ドリーム小説


―――だって私、スネイプ先生のことが好きなんですもの


あの子の告白を聞いてから、自分が何をしたいのかわからなくなった
にどう接したらいいのか、スネイプに何を求めているのか
わからない、どうしたらいいのかもわからない
心のもやもやは消えることなく、私の体に鬱陶しくまとわりつくばかり





□ 魔女の条件U 〜The Adventure of Lovely Twins〜 <10> □





季節はいつの間にか冬に入ろうとしていた。吐く息が白く、肌に触れる空気は冷たい。吹き抜けの廊下は肌寒く、それは地下に降りれば降りるほど寒くなっていく。
スネイプは部屋に入るなり呪文を唱え、暖炉に火をいれた。ボォッと赤い火が薪を包み込む。そして乱暴にデスクの椅子に腰掛けると、続いて入ってきた黒髪の少女を正面から睨み付けた。
「何があったのか、すべて話せ」
「なによ。何を話せと?」
スネイプが口早に呪文を唱えると、の後ろで部屋の扉が荒々しく閉じた。白状するまでここを出さん、とスネイプの目が言っていた。は「ふんだ・・・」と鼻を鳴らし、不機嫌な顔でスネイプから顔をそらした。

「・・・・・なに?」
と何があった・・・、いや、に何をした」
スネイプはに厳しい口調で詰問した。は顔をそらしたまま横目でスネイプの顔を窺う。・・・スネイプが怒っている、いや自分が怒らせたようだ。の頬をつぅと汗が流れ落ちる。

最近のの様子が目に見えておかしい。そのことにスネイプは不安を抱いていた。スネイプがキスしようと顔を近づけると、顔をそらして哀しげに眉尻を落とすことがある。拒まれているのかと思えば、の方から抱きついてきて行為をねだることもある。スネイプに抱かれているときのはどこか気恥ずかしげで照れ笑いが絶えなかったのに、最近はまるで苦しみを忘れようとしているかのようにスネイプにすがりついてくる。以前のとは違う。がそんなふうになってしまったのは、がいる温室に向かわせてからだった。そのことをに問いただしても、
『違います、・・・本当に。は関係ありません』
は首を縦には振らない。だが、スネイプは確信していた。がおかしくなったのは、が原因だ。だからの手伝いがない今日を狙って、スネイプはを研究室に連行した。に真実を吐かせるために。どうしてもが口を割らないようであれば、真実薬を使ってもいいとすら考えていた。そのぐらいの迫力でを睨んでいれば、
「別に、・・・・。ちょっと告白しただけよ」
は頬を膨らませて話をし始めた。スネイプは眉を潜ませる。に何を言ったというのだ。
「何を言った?・・・まさか、お前とのことを話したのか?!」
「違うわよ。正体はばらしてないわ。ただ・・・、」
「ただ、なんだ」
「・・・私はスネイプ先生のことが好きだって言ったの」
「なに?」
「あと、さんとスネイプ先生が付き合っていることも知ってるわよ、って」
それだけよ、とは腕組みをしてふて腐れた態度でスネイプに背を向けた。話を聞いたスネイプは苦々しい顔で盛大にため息をついた。
「お前は、なんてことをするんだ」
「なによ。大したことじゃないでしょう?」
「大したことじゃないだと!?この大馬鹿者が!」
スネイプは声を大にしてを怒鳴りつけた。自分のしでかしたことの重大さがわかっていないのか。スネイプは鋭い眼差しでを睨み付けた。流石につんとした態度を取っていたもスネイプの怒り具合に僅かに怯んだ。
はお前の正体を知らんのだぞ。そんな彼女にくだらん恋愛事の勝負など挑んで、彼女の心を揺さぶって何になるというのだ」
「く、くだらないって何よ!くだらなくなんてないわ」
「悪戯も低俗すぎて呆れる果てるわ。彼女の心を弄んで何が面白い。我輩のことが好きだと?そんなつまらん嘘で、よくも彼女を傷つけて、」
「だって本当のことだもん!」
スネイプの言葉に割り込んでまでは大声で叫び訴えた。そこにはもう冷静でつんとした態度のはいなかった。いるのは、スカートのひだを掴んで必死な形相でスネイプに訴える、我が儘な少女だった。
「なんでわかってくれないの?!パパのことを好きなのはママだけじゃないわ!私だって大好きなのに、なんで認めてくれないの?!」
は半ば興奮気味で我を忘れていた。それは注意していた呼び名まで無意識に戻ってしまうほど。頭が熱くなっていて、過去と未来がごっちゃになって叫んでいた。
「パパはいつだってそうじゃない。愛しているのはママのことばかり。私だって、・・・私だってこんなに好きなのに・・・!」
は泣きそうな顔でスネイプに向かって叫んだ。どうしてわかってくれないの・・・。冷静で刺々しくて人を寄せ付けない余裕のある態度などもうできなかった。初めて見せるの本音。だがスネイプはを睨むことを止めず、彼女の行きすぎた行為を許すつもりはなかった。
「冷静に考えろ。お前の考えていることは異常なのだ」
スネイプの呆れたため息を聞いて、は馬鹿にされているとカッとなった。
「・・・パパも、と同じこと言うのね」
「なに?」
「誰も認めてくれないのね・・・。ならいいわ。もう理解してもらおうなんて思わない」
は黒い瞳をキッと釣り上げた。
「誰が何と言おうと、私の気持ちは変わらないわ」
、」
「私は、・・・私はあなたが好き。さんに負けるつもりはない」
、いい加減に、」
さんからあなたを奪う。あなたが私を見てくれるまで諦めないわ」
は眼差しをきつくスネイプを正面から見据えた。黒曜石のように黒い瞳は僅かに涙に揺れていた。自分の意見を真剣に受け止めてもらえないことが子どもながらに悔しいのだろう。だが、まともに相手をすることはできない。
「馬鹿なことを言うな。そんなことをして、未来が変わってしまったらどうするつもりだ」
「構わないわ・・・未来なんてどうなったって」
自暴自棄になっている。の思考の危険性を諭さなければならない。だがスネイプが止める前に、は素早い動作でローブから杖を取り出すと解錠呪文を唱えていた。
!」
大声で呼ぶスネイプに背を向け、は蹴破るようにして研究室から出て行ってしまった。走る足音がどんどん遠ざかっていく。スネイプは追いかける気にもなれず、再びため息をついて額に手を置いた。
「馬鹿者が・・・」
我が娘ながら頭を悩ませてくれる。どんな育て方をしたのだと未来の自分に問いかけたい気分だった。スネイプはにしたことを反芻し、そしてそれが巻き起こす最悪の事態を想定し、厳しい顔で舌打ちをした。
に何かして我らの仲を裂くつもりか。馬鹿なことを・・・」
そんなことをしたら世界が、時空が歪む。過去が変わってしまったら、彼らが住む未来も変わる。そうなってしまったら、
「自分たちが消えてしまうかもしれんのだぞ・・・」
過去をいじれば当然不安定な未来は幾らでも変わりうる。そうしたら、が生まれてこない可能性だってあるのだ。もしそうなってしまったら・・・。
スネイプは頭を悩ませる。そうならないように何とかしなければならない。だが皮肉なことに、事態は少しずつ少しずつ、スネイプが危惧していた方向へと歩み始めているのだった。







