ドリーム小説
へのお礼として、ヘイハチは賑わう構内を歩いて大学案内をした。
講義棟、ゼミ棟、サークル棟、コンピュータ棟、学食にカフェテリア、そして中庭。
どこへ行っても学生が模擬店を出していて、客引きを断るのにもだいぶ時間を要した。
中にはヘイハチの友人もいて、一緒にいるを見て
「お。浮気か、ヘイハチ。やるじゃん」
なんてからかわれたりもした。
そのたびにヘイハチが必死になって否定するものだから、は見ていて飽きが来ない。
からかわれて断って、はぁと肩で疲れた息をするヘイハチを見て、は小さく笑うのだった。
Romantic Quartett 3
歩きながら、2人はいろいろな話をした。
ヘイハチはここの大学院生で、機械工学を勉強していることとか。
は高校3年生で、神無大学受験予定のこととか。
が神無学園の生徒だと知り、ヘイハチは自分もそこの卒業生だと伝え、話は盛り上がるばかり。
剣道部の島田先生はまだ現役か、とか。
保健室のシチさんは相変わらず女生徒に人気なのか、とか。
話しながら歩いているうちに結構な時間が経ち、構内案内はあっという間に終わってしまった。
スタート地点の第2図書館に再度向かって歩く。
の中では、この学校への想いが固まりつつあった。
「いい学校。やっぱりここにしようかな」
「えぇ、是非おすすめしますよ。頑張ってください」
大学の設備は整っていますし、教授陣も良い方ばかりですし、とヘイハチは語る。
就職率も良いんですよ、と自慢げに言って、ヘイハチは隣のに顔を向ける。
人のいいえびす顔の彼の目を、はじっと見つめた。
「うん。それに」
に真っ直ぐに見つめられ、ヘイハチは目がそらせなくなる。
不思議と惹きつけられるものが彼女にはあった。
それは可愛いとか美人だとか、そういう見た目だけではなく。
それは言葉にするとしたら・・・
なんだろう・・・
それは綺麗な爬虫類が醸し出す静かな雰囲気に似ていた。
ペットのヘビとかトカゲなんかが相手に向ける、純粋な好奇心とでも言うのだろうか。
はヘイハチを見つめたまま、口元で笑ってみせた。
「林田先輩にも会えるし」
「そうですねぇ。・・・・・って・・・はいっ!?」
の言葉と彼女の目に捕まり、ヘイハチは目を真ん丸にして固まってしまった。
小悪魔みたいな顔で笑うに、じわじわとヘイハチの耳が赤くなっていく。
「いやぁ、あの・・・っ」とか「えぇと、ですね・・・っ」とか言葉を濁しまくっている。
そんな彼が可愛くて、は肩を小さく揺らして笑った。
「冗談ですよ。じょーだん」
「あ・・・じょーだん、ですか。そうですよね、あぁ・・・・・びっくりしました」
「林田先輩、彼女いるでしょ?」
「へ!?な・・・なななぜ・・っ?」
「うーん・・・勘、かな?いそうな感じがする。しかも、とびっきりの美人」
にっと自信満々に笑ってに見つめられ、ヘイハチは否定できず口を紡ぐ。
そのときだ、ヘイハチの携帯が軽快に鳴った。
ポケットから取り出して2つに開けば、着信画面には『委員長』の文字。
慌てて通話ボタンを押せば、勢いよく聞こえてきたのはにも聞き覚えのある女性の声。
「はい、もしも」
『はーやーしーだー、ヘイハチ!お前、今どこにいるのさ?』
「は、はい・・・?構内にいますが・・・」
『3時きっかりに』
「3時きっかりに・・・?」
『第2図書館の受付前』
「第2図書館の受付・・・・・・・あ」
『じゃなかったっけ?林田君』
「わ・・・・・・・・忘れてましたっ」
携帯で話すヘイハチの顔が見る見る青ざめていく。
電話の向こうの彼女の声は静かで、だがそれがかえって恐ろしくもあった。
『ソッコー』
