ドリーム小説
大学祭のスタッフ腕章なんかつけて何をしているのかと思ったら、彼女は神無祭の副委員長を任されているのだとか。
相変わらずそういう上のポジションが多いなとヒョーゴは苦笑する。
2人は手近にテニスサークルが出店する屋外カフェを見つけ、パラソルの下のテーブルに腰掛けた。
ヒョーゴはコーヒー、彼女はホットチョコを注文して、卒業後の互いの状況なんかを話したりした。
「まさかあんたが先生やってるとはね」
「何が言いたい」
「べぇつにぃ・・・・」
「・・・なんだ、その沈黙は」
「いや。気に入った女生徒に手なんか出してないかなと思って」
「・・・・・・」
なまじ図星なだけにヒョーゴは何とも答えられない。
彼女は彼女でテッサイ教授の助手として動き、また講師として日本文学の一部を教えたりしているらしい。
相変わらず忙しい日々を送っているようだ。
Romantic Quartett 2
「ところでさ、いいのか?」
「あ?何がだ」
「あの子だよ。放っておいて」
先程気を遣って自分から立ち去っていったあの子のことを、彼女なりに気にしていたのだった。
大学見学が目的なのに一人で構内を回ることになって、今頃難儀してやいないか。
心配する彼女に、だがヒョーゴは落ち着いて笑ってかえす。
「平気なのか?」
「あぁ。賢い生徒だ。心配いらん」
のことならよくわかっている。
互いの携帯の番号もわかっているし、ヒョーゴももう少ししたら電話をするつもりでいた。
そう答えるも、だが彼女は納得していないような渋い顔をする。
「いや、そうじゃなくてさ。何て言うかなぁ」
「なんだ」
「案外鈍感だな、ヒョーゴ」
呆れたような顔で笑う彼女に、ヒョーゴはわけが分からず眉間に皺寄せる。
彼女はテーブルに頬杖ついて、にっと唇を上げて意地悪な顔で笑った。
「ちょっと寂しそうな顔してたぞ、あの子」
ちゃんと見てたか?と彼女は問う。
立ち去るあのとき見せたの顔が何を言いたかったのかは、女の自分にはよくわかる。
「あんたと一緒にいたかったんじゃないのか?」
「・・・・・」
女の立場から語る彼女は、これ以上ないくらい優しい女の笑みを浮かべている。
同じ女として、の気持ちを汲み取ってやっているのだろう。
同じ、恋する女として。
「・・・は、そんなやわな精神じゃない」
「まぁ確かに持ってる雰囲気は落ち着いてたけどさ。でもまだ高校生の女の子だろう?」
「・・・まぁな」
「探しに行ってあげた方がいいと思うけどな」
よっこらせ、と彼女は椅子から腰を上げてヒョーゴを見下ろす。
「あの子の好きな場所は?」と聞かれ、ヒョーゴは彼女がよく行く場所を一つ一つ思い出す。
いつも昼飯を一緒に食う、屋上。
チャラけた保健医と談話したりしている、保健室。
それから彼女は、静かで古い紙とインクの匂いに満ちた図書室が好きだ。
「図書室ね。なら第2図書館に行くか」
「お前、仕事はいいのか?」
「あぁ、大丈夫。今は休憩時間だから。それに私も林田と待ち合わせしてるからさ」
彼女の口から不意に飛び出した男の名前に、ヒョーゴの眼鏡の片端がわずかにずり落ちた。
「・・・・・お前、まだあのひ弱男と続いていたのか」
「そうだよ。羨ましい?」
皮肉げに彼女は目を細め、ふふんと笑ってヒョーゴを挑発する。
ヒョーゴが彼のことを嫌っていることはよくわかっている。
だからきっと、絶対にこの手の挑発には「馬鹿め!!」と食いついてくると彼女は思ったのだが。
(・・・おや?)
