ドリーム小説
チリンチリン♪
大海原に一本の氷の道が走る。細い氷道の上を行くのは一台の自転車。運転手は海軍本部大将青雉クザン。その後ろ、はクザンの肩に両手を乗せて後輪のステップに立ち、彼の頭越しに大海原を眺めた
「おっとっと、ごめんよ」
海面から顔を出したイルカが二人に挨拶をする。は笑顔でイルカに手を振った。楽しそうなの様子に自転車を漕ぐクザンは頬を緩める
「よかったよ、ちゃん。少しは元気になったみたいで」
「あ・・・。私元気なく見えましたか」
「あぁ、ちょっとな。何か悩んでるような感じだったからねぇ」
ぼぉっと空を眺めてため息ついていれば誰にだってそう思われる。クザンが心配してくれていたことがは嬉しいと思った。にとっては年の離れた兄のような存在
「そうですね、悩みというか・・・。青雉さん、お訊きしてもよろしいですか?」
「なによ?」
「白ひげ海賊団と戦ったことあります?」
「白ひげ?あー・・・まぁ直接会ったのは若ぇ頃に1回ぐらいかね。傘下の奴らとは結構戦ってるけど」
「そうですか・・・。強いんですよね」
「ハンパないよ」
「ですよね」
大将の青雉が認めるのだから相当なのだろう。実際に会ったらどんな感じなのだろう。ふとの中に好奇心が芽生えた
「仮に今、私たち二人しかいないところで出くわしたりしたら」
「まぁ不利だわな」
「ですよね」
「あぁ」
「・・・」
「・・・ちゃん」
「・・・はい」
「もしかして・・・会ってみたいとか願ったりなんかした?」
「・・・実は、少し」
「・・・ちゃん。あんた」
なんか持ってるね・・・。クザンの表情がやや引きつる。二人の視線が進行方向を向く。たちが進む先に大きな白い船が見えた。遠くてはっきりとした形は見えないけれど、この距離から見ても巨大な船であることは分かる。その船がたちの方へ向かって進んでくる
「あー・・・、面倒な奴らと出くわしちゃったよ」
正面からやってくる船にクザンは眉間に皺を寄せる。さっきよりも近づいて形が徐々にわかってきた。船首にそびえる広い白鯨の頭。新聞の記事で何度も見た。これが・・・
「白ひげ海賊団・・・」
「相変わらずでっかい船だこと」
このまま進んだら正面からぶつかってしまう。青雉は急ぎコースを変えた。けれど巨大船と自転車ではスピードが違う。更にはモビーディックの外周が大きすぎて避けるにもギリギリになってしまう
「大丈夫ですか、青雉さん」
「何がよ?」
「だいぶ近いですよ。戦闘になるなんてことは」
「あー・・・まぁ向こうから攻撃してきたら応戦はすっけどな。それがない限りはこっちからは何もするつもりはねぇさ」
「・・・いいんですか。私たち一応海軍ですけど」
「任務時間外だしね。わざわざ喧嘩ふっかけるなんざ、めんどくさくてやる気になんない」
流石は『だらけきった正義』をモットーに掲げているだけある。まぁ仮に戦うことになったとしても、さすがのクザンとでも四皇相手はちときつい
船が起こす波に持って行かれないように、最低限の距離を取ってモビーディックを迂回しようとした瞬間、船の上から警鐘と船員の叫び声が聞こえてきた
「おい、全員戦闘配置につけ!青雉が横にいるぞ!!」
「なんだと、海軍本部の大将がか!?おい、誰か親父と各部隊長に伝えろ!」
「あらららら・・・、速攻で見つかっちゃったよ。こりゃめんどくせぇな」
「どうします?なんか皆さん鬼気迫る顔でこっち見てますけど」
「とりあえず相手の出方を見ようじゃないの。白ひげも無駄な戦いをするような馬鹿な男じゃない」
クザンは自転車周辺に半径1メートルほどの氷を張り、片足を降ろして自転車を停めた。二人は大きな船を見上げる。白ひげの船員たちが船の手すりにずらりと並んで二人を見下ろしていた。皆いい感じに悪党面をしている
あぁ、面倒なことになった。さてどうしようか。膠着状態は、けれど長くは続かなかった。不意に周りの空気が変わった。肌を刺すようなピリリとした空気にクザンもも表情を変える。これは、覇王色の覇気。発しているのはきっと白鯨船の中央に座っているであろう男
「変わらねぇな、相変わらずすげぇ覇気だこと。ちゃん、大丈夫かい」
「びりびりします・・・。指先が勝手に震えていて・・・こんなの初めてです」
