ドリーム小説


『ハーマイオニーが自分を助けてくれたように、今度は自分がの笑顔を引き出してあげられるような存在になりたい』

言うだけなら簡単だ、思うだけなら簡単だ
それがどれほど難しく、自分を苦しめることになるか
考えもせずに願った自分は、ひどく愚かだったと知ることになる





□ 魔女の条件U 〜The Adventure of Lovely Twins〜 <8> □





をスリザリン生と打ち解けさせたい。そう願うを嘲笑うかのように、寮内でのの孤立傾向は日が経つにつれて酷くなっていった。もはや誰もと口をきく者はいない。
それはにこけにされたドラコの復讐から始まったことだった。それなのに、時間が経つにつれ、それは違う方向へとねじ曲がっていった。最近のドラコは、以前ほど積極的にに仕返ししてやろうすることはなくなっていた。というのも、寮の不和は自分が原因だと責任を感じたドラコは、との接触をなるべく避けるようになったのだ。主犯であったドラコが動いていない。ならば何故スリザリンの状況は悪化するのか。その原因は、自身の非社交的な性格にあった。
「あいつさ、なんか近づけない雰囲気があるよな」
「そうそう。言い方も棘があるっていうか、素直じゃないのよね」
を遠目に見て、人はそんな陰口をたたく。交流を持とうとせず、声をかけづらい雰囲気を醸し出す。そんな彼女に誰も近づこうとはしなかった。今となっては、に声をかけるのは、
、夕食に行こうよ」
笑顔での手を取る。ぐらいのものだった。に手を引かれ、は仏頂面でついていく。の手を振りほどくこともなかったが、繋がれたの手を強く握り返すこともない。
「なに、あいつ。にあんなに良くしてもらって、にこりともしないの?」
「でもさ、も頑張るよな。何が楽しくて、あんな奴の相手するんだ」
の努力も空しく、に変化は見えない。が仲良くしたいと願っても、はなかなか笑顔を見せてくれない。それでもは根気強くに声をかけ、笑顔を向け続けた。頑張ってはいるつもりだが、・・・でも、
―――無駄な努力・・・なのかな
がそう思うようになったのは、がスネイプのところでは笑っていると気付いたときだった。時折スネイプの研究室に行くとき、ドアをノックしようとすると中からの笑い声が聞こえるのだ。ただがドアを開けるとはすぐに笑顔を消してしまう。
「・・・なに?」
「あの、・・・うぅん、別に」
自分ではダメで、スネイプならを笑顔にできる。自分が酷く無力に思えた。
―――どうしたらいいんだろう・・・
自分がひどく嫌われているようだった。そう思うと、じんわりと目頭が熱くなることもあった。
それでも、なりに頑張っていたのだ
でも、ついにそれも限界となる時が来た

その瞬間を見たとき、は自分の目を疑った。授業の手伝いでスネイプの研究室に行ったとき、そこにはいつもように当たり前にがいた。だがもそれにはもう慣れていた。
、もう寮に戻りたまえ」
「はいはい。帰りますよーだ。あ、・・・・そうだ」
習慣のように、が来るとスネイプはを追い出す。はちょっとむくれた顔をして部屋を出て行くのだが、その日は違った。は二人に背を向けて薬品棚の整理を始めた。不規則に並んだ薬瓶を元の位置に戻していく。
(これはここで良し・・っと)
「ねぇねぇ、スネイプ先生。これなんですけどね」
背後ではがスネイプに声をかけていた。宿題か何かを訊いているのだろうか。大して関心もなく、は自分の仕事に没頭した。だが次の瞬間、棚のガラスに衝撃的な光景が映った。がスネイプの袖を引いて彼の唇にキスしたのだ。
―――・・・え・・・?
は自分の目を疑った。なんだろう、・・・これは。目の錯覚か。だが薬品棚のガラスがあまりにも綺麗に磨かれていて、それが幻覚だとは思わせてくれなかった。は愕然とした。振り返ることもできずそのまま二人に背を向け続け、見ていないふりをした。ばれないように手は作業を続けた。でも指先が震える。棚のガラスが覗き鏡のように背後の二人を映し出す。無意識に手が止まっており、ははっとして作業を再開した。スネイプにキスをしたは嬉しそうに笑って部屋を出て行った。扉が閉まる音が聞こえてもしばらくは作業を続けた。そしてタイミングを見計らって、不自然にならないようには振り返った。スネイプは、口元を押さえて厳しい表情をしていた。だがが見つめていることに気付くと、スネイプはハッとして口元から手をどかした。頬に汗を光らせ、を真っ直ぐに見つめ返す。
―――見られたか・・・
スネイプが動揺しているのがよくわかった。しばらくしても、スネイプは何も言ってこなかった。にキスされた。そんなこと、言えるはずもないのだ。ならば自分から訊こうか。でも、・・・できない。そんなことにはできなかった。だからは、
「どうかしたんですか?」
笑顔で、知らない振りをした。スネイプはの反応に意表をつかれていたが、すぐにホッとした顔をした。
「いや、・・なんでもない」
冷や汗を拭いながらデスクに戻っていくスネイプを見つめ、はくるりと背を向けた。
「先生、・・・」
「ん?なんだね」
「あの、・・・実は終わっていない課題があって。今日、少し早めにあがっていいですか?」
そんな拙い嘘しかつけない自分が嫌だった。スネイプはデスクの書類を片付けながら、「構わんよ」と了承した。ありがとうございます、と返事をし、は緩く唇を噛みしめた。



