※本丸や審神者についていろいろ捏造ありです。
※台詞ネタバレあり。ゲーム中の台詞(特殊会話含む)を随所にお借りしています。
早いもので本丸での生活が始まって七日ばかりが経過した。
俺と今剣、前田、五虎退の四振りで始まった戦の日々に新たな仲間が加わったのはちょうど五日目あたりのこと。
やってきたのは秋田藤四郎と厚藤四郎を名乗る二振り。
前田と五虎退とは刀派を同じくする、彼ら四振りは粟田口の短刀だ。
秋田と厚が顕現してからというもの、作り手が同じ兄弟刀たちはいつも一緒にいる。
「いいなー……ぼくもはやく三条のなかまがほしいです」
彼らの様子を見た今剣が寂しそうにぽつりと呟く。
それを聞いた主はよしよしと彼の頭を撫でて慰めてやっていたっけ。
今剣の気持ちはわからなくもない。
俺も現状打刀は自分一振りだけだし、かつて京の都をともに駆け回った奴らがいてくれたら少しは心強いかな、なんて思わなくもない。
まぁでも焦らなくてもこのまま戦い続けていれば刀はどんどん集まってくる。
いずれ今剣の仲間も、そして俺の顔馴染みもやってくるだろう。
それより今すべきことは今現在集まった刀剣だけでなんとか戦いを勝ち抜いていくことだ。
それからもうひとつ、疎かにできないことがある。
今後仲間が増えていったときにきちんと統制がとれるように、今のうちに本丸内での生活形態を確立させておく必要がある。
ちなみに後者についてはこの七日間である程度形を成してきている。
基本的に日中は主に指示された戦場に赴き時間遡行軍と戦う。
夕暮れ時、遅くとも日が沈む前には拠点である本丸に戻り、夜は明日の戦いに備えてゆっくりと体を休める。
そんな生活が徐々に定着していき、七日も経つ頃にはすっかり本丸内での各自の過ごし方は決まったものになってきていた。
刀剣たちは近侍や内番を交替でこなし、主を中心とした軍議で部隊を編成し出陣、演練、遠征を行う。
そうして日々を過ごす中で、俺が個人的におもしろいなと思ったことがいくつかある。
まずは自分たち刀剣男士が普通の人間と同じように生活できるということ。
本体は冷たい刀とはいえ、顕現した今は人型を模した付喪神の姿をしている。
傷を負っても手入れすれば完治するということを除けば、人間と同じように食事もとるし風呂にも入るし排泄もするし夜には布団で眠りにもつく。
何もかも刀のときには経験できなかったことだ。
触れるものすべてが新鮮で興味や関心をそそられる。
ただ刀掛台に横たえられているよりずっとおもしろいよね。
それから俺が興味をもったのは、主が使う未来の道具や聞き慣れない言葉の数々。
近侍の任に就くことの多い俺は主のそばでそれらに触れることも多い。
主が教えてくれること、そのひとつひとつがおもしろくて。
いつの間にか俺は彼女との会話を楽しみに近侍に就くようになって、そうやって本丸での日々を過ごしていた。
◆ 四つ葉の君 <参> ◆
主の持ち物の中で俺が特に驚いたものをいくつか紹介してみようと思う。
まずは初日に彼女が使っていたあの永遠に墨を出し続ける筆。
シャープペンシル、略してシャーペンって言うんだって。
墨をすったり書いた後に紙が乾くのを待ったりする必要がないからとても便利だ。
それから主の部屋の壁に備え付けられていたコンセントってやつ。
そこが動力源になるって主は言っていたけど正直使い方がさっぱり想像できなかった。
理解したのは主が未来から持ち込んできたドライヤーとパソコンを使用したとき。
ドライヤーっていうのは拳銃を数倍ごつくしたような形をしていて、持ち手の柄からコードっていう長い尻尾が生えている。
その尻尾の先に付いた二股の金具をコンセントに差し込んでスイッチを入れるとすごいことが起こるんだ。
「見ていてくださいね」って主がスイッチを入れた瞬間、ドライヤーが「ぶおぉぉぉ!」って聞いたこともないような叫び声をあげて銃口から熱風を吹き出したんだよね。
