を向いてしまった、彼の背中をは目を丸くして見つめた。その背中はどこまでも堂々としていて、誹謗中傷されるを全力で守ると語ってくれていた。は俯き泣きそうな顔で笑って、それから小さな声で「ありがとうございます・・・」と感謝した
「2週間は長いのでしょうか。それとも短いのでしょうか」
「そうですね・・・。私の心次第ですかね」
「街に降りられても大佐を見る市民の方々の目は厳しいかもしれません」
「はい。それは覚悟しています」
「ですが、どうかそれに惑わされず。最後の決断は大佐ご自身がお決めください。・・・大佐は以前自分がお伝えしたことを覚えておいでですか」
「え・・・あ、はい。もちろん」
ウォーターセブンから戻ってきた日。マルコにやられて医務室で休んでいたに向けたレイダーの言葉、彼の決意。忘れられるわけがない
「あの時から自分の想いは変わっておりません。自分は・・・あなたに生きたい道を進んでほしいのです」
たとえあなたが海軍を去ることになろうと、自分は構わない。あなたがあなたらしく生きられる場所を見つけてください。もう苦しそうに哀しそうに笑うことがないように。振り返らず前を向いて歩いていたレイダーだったが、突然その足がピタリととまった。正確にはとめられたのだ。彼の背中をの手が掴んで放さなかった
「大佐・・・?」
「・・・、・・・」
レイダーは掴まれていた背中にじんわりと熱が押し当てられたのを感じた。振り返らなくても分かる。が額を押しつけている。レイダーは何も言わず、彼女の好きにさせようと思った
「レイダーさん・・・」
「はい」
「ありがとうございます・・・」
か細い声で礼を言われ、レイダーは優しい笑みを口元に浮かべた。まったく本当に世話の焼ける御方だ。2週間も目の届かないところに行かれるなんて心配でたまりません。少々甲斐甲斐しすぎるとつる中将に言われましたが、あなたは自分にとっては何年経とうと変わることのない存在なのですよ。まったく本当に・・・あなたは目の放せない方だ
act 33 : 愛しい妹よ
長い回廊の終わり。海軍本部の正面玄関前でを待っていてくれたのはつるとガープだった。「待ちくたびれたぞ、」と両腕を組んで仁王立ちするガープと、彼の横で静かに笑うつる。二人の姿を見つけたの顔にじわじわと笑みが広がっていった
「ガープお爺ちゃん・・・、つるお婆ちゃんも」
「おや、随分少ない荷物だね。忘れ物はないのかい」
まるで小旅行に出かける娘を見送るような軽口。けれどそんなつるの気遣いには安堵した。二人がわざわざ見送りに来てくれたのはきっとの迷いと葛藤をよく理解してくれているからだ。海軍本部を離れるこの2週間は自身が答えを導く最後の時間になる。そのこともわかってくれているのだろう。ガープはの白髪頭をやや乱暴にがしがしと掻き撫で、「鍛錬場で出くわしたらたっぷり相手してやるからの」と笑ってくれた。だからも笑顔で「お願いします」と言えた
つるとガープとレイダーと。3人に見送られ、は海軍本部を後にした。次にここに来るのは2週間後。もしかしたらそれがの海軍本部での最後の日になるかもしれない。まだはっきりとした答えは心に浮かばない。海軍本部からだいぶ離れマリンフォード市街地に降りたところではくるりと後ろを振り返り空高くそびえる本部本丸を仰ぎ見た
「2週間、か・・・」
迷い逃げていた心に決断を下す2週間。風になびく髪を耳にかけ、絶対的正義を掲げる城にゆっくりと背を向けた
※レイダーさんは素敵なお兄さんであってほしいです
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