どうしたらいいんだろう
仲良くしたいと思っていた女の子が、恋のライバルに変わってしまう
そうなったら、・・・私は彼女と仲良くしようと頑張れるのだろうか



いつもより早くあがらせてもらい、はスネイプの部屋を後にした。だが、すぐに寮に戻る気にはなれなかった。戻ってに会ったとき、おかしな顔をしてしまいそうで怖かった。は淀んだ気持ちのまま梟小屋へ向かった。キィと軋む扉を押し開ければ、梟たちのために灯りを消した中は薄暗かった。魔法で透明になった天井を見上げれば三日月が浮かんでいた。就寝間近の梟たちが、小屋に入ってきたに光る目を向けてくる。
「シュガー・・・」
情けない声で愛梟の名前を呼べば、高い止まり木から可愛らしい白梟が降りてきた。シュガーはの肩に留まると、涙目の主人に羽をすり寄せた。慰めてくれるシュガーの体温が温かくて、は気が緩んでしまった。先程のスネイプとがキスをする光景を思い出してしまう。蒼い瞳を閉じれば、ぽろぽろと大粒の涙が零れた。
「ねぇ、シュガー・・・」
閉じた瞼の向こうにたくさんの人たちの顔が映る。ドラコの落ち込んだ顔、ハーマイオニーの明るい笑顔、気まずげなスネイプの顔、それから自分を受け入れてくれないの冷たい無表情。
「私、頑張れない・・・。ハーマイオニーみたいにできないよ・・・」
涙が止まらない。静かに嗚咽を零す。哀しみの海に沈むを慰めるように梟たちが静かに鳴いていた。
「何ができないんです?」
そのとき、突然声が聞こえてきては涙に溢れる目を丸くした。自分しかいないと思っていたから、独り言を聞かれて不意に恥ずかしさがこみ上げてきた。慌てて涙を拭っていると、声の主が姿を現した。薄暗闇でも月の光を浴びて輝く、銀色の髪。自分と同じ髪と瞳を持つ少年。
「あ・・・」
「お久しぶりですね、さん。あの時はどうも」
の双子の兄、の顔を見るとにっこりと笑った。二人が顔を合わせるのは、実にあの温室の出逢い以来だった。だがはそんなこと忘れてしまうくらい気さくに笑いかける。
「どうかされたんですか、さん」
「え・・・?う、うぅん・・・何も。何でもないの」
「そうですか。そんな顔はされていませんが」
を気遣い、少し困ったように笑った。は独り言どころか泣き顔までばっちり見られ、頬を赤く染めてそっぽを向いた。
「僕なんかでよければ、聞き役くらいにならなれますよ」
「え・・?」
「え・・・、あ・・・すみません、不躾でしたね。気を悪くされたなら謝ります」
お節介な性分で、とは眉を落として笑いながら頬を掻く。そんな彼を見ていて、は眼をパチクリさせた。なんだかおかしかった。は顔はとても似ている。それなのに、二人とも性格は全然違うのだ。じぃっと眺めていると、何かあるのかとは首をかしげた。
「あの、何か?」
「・・・うぅん」
穏やかなと言葉を交わしているうちに、さっきまでの哀しい気分が和らいでいることには気付いた。ハーマイオニーといいといい、グリフィンドールの人たちにばかり助けられている。は頬を緩ませた。
「大丈夫。ありがとう」
「はい?僕、何かしましたか」
「うん」
何もした覚えがないは首をかしげる。そんな彼には笑顔を返した。
「心配してもらえただけで、なんだか元気が出たわ」
「そうですか。それは良かったです」
「ありがとう、
「いえいえ。名前を覚えていていただけて嬉しいですよ、さん」
優しく笑う、の銀色の髪は月の光にきらきらと光り輝いていた。何故だろう。の笑顔を見上げ、不思議に感じた。と同じ顔のはずなのに、は全然違う顔をもつ。惜しみなく笑顔を振る舞う。一緒にいるだけで癒された。

和やかな雰囲気の中で笑い、が気付くことはなかった。だがこのときすでに、の意識の底には小さな闇が生まれてしまっていた。を救いたい。その一心で監督生としての責務を果たそうと努力していたの心に生まれた闇。
が笑ってくれなくても、が笑ってくれるからそれでいい
     は私に苦しみしか与えないけど、は笑ってその苦しみを癒してくれる
それはスネイプとは違う癒し方。でもそれもまた、心地いい・・・。
―――といると、優しい自分に戻れる
そう思ってしまう自分に、はまだ気づけずにいた。





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