ドリーム小説


陽の光の届かない薄暗い地下牢に、彼の部屋はひっそりと存在した
そこは私と彼を静かに包んでくれる優しい闇のはずだった
そこで私じゃない女の子と親しくする彼を、見たくなどなかった





□ 魔女の条件U 〜The Adventure of Lovely Twins〜 <9> □





は悩んでいた。スネイプとのキスを目撃してしまってから、スネイプとどう接していいかわからなくなっていた。スネイプのところへは変わらず手伝いに行っていた。けれど二人きりの時間を過ごすとき、自分から積極的に彼に触れたり目を合わせたりすることができないのだ。勿論彼からキスをされたり体を求められれば拒むことはしない。自身、スネイプとの触れ合いは好きだった。でもスネイプがの腰を引き寄せキスを求めてくると、
・・・」
「は、・・はい」
「なんだね、その顔は」
「へ・・?」
スネイプ曰く、キスしようとするとは泣きそうな顔をするのだと言う。
「君が嫌なら強要はせんが」
「い、嫌じゃないです・・、そんなつもりは」
拒むつもりなんてないのに、心の奥にあるもやもやがスネイプを避けようとしているのかもしれない。の心は葛藤していた。スネイプに愛されていたい。その想いが変わることはないのに。ならば私は一体何を悩んでいるというのだろう・・・。

悩んでいるのはスネイプも一緒だった。に不意打ちのキスをされた時、その場にもいたのだ。どうやらは気付いていないようだが、それでも後ろめたい気持ちでいっぱいだった。のことは自分の娘だからと多少甘やかしてはいたが、だが限度がある。を心配させるような事態になるのならば、との接触は控えた方がいいのかもしれない。だがそれでは寮で孤立するの居場所もなくなってしまう。スネイプはスネイプで悩み、葛藤していた。







二人の心が微妙にすれ違いつつあった。もスネイプも、本人たちはそれに気付いていない。二人の関係がぎこちないことに気付いているのは、それを仕掛けた黒髪の少女だけだった。

金曜日の放課後はめまぐるしい一週間の終わり。生徒たちは明日の土曜日をどう過ごそうかと浮き足立って計画を立てている。ホグズミードに行こうと相談する者もいる。後輩たちのそんな楽しそうな声を聞きながら、は「そういえば最近どこにも出かけていないなぁ」とため息をつく。スネイプの手伝いと、出されたたくさんの課題で遊ぶ暇などない。
「息抜きも必要かな・・・」
独り言を言いながら、はスネイプに頼まれた薬草を摘むために温室で作業をしていた。「イラクサ」と書かれたカードが刺さった花壇を見つけ、は腰を下ろした。分厚いグローブをはめて棘のある茎に手を伸ばし、慎重にハサミを入れる。
「よし、採れた」
秋とはいえ、温かい温室での作業に額に汗が滲む。かなりの本数を頼まれている。のんびりやっていたら陽が落ちてしまう。は次の茎に手を伸ばした。そのとき、背後で誰かが枯れ葉を踏む音がした。
「ねぇ。トリカブトって、どこにあるの?」
「え?」
突然背中に声をかけられ、は驚いて首を後ろに向けた。流れる黒髪が視界に入り、思わず心臓が跳ねた。そこにいたのはだった。無表情なのは変わらず、自慢の長い黒髪をいじりながらを見下ろしていた。ぼぉっとするに、はもう一度言った。
「トリカブト。取ってこいって頼まれたんだけど」
「え?誰に、」
「スネイプ先生よ」
は、「どこにあるの?」と早く用を済まそうとに問いかける。はどうしてがスネイプから頼まれ事をするのか気になったが、ハッと我に返ると戸棚を指さした。
「えっと、・・確か戸棚の3段目にあったと思うよ」
「3段目ね。ありがと」
「・・・・・」
からお礼を言われるのなんて初めてで、はちょっとびっくりしてしまった。は言われたとおり3段目からトリカブトを数株取ると、手近にあった袋にそれを入れた。用を済ませると、は温室の入り口に歩いていった。だが出ていくのかと思いきや、はくるりと体をの方に向けた。
「大変?」
「え?」
「それ。少し手伝ってあげようか?」
「・・・え・・・・」
は蒼い瞳を真ん丸にしてを見上げた。まさか彼女の方から手伝いを申し出てくれるなんて思ってもみなかったから。「結構あるんでしょ」と言われ、ぼけっとしていたは慌てて返事を返した。
「う、うん・・・。じゃぁ、少しだけお願いしてもいい?」
「いいわよ。どうせこれもスネイプ先生のところに持っていくんだし」
「う、・・・うん」
グローブとハサミを取りに行くの背を見つめながら、は心のもやもやが大きくなるのを感じた。どうしてだろう。の口からスネイプの名前が出ると、胸がずきずきする。思い出したくない光景が瞼の裏に蘇ってしまう。

