ドリーム小説
鍛錬場が好きだ。厳しい練習はつらいけれど嫌いじゃない。自分の命と相手の命のぶつかり合いは練習とはいえ気を抜けないから、余計なことを考えないで済む。悩みや不安を忘れさせてくれる大切な時間・・・のはずなのに
「ほれほれほれぇい!手と足の動きがバラバラじゃぞい!」
「っとっと・・・、ぅわ!剃っ!」
「逃がすか!おうりゃあぁぁっ!!」
「ひぇ・・・っ!?」
剃は六式の高速移動の技なのに地面を蹴った瞬間はあっさりガープに捕まってしまった。シャツの襟首をつかまれ一本背負いのように床に叩きつけられる
「いっ・・・!!」
「どうじゃ、。降参か?」
「うー・・・、はい。白旗です」
「ぶわっはっはっ。素直じゃな、お前は」
ガープは床に倒れたの隣にどっかりと胡座をかいて大笑いする。はのろのろと上半身を起こし、叩きつけられた後頭部をさすった。相変わらずガープ中将の訓練は厳しい。英雄ガープはもはや老兵だ、などと誰が言った。力も勘も衰えておらず、英雄拳骨のガープは今も健在だ。そんな大先輩には時々自分から頼んで稽古をつけてもらっていた。ガープも快く稽古を承諾してくれる。それはの隠れた実力や高い戦闘センスをガープが買ってくれていたから。しかしいつもならもう少し良い勝負になるのだが今日は随分とあっさり決着がついてしまった
「何ぞ悩みでもあるのか、」
「え?」
「今日は随分と技にキレがないのぉ。雑念というか、迷いが感じられるわい」
「・・・」
ふんっと鼻息荒く説教するガープには片眉を下げて誤魔化すように笑った。いつも豪快で、繊細なんて言葉からはほど遠い人なのに。ガープお爺ちゃんは時々鋭いことを言う。確かに・・・今の自分には迷いがあるとは自覚していた
*
薄暗い食料庫の奥で。煙草味のキスを交わして、ゆっくりと顔を放して。は「お前を奪いに行ってやる」と豪語するマルコの言葉に返事を返した
「その必要はありませんよ」
口の中に煙草の苦みが広がる。不快ではなかったけれど、セックスを終えたばかりの乾いた喉には少しひりつく。はよくマルコがそうするようにぺろりと小さく舌なめずりをして唾液で苦みを中和した
「迎えに来ていただいても、残念ですが私はあなたと一緒には行けません。海軍を離れるつもりはありませんからね」
恩義がある方がいますので、とはにっこりと笑う。の瞼の裏にはつるの姿が浮かんでいた。海軍本部を影から支える大参謀。厳しくも優しい彼女のおかげで今のがある。つるを裏切るようなことはにはできない。の気持ちを読み取ったマルコは、ふっと力を抜いて笑った
「俺と一緒だよい」
それはマルコも同じ気持ちだった。の言葉に共感できる。彼もまた白ひげという大海賊に大恩がある。親父を裏切ることはありえない。立場が違えども同じ想いがあるのだとすれば、今はどんなに誘っても無理だとマルコは悟る。もちろん諦めたわけではないけれど
「まぁ、また誘いに来るよい。俺たちの船に乗る気になったら言ってくれ。いつでも歓迎する。親父もお前の実力は認めてるからな」
「なんだか複雑ですねぇ、海賊に褒められるのなんて初めてですよ。・・・ところで、この勧誘は船長さんの命令なんですか。白ひげエドワード・ニューゲート氏の」
「そうだと言ったらどうなんだよい」
「んー・・・、信じられないといいますか」
どんな理由があって大海賊四皇の船長が一介の軍人を仲間に勧誘するのか。物好きにもほどがある。半信半疑どころかまったく信じていないにマルコは思わず笑ってしまう
「なら、俺がお前をそばに置きたいからって言ったら信じるかい」
「マルコさんが私を・・・?」
「おぅ」
「そばに・・・?」
「なんだよい」
「・・・物好きな」
こんな不抜けたおかしな女をそばに置きたいだなんて。きょとんと瞬きしてはマルコを見つめる。彼はふっと笑って、の額に静かに口付けた
「マルコさん、」
「いつか連れ出してやるよい」
「え・・・?」
お前が棲む窮屈な城から。自由に羽ばたける場所へ連れて行ってやる
