ドリーム小説
ここは海軍本部の医務室。ベッドに腰掛けたはTシャツの裾をちらりと捲り上げ、ベッドサイドの椅子に腰掛けるレイダーに自分の腹を見せた。真っ白い腹のちょうどへその上、みぞおちにくっきりと拳の痕が残っていてその痛々しさにとレイダーは二人してウッと顔をしかめる
「・・・痛そうですね」
「・・・痛かったです」
話題にするだけであの時マルコに一発もらった瞬間の激痛が蘇ってくる。はシャツを元に戻し、ふぅとため息をついた。それを見たレイダーは渋い顔で一言、「自分には理解しかねる行動です」と漏らした
「え?何がですか」
「大佐は疑問に思われないのですか。その怪我も先日の腕の傷も、どちらも同じ相手から受けた傷ではないですか」
「あ、・・・はい」
「あなたを海賊にと誘っておいて、あなたを傷つける。海賊のやることが自分には理解できません」
「・・・そうですね」
レイダーはつるからとマルコの一件を話して聞かされていた。そのときの彼は少なからずショックを受けていたと聞いている。レイダーの怒りはを心配するが故のものだ。レイダーの気持ちは嬉しい。だからは眉を下げて困ったように苦笑いする。けれどレイダーには彼女のその笑顔もまた不安でたまらないのだ
「大佐・・・、あなたは、」
「・・・?」
「その・・・」
レイダーにしては歯切れの悪い話し方をする。帽子の鍔の下の視線も少しさまよいがちだ。鈍感なだが今は彼の心情を読み取ることができた。苦笑いを浮かべて彼が口内で濁した続きを引き取る
「海軍を捨てて海賊になるのか、・・ですか?」
「・・・はい」
「そうですね」
「・・・」
「どんな答えをあなたは望みますか、レイダーさん」
「え・・・」
レイダーは言葉を詰まらせる。まさか質問を戻されるとは思っていなかったらしい。帽子の鍔を引いて返答に戸惑う。そんな彼を見て、あぁ卑怯なことをしてしまったとは反省するのだ。彼の質問に逃げてしまったばかりか彼を困らせてしまった。酷い女だなぁ自分は。「ごめんなさい」とが謝ろうとしたのとレイダーが「自分は、」と切り出したのはほぼ同時だった。はびっくりして顔を上げる。まさか答えを返してくれるとは思っていなかったから
「レイダーさん・・・」
「うまくは言えませんが。大佐・・・、自分はあなたに」
意地悪で卑怯な質問返しをされても彼の声は優しく、帽子の鍔の下からを見つめる彼の目はすべてを包むように暖かく。彼の言葉をすべて聞き終えたは視線を床に落としてぐっと歯を食いしばった。そして思うのだ、つるもレイダーもずるいくらい優しい。じわりと熱くなる目頭。は弱く情けない自分を叱咤し、せめて雫が落ちないようにと唇を噛んで耐えた
*
同時刻。つるは自室に訪れたガープとソファーに向かい合って腰掛け茶をすすっていた。レイダーに話した経緯を今ガープにも説明し終えたところだ
「そうか。に白ひげの誘いが来たか」
「あぁ。正確に言えば白ひげんとこの不死鳥の独断のようだけどね」
「驚いた。驚きはした・・・が、相手が白ひげだと聞いて妙に納得できちまうのは何でじゃろうな」
白ひげは今ある大海賊時代の頂点に君臨する海賊だ。その船のクルーに魅入られるは、やはり何か持っている。ガープはにやりと笑い茶をすすった
「血かねぇ」
「かもしれないね。いよいよもってあの子が自分の道を選ぶときが来たよ」
「あぁ」
「ガープ、あんたはあの子が海賊になるのに賛成かい?」
「あぁー・・・?馬鹿言うんじゃねぇよ、おつるちゃん。誰が賛成するか。ふん、海賊なんて!」
「はは。そうだろうね」