は並んでイラクサの剪定をした。棘だらけの薬草は扱い方が難しかったが、は手際よく作業を進めた。それを横目で見ながらも自分の手を動かした。
「あ、もう!また引っかかった」
「大丈夫?
「平気よ。イラクサって、この棘が厄介なのよね」
はぶつぶつ文句を言いながらも、草の扱いは丁寧におこなっていた。も自分の作業に集中する。はそんなの手元をじっと見つめた。
「上手よね」
「え?」
「剪定。イラクサって棘が邪魔で切りにくい草だけど、この棘が主成分だから潰しちゃいけないのよね」
それを知らずに棘を切り落とす馬鹿もいるけど、とはため息をつきながら次のイラクサに手をかける。褒められたのだろうかとは手を止めて呆然としてしまった。そんなの様子を横目でちらりと見て、は自分の作業を続けながら話しかける。
「なによ。私、変なこと言った?」
「うぅん・・・。、詳しいね。薬草学が得意なの?」
「そういうわけじゃないけど。魔法薬学が好きだから、材料の知識も自然とついたのかもしれないわ」
「なるほど」
さんは?薬草の扱いに慣れてるわよね。スネイプ先生に教わったから?」
「うん、それもあるけど。どちらかというと薬草のことはお母さんが教えてくれたかな」
「あぁ。おばあちゃん、薬草学得意だもんね」
「へ?」
「うぅん、何でもないわ。こっちの話」
に見えないようにぺろりと舌を出し、「いけない、いけない」と心中で唱えた。の母アイリーンは、つまりはの祖母にあたる。も小さい頃よく遊んでもらったが、確かに植物に関しての知識は非常に高かったと思い出す。
そんなふうに時折談話しながら、二人はようやく作業を終えた。は二人で伐ったイラクサの束を紐で縛って袋に詰めた。はグローブとハサミをしまい、両手を頭上に伸ばして背伸びをした。
「うーん、結構大変」
「ありがとう、。すごく助かっちゃった」
は笑顔でにお礼を言った。は、「別にこのぐらい」と関心がないように手を振る。だがふと何かを思いついたように顎に指を置いて考える仕草をした。
「大変だけど、・・・でもスネイプ先生のそばにいられるならいい仕事かもね」
「え・・・?」
「助手よ。いいわね、さんはそれでいつも先生の近くにいられるから」
を横目に見るの顔は物欲しそうで、は嫌な予感しかしない。は綺麗な唇をにっと持ち上げた。
「ねぇ、さん。土日でいいから、助手代わってくれない?」
「え・・・、えぇ?な、何をいきなり、」
「一週間ずっと手伝い続きじゃ、好きなことだってできないでしょう?土日だけでも私が代われば、さんだって自由な時間ができるじゃない」
突然すぎる提案には声を出すことすらできず、パクパクと口を動かしを凝視した。
「ど、・・・どうして?」
はひどく動揺していた。口調からも表情からもそれはわかる。は動揺するの心を知っていて、を更に追い込もうとする。はくるりと体の向きを変え、と向き合った。そしてを正面から見つめて、―――満面の笑みを浮かべたのだ。初めて見るの笑顔だった。とよく似ているはずの愛らしい笑顔は、だが酷く欲望に満ちていた。そして悪魔のような笑顔で、に告白してみせた。
「だって私、スネイプ先生のことが好きなんですもの」
極上の笑顔が崩れることはなく、を見つめたまま驚愕するしかなった。そうなのではないかと、あのキスシーンを見たときから予感はしていた。でも、聞きたくなどなかった。なんだろう・・・、よく分からない気持ちがの中に渦巻いていた。は震える唇をようやく開いた。
「す、好き・・って、」
「うん」
「スネイプ先生のことが・・・?」
「そう。好きよ、・・・愛してるわ」
「それは、・・・薬学の先生として?」
そんな質問、意味がないと理解しているはずなのに、それでも聞かずにはいられなかった。返ってきたのは、予想通りの解答だった。
「いいえ。一人の男性としてよ」
の目をじっと見つめたままにっこりと笑ってみせた。なんて可愛らしい笑顔で自信たっぷりに愛を告白するのだろう。は不安に包まれた。思わずから顔をそらしてしまった。
「そ、・・そうなんだ」
「えぇ。驚いた?」
顔を背けているはずなのに、が不敵に笑っているのがわかる。なんだろう、この感覚は。は自分が追いつめられているような感覚でいた。だが、が感じたそのプレッシャーは本物だった。自分を落ち着けようとするを、は更に追い込もうとする。
「ねぇ。私、知ってるわ。さん」
「え・・?」
「あなたとスネイプ先生が恋人同士だってこと」
「・・・!?」
あまりの驚きには声すら出なかった。そらしていた視線をに戻してしまった。不敵に笑うと目が合う。動揺するの様子に満足げに笑っていた。これではどんどんのペースに持って行かれてしまう、とは引きつった笑顔で「な、なに冗談言ってるの」と下手な誤魔化しをした。だが主導権はががっちりと握っていた。
「隠さなくていいわ。大丈夫、誰にも言わないから」
はにっと笑って、「秘密にしてあげる」と自分の唇に人差し指を押し当てた。もはやとスネイプのことを知っているのは明白だった。だが何故彼女が知っているのか。は眉を潜ませる。まさかと思った。
「・・・先生に聞いたの?」
「違うわ。情報の出所は教えられないわ」
まさか自分はあなたの未来の娘だなんて言えない。は呆然と立ちつくすにくるりと背を向けた。言いたいことをすべて言い、の背中はスッキリしていた。
「ねぇ、さん。私たち、ライバルね」
「・・・・・」
去り際に残していく、それはまさに挑戦状だった。
「私、あなたに負けないから。悪いけど、全力でスネイプ先生との仲を邪魔させてもらうから」
夕陽がの横顔を照らし出す。逆光でよく見えない。けれど、その美しい唇は、―――スネイプにキスをした唇は、綺麗に弧を描いていた。
の足音が遠ざかっていく。は止めることも追いかけることもできず、その場に立ちつくしていた。どうしたらいいのかわからない。あんなに堂々と恋のライバルを宣言され、自分は一体どうすればいいのだろう。何より哀しかったのは、こんな形での笑顔を見ることになってしまったこと。は最高の笑顔での心を揺さぶって去っていった。
いろんなことが一気にありすぎて心がついていかない。の中で渦巻いていた不安がどんどん膨張していく。







