ドリーム小説
カァカァとカラスが平和に鳴く夕暮れ時。空が橙に染まる、一日が終わっていく穏やかな時間帯。海軍本部元帥の部屋には
「ぶわっかもーーーんっ!!!」
センゴクの怒りの声が響き渡っていた
act 16 : 仏の顔も三度まで
「敵の挑発に乗せられて不要な戦闘を強いられ、しかも大怪我して帰ってくるとはどういうことだっ!?」
「・・・すみませんでした」
「あらら・・・。やっぱりこうなるのね」
とクザンはセンゴクの執務机の前に直立不動で立たされ、お説教をくらっていた。いつも椅子にどっしりと座っているセンゴクが今は立ち上がって上から二人を―――正確にはを見下ろしていた。右腕を包帯でぐるぐる巻きにして首から吊っているはどこからどう見ても重症患者。つるとガープは客用ソファーに腰掛けて茶をすすりながら、お説教される二人を生暖かく見守っていた
「!」
「はい・・・」
「5日後に南方への出撃があるのを忘れたわけではあるまいな!腕一本ダメにして、どうするつもりだ!?」
「え・・・、あ。そうでした・・・」
「何が「そうでした」だ!自覚が足りん!!」
「すみません・・・。でも、えーと・・・大丈夫です。左腕一本あれば、」
「足手まといだ!!!」
「あー・・・、やっぱりですか」
あちゃぁ・・・とは苦笑いで頬を掻く。ソファーの方から「馬鹿だね、まったく」とつるにため息をつかれる始末
「大人しくしてろって言ったのに聞きゃしないんだから。自業自得だよ」
「・・・反省します」
「クザン。あんたにも迷惑かけたね」
「いや、全然。むしろ一緒にいて止めなかった俺にも非があるわけで」
「いいんだよ、あんたは。考えなしに行動するその子が悪いんだ。良い薬だよ。ねぇ、」
「・・・はい」
「ぶわっはっはっは。はおつるちゃんには素直じゃな」
さすが赤子の頃からの面倒をみてきただけあるわい。ガープは茶をすすり煎餅をぼりぼり囓りながら大笑いする。センゴクはどっかりと椅子に腰を下ろし、を睨みつけきつく説教した
「まったく・・・。白ひげの側近相手に一騎打ちを受けるなど無茶をしおって!右腕一本で済んだだけ幸運と思え」
「はい・・・予想以上に強かったです」
「当たり前だ!あいつはもう20年以上もあの船に乗っている、白ひげの右腕にも等しい男だ」
「へぇ。じゃ、見た目より割りと年上なんですね。もっとお若いのかと思ってました」
「そこは問題じゃない!!」
「ぶわっはっはっは!さすがじゃ。ずれとる!」
「ガープ!貴様が話に入ると余計にずれる、黙っていろ!」
といいガープといい・・・。センゴクは額に青筋を浮き立てて疲れたため息をつく。もうこの辺で終わりにして、たちをとっとと部屋から追い出そうと思った矢先、クザンが余計な一言を言ってくれた
「しかし、おつるさん。問題なのはちゃんの男の趣味ですよ。もうちょいどうにかしろって言ってやって頂戴よ」
「何言ってんだい、クザン。そんなことその子にはもう散々言ってるよ」
「けどねぇ、せめて素性がはっきりしてから関係持ちなって」
「・・・何のことだい?」
「あー・・・やー・・・、青雉さんもうその辺にしません?」
「だってねぇ」
青雉が何を言うつもりなのかを察したは珍しく慌てた。けれどクザンは気にせず、の頭を片手でぐいっと引き寄せると彼女の首の絆創膏を指でぶすりと指し、しれっと言ってのけた
「これの相手、不死鳥だって言うじゃないの」
「「「・・・はぁ・・・!?」」」
「・・・」
クザンの思いも寄らぬ一言に、つるもガープもセンゴクも皆一様に信じられないという顔をする。は気まずげに視線を明後日の方向にそらした。しーん・・・と静まりかえる室内。けれど次の瞬間には再びセンゴクの怒鳴り声が部屋に響き渡った
「ぶわっかもーーーんっ!!外出外泊禁止で門限までつけられたいか、この放蕩娘がっ!!」
「(それはご勘弁願いたい・・・。)・・・青雉さん・・・恨みますよ」
「なーに言ってるかね。ちゃんの身を案じて言ってるってのに。お爺ちゃん(ガープ)もお婆ちゃん(つる)もお兄さん(自分)もお父さん(センゴク)もみんな君のことが心配なだけだ」
「誰がお父さんだ!!!」
「そこつっこむとこですか、センゴクさん」
「ぶわっはっはっは!さすがちゃんじゃ、規格外規格外!」
「うるさいガープ!もう全員出ていけっ!!」
賑やかな海軍本部の一員たちにセンゴクの頭痛と胃痛が消える日がない。そんな夕暮れ時の執務室だった
