ドリーム小説


秋風が木の葉を巻き上げる

夏の暑さは遠ざかり、肌寒い秋風に少々早いがマフラーをしている生徒も見受けられる。それも仕方のないことだ。なぜなら今大勢の生徒たちがいるここは、地上よりも高い位置に作られた観覧席。フィールドの壁に掲げられた寮旗は上空を吹く強風にバタバタと音を立てている。だが、観覧する者はまだマシかもしれない。フィールドで箒に乗って高速で飛び交う選手たちが感じる寒さを思えば。
「いっけー、ハリー!!」
「負けるんじゃねぇぞ、ドラコ!!」
本日のクィディッチ対戦カードは、グリフィンドール対スリザリン。両者の応援席は白熱し、皆寒さなど感じてはいなかった。
「へなちょこのグリフィンドールに負けるわけがないわ!大差で勝利よ!!」
「は!それはどうかな!?今年のうちのチェイサーを見て、いつまでそんなことが言えますかね!」
自信たっぷりのスリザリンの応援に、グリフィンドール勢は強気に返す。それもそのはず。今年のグリフィンドールには最強の切り札が投入されていたからだ。前年とほとんど変わらないチーム編成の中に、観客たちは見慣れない銀髪の少年を見つけた。少年はサッカーボールほどの大きさのクアッフルを、まるでお手玉を扱うようにぽんぽんと捌いている。一人でゴールまで運び、相手キーパーの脇下や股下など取りづらい場所を狙ってボールを投げ入れては点を取り、仲間のチェイサーにアイコンタクトなしでパスを出してゴールのアシストをしたり。その動きはほとんどプロに近かった。観る者を魅了するプレーに、グリフィンドール生からの黄色い声は絶えず、敵であるスリザリン生からも感嘆の息が零れた。
「す、・・・すげぇ」
「きゃあ!かっこいい、君!」
「がんばってぇ、ダンブルドア先輩!」
女子の甲高い声援が飛び交う中、を中心としたグリフィンドール勢がどんどん点を上げていった。点差はどんどん開いていき、ドラコがスニッチを捕まえる前にグリフィンドールの勝利が確定してしまいそうだった。ハリーとドラコの攻防も空高いところで続いていた。二人は高速で飛び交いながらも一歩も譲らず、横一列に並んだ状態でスニッチを追いかけていた。ドラコはチームの状況に焦りながら、光る羽鳥に手を伸ばした。あと少し・・・!!だが次の瞬間、横にいたハリーが姿を消したのだ。何が起こった!?ポッターは何をする気だとドラコは目をむく。だがこんな好機はないとスピードを上げ、スニッチを掴み強く握りしめた。その瞬間、競技場に試合終了のホイッスルが響き渡った。
―――スリザリンの勝ちだ!!
ドラコは上空で停止したまま汗だくの顔で歓喜した。だが、現実は違った。地上の観覧席をよく見れば、勝利に大腕を振って喜んでいるのは、―――グリフィンドール勢なのだ。ドラコは訝しむ。何故だ・・・。表情を歪め、地上の得点掲示板を見つめた。自分の活躍でスリザリンには150点入っている、勝っているはずだった。だが、得点板はドラコに現実を突きつけた。
「な、・・・・・・なんだと?!」
スリザリン190点、対するグリフィンドール200点。僅差ではあるが、相手の勝ちなのは間違いなかった。どういうことだ!?ドラコは逡巡しフィールドを見渡し、そして自寮のキーパーの姿を見た瞬間その理由を知ることになる。腕で顔を覆い嗚咽を漏らすスリザリンのキーパーは、グリフィンドールのチェイサー陣に襲われ続けボロボロになっていた。スニッチは掴めばそのチームに150点が入る。だが、もしも両チームの間に150点差がついた状態で、負けているチームのシーカーがスニッチを掴めば、・・・その時点で負けていたチームの敗北が決定するのだ。だからあのとき、ハリーは自ら戦線を離脱し、わざとドラコにスニッチを掴ませるようにしたのだ。ルールの死角を巧みに利用したグリフィンドールの勝利だった。そして、その勝利の立役者となったのは、言うまでもなくだった。
「ぐっ、・・・ち、畜生・・・!!」
ドラコは言葉にはできない怒りに、鬼のように歯を剥き出しにして吠えた。グリフィンドールの勝利が憎い。獅子寮を勝利に導いたあの少年が憎い。何より、自分に牙をむくと同じ顔を持つが憎くてたまらなかった。