マルコの目に真っ直ぐ見つめられては返す言葉がなくなってしまった。はいはいわかりましたよ、と笑ってあしらおうとしても頬の筋肉がうまく動いてくれなくて。代わりに動いてくれたのはどういうわけか両腕の筋肉で、それも後ろ手に箱の上についてマルコから遠ざかるように体を後退させるために動いてしまい、気付いたマルコに「なんで逃げんだよい」と呆れたため息をつかれて手首を掴まれて引き戻され、壁を背に、両手首を壁に固定されて唇を塞がれ、自由どころか今の私には・・・・・・
act 22 : 逃げ場などどこにもなく
「おー、往生際の悪い奴だねェ。逃げ場なんてないんだ。おとなしく真っ直ぐ歩きなよォ」
間延びした声とは裏腹に、暴れようとする海賊の背中を平気で蹴りつける短気な一面も見せる。ストライプ柄のスーツに白いコートを羽織った大将黄猿ボルサリーノの姿を見つけ、鍛錬場帰りのとガープは港の近くでしばし立ち止まった。港に停泊しているのは罪人を乗せる護送船。よく見ればそれは先日たちが捕らえたスパイス海賊団の船長と副船長だった。賞金首の二人だけがインペルダウンに護送されることに決まったのだろう。海楼石の手錠をはめられて何重もの鎖で巻かれて、それでも身体を捻って暴れ抵抗しているのは副船長の男だ。船長の男はどういうわけか静かに俯いていた
「くそっ、・・・くそっ!!さわんじゃねぇよっ!放しやがれ・・・このくそ海軍がっ!!」
「あぁ、存分に暴れたらいいよォ。インペルダウンに入ったらもうそれすらもできなくなる」
「畜生・・・っ!!行かねぇ!俺はどこへも行かねぇぞ・・・っ!!」
「もうお前らには自由も何もないよ。あー、悲しい人生だったねェ」
ボルサリーノは皮肉な笑みを浮かべて副船長の男の背中を思いきり蹴りつけて船に乗せた。その後に続くのは船長の男。さっきから暴れもせず一言も叫ばず俯いている。ふとその男が何かに気付き顔を上げた。それは偶然か、何かの悪戯か。と男の目が偶然にもかちあった。これから「この世の地獄」に連行される男だ。さぞかしたちのことを恨んでいることだろう。しかしどういうわけか、その男の眼からはへの恨み辛みは微塵も感じられなかった。討伐されたときのまま傷だらけで固まったどす黒い血のついた顔で、彼はを睨み付けて笑ったのだ
「悲しい・・・?何が悲しいと言うのだ」
その呟きはまるで視線の先にいるへ向けたもののようだった。男は笑う。それはまるでかの海賊王ロジャーが処刑されたときのように。この断崖絶壁の状況でも豪気に。まるで人生の勝者のように
「海賊として自由に生き、海賊として死せる人生・・・、誰が悲しいなどと思う!?一片の悔いもないわっ!!」
「・・・、・・・」
ぞくり、と。の背中を悪寒とは違う何かが駆け抜けた。なんて潔い言葉。どうして命の瀬戸際に立たされた状況でそんなことが言えるのか。答えはけれどすぐに思い立った。それはきっと彼がそんなふうに信念をもって生きてきたからだ。あぁ、どうしてだろう。これから死にに行く者に、・・・「羨ましい」だなどと思ってしまうなんて。船長の男がに背を向け、自らの足で護送船に乗り込んでいく。それを眺めながらはマルコの言葉を思いだしていた
―――いつか連れ出してやるよい。お前が棲む窮屈な城から。自由に羽ばたける場所へ
連れて行ってやる。彼は私に手を差し伸べる。その手をとれば、私もあの海賊の船長のように笑って逝ける道を歩めるのだろうか。誰か答えを教えてください・・・
海賊よ
自由で奔放で勝手で
あぁなんて憎らしくて羨ましくて・・・・・・愛しく、そして哀しい生き物なんだろう
※ガープお爺ちゃんと孫娘。ルフィもエースも海賊になっちゃったから、ガープにとってはは可愛い孫のような存在
ちょっと泥沼化してきましたが、登場人物の精神的な変化を書ききりたいです
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