「・・・・・はいっ」
『3秒以内に来なかったら帰っちゃうからな』
「さ・・・3秒は無理です・・が、すぐ行きます!!」
パクンと携帯を折ってポケットに突っ込み、ヘイハチは焦り顔でに向き直る。
彼女に待ちぼうけを食わせてしまい慌てる彼に、はくすくすと肩を揺らして笑っていた。
ヘイハチの耳がかぁっと赤くなっていくのを見ながら、は視線を彼に向けた。
「早く行った方がいいと思うけど」
「う・・・お恥ずかしいところを。すみませんね、中途半端にしかご案内できず」
「うぅん。すごく楽しかった」
「恐縮です。それじゃすみません、さん。受験頑張ってくださいね!」
「うん。来年どうぞよろしく」
手を振るに背を向け、ヘイハチはダッシュで向こうに見える第2図書館へと駆け込んでいった。
入口の自動ドアが開いたところで軽くずっこける彼が遠目に見えて、はおかしくて肩を揺らした。
「さて。どうしようかな」
ヘイハチが図書館の中に消えて手持ち無沙汰になり、はバッグから携帯を取り出した。
そろそろ彼に連絡を入れようか。
ピッピッとボタンを押して彼の携帯番号を表示した、まさにそのときだった。
「!」
計ったかのようなタイミングで名前を呼ばれた。
慌てることなくゆっくりと顔を上げればそこには。
今ヘイハチが入っていった図書館の入り口から慌てた様子で走ってくるヒョーゴの姿が見えた。
「あ。先生」
のんびりとした口調で「ちょうどよかった」と声をかける。
一方のヒョーゴは息を整えながら、何だかいろいろ聞きたそうな顔をしていた。
「どこに行っていた?というか、何故あいつと一緒にいた?!」
「あいつって、林田先輩?あれ。先生、知り合い?」
知り合いも何も、ヒョーゴにとってはいけ好かない奴も同然。
そんなことを知る由もないは、にっこりと笑って答える。
「構内を案内してもらってたの。すごく親切な人だね」
<すごく親切な人だね>
初対面のはずのとヘイハチ。
なのに彼女の中でヘイハチへの好感度が高くなっているのは確実な発言だ。
ヒョーゴの眉間に細かな皺が寄る。
「おい・・・・」
「なに?」
「・・・・・・な」
「な?」
「・・・・・・・・・何もされなかったか?」
「え?」
ヒョーゴの不思議な問いかけに、は「何も、って何?」と首をかしげる。
問い返されて、ヒョーゴは目を泳がせる。
「例えば?」
「例えば・・・・・・」
「やらしいこと?」
「・・・・・・」
周りを気にすることなくあっけらかんと答えてみれば、ヒョーゴは居心地悪そうに目をそらした。
どうやら当たりらしい。
なるほど、どうやら彼は彼なりにのことを心配していたらしい。
嬉しくないわけもなく、は唇をにっと持ち上げて笑った。
「何の心配してるのやら」
「・・・・万が一ということもありうるだろうが」
「まさか。林田先輩は先生とは大違いだもの」
「あぁ?」
「優しくて、物腰柔らかで、真面目で。一緒にいると落ち着く人だよ」
「あぁそうか。悪かったな、意地悪で、無愛想で、スケベな人間で」
ヘイハチに対してヒョーゴはやけに敵対心むき出しだ。
すっかりすねてしまったらしく、を置いてすたすたと歩き出してしまった。
もその後をゆっくりとついていく。
「なにすねてるの?」
「すねてなどいないわ、馬鹿が」
「すねてるじゃない。もう。ヤキモチ焼きだね」
「・・・・・・・・・あ?」
の一言が癇に障ったらしく、ヒョーゴは足を止めて後ろに首を向けた。
ジーンズのポケットに両手を突っ込んで不機嫌そうな顔をする彼は、はたから見たらチンピラそのものだ。
だがそんな姿もにとっては、ヘイハチに嫉妬する我侭な、可愛い男に思えてしまう。