「うわっ、なにこれ!?」って目を丸くしてドライヤーから離れちゃったよ。
「あるじさま!!こいつ、くちからねっぷうをはきだしましたよ!?」
「大将、こいつ何の妖怪だっ!?」
一緒に見ていた今剣もドライヤーから逃げるように俺の後ろに隠れてしまい、厚はそれを敵と判断したのか短刀に手をかける始末。
こんな面妖な道具は今まで見たことがない。
俺たちの反応を見て彼女はくすくすと笑いながらそれは濡れた髪を早く乾かすための道具なんだって教えてくれた。
説明を聞いて納得すると同時に感心もした。
確かに風呂上がりに濡れた髪のままでいると温まった体もすぐ冷めてしまう。
未来人の発想と技術力の高さに感服するよ。
風呂場に数台備え付けてくれるっていうから俺も早速その日の夜から使わせてもらった。
それから彼女が見せてくれたのはパソコンっていう機械。
ドライヤー同様にコンセントにコードを繋いで電源を入れると真っ暗な鏡のようだったところがぱっと明るくなった。
すると突然そこに野原を走り回る黒猫の姿が映しだされ、それを見た前田と秋田、五虎退が慌てふためいた。
「主君!な、なにゆえこの猫はこのような狭い場所に閉じ込められているのですかっ!?」
「しかも凍ったように動きません……っ。主君、この猫さんは生きているのですかっ?」
「ど、ど、どうやって入ったんだろう……っ。猫ちゃん、出ておいでよぉ……っ」
五虎退の周りでは虎たちも猫を助け出そうとパソコンに向かってぐるると喉を鳴らしたり威嚇の姿勢をとったりしている。
三振りの様子に彼女はといえばやっぱり楽しそうに肩を揺らしていた。
俺は足元をちょろちょろ走り回る虎を踏まないように気をつけながら「笑ってないで説明してやってよ」と彼女に催促。
「ふふ。そうですね、ごめんなさい」
彼女は肩の揺れをおさめるとパソコンがどういうものなのかをみんなに説明してくれた。
その後も彼女の部屋には少しずつ未来の電子機器が増えていき、初めは驚きと戸惑いの連続だった俺たちも徐々にだけれどそれらの存在に慣れていった。
今ではもう厨(くりや)に置かれた冷蔵庫の扉を意味もなく開け閉めして「冬だー!」とか楽しむ奴もいないし、これまた意味もなく塵を散らかして掃除機で吸わせるのを順番待ちまでして遊ぶ奴もいない。
そうして俺たちの本丸生活に未来の機器が浸透していく中、不思議に思うことがひとつあった。
それは些細なことなのかもしれないけど、少なくとも俺は気になっていた。
本丸に未来の物を取り入れながら、主である彼女の装いはそれとは相反して旧き和のいでたちであったことだ。
初めて主に会ったときも彼女が身につけていたのは白い胴着と袴だった。
それが戦に出陣するときのために用意した衣装だということを聞いたのはだいぶ後になってから。
二日目以降の彼女は白袴ではなく、女性が普段着用に着る小紋と呼ばれる着物を身に纏っている。
なんでわざわざ着慣れない着物なんか着ているんだろう。
未来の世界では着やすく動きやすい洋装をしているって言うし、そっちの方が楽じゃないのかな。
まぁ着物姿よく似合っているから別におかしいっていうわけじゃないけど。
ただ俺としてはちょっと心配ではあった。
なんせ俺との初対面の日、履き慣れない草履で走って何もないところで転んだ人だ。
着慣れていない和装での生活なんて、きっとしばらくの間は苦戦するんじゃないかなぁ。
なんて思っていたんだけど、俺の予想は見事的中したよね。
彼女が着物と格闘する姿を見る日はわりと早く訪れたんだ。
◆
それはとある日の朝のこと。
その日近侍の俺は朝食ができたことを伝えるために部屋まで主を呼びに行った。
ぴたりと閉まった障子の前で足をとめ、中にいるであろう彼女に呼びかける。
