ドリーム小説


放課後。研究室の扉をノックする者がいた。いつもの習慣でだと思い、スネイプは警戒もせず入室を許可してしまい―――そして間違いだったと後悔するのだった。
「パパ、お仕事中?」
「・・・!」
入ってきたのはではなく、彼女に顔立ちは似ているがとはまったく違う少女、だった。スネイプがギョッとするのも構わず、は部屋に入ってくるなり黒革の長いソファーにどさりと座って寛ぎ始めた。スネイプは眉間に皺を寄せる。
「・・・何の用だ。それから、ここでは先生と呼べと言ったはずだが」
「あ、ごめんなさい、つい。・・・あぁ、それでね、用って言うかお願いがあってきたの」
「・・・・・」
はにこにこしながら靴を脱ぎ、ソファーの上に胡座をかいた。のお願いも気になるが、短いスカート姿でソファーに胡座をかく未来の娘の様子にスネイプはうんざりした。心の中で未来の自分に、「もっとちゃんと躾けておけ」と奥歯を軋ませながら言い含めるのだった。





□ 魔女の条件U 〜The Adventure of Lovely Twins〜 <6> □





お願いというからどんなことかと思えば、それは子どもの好奇心丸出しのものだった。がスネイプの助手をしているのを見て、自分も助手をやりたいと言い出したのだ。
「パパに厳しく教えられているから、ママほどじゃないけど調合には慣れているわ」
「・・・・・」
は自信たっぷりににっこりと笑う。今日の授業での手際の良さを見せつけられたスネイプは否定することもできなかった。だがだからといって以外の生徒を助手にするつもりもなかった。
一人で十分足りている。二人もいらん」
レポートの採点をしながら軽く一蹴してやった。ちらりと見れば、は頬を膨らませていた。そして今度は長いソファーの上でスネイプの方に頭を向けてうつぶせになった。どこまで行儀が悪いのだとスネイプは呆れはてる。は駄々っ子のように足をばたつかせ始めた。
「ずるい。なんでママ・・・っと、さんは良くて私はだめなの?」
「おい、埃が立つ。やめないか」
「ねぇ、どうして?・・・あ、わかった。その方がさんと二人きりになれるからね。パパ、やーらしー」
「先生と呼べ。いい加減にしろ。憶測で人を揶揄するのは良い趣味とは言えんな」
ため息をつきながら注意するが、他の生徒のように厳しくしきれないのはやはり自分の娘だとわかってしまっているからか。はソファーの縁に頬杖ついてつまらなそうな顔をしていた。
「寮に戻って友人と課題でもすればよかろう」
早く追い出そうとスネイプは適当なことを言った。だが思いの外その言葉はの心を揺り動かしたようだ。駄々をこねていたがそれを機に大人しくなり、ふて腐れていた顔は静かな無表情に変わった。
「友達なんていないもん」
「なに・・・?」
一変するの態度にスネイプは片眉を上げる。感情を殺したの顔を眺め、スネイプはの心中を察する。あぁ、なるほど。彼女の性格を考えればもっともな話だ。一人でいることを好み、仲間と壁を作って入っていこうとしない。友達などできるはずがない。自分の子どもながら、不憫な娘だと思った。だが、そんなは学生時代の自分とそっくりだとスネイプは思った。そう思うと、への態度が甘くなってしまう。
「だからといってここに居座られても困るが」
「えー・・・」
、我輩は仕事がある。寮に戻れ」
「いーやー。こっちの方が落ち着くんだもん」
何を言っても言うことを聞かない駄々っ子だった。スネイプはため息をつく。こうなったら浮遊魔法で浮かせて扉の外に放り投げるかと、そんなことを真剣に考え始めたときだった。それは何ともタイミング悪く、聞き慣れたノック音が聞こえてきた。まさに不意打ち、スネイプの心臓が大きく跳ねる。止める暇もなく、扉が開かれた。「失礼します」と行儀良く入ってきたのは、やはりだった。は部屋に入り顔を上げると、いつもとは明らかに違う状況に目を丸くした。
「・・え・・・」
スネイプの部屋にお客さんがいるなんて珍しい。それが女生徒なら尚更だ。だがそれよりも不思議なのは、がスネイプの部屋でまるで自室のようにくつろいでいることだ。靴を脱いでソファーに横たわるの姿は、明らかにこの空間に慣れている者の態度だった。そして、のそんな態度をスネイプは机に座って見ているだけ。これが他の生徒だったら―――スネイプの部屋でそんなことができる生徒なんているはずがないが、スネイプは怒鳴りつけて厳しく減点しているだろう。スネイプとは一体どんな関係なのか。
「えっと、・・・あの・・お邪魔、でしたでしょうか?」
たった一瞬で、の頭はフル回転してそこまで思考を巡らせてしまった。ぎこちなく作り笑いするを見て、スネイプは頭痛を覚えた。やってしまった・・・、とスネイプは慌てた態度こそ見せないが、心中では困惑していた。
「あの、・・私また後で、」
、・・・そこにいろ。動くな」
はぁと眉間に皺を寄せてスネイプはため息をつく。そんな彼を尻目に、この凍り付いた空気の中でだけは飄々としているのだった。