あの日以来、は鬱々とした気分で日々を過ごしていた。にライバル宣言されてからというもの、小さなことでも彼女の行動が気になるようになってしまったのだ。特に魔法薬学の授業中は目が離せない。がスネイプに接触するのを見ると妙に鼓動が早くなり、がスネイプの研究室がある方向に歩いていくのを見ると不安で胸が押しつぶされそうになるのだ。
あまりに苦しい日々が続き、スネイプにも言えず、絶えられなくなったは、ついにハーマイオニーに今の気持ちを相談した。ハーマイオニーには、に恋のライバル宣言をされたことだけを話した。滅多なことでは動じないハーマイオニーも、これには流石に目を丸くしていた。
「えぇ!?がスネイプ先生のことを好き、」
「ハーマイオニー、声が大きいよ・・・っ」
「あ、ごめん。だってあまりにも衝撃的すぎて」
いくら図書室の一番奥の寂れた席とはいえ、大声を出せばマダム・ピンスに退出させられてしまう。ハーマイオニーは自分の口を押さえ、きょろきょろと辺りを見回した。
「うーん、でもびっくり。まさかのライバル出現ね、
「・・・うん」
椅子に座り、膝の上に置いた手をぎゅっと握りしめるはとても小さく見えた。顔も泣きそうな表情をしている。事の詳細のすべてを知るわけではないハーマイオニーにとっては、今のは恋に悩む可愛らしい女の子にしか見えない。ハーマイオニーはくすりと苦笑しての頭を撫でた。
「それで。の動きが気になって仕方ないわけね」
「・・・うん。それからね、・・・スネイプ先生の反応も」
「まぁ、そうでしょうね。それが普通だわ」
ライバルの動きが気にならなかったら、それはよっぽど自信があるか、はたまた愛に冷めてしまっているかのどちらかだ。ハーマイオニーは俯いてもじもじするが何だか初々しくて可愛らしいと思った。
「いーじゃなーい。ライバルの動きに振り回されてヤキモチ焼くなんて。恋してるって感じね」
「ハーマイオニー・・・、なんか人ごとだね」
「だって人ごとだもの」
「そうだけど・・・」
あっけらかんとしているハーマイオニーにも拍子抜けしてしまう。相談する相手を間違えたかと一瞬考えてしまった。だがハーマイオニーはにっこりと笑うと、の頭をポンポンッと叩いた。
「大丈夫よ、。スネイプ先生があなた以外の女の子を相手にするなんて考えられないわ」
「そうかなぁ・・・」
「そうよ。結婚の約束だってしてるのに、今更何を心配してるのよ」
「・・うん」
それはそうなのだ。胸にかけた指輪がその証。はブラウスの下にあるシルバーリングに手を添えた。スネイプがくれた愛の証。はいつかスネイプが言ってくれたことを思いだしていた。
―――心変わりする気など毛頭ない
そう言ってくれたときのスネイプの優しい目を思い出す。は目を閉じ、ブラウスの上からそっとリングを握った。少しだけだけれど、気持ちが落ち着いた気がする。は目を開けて、ハーマイオニーに笑顔でお礼を言った。
「ありがとう、ハーマイオニー。なんでかな。ハーマイオニーに話を聞いてもらうと、もやもやが薄れるよ」
「それは光栄だわ。じゃ、今度は私の愚痴も聞いてもらおうかな」
「うん、いくらでも聞くよ」
少しだけ笑顔を取り戻したは、それからハーマイオニーとしばらく話をして図書室を後にした。