なんせガープは海兵に育てようとしていた孫二人が海賊になってしまったのだ。海賊への恨み辛みは計り知れないものがある。しかもを勧誘したのが白ひげの者だと知り、彼の怒りは高まるばかりだ
「白ひげめ・・・、エースだけじゃ飽きたらずまで引き込もうとするたぁなんて贅沢な野郎だ」
「あぁ・・・そうだったね。ポートガスも白ひげのところにいるのか」
懐かしいねぇ。つるはもう20年も前の記憶に眼を細める。20年前、ガープが処刑間際のロジャーから生まれてくる息子を託されたときのことを。海賊王の息子が生きていると知られれば殺されるのは必至。だからガープはエースを海兵に育てようとしたのに
「何の因果かねぇ。血はあらそえない」
「ふん。まったくじゃ。せっかく生きながらえた命を海賊人生に費やすなんぞ」
「しかも実孫の・・・ルフィだったかい、その子もなんだろう?孫二人とも海賊の道を選んじまうなんて、寂しいだろうね」
「はっ!もうとっくに諦めとるわい!二人ともわしの言うことなんぞちーっとも聞かん。いずれ深く後悔させてやるわ」
ぷりぷり怒ってガープは荒々しくせんべいを囓る。そこまで思うなら孫二人の首に紐でもつけて繋いでおけばよかったのにとつるは思うのだが。けれどそんなことは意味はないのだとすぐに思い直す。安全な場所に繋ぎ止めておいたからといって、それがその子の幸せだとは限らない。自由に生き、そして幸せを感じる場所は自分で選び、その道に向かって自分の足で進まなければならない。そしてそれはもまた同じなのだ
「さてね。あの子はどんな道を選ぶのかね」
もまた生き場所を選ぶ時が来た。これは彼女自身でしか決められない。ここが安全だと軍人としての基礎を叩き込み海軍で生きるレールを引いてやりはしたが、それが彼女の幸せにならないのならここから先はが自分で決めなければならない。果たしてつるともまたガープとエースのように追う者と追われる者の関係になるのか
―――私は自分がどの道を進めばいいのかわからない・・・
今は迷いの中にいる。けれどそこから抜け出す勇気もなく、誰かに背を押してもらいたいと甘えている。背を押してやるのは簡単だ。けれどつるの口から「海賊におなり」なんて言えるはずもない。それに、それではが自分で決めたことにはならない。つるはため息をつき、湯飲みの中の茶を見下ろす。解決策が見つからない。ふと頭をよぎるとんでもない考え。もういっそのこと不死鳥マルコが彼女を攫っていってくれたら・・・。そんなことを考えてしまう自分はだいぶ疲れているのだなとつるは自覚し茶を飲み干すのだ
*
「!!」
マルコの罠にかかり、つるの目の前では両膝をがくりと折り曲げた。前のめりに倒れる彼女を抱きかかえたのは彼女のみぞおちに拳を放ったマルコ本人。静かに動かないを両腕で抱えるマルコを前に、つるは眼光を更に強くした。けれど高まるつるの闘志とは反対に、マルコは蒼い炎を消し徐々に戦意を下げていった
「何のつもりだい、変身を解いて」
「婆さん。あんたと戦う気なんてさらさらねぇんだよい」
「なんだって・・・?」
「俺の目的はただ一つ、こいつをうちの船に乗せることだ」
マルコはをゆっくりと地面に降ろし、そしてつるに目配せしての体を彼女に預けた。つるは握っていた短刀をカランと石畳に投げ、マルコからを受けとり怪訝な顔で彼を見上げた
「何を考えてるんだい一体・・・」
「何も。あんたを殺せばこいつは俺を憎み、もう二度と海賊の誘いに耳なんて傾けてくれなくなるだろい」
「まぁそうだろうね。・・・若造のくせに策士だね」
「はは。残念ながらそこまで若くねぇのよい」