「あぁ、そのぐらいで済んでるなら上等上等」
あの男の覇気を前に気絶しないでいられるだけ大したものだ。見上げる先には白ひげの姿はない。けれど不意にドスのきいた低い声が降ってきた
「青雉かぁ。何の用だ、ハナタレの青二才が」
姿は見えないが声にも覇気が感じられる。白ひげが喉を震わせるだけで大気が振動しているようだった。絶対的な存在感には唾を飲み込む。クザンは白ひげに届く程度の声で返事を返した
「用なんかないですよ。ただの散歩で通りかかっただけだ」
「あぁ!?なに訳わかんねぇこと言ってんだ。散歩ならもっと遠くに行きやがれ!」
「あー・・・?ただの散歩なんざどこ通ったっていいでしょうが。いちいちケチつけんじゃないよクラァ!!」
「なんだぁ、やんのか!?親父ぃ、戦闘の許可を!」
血の気の多い海賊たちは各々の武器を手に燃え上がる。あぁ、こんな一瞬で戦闘空気に変わってしまうなんて・・・。やはり戦うことになるのかとは危惧する。けれど白ひげはクザンが言っていた通り愚かな男ではなかった。くだらない会話の応酬でやる気満々になってしまった息子たちを「静まりやがれ、アホンダラどもが」と諫めた。白ひげにそう言われては息子たちも武器を引っ込めるしかない。熱が下がっていく様子にはホッとする
「ったく。こちとらデートの途中なんだ。邪魔すんじゃないよ!」
「けっ!何がデートだ、チャラチャラしやがって」
「はー、んなこと言って羨ましいんじゃないの、実は?海賊船は女っ気ないからねぇ」
「なんだと、てめぇ・・・!!」
せっかく白ひげの声でおさまってくれた船員の火にクザンはわざわざ油を注ぐ。彼の後ろで傍観していたは「・・・青雉さん、わざとやって楽しんでますね」と苦笑い。そこに不意に新しい声が混じった
「なにやってんだよ、お前ぇら。親父がやめろって言ってんだからいい加減にしねぇか」
「サッチ隊長・・・っ、でもですね」
「でももクソもねぇよ。いいから全員とっとと持ち場に戻りやがれ」
しっし、と手すり付近に群がる若い衆を追い払うのはリーゼントの男。彼のまともな発言には「隊長クラスかもしれない」と予想する。ふと見上げると、その人と目があった。リーゼントの彼はと目が合うや、どういうわけか目を真ん丸にして驚いた顔をした
「・・・?」
「え・・・、うっそっ!?マジかよ・・・!おい、エース!!」
「なんだよ、サッチ」
「なんだよじゃねぇって・・・!ほれ、あの子!」
「あ?どれ・・・・・・って!?あぁーーーっ!!」
なんだかよくわからないが・・・。とりあえずサッチとエースという二人の海賊がをネタに騒いでいることだけは感じ取れる。当の本人のは首を傾げるばかり。するとサッチと呼ばれた男が大声を張り上げた
「おい、マルコ!!」
「・・・!」
act 13 : パブロフの犬
自分でも驚くほどその名前に過敏に反応してしまう自分がいた。聞き覚えがあるどころか、ここ数日頭から離れなかったその名前。やっぱりここにいるんだ・・・。は声を上げたサッチという海賊の方に視線を向けた。けれど、がよく知る彼の姿はどこにもない。が期待する彼の声はてんで見当違いの方向から降ってきた
「んな大声で呼ばなくてもさっきからずっとここにいるよい」
は声がした方を・・・、モビーディックの鯨型の船首の方に視線を向けた。そこには胡座をかいて頬杖ついてを見下ろす彼がいた。の目が真ん丸になるのを彼はおかしそうに見下ろしている
「よぉ」
「あ・・・」
「10日ぶりだよい。俺のこと覚えてるかい?・・・海軍本部将校、大佐さん」
やけに楽しそうに・・・というか嬉しそうに笑う彼の顔を見上げ、は感じたことのない感情に心を揺さぶられていた。なんだろう。何というのだろう。この気持ちの名前を知らない
"敵である彼にまた会えて、・・・嬉しいだなんて"
※ありえない形での再会です。まぁめんどくさがりの青雉だから無駄に戦わないのかな・・・という予想です
「パブロフの犬」=条件反射のこと。マルコの声を聞くと体が反応するようになった
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