勝者もなく敗者もなく、語り継がれることもない180秒の戦いを終え、とマルコは互いに背を向けた
の右腕はずたぼろで血が流れたままで、一方のマルコはほとんど無傷で頬にできた切り傷が目立つ程度。見た目にの方が敗者の色が濃く、そんな彼女が船を後にするのを周りの海賊たちは揶揄する。「見たか、俺らの隊長の力を!」と皮肉を込めて笑う。自身はそんな嘲笑慣れたもので気にした素振りはなかったが、彼女をからかう輩を諫める者は別にいた
「お前ら全員黙れよい」
ドクンッと心臓を震わせるほどの覇気を放ち部下を黙らせたのは、戦ったマルコ本人だった。海賊たちの声が一瞬で消え去る
「余興は終わりだ。全員持ち場に戻れよい」
マルコの一声で大勢の船員が慌てながら散らばっていった。しょうがねぇ奴らだよい。マルコは一息ついて、それから下へと飛び降りていったを見下ろした。クザンに「大丈夫かい?」と声をかけられては苦笑いで「痛いです」と答えているのが聞こえた。無事な左手をクザンの肩に置き、自転車の後ろに飛び乗る。クザンが自転車を漕ぎ出した。マルコは彼女に聞こえるぐらいの声で名を呼んだ
「」
「・・・?」
海風に白髪をなびかせながらはマルコを見上げてきた。その顔はあっけらかんとしていて、突然勝負を吹っ掛けられ大怪我までさせられたのにそのことへの憤りや怒りなどはまったく感じられず。相変わらず感情が読みづらい、掴めない、何を考えて生きているのかわからない。彼女を制御することなんて誰にもできないのではないかと思わせられる。改めて思う。は、海のような女だ
「またな」
マルコは船の手すりに頬杖ついて、ひょいっと片手を上げて別れを告げた。は表情を変えずじっとマルコを見つめている。再会していきなり理不尽な勝負を吹っ掛けられ、右腕一本ダメにされ、の中でマルコは完全に大悪党決定だろう。もう笑顔を見せてくれないかもしれない
(まぁしょうがねぇか・・・)
所詮は海軍と海賊。正義と悪。初めて関係を持ったとき、「情が移ったりしませんから」と笑って言っていた彼女の言葉を思い出す。一度寝たくらいじゃ彼女の心を揺り動かすことなんてできない。彼女からの返事など期待していなかった。だから、思いきり意表を突かれてしまった。表情の変わらなかった彼女の口元にうっすらと笑みが浮かんだのを見て、頬杖ついていたマルコの目が丸くなる
「次お会いしたときは捕まえてみせますよ、マルコさん」
「・・・!」
笑顔だけでも嬉しいのに名前まで呼んでくれるなんて何の大サービスだか。しかも大悪党相手に律儀に「さん」付けかよい・・・。本当に読めない女だ。けれどじわじわと胸の奥に沸き上がってくる嬉しさを誤魔化すこともできない。大海原を走る一台の自転車。風に揺れる長く白い髪。その後ろ姿に名残惜しげに背を向け、マルコは白ひげの部屋へと向かった
チリンチリン♪
大海原に一本の氷の道が走る。細い氷道の上を行くのは一台の自転車。二人は来た道を戻り海軍本部を目指す。海の散歩はおしまい。来たときと同じく、海は穏やかで何の変化もなし。変わったことがあるとすれば、来たときは五体満足だったの右腕が使い物にならなくなったことぐらい。血まみれの右腕をだらんと下げて、はため息をつく
「何を考えているのかわかりませんね・・・」
その独り言は「彼」に向けたもの。関係を持ったのは一度きり。それで気に入ったと、自分のものにすると宣言されて別れ、再会すれば命を取り合うような勝負を吹っ掛けられ。彼の意図がわからない。彼は私をどうしたいのだろう
「どうかしたかい、ちゃん」
「いえ、・・・何でもないです。あ、イルカ」
海面から顔を出したイルカにバイバイと手を振ろうとして、は両手が使えないことを思いだし代わりに笑顔をイルカに送った。使えない右腕に不自由を感じる。こんな怪我までさせられて、怒りや恨みが湧いてくるのが普通だろう。けれどどうしてだろう、の中に負の感情は生まれなかった
海風を受けて目を閉じる。瞼の裏に蘇るのは、戦いの中で見た蒼い炎。空よりも海よりも蒼い衣を纏った鳥。自由に空を舞うその姿に、は少しだけ嫉妬する
海賊よ
自由で奔放で勝手で
あぁなんて憎らしくて羨ましくて、・・・・・・愛しい生き物なんだろう
※センゴクさんはみんなのパパであってほしい。大黒柱です
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