ドリーム小説
※白ひげの回想です
との戦いの最中、マルコがずっと気になっていたのはギャラリーの海賊たちの喧噪などではなく。それはただ一点、玉座にどっかりと腰掛けた白ひげエドワード・ニューゲートの様子だけだった
『親父。俺はこいつをこの船に乗せてぇんだ』
マルコの思いはひとつだった。何とかしてを自分のそばに置きたい、彼女をこの船に乗せたい。それには彼女が白ひげに認められる存在でなければならない
「そいつはこの船に乗せるだけの価値があるんだろうな、マルコ」
白ひげにとって重要なのは彼女の素性云々ではない。が白ひげの御眼鏡に適うかということ。マルコは直感で彼女の内に秘めた力を感じ取り、3分勝負という一か八かの賭けに出た。彼女の力を白ひげに、仲間に、そして己に見せつけるために。果たしてマルコの賭けが吉と出たか凶と出たかは、・・・それは白ひげのみぞ知るところ
act 17 : それは古いアルバムの1ページ
マルコほどの男が惚れたというから、一体どんな女なのか多少なりとも興味はあった。だからマルコが突然言い出した、その女との3分勝負も快諾してやったわけだ。俺の自慢の息子相手にどの程度食らいついてこれるのか見てやろうと思ってた。女は海軍の暗躍部隊が使う宙を蹴る体術なんか使いこなしてやがった。あぁ悪くねぇ、なかなかできる女じゃねぇか。そして白鯨の船首に女は降り立った。そいつの姿を見た瞬間だった。俺は・・・・・・、俺の古い記憶の中に今も生きる一人の女を思い出したんだ
―――エドワード・ニューゲート・・・?あぁ、あなたがロジャー船長が言っていた「白ひげ」さんですね
かつての大敵、海賊王ゴール・D・ロジャー。あいつの船に乗っていたそれは美しい女のことを思いだしたんだよ
今は女が海賊の船長をやったりしてるが、昔は海賊船に女を乗せるのは不吉だと言われていた時代だった。だがロジャーは平然とその女を船に乗せ、そしてその決断に文句を言う奴もいなかった。女なんか乗船させるのだから、その女には大層な価値があるのだと思ったが、そいつは戦うことも歌うこともできない非力な女で。俺は一度だけロジャーに訊いてみたことがある。なんでそんな女を船に乗せているのかと。するとあいつロジャーはにんっと笑って言いやがった
「俺が望んだんじゃねぇ。あいつが勝手に俺を愛し、自分でこの船に乗ることを選んだんだ」
「ほぉう・・・。で、それでお前はあの女の好きにさせてるって?ロジャー、一体あの女にどんな弱みを握られてやがんだ」
「ははっ!馬鹿言うんじゃねぇ、白ひげ。俺はな・・・いや俺らの船はな、海の女神に愛されたんだ。海に生きる人間にとってこれほど幸運なことがあるか」
そう言ってロジャーは自慢げに笑っていたものだ。そのときの俺は大して興味もなく聞いていた。ただ言えるのは、ロジャーが「海の女神」だと抜かすその女はどんな男も一度は振り返るほどの美貌を持っていたということだ。白く長い髪。その白さに、両耳につけた赤いピアスが映える美しい女だった。物静かというか、ただ何も考えていないだけなのか、ぼぉっと海を眺めていることが多く不思議な雰囲気をもっていた。ただ、時折見せる笑顔が綺麗な女だった
―――白ひげさん。相変わらず怖いお顔で。もっと笑えばいいのに
凪いだ海のように穏やかに笑う。いつの間にか自分でもわからねぇうちに・・・俺はその女に惚れていた
若き日の過ちだった。ロジャーたちと酒を酌み交わしたある夜、俺は一度だけその女を抱いた。合意のもとなんかじゃねぇ。何せ、その女はロジャーの野郎を愛していたんだ(ロジャーにはルージュという名の愛する女がいると理解した上で、その女はロジャーを愛していた)。ただの我欲だった。自分の女にしたいという欲望のままに俺はその女を手籠めにした。女は悲鳴もあげず拒絶もせず大人しく抱かれていた。だが、結局は俺のものにすることはできなかった。好きでもない男に半ば無理矢理抱かれたのに、女は静かに笑って、俺の心の奥を読んできっぱりと言ったんだ
―――私はロジャー船長を愛していますから。オーロ・ジャクソン以外の船に乗るつもりはありませんよ
好きでもない男に無理矢理抱かれて、それでも少しも傷ついた顔もせずだ。決定的だったのは、逆に彼女に抱きしめられて、「でも、愛してくれてありがとう」と言われたときだ。あまりの綺麗さに潔さに、俺はもう己のみっともなさを痛感して彼女を諦めるしかなかった
その数ヶ月後だ、ロジャーが海軍に捕まり処刑されたのは。女も片恋で愛した男を追いかけ軍に捕まり、獄中で死んだと聞いた。風の噂では、彼女は身重の体だったという(父親は・・・、・・・まさかなとは思う。だがその可能性が二十年も経った今でも拭いきれねぇ)。ロジャーが処刑されてしばらくして獄中で女の赤ん坊を産み、そのまま彼女は命を堕とした。その赤ん坊がどうなったかは今になってはもうわからねぇ
*
「3分経った。戦いは終わりだ、クソガキども」
覇王色の覇気を剥き出しにして、白ひげは二人の180秒間の戦いを止めた。このまま続けたらどちらかが命をおとすのは確実。大事な大事な息子を今こんなところで死なすわけにはいかなかった。そして、もう一人。マルコの相手をしたという名の海軍本部の女将校。たったの3分間だったが、白ひげにその力を見せつけるには十分な時間だった
戦いの後しばらくして、甲板でを見送ったマルコが船長室にやってきた。何か言いたげなマルコを前に、白ひげはグラララと機嫌良さそうに笑った
「親父・・・?」
「グララララ・・・、・・・まさかのまさかだ。海賊人生も終盤のこんなところに来て女神に再会できるなんてな」
「・・・?」
「人生はこうでなくちゃなぁ、面白くねぇ」
白ひげの言葉の意味がわからず、マルコは眉を寄せて首を傾げるばかり。そんな息子を他所に、白ひげは好物の酒を彼サイズの大きな盃に注ぎ込んだ。赤い盃の中でゆらゆらと揺れる水面に、白ひげはついさっきまで見ていた若い女の軍人の姿を映しだしていた
白く長い髪に、その白さに映える赤いピアスをつけた美しい女。マルコが気に入ったと言っていた海軍将校の女。彼女の姿は、かつて己が愛した「海賊王の船に乗っていた彼女」の姿と瓜二つ。まさかのまさかだ。この数奇な巡り合わせに、再会できたことへの喜びに、白ひげの肩が揺れる
「マルコ。お前ぇの好きにしてみろ」
赤い盃の酒をグッと煽り、白ひげはトレードマークの笑みを口元に愛しい息子に告げるのだ
「あの娘をこの船に乗せてぇなら、死ぬ気であれの心を奪ってこい」
白鯨が海の女神に愛される船になりうるか。大海賊白ひげエドワード・ニューゲートはかつて叶わなかった自分の想いを愛する息子に託す決意をする
※まさかの過去話でした。少しずつヒロインの謎を明かしていきたいと思います
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