今更遅すぎるが、スネイプは強制的にを部屋から追い出した。「出ていきたまえ」と言われ、はぶつぶつ文句を言いながら出ていった。を追い出し、扉を閉め、ようやく部屋はスネイプとの二人きりになった。だが、その空気は冷たく凍り付いていた。いつものなら、部屋に来たらまず最初にソファーに腰掛けるのに、ずっと扉の前に立ちつくしている。まるでがくつろいでいたソファーを避けているように見えた。

「・・・はい」
仕方なくスネイプはを手招きでデスクの方へ呼んだ。やってきたの手を引き、自分の両足の間に立たせての腰に両腕を巻き付けて逃がさないように抱きしめた。だがの心も体も固まったままだった。
「君が何を考えているのか、手に取るようにわかる」
「・・・そうですか」
「君を不安にさせるような場を作ってしまったことは悪かった」
にとっては、この部屋でスネイプが自分以外の女子生徒と親しくしている姿など見たことがないため、軽くショックを受けていた。勿論スネイプは教師なのだから、彼の助言を求めに来る生徒がいてもおかしくない。だが、先程のの態度は明らかにそれとは違う。開放的なの姿に、が不安を覚えても仕方ない。
「心配していません」
「・・・・・」
「と言ったら、嘘になります。・・・正直、驚きました」
「そうか」
「はい。あの・・スネイプ先生は、・・・とは、」
―――どういう関係なのですか
そう質問しようとして、は途中で言葉を切った。答えを聞くのが、なんだか突然怖くなったのだ。もしも、・・・もしもだ。スネイプに限ってそんなことはないと信じているけれど。自分が最も怖れる答えが返ってきたらどうすればいいのだろう。小さな不安はの中でじわじわと穴を広げていく。目頭が熱くなっていく。それきり、は黙り込んでしまった。
俯くにスネイプは胸を痛めた。軽率だったと自分を叱咤する。は、の正体を知らないのだ。あの日、がやってきた日、スネイプはも事件に関わっていると知りながら彼女を校長室には呼ばなかった。それはに余計な心配や不安をさせたくなかったからだ。だから何も知らないからすれば、先程の光景はまるでスネイプとが深い仲のように見えただろう。それを証明するように、今スネイプを見下ろすはとても哀しそうな目をしている。スネイプはの腰を強く引き寄せ、自分の膝の上に彼女を座らせた。

「・・はい」
「言い訳のように聞こえるかもしれんが、君が心配するようなことは何もない」
「え・・・?」
・ダンブルドアは校長の遠縁の者でな。仕事の付き合いで何度か会ったことがあり、もとより顔見知りなのだ」
「え、・・・そうなんですか」
突然の告白。は目を丸くして驚く。
「あぁ。昔から知っているせいか、異様に懐かれていてな。他人の部屋であろうと我が物顔で過ごされて、まったく困ったものだ」
はぁとスネイプは疲れたため息をつく。を心配させたくない一心で、渾身の演技と嘘を並べてみた。するとは納得してくれたようで、淋しげな表情は少しずつ薄れていった。スネイプもホッとする。
「そうでしたか。ごめんなさい、・・・正直私ちょっと疑ったりしてしまいました」
「構わんよ。だが、この程度で浮気と疑われるようでは先が思いやられるな」
「こ、この程度って、そんな・・・。私は本気で心配したのに。・・・先生、本当に本当に浮気ではないんですよね?」
「ない」
きっぱりとスネイプは言い切る。それでもまだ半信半疑な顔のに、スネイプは苦笑した。
「馬鹿者。心変わりする気など毛頭ないわ」
「・・・本当ですか?」
「我輩を信じていないようだな」
スネイプはの頬に両手を添えるとまた哀しげに変わってしまった顔を引き寄せた。心配する蒼い瞳を見つめ、「まったく」と片眉を下げて笑う。
「そんな顔をするな。たまらなくなる」
「だって・・・、先生のせいですよ」
「そうか。ならば、今夜は君が納得してくれるまで相手してやろうじゃないか」
スネイプが不敵に笑うから、状況を忘れての頬は赤く染まってしまった。唇をきゅっと噛みしめ何かに耐えるような顔をするから、スネイプは余計にたまらなくなる。なんだかんだ言って、のその顔に弱いのだ。スネイプはの頭に手を回して顔を引き寄せ、そっと唇を重ねた。柔らかな感触を楽しむ。ついばむように口付け、舌を絡ませ愛を確かめる。唇を離し彼女を見つめれば、は耳まで赤く染めてとろんとした顔をしていた。
「ところで今日は手伝いがないが、君は何の用で来たのかね」
「そうですね、・・・。でももう、・・・忘れてしまいました」
本当は、のことで話があったのだ。でも今は、彼女のことを話題に出したくないと本能が叫ぶ。スネイプのキスでとろけるような視線に変えられてしまったは、自分を不安にさせる黒髪の少女を忘れるため、自分からスネイプに口付けた。今は何も考えたくない、不安になりたくない―――スネイプのことだけを考えていたかった。
薄暗い部屋に、二人の影が静かに重なり合っていった。





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