「主、起きてるー?朝食の用意できたって。大部屋でみんな待ってるよ」
返事はすぐに返ってきた。
ただし「あ、はい、起きてますっ。すみません、ちょっとお待ちいただいてもっ」っていう妙に焦った声が。
次いでがたがたっと何か物が倒れる音が聞こえてきた。
「何してんの?」
「いえ、その、大丈夫ですっ」
「なに?もしかして今起きたばっかりとか」
「違いますっ。あの、大丈夫です、今行きますからっ」
「あそ。じゃ、入るよ」
「えっ!?」
俺はきちんとした入室許可を得ずに勝手に障子を開けてしまった。
だって大部屋でみんな待ってるし、今剣とか待たせるとうるさいし。
さっきの物音も荷物を倒した音なんだろうから俺も片付けを手伝ってあげようと思ったんだよね。
だけど障子を開けた後すぐに俺は自分の予想がすべて間違いだったことを知る。
彼女が慌てた声を出した理由はひとつ、まだ身支度の途中だったからだ。
それも支度のかなり序盤の方。
俺に背を向ける形で化粧台の前に座り込んだ彼女はこれから長襦袢を羽織るところで。
とどのつまり腰から上が裸の状態だった。
俺はしばしその場で停止する。
かちんと身体を固めながら、けれど頭の中では今見ている光景を適切に処理していた。
主の肌がすごく白いこと。
俺もわりと色白な方だけど彼女のはそれ以上で雪みたいに真っ白なこと。
右の肩甲骨の上あたりに小さな黒子があること。
肌が白くて綺麗だからそれが余計に目立っていること。
頭の中をそんなことばかりがぐるぐると駆け巡る。
動体視力ってこんなところで発揮するものじゃないんだろうけど、哀しいかな、戦場で鍛えられた俺の鋭い観察眼は目一杯に機能を活動させてしまっていた。
あまりにもじーっと見過ぎて、顔を真っ赤にさせた彼女に「加州くん、回れ右……っ!」と指示を出されるまで俺は我を忘れていた。
彼女の声でようやく我に返り、慌ててくるりと踵を返し彼女に背を向ける。
やば……まずいまずい。
うなじの辺りを擦りながら反省する。
後ろを向けとは言われたけど出て行けとは言われていないのでそのまま部屋の中で待機した。
「……加州くん」
背中にかけられる声から彼女の表情を予想する。
あーあ……これは怒っているかもしれない。
「あー……いや、その」
「私が何を言いたいかおわかりですよね?」
「うん、まぁ……そーね」
「わかっているなら結構ですが。……許可も得ずに勝手に女性の部屋に入ってはいけませんよ」
「知ってる。その……ごめん。てっきり支度終わってるもんだと思って」
わざとじゃないんだ。
物音がしたからてっきり何か倒したんじゃないかって心配になって。
今更そんなこと言っても言い訳がましいだけだけど。
彼女はため息をつきはしたけれど「故意にではないのはわかっています」と理解してくれた。
「でも気をつけてくださいね。次があったら……そのときはセクハラで訴えますから」
「はいはい、了解了解」
「返事に真摯さが感じられません」
「わかってるって。反省してます。で、セクハラってなに?」
聞き慣れない言葉を使われたのでその意味を問うと「とても簡単に言うと、女性の嫌がるような行為をすることです」と説明してくれた。
なるほど、女子の嫌がるようなことね。
それはしないに越したことはない。
それを言われた側の男はすべからく助平の印を押されるわけでしょ。
それは避けたい。
「いいですね」と念を押す彼女に「仰せのままに」と素直に返事をして背を向けたまま片手を挙げて宣誓する。
「もう少しで終わりますから、そのままそこで待っていてください」
「りょーかい」
それから彼女は着付けを再開し、俺は背中越しに聞こえてくる衣の音に耳を傾けて待った。
もう少しでって言うからすぐに終わるものかと思っていた。
けれどしばらく待ってもなかなか彼女の支度は終わらない。
しゅるしゅるという音から察するに帯を何度も巻いては解いて巻いては解いてを繰り返しているみたいだ。