「私から見ればみんなヒヨッコだよ」
つるにを預け、マルコはその場に立ち上がる。つるの胸に頭を寄せて眠るを見下ろした。さっきまでマルコに見せていた切羽詰まった顔とは正反対の穏やかな寝顔
「ゆるゆるなくせに、あんたのこととなると必死だよい」
「そうだね。適当に見えて、恩義だけは厚い子だよ。羨ましいかい、海賊」
「あぁ、ちょっとだけな」
「はは。正直者だね」
老婆に笑われてマルコは肩をすくめてみせる。正直、ちょっとどころではなく嫉妬した。を熱くさせる存在に、の心を繋ぎ止める存在に。二度抱いたぐらいの男じゃつけいる隙もない、その強い繋がりに。嫉妬したのだ。けれど同時にもっと熱くさせられた。彼女を手に入れたい、そばに置きたい。いつか自分だけを見るようにさせたいと。マルコはを見下ろし、ぺろりと小さく舌なめずりをする
「さてな。他の海兵が来る前に俺はとっとと逃げるよい。婆さん、あんたも軍人なんだろい。俺のこと捕まえねぇのかい?」
「なんだい?捕まえられたいのかい、こんな老いぼれに」
「まさか」
どうせ捕まるなら若くて美しいが相手の方がいい。欲望剥き出しの答えを返せば、「今度から白ひげの討伐には屈強な筋骨隆々の男どもを送るよ」とつるに皮肉の笑い付きで返された。マルコは肩で笑ってつるとに背を向ける。もはやこの場に戦意も殺気も感じないから背中を攻撃されることもないだろう。コツコツと数歩進んだところでけれどマルコの足は止まることになる
act 29 : ひとつ賭けをしてみようと思う
「賭け・・・?」
マルコは首だけで後ろを振り返り、つるの言葉を反復した。つるはマルコからに視線を移し、「あぁ、そうさ」と深い声で再度念を押した。つるの中に芽生えたひとつの賭け。マルコと対峙したほんの数分間でつるはそれを思い立っていた。不死鳥マルコよ。お前の存在がにどう影響するのか。本当にを幸せに導く者なのか。運命に、世界を回す歯車に、賭けてみようと思う
「賭けだよ。私は20年近くもこの子の面倒をみてきたんだ。それだけの年月を海軍本部で生きて・・・今、この子が何を選ぶのか。見させてもらうよ・・・、モビーディックは海の女神の加護を受ける船になりうるのかをね」
「海の女神・・・?何言ってんだよい婆さん、」
「白ひげにもそう伝えな。海軍からこの海最大で唯一の宝を奪う気なら本気でおいでってね」
つるはの頭を抱き込みにやりと笑う。マルコばかりがその言葉の意味を知らず眉をひそめた
胸に抱いたの頭を強く抱きしめ、つるが思い出すのは20年も前のこと。赤ん坊のを初めてその両腕に抱いたときのこと。両親のいないの仮親になることを承諾しこの海軍本部で子どもを育てると決めたとき、つるはガープとセンゴクに言われたのだ
『おつるちゃん。この子が大きくなって自分の生きる道を決める日が来たとき、この子がどの海で生きることを選ぼうとも黙って見送ってやる覚悟はあるのかい』
海兵として手塩にかけて育てても、その子はあっさりとあんたを裏切り海に出て行くことだってありうるのだぞ。そう言われても、つるは迷うことなく慈悲の笑みを浮かべて両腕に抱いたを揺すりあやした。そのとき既につるの胸には覚悟ができていたのだ。海の女神の子を縛り付けるつもりなんてさらさらない。運命に従い、この子が何を選ぼうともそのときは黙って笑顔で送り出そうと
※おつるさんとマルコ。ちょっと戦わせてみたかった思いもあります。どっちが強いかな・・・マルコかな?
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