ドリーム小説


清々しい朝のはずが、翌日の朝食の席はどの寮も一つの話題でざわめいていた。もうすでに昨夜のスリザリンでの事件のことが各寮に伝わっており、様々な意見が飛び交っていた。ドラコを杖で攻撃したというを「危険な少女」と畏怖する者もいれば、高慢ちきなドラコを怯ませ冷や汗までかかせた存在として「ヒーローだ」と崇める者もいる。だがやはりスリザリン寮内での評判は最悪なものとなっていった。転入二日目にして、の近くで食事をとるスリザリン生は一人もいない。故意にの方を見ないようにしているのがバレバレだ。中には「いい気味だ」と聞こええるような声で揶揄する者もいた。そんな中でただ一人、だけはのことを気にかけていた。できれば自分は彼女の近くで食事をと思ったが、鬼の角を生やしたドラコに腕を掴まれ叶わなかった。
(こんなの・・・良くないよね)
監督生として寮内の不和をなんとかしたいという責任感もあったが、それ以上に一人だけがみんなから嫌われ者扱いされることが見ていられなかった。はため息をつき、小さく千切ったパンを口に運ぶ。美味しいはずのパンもなんだか味気なかった。

そしてそんなスリザリンの異常事態との表情を教師席から見ていたスネイプもまた、動かしていた手を止めて重いため息をついた。は、スネイプが思っていたとおりの性格をしていた。は年の割りに落ち着いた行動をとることができ、安心して見ていられる。だがそれに対して破天荒なは、いずれ何かしでかすのではないかと危惧していたが。
(頭痛が消えん・・・)
スネイプの耳にも寮内での事件のことは届いていた。がドラコに異常な敵意を見せるのは、おそらくは未来で何かあるのだろうと予測していた。がこの世界で暴れれば暴れるほど、未来が崩れていく可能性は大きくなる。早めにあの娘をどうにかせねばと、朝から眉間に皺を寄せ、痛むこめかみを指で押しつけるのだった。





□ 魔女の条件U 〜The Adventure of Lovely Twins〜 <5> □





を一番心配しているのはだ。スリザリンのテーブルで一人食事するを目撃し、食事の後は廊下でを呼び止めた。そして昨夜スリザリン寮内で何があったのかを聞き出すと、は目を丸くして呆れた。
「えぇ?ドラコさんにそんなこと言ったのかい、
「そうよ。あー、スッとしたわ」
「・・・頼むから面倒ごとは起こさないでくれよ」
妹の非常識な行動に、の口からはため息が絶えない。だがは兄の苦労を知ってか知らずか、腰に手を当てて唇を尖らせる。
「いいじゃない。には迷惑かけてないわ」
「ドラコさんや母さん、・・・さんには迷惑かけてもいいのかい?」
は真剣にの行動を咎めた。だがやはりはふてくされるばかりだった。
「お兄ちゃん面するのはやめてよね。同い年でしょ」
「でも精神的には僕の方が上だと自覚してるよ」
「・・・ふんだ。えぇ、そうですね!どうせ私の方が子どもですよーだ」
「そういうところが子どもだって言うんだよ、
まったく、と今度はの方が腰に手を当てる番だった。
「あまり派手に暴れると僕らが帰る未来が変わってしまうんだよ。それに僕らの・・・というか、の当初の目的とはだいぶかけ離れたことをしているじゃないか」
「そうなのよね。全然パパにも近づけてないのよね。ドラコさんを攻撃してる場合じゃなかったわ」
「暇つぶしみたいに言うんじゃないよ、まったく・・・」
不満な顔で腕組みをするに、ふとは頭をよぎったことを問いかけた。
、・・・君、さんにも何か言ったのかい?」
「何かって?」
「だから、ドラコさんに言ったようなことさ。傷つけるような言葉とか」
を問いつめるの顔は真剣だった。兄の顔を斜めに見ていたは、ふんと鼻を鳴らしそっぽを向いた。
「別に何も言ってないわ」
「本当に?」
「本当よ。何よ、もう。そんなにママのことが心配なの?さん、なんて呼んじゃってさ」
「警戒レベルを上げているのさ。うっかり気を抜いて最悪の失態を起こさないようにね。それに、君とさんが同じ場所で生活していて彼女のことを心配しないわけがないだろう」
「・・・・・」
饒舌に語っていたの口が閉じる。図星を言い当てられたからだ。の性格をよく分かっている。嫌いなものや気に入らないものをひどく攻撃する気性の激しさを牽制した。
「はやまったことはしないように。言葉にする前によく考えること。いいね?」
「・・・わかってるわよ。ふーんだ。のマザコン」
「はいはい。よく反省するように。重度のファザコンのさん」
拗ねてしまった妹に苦笑し、は彼女の頭をぽんぽんと軽くはたいてやった。