短刀たちも朝飯を待っていることだし、俺は失態をしたばかりではあったけれど自分から彼女に声をかけてみた。
「あのさ」
「はい……なんで、しょうか」
「主、もしかして着付け苦手?」
「……。いえ、その……」
少しの間ののち、彼女は細々とした声で「……得意ではないです」と白状した。
着慣れていない和服に彼女は毎朝かなり苦戦していたらしい。
まぁわからないでもない、慣れないうちは時間もかかるからね。
だったらもう少し早く起きてゆっくり支度したらいいのに。
と俺が提案すると彼女は「これでも卯の刻(午前6時)前には起きてやっているんです」と苦笑い。
まじか。着付けに半刻(約1時間)以上かかるって、どれだけ不器用なんだろう。
思わず呆れ混じりのため息をついてしまった。
「俺でよければ手伝おっか?」
一応河原生まれの河原育ちなんでね。
文化、芸能、その他諸々は一通りなんでもこなせるつもりだ。
女子の着物の着付けぐらいなんてことはない。
けれど俺の申し出は「大丈夫です」とやんわりお断りされてしまった。
「お願いしたい気持ちはすごくあるのですが、でも自分でできるようにならないと」
甘えてはいられないと彼女は自分を律する。
まぁ確かにそーね。
これから先も毎日着るつもりなら早いうちに覚えるべきだとは思う。
俺は了解を告げ、再び障子を見つめながら待機した。
背後で彼女が時折「違う……」とか「緩すぎる……」とかぶつぶつ言いながら帯と格闘するのがなんだか可愛くて、構ってやりたくてつい振り向いてしまいたくなったがなんとかそれも我慢した。
しばらくして「お待たせしました、もう大丈夫ですっ」と声をかけられ、ようやく振り返ることを許された俺はどれどれと彼女の衣装を確認。
「あぁ。まぁ、いいんじゃない?」
「ちょっときつい……ような気がしますが、緩くて解けちゃうよりはいいかなと」
「そーね。それにしても随分と時間かかったね」
「すみません……なかなか慣れなくて」
「まぁ、それは練習していけばおいおい覚えるでしょ」
「はい」
「じゃ、急いで行こっか。みんなお腹空かせて待ってるだろうし」
「あ……ご、ごめんなさい!」
そうだった、みんなを待たせていたんだ。
思い出した彼女は俺が障子を開けると急ぎ足で廊下に出て大部屋へと向かう。
急ぎ足でとはいっても和服で動きを制限されているためその速度はたかが知れている。
俺がちょっと歩幅を広げて追いかければあっという間に追いついてしまう。
彼女の二歩後ろをついていきながら揺れる長い髪と時折垣間見える白いうなじを目で追いかけた。
おしろいを塗っているわけでもないのに妙に白い肌。
手首を掴んだときも細いと思ったけど、首も細いし肩幅も驚くほど狭い。
小さくて頼りない背中。
雪のように白い肌、その肩甲骨の上に散る小さな黒い星。
さっき見てしまった光景が勝手に脳裏に蘇る。
なんていうか、中途半端に肌蹴ていた分全裸より艶めかしさを感じた。
いや、彼女の裸だって別に見たことあるわけじゃないけど。
てか裸って……何言ってんだ俺。
まずいだろ、こんな朝っぱらから何考えてんだよ。
がしがしと頭を掻いて邪念を払う。
大部屋に着いた彼女が慌てながら「ごめんなさい、遅くなって!」と顔を出すと案の定「あるじさま、おそいです……」と今剣の不満の声を発した。
彼女はみんなに向かってぺこぺこと頭を下げて謝罪する。
「じゃ、全員そろったところで早く食べようぜ!」
厚に促され彼女は自分の席に座り、俺もその向かいに腰を下ろした。
本日食事当番の前田が茶碗を渡してくれて礼を言って受け取る。
「遅かったですね。呼びに行かれてからしばらく戻って来られなかったので何かあったのかと心配していたのですが」
「あぁ、うん。ちょっといろいろあってさ」
気の利く前田だけが何かあったのではと訊ねてきた。
