ドリーム小説
鍛錬場の窓から見上げる今日の空は薄い灰色の雲に覆われていてなんだかすっきりしない。曇った空はなんだか今の自分の心のようだとは思った。窓から空を見上げるを、つるとガープは鍛錬場の床に座って茶を飲みながら見守る
「の様子はどうだい、ガープ」
「あ?あー・・・まぁぼちぼちじゃな。この間よりはキレが戻ってきとる」
「そうかい。ならよかったよ。連れて行っても大丈夫かね」
「・・・本気か、おつるちゃん」
「あぁ、本気だよ」
「本当に連れて行くのか・・・をウォーターセブンに」
ガープが眉をひそめて確認すれば、つるは湯飲みに口を付けたまま視線で「そうだ」と答えた。胡座をかいたガープは額に手を置いてため息をつく
「そりゃライオンの檻にわざわざ肉を投げ込みに行くようなもんじゃろ」
「そんな大層なものかい。心配しすぎなんだよ、あんたは」
可愛い孫娘を心配する過保護なガープにつるはやや呆れる。まぁガープの気持ちがわからないでもない。つるも少しは心配している。それはこれからを連れて行く行き先が問題。ウォーターセブンには極秘任務中のCP9たちがいる。の底知れぬ力に目をつけた奴らは、もうずっと前からをCP9に引き入れようとしつこく勧誘しているのだ。ウォーターセブンで彼らとが鉢合わせになりはしないかとガープは危惧する
「大丈夫だろうよ、今のの力があればね。道力値も低くはないだろう」
「まぁの。きちんと六式使いに手合わせしてもらわんとわからんが、軽く4000は越えとるじゃろうな」
「それだけあれば上々だよ」
力で負けることはないだろう。むしろ心配なのは誘われたときのの意志の弱さの方だ。ただでさえ最近海賊なんぞに誘われての心は掻き乱されているのだ。まぁだからといって、籠の鳥のように海軍本部に閉じ込めておくほどつるも過保護ではないが
「今のあの子には息抜きが必要さ。ねぇ、」
「はい?」
「支度しておいで。1時間後に出航するよ」
「あ、もうそんな時間ですか。それじゃ。ガープお爺ちゃん、手合わせありがとうございました」
はガープの正面に立って両手を合わせて合掌し、武道の師に一礼した。「気をつけて行ってこい」と手を振って送り出すガープだが、可愛い孫娘のことが心配でたまらずうまく笑えていないその顔に、つるは湯飲みを傾けながらこっそり笑ってしまったりしたのだった
*
マリンフォードから船でエニエス・ロビーへ。そこから海列車に乗り換えて進むと、ウォーターセブンという美しい水の都にたどり着く。グランドラインでも指折りの船大工がひしめく造船業の街だ。耳を澄ませばポッポーと名物の「海列車」の汽笛の音が聞こえる。パッフィング・トムでブルーステーションに到着したたち海軍はガレーラカンパニーの社長に挨拶に行くべく1番ドッグを目指した。けれどそこへ向かう途中でつるはに「お前は小1時間程度、その辺を散歩でもしておいで」と告げた。言われたは目をきょとんとさせる
「え?」
「綺麗な街だ。眼の保養にもなるよ」
「あ、・・・はい。けど護衛は」
「治安の良い街だ、問題ないよ。お前は少しゆっくりして心を落ち着けるといい」
「・・・(あ・・・)」
つるの両目が優しく細められて、深みのある笑顔には彼女の真意を知る。護衛という名目で連れて来られたけれど、きっと最初からつるはに休暇を取らせるつもりで連れてきたのだろう。あの夜から調子の悪いのために。つるの優しさには感謝した。のことを置いてどんどん遠ざかっていくつるの背中にぺこりと頭を下げ、はきびすを返した
この世のすべての人々は大きな歯車の上に立って生きている
すべてはその歯車の巡り合わせ、一度歯車が噛み合えばそれが運命
大きく回り一周して戻ってくるのだから、どんなに遠く離れていてもきっとまた会える
「ンマー!しかし今日は随分といろんな客が来るじゃないの。海賊に海軍にとせわしないな」
「そうですね。珍しいですこんなことは、何かの巡り合わせでしょうか」
「しかしこれだけ交互に来て、よく喧嘩の一つも起きないものだ」
「そこはこちらで面会時間を調整しまして、お客様同士が鉢合わせしないようにいたしました」
「ンマー!!さすがだなカリファ」
「恐れ入ります、アイスバーグさん。ところで後ほど少々外出時間をいただきたいのですが」