とそんなことがあったなんてスネイプに言えず。は不安を抱えたままスネイプのところへ戻った。そして研究室に着いて「早かったな」と迎えてくれたスネイプに、何も言わずに抱きついた。スネイプはの予想外の行動に少し慌てた。
?」
「・・・・・」
「何かあったのかね」
「・・・・。いえ、・・何も」
何もなかったとは思えない。スネイプはを抱きしめたまま考えを巡らせた。そして、先程部屋に遊びに来たに温室に用事を頼んだことを思いだし、彼女と何かあったのかと勘ぐった。
、かね」
「・・・」
「彼女と何かあったのか」
「・・・違います」
の声は沈んでいた。が関わっている可能性が高いとスネイプは判断した。
頭上でスネイプが舌打ちするのが聞こえた。は慌てる。スネイプのローブの胸に抱きついたまま、首を横に振った。
「違います、・・・本当に。は関係ありません。・・・別のことで、ちょっと」
は必死にとのことを隠そうとした。何故かスネイプには知らせたくなかった。「違います、・・・違うんです」と何度も訴えた。後はもうずっとスネイプにすがりついた。しばらくしてスネイプのため息が聞こえて、彼はただ黙ってを抱きしめてくれた。それ以上、スネイプがに問うことはなかった。

恋人にも言えない苦しみを抱えたまま、はスネイプに抱かれることを望んだ。事情を知らないスネイプは、抱いている間も自分の首にすがりついて離れないに不安を感じていた。キスをしても体に触れてもの泣きそうな表情が消えることはなく、瞳を潤ませて口付けてくる彼女にスネイプは熱を注ぐことしかできなかった。
・・・、平気か?」
「大丈夫、です・・・、スネイプ先生」
「なんだ」
「・・お願いです・・、」
スネイプにすがりつき、泣きそうな声では懇願する。「放さないで欲しい」と。蒼い瞳が揺れる。苦しいくらい眉が歪み、もういっそのこと大声で泣いてしまえばいいのにとスネイプは願った。

愛する人に抱かれていなければ、苦しさに耐えられなかっただろう。に受けた苦しみから逃げるために、はスネイプに望んだのだ。強く、熱く、激しく抱いて欲しいと。口に出して言うことなんてできない。でも、の心の奥底に小さな闇が渦巻くのだ。あんなことがあっても、不思議とのことは嫌いにはなれなかった。スネイプのことが好きだと告白されても、スネイプを奪うと宣言されても。それでも、寮の中で孤立する彼女を助けてあげたいと思っている。けど、・・・スネイプを失ってしまうかもしれないと思うと、を想う気持ちが薄れていく。自分の欲望を優先してしまう、そんな自分が怖い。スネイプに抱かれながら、の心の中では一つの想いが強くなっていく。

―――そばにいて・・・。私のそばにいて、・・・あの子に、あなたを盗られたくない

行為が終わった後もスネイプから離れることができず、ずっと抱きしめてもらっていた。スネイプの胸に頬を押しつけ、背中と腰に回されたスネイプの腕に包まれて目を閉じた。離れたくなくて、自分からもスネイプの背中に手を回した。すがるような態度に、スネイプは何かあるのかと心配そうにに声をかけた。
「どうかしたのかね」
「うぅん・・・、何もないです。ただ、・・・くっついていたかっただけです」
スネイプの背中に回した腕に力を込める。スネイプもそれを感じた。何かあるのだろう、と感じてはいたが、だが今聞いたところではきっと「大丈夫」と言ってスネイプに心配させまいとするのだろう。だからスネイプは待つことにした。が自分の言葉で「助けて欲しい」と言ってくるまで。
「今は、何も訊かなくていいのだな」
「・・・はい。今は、まだ」
「わかった。君の好きなようにするといい」
「はい・・・。ありがとうございます・・・」
すがりつくの手を振りほどけるわけもなく、スネイプは優しく彼女を抱きしめ、そっと頭を撫でてやった。今の自分にできる最大の愛をスネイプはに惜しみなく与えた。





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