「誰がヤキモチ焼きだ、誰が・・・!!」
「まぁまぁ。別にいぃんじゃない?」
激昂するヒョーゴを、は軽い口調で受け流す。
両手を後ろで組んで、ヒョーゴを真っ直ぐに見つめてクスリと笑う。
彼女は周りを気にせず、飄々と答えた。
「私はいいと思うよ。意地悪で無愛想でスケベなヒョーゴ」
「お前・・・それ褒めてないだろう」
「あれ。最上級の褒め言葉なんだけどな」
あっけらかんとしすぎな彼女に、ヒョーゴも牙を抜かれてしまう。
怒り肩をすとんと落とし、ヒョーゴは彼女が追いつくのを待った。
「素敵な人だね。委員長さん」
「・・・なんだ突然」
「すごく魅力的。ヒョーゴ、女を見る目があるね」
これは一応褒められているのだろうか。
何と答えていいかわからず、ヒョーゴは追いついた彼女の歩みに合わせてゆっくりと歩き出した。
「あぁいう女(ひと)になりたいなぁ」
真横からぽつりと漏らされた呟き。
その言葉にこそ、何と答えていいかわからない。
憧れる必要なんてない
はで、十分なくらい善い女なのだから
だがそれを口に出来るほどヒョーゴも気障ではない。
2人ゆっくりとキャンパス内を歩いていれば、ふとヒョーゴの耳に学生の声が入り込んできた。
―――なぁ、あの子可愛くね?
―――あ?・・・うぉ、ホントだ。マジ可愛い
「・・・・・・・」
あぁ、またかとうんざりしてしまう。
今日何度聞いたかわからない、を狙うハイエナどもの囁き。
彼らの声はにも聞こえているはずだが、は自分のことだと分かっているのか分かっていないのか。
冷静に態度を崩さず、そんな囁きには目も向けない。
ただただ、ヒョーゴだけがヤキモキしている。
「」
「うん?」
男どもの視線はまだに向けられている。
ヒョーゴはおもむろに彼女の手を取り、見せつけるようにわざと指を絡めて繋いだ。
その効果はてき面で、後ろから「・・・なんだ。野郎つきか」と男たちの残念そうな声が聞こえてくる。
突然のヒョーゴの行動に、だがは慌てることなく彼に合わせる。
「なに?突然」
「何でもない。ただの虫除けだ」
「虫?」
反復しながらも、には何のことかすぐにわかった。
あぁ、と納得した返事をして、そして繋いだ手にちらりと視線を向けた。
「虫、ねぇ」
「なんだ」
「別に私、彼氏見つけにきたわけじゃないよ?」
「お前がそうじゃなくても、あいつらがな」
「うーん。買いかぶりすぎだと思うけどなぁ」
「お前な。少しは自覚しろ」
自分にどれほど男の目が向いているかわかっていないのだろうか。
一緒にいる自分の方が疲れる。
小さなため息をつくヒョーゴにはお構い無しに、は楽しそうに辺りを見回す。
ふと。
「・・・・・・ぁ・・・・・」
彼女の視界に、一棟の教会風の講堂が映りこむ。
西洋の教会を模したような、ステンドグラス貼りの講堂。
今は学祭中で立ち入り禁止になっている。
まるで固まった猫みたいに彼女があまりにもじっとそれを見ているから。
「・・・・・・入りたいのか?」
一応声をかけてみた。
は講堂に目を向けたまま、こっくりと頷く。
正直というか、従順というか。
ヒョーゴは肩でため息をつく。
「入ってみるか?」
ヒョーゴの問いかけに、はゆっくりと彼を振り返る。
目で「入れるの?」と問う彼女に。
「裏に周ればな」
そう教えてやれば、色素の薄い瞳が期待に輝いた。
「入りたい」と目で訴える彼女に。
ヒョーゴは一つため息をついて、繋いだ手を無言で引っ張った。
終わらなかった・・・・・・。
今回も無計画に続きます。
次回で終わります(今度こそ!)
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