が廊下でそんなやり取りをしていた頃、スリザリン寮内はというと殺伐とした雰囲気で満たされていた。その中心にいるのは言わずもがなのドラコだ。食事を終えて寮に戻ってきたは、扉を開けるや聞こえてきた暴君の声に思わず足を止めた。
「いいか、お前たち。よく聞いておけ。あの危険極まりない女、・ダンブルドアへの処罰だが、まずは今後一切、僕が許可するまで奴と口を利くことを禁ずる」
ドラコは暖炉の前に仁王立ちし、両側をクラッブとゴイルに守らせて演説をしていた。談話室に集められたスリザリン生たちは隣同士顔を見合わせて何かを言っている。ドラコは構わず、額に青筋を浮き立てて恨みの籠もった目で全員を見下ろした。
「同じ寮生だからといって油断するな。目が合えば攻撃してくる怖れもある。視線も合わせるな。全員で奴との関わりを断ち、奴を孤立させて、」
「待って、ドラコ」
白熱する演説を止めたのは、必死なの声だった。その場にいた全員に見つめられながら、は眉をひそめ、「お願い・・・」とドラコに懇願した。
「ドラコ、やめようよ。は同じ寮生なんだよ。まだホグワーツに来たばかりで不慣れなだけで、」
「だからといって、寮の監督生に敵意剥き出しで攻撃魔法をかけていいのか」
「そ、それはね・・・」
。僕は危うく殺されかけたんだぞ」
やや大袈裟な物言いにも聞こえたが、だがドラコの目は冷たく、ここにいないへの復讐心で燃えていた。こうなってしまっては、スリザリンの王子様を懐柔するのは難しい。それでもは必死に寮の雰囲気が悪くなることを止めようとした。
「ドラコの気持ちはわかるよ。寮生を魔法を使って攻撃しようとするなんておかしいと思う。でも、・・・こんな形でを咎めるのはやめようよ。私がと話をしてみるから」
「話など通じるのか?奴とのコミュニケーションに必要なのは、言葉よりも杖、会話よりも決闘だぞ。決闘クラブで奴に勝てば、言うことを聞いてくれるかもな」
「それは名案ね。勝者が敗者を従える。最高だわ。挑んできてくれて構わないわよ。最終的に私がこの寮の支配者になってもいいのなら」
「・・・!!」
前触れなく入り口から聞こえてきたのは、自信たっぷりな少女の声だった。扉の方へと視線を向けたスリザリン生の顔が青ざめる。そこには扉に寄りかかって腕組みをするがいた。一体いつの間にやってきたのだろう。声高々に演説していたドラコの頬を汗が伝う。だが怯んでいるところなど見せまいと、強気に笑ってみせた。
「野蛮人め・・・。そんなに戦うことが好きか。血の気の多い奴だ。まるでどこかの寮の奴らのようだな」
「違うわね。私が好きなのは戦うことじゃないわ。自分の力で、あんたをけちょんけちょんにするのが好きなだけ」
「くっ、・・・なんだと貴様!!」
「ドラコ!」
ローブの胸元に手を突っ込んだドラコを見て、は慌てて彼を止めた。「だめだよ・・・」とはドラコに向かって首を横に振る。そしてドラコにだけわかるように、は自分の胸元で光る監督生のバッジを握ってみせた。我々は誇り高き監督生だと視線で伝える。ドラコはの想いを察し、苦々しげな顔で舌打ちをした。そして乱暴にローブから手を元に戻した。
「これ以上お前と同じ空気を吸っていると気分が悪くなる。クラッブ、ゴイル。授業へ行くぞ」
「お、おう」
「わかった」
「あら、逃げるの?」
「・・・・・っ」
不敵に笑ってからかうに、ドラコは歯を食いしばって彼女を睨み付けた。それからドラコは談話室に集めた生徒たちの方へ視線を投げ、
「お前たち。わかっているだろうな」
「「「・・・・・・・」」」
視線で牽制し、ローブを翻すと荒々しい足取りで寮を出ていった。残された生徒たちは隣同士目を合わせると、その場から逃げるように足早に寮を出た。静かになった談話室に残されたのはだけだった。気まずい雰囲気が流れていた。
―――どうしよう、・・・なんて声をかけたらいいのかな
がかける言葉を選び迷っていると、が静かにため息をつくのが聞こえた。ハッとして思わず顔を上げるとの横顔が目に入った。横顔から垣間見えるの瞳は先程のように冷たいものではなく、少し伏せがちな目は何だか淋しげだった。じっと見ていると、それに気付いたと視線を合わせてきた。
「なに。私の顔に何かついてるの?」
「う、うぅん・・・。あのね、」
「授業に遅れるわ。早く行かなくていいの?パ、・・・スネイプ先生の助手なんでしょう?」
「え?・・・あ、いけないっ」
今日は特に面倒な実験があるから早めに来てくれと言われていたのを忘れていた。は授業鞄を掴むと慌てて寮を飛び出した。だが、入り口を出たところでくるりと振り返り、「ねぇ、」と声をかけた。は怪訝な顔でを見つめる。はぎこちない笑顔で、
「今日の魔法薬学の授業ね、ペアで実験をやるの」
「ふーん。だから?」
「あの、・・・よかったら、私と組まない?」
「・・・・・」
は体の前でもじもじと指を交差させ、からの返事を待った。もしかしたら冷たく、「何を馬鹿なこと言ってるのよ」と言われてしまうかもとドキドキしていた。だが、は視線こそ合わせてはくれなかったが、
「・・・別にいいけど」
そっぽを向きながらも、の誘いをオーケーした。これにはも満面の笑みを浮かべる。
「本当!よかった、ありがとう」
「・・・・・」
「じゃあ、先に行くよ。また後でね、
は笑顔で手を振ると、軽い足取りで去っていった。残されたがいなくなった入り口を見つめ、肩で息をついた。そして、みんなやの前では見せることのない淋しげな顔で俯いた。
(やな性格・・・。過去に来たからって変わるわけがないか・・・)
は一人自己嫌悪に陥る。ついさっきに言われたばかりだというのに、もうすでに自分の荒い言葉遣いが原因でトラブルを招いてしまった。変えたいのに、変えられない。そしてそんな自分を慰め手を差し伸べてくれるのは、―――時空を超えたこの世界でも、やはりなのだ。自分の刺々しい性格に苛つき、結局はに助けられてしまう自分自身にがっかりしながら、は重い足取りで地下牢教室へと向かった。


