ドリーム小説
「マルコさんてストーカーですか?」
「人聞き悪いこと言うよい・・・」
まぁ確かに自分の行くところ行くところに出現されたらそう言われても仕方ないかもしれない。けれどそれはお互い様なのだ。マルコからしてみても意図せず訪れたところにがいる。サッチが冗談半分に言っていた「運命」なんてのを信じてみるのもいいかもしれない。なんて馬鹿げたことを思ってしまい、サッチの思う壺だよい・・・とマルコは心中でげんなりする
「船の修理の出張依頼だよい。ガレーラカンパニーって会社にな。知ってるかい?」
「勿論ですよ。世界政府・海軍が御用達の造船会社ですから」
「あぁ。客を選ばず、海賊だろうと海軍だろうと関係なく同じ仕事をしてくれるからな。その点ではガレーラは信頼できる」
「なるほど」
「んで。さっきの男は誰だよい?」
「やっぱりそこに戻るんですか・・・」
は苦笑いを浮かべるがマルコはなんだか不機嫌そうに眉をひそめる。その理由は単純明快。自分の知らない男への嫉妬が表情に出てしまうほどマルコはに惚れ込んでいた
「キスを許せるほどの仲なのかよい」
「あ、・・・見てたんですか」
「見てたんじゃねぇ、見えたんだよい」
「ほとんど同じですよ。それにそんな親密な仲では。・・・まぁ知り合いといえば知り合いですね」
「あいつも軍人かい」
「んー・・・、・・・いえ」
ルッチのことをどう説明すればいいのかは口ごもる。仮にもルッチはこの街に極秘任務で潜入中の身だ。彼に恩義はないが、裏切るようなこともできない。は嘘はつかず、けれど真実も渡さず説明した
「幼なじみです」
「へぇ。随分と覇気の強い幼なじみだよい」
「(マルコさんて本当に鋭いなぁ・・・)ガレーラの職長なんです。ときどき理不尽な海賊の客が来るらしく、相手してるうちにだんだん鍛えられていったみたいで」
「・・・へぇ」
歯切れの悪い返事が彼から返ってきた。信じてくれたのだろうか。いや、きっと疑っている。じーっと見つめられ、はふいっと視線を横にそらし、これ以上訊かないでくださいオーラを醸し出す。けれどそんなの心配は不要だった。マルコはを見下ろしてふっと笑う
「まぁ、お前がそう言うなら仕方ねぇよい。嘘でも信じてやるさ」
「・・・」
「なんだよい、その顔は」
「や・・・、ちょっと予想外にかっこいいことを言われてしまいどう返したらいいかわからず困っています」
「惚れたか」
「それとこれとは別ですよ」
相変わらずなびいてくれないにマルコは「ちぇ・・・」と残念そうに舌打ちする。その姿がなんだか子どもっぽくては思わず肩を揺らしてしまった。笑われたことにマルコはますますふて腐れる。けれどふとマルコの目がの口元についた赤い付着物に止まり、彼の片眉を上げさせた
「」
「はい?」
「ちょっとじっとしてろよい」
「え・・・、!」
いきなり彼の親指が伸びてきて下唇を撫でられ、は目を丸くした。けれど「動くな」と言われてしまい、は顔は動かさず視線だけでマルコを見上げた。の唇から拭い取った親指をマルコはしげしげと眺める
「あの、・・・何か?」
「血だ」
「血?・・・あ、」
唇についた血。はすぐに合点がいった。さっきのルッチのキスに抵抗して噛みついたときのものだ。指摘されるとじわじわと蘇ってくる、口内に広がる錆びた鉄の味
「・・・」
「さっきの男か」
「え」
「噛み切ったのか」
「あー・・・まぁ。いろいろありまして」
「ふぅん」
頬を掻きながら気まずげな苦笑いを浮かべる、の顔色は決して良くはない。無理して我慢している、そんな感じだった。つらくても苦しくても悲しくても笑おうとする。そんな不器用な生き方をするの姿にマルコはため息をつく。そしてトンッとの肩を押して石壁を背にするように彼女を追い込んだ
「・・・マルコさん?」
「消毒してやるよい」
「え、・・・あっ」
逃がさないように彼女の顔の両側に手をついて閉じこめる。の瞳が少しだけ不安に揺れた。さっきルッチにされたのと同じ体勢、同じ状況。マルコの指が顎にかかり上を向かせられ、ゆっくりと近づいてくる彼の顔には珍しく怯えたような表情を見せる。マルコはぴくりと眉を動かし、あと少しで唇が重なるという距離で止めてやった
「怖ぇのかよい」
「・・・」
問われてもはっきりとした返事は出ない。怖くはない・・・はずなのに、どうしてか眉をひそめてしまう。ルッチに植え付けられた恐怖のせいかもしれない。彼女の長い睫毛が伏せがちになる。またそうやって無理をする。マルコは小さなため息をついてキスの行き先を変更させた。彼女の唇を素通りし、左目の目尻に軽く口付けてやった。ちゅっと軽い音が響く触れるだけのキス。はマルコを見上げた
「マルコ、さん・・・?」
「怯えた顔も色っぽくて善いけどねぃ」
「何言って、」
「できることなら気持ちよくしてやりてぇよい」
「・・・っ」
息のかかる距離でにやりと笑い、マルコは今度こそ彼女の唇に口付けた。互いの唇の柔らかさを確かめるように優しく押しつける。彼女の顎にかけていた指を放し、その指で反り返る細い喉をそっと撫で下ろせば彼がさっき口付けた目尻がふわりと朱色に染まった。名残惜しげに唇を放せば怯えていた彼女の顔はもうそこにはなかった
「よし」