キリッとした表情で美人秘書は眼鏡のフレームを指でおしあげる。市長兼社長のアイスバーグは鼻をほじりながら「あーいいとも」と適当に返事を返すのだった
*
賑わうここはウォーターセブン裏町商店街。小さな雑貨屋の店先。さっきから特徴的な髪型の男が一人店頭に並べられた装飾品を手にして吟味していた。その背後に忍び寄るは、これまた特徴的なリーゼント頭の男
「なぁにしてんだよ、マルコ」
「・・・!」
「お?なによ、お前にしては珍しいもの見てんじゃんか。穴開けんの?」
何気なく商品を手に取っていたマルコは、いつの間に横に来ていたのかサッチに声をかけられ商品から彼へと顔を向けた。その顔は「めんどくさい奴にばれた」とあからさまに嫌そうだ
「開けねぇよい。男がピアスなんてキザくせぇ」
「へぇ。その割りには随分熱心に色とか見比べてたじゃねぇか」
「お前いつから観察してたんだよい」
「お。それ良い色じゃん。マリンブルーか」
人の話を聞かないサッチにマルコはため息をついて商品のピアスを棚に戻す。勘のいいサッチはマルコの意図を簡単に読み取った。片眉を上げて意地悪な笑みをつくる
「ははぁ。さてはあの子にか。海軍の・・・あー、なんつったっけ」
「、だよい」
「そうそうその子。彼女にやるんだろ?やー、マルコが女にプレゼント買うようになるなんてねぇ」
夜のスナイパーが逆にハートを打ち抜かれちゃったわけですか、とサッチはニマニマする。マルコはめんどくさそうにまたため息ついて店に背を向けた
「なんだよ、買わねぇの?」
「お前のせいで買う気が失せたよい」
「ひでぇ。俺何もしてねぇだろ」
「もうここでの用は済んだんだ。行くよい」
サッチを置いてずんずんと橋を渡るマルコ。後ろからはサッチが「待てよマルコ、俺も選ぶの手伝ってやるから」と一人だけ楽しげに笑顔で追いかけてくる。あの笑顔、絶対船に戻ったらエースに言う気だ。そしてマルコのうんざり度は二倍になるのだ。今からもうそれを覚悟し、マルコは両手をポケットに突っ込み苦い顔で橋を渡っていた。何気なく見下ろした橋の下。水路があり、様々な種類のブルが人を乗せて泳いでいた。乗客の多くは不思議な仮面や仮装をしている
「しかし派手だねぃ」
「近くの島が祭りの時期らしいぜ。いいよなぁ、俺祭り大好き」
「あぁ、はっぴ着て団扇持って。似合うよいお祭り男」
「なーんかちょっと棘のある言い方」
つれないなぁマルコ・・・、とわざとらしい口調でサッチはがっかりしてみせる。マルコはそれを完全無視して歩きながら橋下を眺めていた。ふとマルコの足が止まる。追いかけていたサッチは「どうした?」と問いかけるが、マルコはどこか一点をじっと見つめていた。サッチは「なに見てんだ?」とマルコの視線の先を追いかけ、・・・そして彼の目は点になった
「・・・え・・・、・・・や、マジで?」
「・・・」
マルコの視線が止まった訳を知る。サッチは「びっくり」と「おもしれぇ」が混ざったような顔でマルコの肩をぽんぽんと叩いた
「いやすげぇな、これ」
「うるさいよい、サッチ・・・」
「だってなぁ。お前らさ、なんかの運命の下にでもいんじゃねぇの?」
これもきっと船に戻ったらエースに報告されて二人でからかわれるのだろう。覚悟を決めながら、けれどマルコはそこから視線をそらすことができなかった。彼の視線の先、そこにはついさっきまでマルコがからかわれていた原因の女が・・・長い白髪をなびかせた黒いスーツの彼女がいた
*
ウォーターセブンの街中に極彩色が溢れる。色とりどりの仮面と仮装に扮した人々が石畳や水路に溢れていた。店の壁に貼られたポスターを見れば、どうやら近くの島サン・ファルドがカーニバルの時期らしい
「すごい。華やかだなぁ」
裏町商店街の石畳通りを歩きながら、は水路を進む巨大ナマズのようなヤガラブルを見上げた。仮装した人々が船の上から時折手を振ってきて、も笑顔で手を振り返した。綺麗な街だった。治安も良く、人々も活気があって心が元気になる。少し、ホッとできる。今のの心情を理解し休暇をくれたつるに改めて感謝した
つるに心の内を打ち明けたあの夜からはずっと悩み続けていた。悩んでも悩んでも答えなんて出ないのに。むしろ悩めば悩むほど闇に取り込まれる一方なのに
―――ここにいろって言ってくれないんですか・・・?