ヒョーゴは座ったまま頬杖ついて、彼女ではない、どこか遠くを眺めていた。
昔の彼が持っていた棘棘した雰囲気が、今はあまり感じない。
蒼色の唇の端がわずかに持ち上がり、彼の顔に苦笑が浮かぶ。
「あぁ・・・・・羨ましい限りだな」
そう言って遠くを見つめるヒョーゴの姿はひどく優しげで。
大学の頃とは違う、彼の内面の変化に彼女は少し驚いた。
(・・・へぇ・・・)
どうしてかはわからないが、彼女には何となく予想がついた。
ヒョーゴのこの変化に、あの女の子が関係している気がしたのだ。
「さて、ね。それじゃ、姫君を迎えに行くとしますか」
彼女の合図に、ヒョーゴも席を立って彼女の前をゆっくりと歩き出す。
旧友の優しい変化に、彼女はヒョーゴの背中に嬉しそうな笑みを向けるのだった。
*
構内の所々に設置されている案内図を見て、は神無大の一番奥の建物―――第2図書館にたどり着いた。
途中何度も男の人に声をかけられて足止めを食ったが(中には「ミスコンに出てくれ」なんていう人もいた)。
なんとか目的地に着き、は広い広い館内を興味深げにさまよい歩いていた。
各階ごとに様々なジャンルの本が置いてある。
は自分が最も興味のある3階の洋書コーナーを周り終え、今は2階の機械・工学系のコーナーをぶらついていた。
分厚い理論書ばかりが陳列していて彼女にはあまり縁のない階だ。
大学祭の最中ということもあって、人の姿もほとんどない。
静かで、音といえばの靴音ぐらい。
そろそろ下に降りようかと階段の方につま先を向けたときだった。
ドサドサドサッ!!!
「うわっ・・・・ぃたっ、ぃだだだ・・・・・っ!!」
(・・・・・・・。・・・なに?)
典型的な漫画みたいな効果音と叫び声が、のすぐ近くから聞こえてきた。
人がいたのか、とは初めて気づく。
あの効果音と悲鳴から、何があったのかは何となく想像がつくが。
コツコツと靴音を鳴らしてきょろきょろと音源を探して進み、一番壁際の棚の向こうへとひょっこりと顔を出してみたら。
(あ・・・みっけ)
「・・・・いつつ・・・・っ」
散らばった本の中に埋もれて、オレンジ色の髪の男の人が尻餅を付いていた。
予想通り頭の上に本が降ってきたらしく、「あたた・・・」と後頭部をさすっている。
下を向いているせいか、に気づいていないようだ。
じんじんと痛む頭を抱えている姿に、同情というか、母性というか、そういうものをくすぐられてしまう。
「大丈夫・・・?」
も思わず声をかけてしまった。
膝をついて転がっていた本を一冊拾い上げて「はい」と渡してあげた。
「あ・・・どーも。すみませんね」
「いえいえ。大丈夫?」
「へ?」
「頭」
「あー・・・はい、大丈夫です。ちょっとぶつけただけなんで」
そういって顔を上げた男の人は、照れくさそうに頭をかいてに顔を向けた。
人のいいえびす顔の彼に、のガードも自然と緩まり笑顔で返す。
が先に立ち上がり、よいしょっと立ち上がった彼は思いのほか身長が低めで、と同じくらい。
タッパがないくせに高いところの本を一度にごそりと取ろうとしたようで、随分上の方の本棚がぽっかりと空いていた。
「やっぱり脚立使えば良かったですかね・・・」
ぶつぶつとそんなことを言いながら背伸びをしてもう2、3冊本を取ろうとする。
つま先立ちするその姿が、なんだか可愛いと思ってしまった。
はバッグを横に置いて、床に散らばった本を丁寧に拾ってやった。
「あ・・・すみません」
「いえいえ。暇なので」
「これはどうも。ありがとうございます」
自分よりずっと年上だろうに、その人は随分と物腰柔らかに話す。
すごく取っつきやすくて、一緒にいて穏やかになれるとは思った。
落ちている本を全部拾って、2人で手近の机の上に重ねあげた。
「いやぁ、助かりました。ありがとうございます」
「どういたしまして」
「あ、そうだ。何かお礼をさせていただけませんか?」
「え?」
「え・・・・・・・・って、あああの、これ軟派じゃないですからっ」
自分で言っておいて自分で慌てて手を振って否定している。
律儀でおもしろい人だ。
はクスクス笑って、頬を赤くする彼を見つめた。
「じゃぁ、大学内をちょっと案内して欲しいかも。林田ヘイハチ、さん?」
「大学案内ですか?えぇ、お安い御用で・・・・って、あれ?」
私、自分の名前名乗りましたっけ?と首をかしげる彼に、はくすくすと含み笑いをする。
「これ。本と一緒に落ちてたんで」
指で挟んで、彼に見えるようにぴっと掲げてみせる。
それは写真入りの神無大学院の学生証。
えびす顔で撮られた自分の学生証に、ヘイハチは苦笑して頭をかいて「これはどうも・・・」とカードを受け取るのだった。
ハッチ登場
ハッチは大学院に進学した設定でぃす
本を取ろうとして頭に降ってきて、「大丈夫ですか?」、「えぇ、ありがとう」、キュン、トキメキなんて
古典的乙女ティックなことをやらかしてくれるハッチが大好きです
次で終わる予定・・・death
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