「本日の授業はペアで行う」
そうスネイプが説明したとき、最前列に座るドラコはにやりと笑った。スリザリン寮生には「に近づくな」と命令してある。まさか他寮の者が組むこともあるまい。は孤立する。誰からも相手にされず、完全なる敗者に追い込んでやろうというドラコの思惑は、だがと組むことによって崩れることになる。は笑顔でに話しかけ、も楽しそうではないがテキパキと作業を始めている。思い通りにいかないことにドラコは苛立ち、ゴイルが持ってきたカノコソウの根を力一杯握りつぶした。
そんなドラコの激昂を知らず、は手際よく作業を進めていた。は自分からを誘ったこともあり、少しでもの気持ちが楽になれればと気を遣っていた。の笑顔が見たかったのだ。彼女はスリザリンに来てから一度も笑顔を見せていない。人と交わらない彼女自身の性格もあるが、一番の原因はドラコ率いるスリザリン生であろう。自分たちのせいでから笑顔を奪うことが、には我慢ならなかった。
そんなことに思いを巡らせながら作業していたは、だがふとの手際の良さに気付き、自分の手をとめた。の手捌きは、明らかに他の生徒と違っていた。他のテーブルでは催眠豆をナイフで刻もうとして嫌がる豆が飛び交っているのに対して、は切るのではなくナイフの刀身で豆を押しつぶしているのだ。実がつぶれ、豆からは鮮やかな色の汁がぐじゅりと零れている。それをスポイトで吸い、余すことなく作業用鍋に投与している。は思わず見取れてしまった。の視線を感じて、は鍋をかき混ぜながら、ムスッとした顔をに向けた。
「何よ。どこか間違ってる?」
「うぅん。びっくりしてるの。上手だね、
は素直に笑い、を褒めた。今度はの方が驚く番だった。目を丸くしてを凝視していたが、すぐにまた仏頂面に戻した。
「・・・まぁね。パパに教わっているから」
「へぇ。すごい人なんだね、のお父さんって」
こんな難しい薬を独自の精製法で作れるなんて。は感心する。まさか、その「お父さん」がすぐそばの教卓に立つ魔法薬学教授だとも知らずに・・・
は始終に笑いかけた。に心を許しているわけではなかったが、それでも褒められるのは嬉しくないわけがない。から視線をそらし、鍋をかき混ぜ続けた。黒髪に隠れる耳は、ほんの少しだけ赤く染まっていた。
そんな様子を遠目に見ていたロンは、
ってさ、こう見ると姉妹みたいだよなぁ。顔もなんか似てるし」
などとぽつりと呟き、よそ見をしながら豆を刻んで天井高く豆を飛ばしていた。
「はいはい、わかったから。ともかく手を動かしてよ、ロン」
そしてペアを組むハーマイオニーに耳を引っ張られ、ロンは「いててて!」と悲鳴を上げながら無理矢理鍋をかき回させられるのだった。





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