□ 魔女の条件U 〜The Adventure of Lovely Twins〜 <7> □





クィディッチの試合後のスリザリン寮内は、はっきり言って最悪の雰囲気だった。選手たちは互いのプレーを責め合い、鬼気迫るやり取りが怖くて周りの生徒たちもフォローに入れない。更にがドラコのプレーにケチをつけたりするものだから、ドラコは彼女と同じ顔をしたのことを思いだしてしまい怒りは頂点に達してしまった。を殴ろうとするドラコをゴイルとクラッブが抑えつけて事なきを得た。
スネイプの手伝いを終えたが寮に戻ってきたのは、もう夜も遅い時間だった。皆各部屋に戻っており、談話室にはドラコしかいなかった。は談話室が荒れ放題になっているのを見て目を丸くした。
「な、・・・何があったの、これ?」
「・・・・・」
驚くをちらりと見て、ドラコは一人掛けのソファーに座ったまま、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
「ドラコ・・・、一体どうしたの、これ」
「・・・別に」
「別にって・・・。まるで嵐でも吹き荒れたみたいだよ」
は心配そうにドラコのもとへと歩み寄った。ドラコはがいない間に暴れ回ったせいか、だいぶ落ち着いていた。それでも不機嫌であることには変わりなかった。
「暴れたの?」
「・・・・・」
ドラコは答えない。はそれを肯定と受け止めた。おそらくは今日の試合結果が原因なのだろうと予想はできた。は困ったように笑って杖を取り出すと、呪文を唱えて散らかった談話室を元に戻し始めた。
「今日の試合が原因かな。そんなに荒れなくてもいいじゃない」
「勘違いするなよ、。僕一人でこんなにしたわけじゃないからな」
「わかってる。選手みんなで喧嘩したんでしょう?」
7年間もここで暮らせば、寮生の性格など手に取るようにわかる。は苦笑してみせた。
「ドラコは頑張ったじゃない。みんなも頑張ってくれたよ。それじゃ駄目なのかな?」
「・・・・・」
理解してくれるの言葉は、ささくれ立ったドラコの心を癒してくれる。だが、完全に癒えるものではなかった。ドラコの高いプライドはズタズタに傷ついていた。その証拠に、さっきから話はしていても一度もドラコはと目を合わせようとしない。好きになった子に情けない姿を見られるのが、ドラコには耐えられなかった。
「憂鬱だ・・・、最悪の気分だ。明日の朝食の席では、他の寮の奴らの笑いものになっているんだろうな」
「そんなことないよ。大丈夫だよ、ドラコ」
「自分が、・・・情けない」
ドラコの声は静かで落ち着いていた。明るい声で慰めようとしていたも空気を察し、口を閉ざした。ドラコはソファーの脇息に肘をつき、頬杖をついて窓の外を眺めていた。窓ガラスにはが映っていた。落ち込むドラコを慰めようと、哀しそうな顔をしている。窓ガラスのをちらりと見て、ドラコはまた目をそらした。
は頑張っているのにな・・・」
「え?・・・なぁに、いきなり」
一人が寮をまとめようとしていて、僕は何もしようとしていないな。スリザリンがまとまらないのは、監督生である僕のせいだろう」
ドラコの声がどんどん低く重くなっていく。もはやが何を言っても浮上してくれない様子だった。そんなことない、ドラコのせいじゃない。そう叫びたいのに、ドラコの背中はをはね除けようとしていてはただ見守るだけで口を閉ざしてしまった。
「何もできない・・・。クィディッチで勝利して、寮を盛り上げることもできないんだ」
「そんなこと、・・・そんなことないじゃない」
「自信がなくなってきた・・・。選手としても、監督生としても」
「ドラコ・・・」
真夜中の談話室は怖いくらい静かだった。ドラコはソファーの上で両膝を抱え丸くなってしまった。膝の中に顔を押しつける姿は彼のことをひどく小さく見せた。泣いているのかもしれない。そう思うと、彼のプライドを傷つけたくなくてはそれ以上声をかけられなかった。







寮内の不和に悩んだは、そのことを誰かに相談したかった。一人で解決するには彼女には重すぎた。タイミング良くはハーマイオニーと図書室で課題をやろうと約束していた。ハーマイオニーはグリフィンドールの監督生だ。解決策が欲しいなんて贅沢は言わない。ただ同じような立場の友達に話を聞いてほしかった。
「なるほどねぇ。それでなのね。今日のマルフォイ、気持ち悪いくらい静かだったものね。あいつが授業中にハリーにちょっかい出さないなんて、おかしいとは思っていたけど」
「・・・うん」
「はあ。も大変なのね」
の話を聞いたハーマイオニーは、テーブルに頬杖をついて息をついた。は本棚から取ってきた分厚い資料を開いてみたものの、資料はそのままに沈痛な面持ちで文字の羅列をなんとなく眺めた。
「でも、の話を聞いてマルフォイのことちょっと見直したわ」
「え?どうして、」
「だって、何とかして寮をまとめようとしてるってことでしょ?」
やり方は不器用で見てられないほど下手くそだけど、と皮肉ってやることも忘れない。
「ちゃんと寮のこと考えているってことじゃない。大したものだわ。うちのもう一人の監督生なんてね、クィディッチと自分の試験結果のことで頭の中が満杯で、そこまで気が回らないわよ」
どこか頼りない赤毛でのっぽの少年のことを思いだし、ハーマイオニーは目を閉じて困ったようにため息をつく。ロンがあたふたと慌てる姿がわかりやすいくらいはっきりとイメージできてしまう。思わずは噴き出してしまった。
「あはは。やっぱりロンはそうでなくっちゃ」
くすくすと笑うを見て、ハーマイオニーは片目を開けてにっと笑った。
「よかった」
「あはは・・・、え?なぁに?」
、やっと笑った」
ハーマイオニーはにっこりとに笑顔を向けた。ハーマイオニーに見つめられ、は目をパチクリさせる。そして、彼女に言われるまで自分がどれほど落ち込んだつまらそうな顔をしていたかを知った。ハーマイオニーはいつだってのことを心配してくれる、姉のような存在なのだ。
「そうそう。は笑顔が一番可愛いんだから。もっと笑っていなくちゃ」
「ありがと、ハーマイオニー。なんだか少し楽になったよ」
「そうでしょう。また苦しくなったらいつでも聞き役になるわ」
「うん、お願い」
「その代わり、今度は私の話も聞いてちょうだいね。まぁ、ほとんどがロンの愚痴になると思うけど」
本当にお手上げなのよ、とハーマイオニーは両手を挙げてわざとらしいジェスチャーで場を和ませる。は指でオーケーサインを出し、それを了承した。

その後、ハーマイオニーと図書館で別れると、は幾らか軽くなった気持ちで寮へと向かった。友達の存在は偉大だと感じた。同時に、は決意した。自分もハーマイオニーのようになりたいと。ハーマイオニーが自分を助けてくれたように、今度は自分がの笑顔を引き出してあげられるような存在になりたいと。





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