生き場所に迷いが生まれた私は、あのときつるにどんな答えを期待したのだろう。それを考えるだけで、自分はなんて甘いのだろうとため息が出るばかりだ。私は甘い。自分が生きる道なのだから、自分で決めなければいけないのに。甘ったれな私は誰かにこの手を引いて答えに向かって導いてほしいと心のどこかで期待している
「弱いなぁ・・・」
「ニーッ!」
「へ・・・!?」
ふぅとため息をつけば突然すぐそばで聞こえた鳴き声にはびっくりして肩を跳ね上げた。なんだなんだと思えば、水路のヤガラがの方を向いてピチピチと尻尾を振っていた。客を乗せていない無人のヤガラ。人懐っこい笑顔でを見つめてくる。どうやら頭を撫でてほしいらしく、水路からの方へと頭を乗り出してくる
「あは・・・、可愛い」
「ニー!」
が頭を撫でてやるとヤガラはニッと笑って嬉しそうに鳴いた。ペットなど飼ったことはないけれど、こうして動物と触れ合っているだけですごく癒された。さっきまで鬱々としていた気分が少しだけ晴れる。それだけでもこのヤガラに感謝したいくらいだった
「ありがとね、ヤガラちゃん」
「ニッ?」
のお礼の意味などわからずヤガラは首を傾げる。そんな仕草も可愛かった。気分転換にはヤガラの背中に乗せてもらおうかと、近くにいるはずの貸しブル屋の姿を探した。その間もヤガラはもっとに頭を撫でて欲しいと尻尾をピチピチさせている。けれど、それまで明るかったヤガラにそれは突然に異変が起きた
「ニッ・・・――・・・ッ!!?」
「え、・・・ヤガラちゃん?」
穏やかだったヤガラが何かとてつもなく恐ろしいものを見たように体を強張らせた。と同時に聞こえてきたのは、カツンコツンと石畳に響く冷たく硬い足音。生き物の本能で何か危険を察したヤガラは怯えた声をあげながら水路を一目散に去っていった。その理由をもはっきりと感じ取った。動物が逃げたくなる気持ちも分かる。だってこんなにも覇気を剥き出しにして近づかれたら誰だって恐怖を感じずにはいられない。ただ海軍育ちで覇気に慣れたは違った。顔色一つ変えずゆっくりと首を後ろに向ける。そこにぽつりと立つ、黒牛の仮面の男を斜めに見た
「あぁ、やっと見つけた」
「・・・!」
黒牛の男が静かな声でに話しかける。その声を聞いた瞬間、の目が静かに大きくなっていった。あぁ・・・その声は。懐かしさすら覚えるその淡々とした声に、は驚きに丸くした両目をゆっくりと細めて静かに笑った
act 24 : その声を知っている
「CP9・・・」
の小さな呟きに、黒牛の仮面の下で男がうっすらと笑ったのがわかった
※なんとなくアイスバーグさんの「ンマー」を言わせてみたかったのです(笑)
何だか突然ウォーターセブンのことが書きたくなりました。道草です
すみません、マルコとの絡みが少なくて・・・
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