ドリーム小説
私は幸せ者かもしれない
もしも私が海軍を捨てて海賊に下る道を選んだらどうしますか。それは自分に自信がもてない寂しい人間が「ここに居てください」という言葉を言ってほしくて投げかけた情けない問いかけだった。弱く情けない卑屈な私のそんな質問に、けれどレイダーさんは余りある答えをくれるのだ
「うまくは言えませんが。大佐・・・、自分はあなたに好きな道を歩んでいって欲しいと願います」
「え・・・、」
「あ・・・勘違いなさらないでください。海賊になってほしいとは思っておりません。大佐が軍に居てくだされば我々下級の海兵は心強いですし。・・・けれど」
けれど、これはあなたの道だから。あなたが自分で選んだ道ならば我々は黙ってそれを見送るだけです。そう言ってレイダーはに向かって力強く笑うのだ。もしあなたが海賊になってしまったとしても大丈夫ですと
「もし大佐がご自分の意志で海賊になる道を選ばれたときには」
「・・・はい」
「そのときは、自分が全力をもってあなたを捕まえに行きますから」
だからどうかご心配なく。安心してご自分の生きたい道をお進みください。レイダーは椅子に腰掛けたまま帽子の鍔の下に手を添えて敬礼する。そんなレイダーをはただただ真っ直ぐに見つめ返した。けれど不意には俯き床を見つめた。「大佐・・・?」と声をかけられても顔を上げられなかった。だってこんな顔見せられない。唇を噛みしめて耐えていないと涙がこぼれてしまいそうで。どうしてですか。どうしてそんなにも優しい言葉をかけてくれるのですか。は心の中でレイダーに感謝した。そして涙に耐えながらはいつだったか心細い夜につるの部屋に忍び込んだとき彼女から言われた言葉を思いだしていた
―――お前の好きにしたらいいんじゃないのかい
生き場所をください、私を必要としてください。甘える私にくれたあの言葉は突き放す言葉じゃなかった。私に自由を与えてくれる言葉だったのだ。たとえがどの道を行こうとも、つるもレイダーもきっとその背を押してくれる。私はこんなにも幸せでいいのだろうか。甘えて逃げてばかりの私がこんなにも幸せでいいのだろうか。分不相応だ。だから予感がする・・・
act 30 : いつかきっと天罰が下るのだ
それは平和な日だった。空がうっすらと曇ってはいたけれど、それは穏やかな日のこと。のもとにひとつの辞令が下った
「単独での乗船、ですか」
「あぁ。知っているだろう、G-04のスネーク少尉。彼が君の『乗船』を望んでいる」
「『乗船』・・・ですか」
はセンゴクの言葉を反芻し、「あぁ、なるほど」と指令の意味を理解した。ときどき来るのだ、この手の指令が。の「福招き」の恩恵に預かりたい海軍将校が海賊討伐のためにの乗船を依頼してくるのだ。『乗船』とはその名の通り、ただ乗っているだけのこと。は戦闘にはほとんど加わらない。それでもが乗っているだけでその船は沈まないし勝利を得られるのだから占いやジンクスを信じる人間には心強い存在だ
「受けてくれるか、」
「討伐相手のレベルによりますね。対象は?」
「東の海(イーストブルー)出身、ワコウ一派。懸賞金は6400万ベリーだ」
「んー・・・それくらいなら大丈夫ですかね」
私が戦闘に加わらなくても、という言葉は相手の名誉のために飲み込んでおく。たまにいるのだ。自分のプライドを優先して、の加勢がなければ倒せない相手なのに「黙って乗っていろ!」なんて無茶を言う将校が
「アイ、サー。お受けいたします」
「よろしく頼む。スネーク少尉は・・・あー・・・」
「・・・?何か気になる点でも」
「いや・・・。彼は若干利己主義でな、やや狡猾な面がある。お前の負担にならないか少々心配ではあるのだが」
「まぁ大丈夫だと思いますが」
気をつけます、とはかかとを揃えて緩い笑顔でセンゴクに敬礼をした
部屋に戻ったはレイダーに手伝ってもらいながら出撃準備をおこなった。相変わらずつるはソファーに腰掛けて今日は新聞を広げている。黒いスーツに赤いネクタイ。指先が自由に使えるよう先のない皮手袋をキュッと嵌め、長い白髪は邪魔にならないようにひとつに結った。乗船だけでいいとは言われたが一応右足太腿にホルスターを巻いて、最後に重苦しい白い正義を背中に羽織り、はつるとレイダーの方を向いた
「じゃ、いってきます。お婆ちゃん、レイダーさん」
「あぁ。油断するんじゃないよ。無事に帰っておいで」
「アイ、サー」
「ご武運を、大佐」
びしっと直立で敬礼を掲げるレイダーには笑って手を振る。そして白いコートをひるがえし、は部屋を後にした。気を許せる者が誰も乗っていない船に向かって長い回廊を一歩一歩進んでいった
しかし一体誰が予想できたことか。この遠征が、海軍本部将校のにとって最後の乗船になろうなどと