「何がよしですか・・・」
「消毒完了だよい」
消毒・・・ルッチはバイ菌ですか。自分よりずっとずっと年上の人なのに、なんて子どもっぽいヤキモチを妬くんだろう。そう思いながらもの顔が呆れ気味になることはなかった。「さっきより顔色良いよい」とマルコに手の甲で頬をぺちぺち叩かれ、は何も言い返せず。正直彼のキスに慰められてしまったのは本当だった
通りに出て二人並んで水路沿いを歩いた。おかしなものだ。海軍と海賊、敵同士の二人が並んで語らいながら散歩だなんて
「あぁ、そういえば考えてくれたかい。白ひげ海賊団に入るって話」
「え?・・・あぁ。またですか」
「宝を手にするまではしつこいよい。諦め悪いのが海賊の特徴だ」
「まぁ何度来られても答えは変わりませんが。私は海軍を離れるつもりはありませんよ」
なんだか今日はいろいろ勧誘される日だなぁ。は苦笑いで返事をする。マルコは後頭部を掻いて「二回ぐらいじゃ無理か」とため息をつく。は「懲りませんね」と肩を揺する
「ったく、・・・どう言ったら伝わんのかねぃ」
「だって私が海賊船に乗るメリットがわかりませんから」
「俺が必要なんだよい」
「夜伽に?」
「ばっか野郎、そんなんじゃねぇよい。(勿論そうなら嬉しいけどな)」
「今、そうなら嬉しいとか思いませんでした?」
「・・・心ん中読むなよい。けど、親父もお前のことは歓迎してんだ。強さも認めてる」
「そう言っていただけるのはありがたいですけどね・・・」
は眉を落として少し寂しげな顔で笑った。皮肉なものだ。海軍本部のためにと鍛錬を積んで得た強さを認めてくれるのが海軍の仲間たちではなくて敵の海賊だなんて。自分の力を見てくれるのが海賊だなんて
「けど、戦闘力なら私より強い方はたくさんいますから。他をあたってください」
「あー・・・ったく、あぁ言えばこう言う」
「それはお互い様ですよ。私の意志は固いですよ。まだ勧誘されるのなら、私の気持ちがぐらりと揺らぐような理由を考えてきてくださいよ」
「・・・めんどくせぇなぁ。理由なんざ別にないんだけどねぃ」
どう言ってもなびいてくれないにマルコはぼりぼりと頭を掻く。巧い言葉なんて見つからない。だって彼女を船に乗せることに利益なんて求めてないのだから。声をかけ続ける理由があるとすれば、それはすべて彼の想いひとつ
「好きだからだ」
「え?」
「好きだからそばにいてほしいってのは、お前の気持ちを揺るがす理由にはならねぇのかよい」
「・・・。・・・またまた。そんなかっこいいこと言って。そんな口説き文句みたいな理由で、」
「理由なんてねぇよい。強けりゃそりゃ願ったりだが、そんなのも別に求めてねぇ」
どう言っても伝わらないからもう荒削りな言葉でマルコは叫ぶ。俺たちは海賊なんだ。欲しいものを手に入れたいと思って何が悪い。宝を見つけてそれを奪いたいと思って何が悪い
「俺にとっちゃ、お前の存在に価値があるんだよい」
理由なんてないんだ。お前がお前であることが略奪の意欲を掻き立てる。好きだから、惚れているから、ただただお前が欲しいんだ。削り出されたままの研磨されぬ気持ちをそのまま伝えた。その言葉の何割が彼女に届いたかはわからない。洗練されぬ野暮ったい言葉に彼女は呆れたかもしれない。また苦笑いされるものだと思っていれば、はふいっとマルコから顔をそらした
「?」
「・・・」
マルコに呼びかけられてもは返事も返せないし顔も向けられなかった。どうしてかはわからない。彼の言葉に気持ちがぐらりと揺れたつもりはない。けれど自分の意志とは裏腹に目頭が急に熱くなって、は彼から顔をそらし口元を手で隠して奥歯を噛みしめた
だめだ
だめだ
それ以上私の中に入ってこないでください
あなたの想いに心が動いたら私は海軍にいられなくなる
心が浸食される。まずいまずいとの心が警鐘を鳴らす。けれど揺らぎ始めた心の隙をマルコはけっして見逃さない。「」と名を呼ばれて無意識に彼を振り返ってしまう。あぁ、私はパブロフの犬か。目が合い、うっすらと涙目のを見てマルコの表情が変わる。まずいまずい。だめだ、やめて。そう心の中で何回唱えても声になっては出てくれないから、キスしようと顔を近づけてくる彼を止めることもできない。だめだ、今キスされて慰められたら心の一角が瓦解する。けれどあと3センチで二人の唇が重なるところまで来てしまった。だれか・・・だれか・・・
act 27 : ヒーロー登場?
「何をしておいでだい、」
「・・・!」
「・・・!?」
突然振ってきたぴしゃりとした声。しわがれた老婆の一声に唇が重なる寸前で二人は動きを止めた。そして声がした方に顔を向ける。二人がいる位置から少し離れたところに立つ一人の老婆。正義の白いコートを肩に羽織った彼女は呆れた顔でとマルコを見つめていた。訳が分からず眉をひそめるマルコに対し、の頬を焦りの汗がつぅと伝う。そこにいたのは彼女の偉大なる保護者
「お婆ちゃん・・・」
「・・・は・・・?」
の呟きに、いまだかつてないほどマヌケな声がマルコの口から零れた
※次回はを巡る戦い。保護者VS恋人候補でしょうかね
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