確かにこれだけ待たされれば不思議にも思うだろうよね。
主君が慣れない着付けにやたらと時間がかかったからだと真実を言ってもよかったけど、そこは彼女の名誉のために黙っておくことにした。
代わりに何か適当な理由をと味噌汁をすすりながら考えていたら、気だけではなく鼻まで利く前田の追撃にやられた。
「いろいろとは加州殿が主君にセクハラをなさっていたことですか?」
「ぶっ!」
思いがけないところから繰り出された拳。
避けようがなく、思わず口に含んだばかりの味噌汁をちょっと噴き出してしまった。
咳き込む口を手で押さえ、「はぁ!?」と前田を仰ぎ見る。
ひどい誤解だし、それよりなによりなんで今さっき俺が知ったばかりの言葉を前田が知っているのさ。
俺の表情から困惑を読み取った前田が「先程お二人が来られる少し前にこんのすけが来てそんなことを伝えて去っていったのですが」と説明する。
こんのすけ……あの不思議な管狐……余計なことしてくれるよ。
ていうかどこで見てたんだよ、何者なんだあいつ。
主の部屋であったことのどこまでをみんなに話したんだよ。
セクハラという言葉の意味だけならともかく、俺が誤って着替え中の主の部屋に入ってしまったことも話されてしまったのだろうか。
それはちょっと困るんだけど。
けれど俺の心配は杞憂に終わる。
どうやらこんのすけはそこまで事態の詳細を話したわけではないらしい。
俺がしでかした失態の詳細がみんなに知られることはなく、首の皮一枚ぐらいではあるけれど俺の矜持は守られた。
それよりも新たな用語「セクハラ」という言葉を覚えたばかりの短刀たちの方が厄介だった。
覚えたての言葉を使ってみたくてしょうがないようで彼らは朝飯の席でそれを連発する始末。
「加州どのはあるじさまにせくはらをなさったのですかー?」
「そのようなことがあったとこんのすけは言っていましたね。詳しくはわかりませんが。ですがもし本当のことならば本丸内の風紀が乱れる由々しき事態です。いかがなのですか、加州殿」
「……してない。ていうか不可抗力だし」
「なるほど、否定なさるのですね。けれど今後また同じような疑惑で本丸内が騒ぎ立つことがないよう何か策を講じておいた方がよいかと思うのですが。どうでしょうか」
「あ、あの……本丸内の規則にひとつ付け加えるのはどうでしょうか?あるじさまへのセクハラは禁止という項目を」
「それは名案だな、五虎退!オレも賛成だ。セクハラ禁止、だめぜったい!だよな、加州の旦那」
「僕も賛成です!主君の嫌がることはしてはいけないと思います」
「では全会一致ということで決まりですね。よろしいですか、加州殿」
「いいけど。……なんでお前ら俺にだけそんな念押すの?」
短刀たちの容赦ない攻撃に俺は反対することなどできるはずもなくおとなしく従う。
いや、別に反対するつもりもないけどさ。
今剣に「わかりましたか、加州どのー!」と最後の一押しをされ、「はいはい、了解」と適当に答えて一応この話題はこれで終いとなった。
はぁ、と思わずため息がこぼれる。
なんか朝からどっと疲れた気がする。
とっとと食べて席を立とうと椀に残った味噌汁をすする。
椀に口をつけたままちらりと視線を正面に向けると、そこには俺から顔をそらして小刻みに肩を揺らす彼女の姿があった。
ちょっと、なに笑ってるの。
笑ってないで少しは短刀たちを止めてくれたっていいじゃん。
俺が標的にされてるのを見て完全に楽しんでるよね。
この薄情者の主め。
と思いはしたものの、もしかしてこれが俺が彼女にやらかしたセクハラの報いなのかと思い至りもして。
今日はひとまず我慢してやるかと黙って椀の汁を飲み干した、そんなとある日の朝の出来事だった。
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