と別れた後、ハーマイオニーはグリフィンドール寮に戻り、談話室のソファーで読書しながら時折ため息をついていた。このため息はのために零れる。恋に悩むの哀しげな顔が思い出され、なんだか心配になった。
・ダンブルドアか・・・。確かにには強敵かも」
冷たく高貴な印象の漂う少女だ。スリザリンらしい特質も持ち合わせており、優しく穏やかで純粋なが相手にするには手強いだろうとハーマイオニーは予想していた。

ハーマイオニーの悩ましげなため息に反応したのは、すぐ近くにいただった。ハリーたちと次のクィディッチの練習の打ち合わせをしていると、ハーマイオニーの独り言が聞こえてきたのだ。はそれに耳聡く反応すると、ハリーたちが打ち合わせている隙を見てソファーを離れ、ハーマイオニーの斜め後ろに立った。
が何か?」
「え?あぁ、
声をかけると、ハーマイオニーは首をの方へ向けてきた。は手近のソファーの手すりに軽く腰を下ろした。
「ハーマイオニーさん。が何かしたのですか?」
「え?えっと、・・・うぅん、別に、」
さんの名前も聞こえましたが」
「あ、・・・うん、言ったかも」
ハーマイオニーは愛想笑いで適当に誤魔化そうとした。だがいやにが話に食いついてくるので妙だとも感じていた。は真面目な顔でハーマイオニーに問いかける。
「二人に何かあったのですね」
は、何があったのか教えて欲しいとハーマイオニーの目を見つめた。ハーマイオニーはあまりの圧力にたじろいでしまう。だが、の悩みをそう簡単に人に話すのも躊躇われた。いくらの兄だとはいえ。
「まぁ、何かあったとかと言われればあったと答えるけれど」
「一体何が、」
。悪いけど、これはに相談されたことだから。私は彼女のプライバシーを守りたいの」
ハーマイオニーの言うことはもっともだ。勝手にの領域を侵す権利は、にはない。だが、が何らかの接触を持ったことは確かだと感じた。の危険センサーが敏感に反応する。
「わかります。ここで僕がハーマイオニーさんに無理矢理聞き出せば、あなたはさんを裏切ることになる。あなた方の友情が壊れることを僕は望みません」
「良識的な答えが聞けて嬉しいわ。ありがとう、
「いえ。ただ、・・・これだけ教えていただけませんか」
は一つだけという条件でハーマイオニーに尋ねた。
の行動によって、さんが傷ついたり、心を痛めたりしていませんか?」
それはほぼ確信に近い、正答を確認するような問いかけだった。ハーマイオニーも思わず表情に答えを出してしまう。何故分かるのか。双子だからか。の動きが読めるのか。真剣な表情のに見つめられ、ハーマイオニーは静かに目を伏せた。
「・・・違う、とは言えないわね」
「そう、ですか・・・。ありがとうございます、ハーマイオニーさん」
やはり、とは合点がいった。グリフィンドールとスリザリンの合同授業は多い。最近のがやけに落ち込んだ顔をしている理由もこれで納得がいく。は、以前梟小屋で会ったときのの泣き顔を思いだしていた。おそらくはあの頃からすでにに接触し、心を揺さぶっていたのだろう。もっと早く釘を刺すべきだったとは後悔する。
(今も泣いているのですか、・・・母さん)
梟小屋で会ったときもは泣いていた。泣き虫なのは昔から変わらないのですね。は眉をひそめる。の泣き顔なんて見たくない。母を泣かせる元凶が実の妹であることに、は兄なりに責任を感じていた。優しい母を―――を泣かせたくない。それがを動かす力となっていた。





←  



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送