目標地点のトマント島は夏島だと聞く。そのせいだろう、日差しがきつく拭っても拭っても額から汗が流れ落ちてくる。とてもじゃないが厚着なんてしていられない。はこれはよしと白いコートとジャケットを脱ぎ、ぱたぱたと手うちわで顔に風を送った
「あつ・・・」
「大佐。こちらをどうぞ」
「え、わ・・・ありがとうございます」
若い海兵がに水を差し出してきた。はお礼を言ってグラスの水を飲み干す。が水を飲む間も海兵は彼女のことをじっと見つめていた。空になったグラスを彼に返し、は若い海平に声をかけた
「なにか?」
「あ、いえ・・・その。お噂通りのお綺麗な方だと思って」
「わー、嬉しいことを。けどおだてても何も出ませんよ」
にっこりと笑うの愛らしさに若い海兵の頬がうっすらと赤く染まる。「お名前は?」と問えば海兵は両手を後ろで組んで姿勢を正し「リザードです」とハキハキと答えた
「お若い海兵さんですね」
「18です。半年前に入隊しました。勉強になるからと本作戦では特別に乗船許可をいただきました」
「へぇ。それはきっとあなたが優秀で将来有望な海兵さんだからですね」
そう言ってやれば、の言葉が嬉しかったのかリザードはパッと表情を明るくした。ありがとうございます!と敬礼をする姿もまた初々しい。けれど彼の次の言葉には緩いの頬もわずかに引きつった
「自分の目標はサカズキ大将であります」
「赤犬さん・・・?」
「はい。サカズキ大将のように何者にも屈しない屈強な絶対的正義を背負いたいのです」
「・・・なるほど」
それはそれは・・・。にとっては苦手この上ない軍人だけれど、彼のように海軍であることに誇りをもって入隊した人間にとってはサカズキは海軍の絶対的力を象徴する存在なのだろう。年若い彼の夢をどうこう言うつもりはない。は笑顔で「がんばってください」と告げた。その直後だった。カンカンカンと警鐘がけたたましく船内に響き渡り敵が近くにいることを知らせた。そして物見兵の報告が大音量で流れた
「二時の方角に敵を確認!!目標、ワコウ一派及びシラギク海賊団の連合軍!」
「え・・・?」
船内に流れた警報の内容に海兵たちが慌ただしく動き始める中、だけは「どういうことだ」と状況を理解できずにいた。ワコウ一派の名前は聞き取れた。けれど聞き慣れない海賊団の名前が続きはしなかったか?そんなものは聞いていない。のもとに来た討伐リストにも入っていなかった。海兵たちが大砲台や砲丸を用意し始める中、船首付近で仁王立ちしているスネーク少尉のもとへは駆け寄った
「スネーク少尉、どういうことでしょうか?」
「どうとは?」
「相手はワコウ一派単騎ではなかったのですか?もう一方の相手のこと、私は報告を受けていません」
「ならば今伝えた。それでよかろう」
「・・・!!」
「物見兵が報告した通りだよ、君。我々の敵は向こうに見えるあいつらだということだ」
ひひっ、と目を細めて唇の右端だけ高く上げてスネーク少尉は笑う。それはその名の通りまるで蛇のような笑い方での背をぞくりと悪寒が駆け抜けた。改めて算出された相手のレベルは、『ワコウ一派』懸賞金6400万ベリー、そしてそれと手を組んだ『シラギク海賊団』は億越えの2億2000万ベリー。トータルバウンティ2億8400万は少尉クラスが相手にできるレベルではない
「ひはっ。あれを討ち取れば俺の名声はだだ上がりだ。相手にとって不足なし」
「・・・っ」
不足ありでしょう!というつっこみをは歯を食いしばって飲み込んだ。名声と称号に目が眩んだこの男にもはや何を言っても伝わらない気がした。けれど現実的に考えて今のこの船の戦力であいつらを相手にするのは無理だとは感じた。ただ乗っているだけでいいと言われたが、自分が戦力に加わらなければ討伐は不可能だ。話を聞いてくれないかもしれないが、望みを捨てずは声をあげた
「スネーク少尉、及ばずながら私の力、・・も・・・、・・・っ」
声をかけたは、けれどすべて言い切ることはできなかった。なんだこれは・・・。突如としてぐらりと歪んだ視界、ありないほどの不快さ、吐き気と強烈な眠気に襲われ、自分の意志とは関係なく瞼が降りていく。がくりと膝が折れ、甲板に両膝と両手をついたは眉を歪めて必死に意識を繋ぎ止めようと試みた。けれど目の前に映る板目もぐにゃりと歪み、三半規管をやられたのかついには床の上にどさりと倒れ込んだ。完全に瞼が降りきる直前、必死に見上げた先、視界の隅に見えたのは蛇のように笑ってを見下ろすスネーク少尉の姿だった
※いよいよ物語は起承転結の「転」に入りました。スネーク少尉の陰謀。ちなみに若い海兵リザード君はその純粋な性格を利用されてを騙す役として船に乗せられたという設定が
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