ドリーム小説


歴代の校長の肖像画がずらりと並ぶ校長室は、厳かな執務室というよりは好奇心の強い子どもを喜ばせるのに最適な場所だった。使い方の分からない謎の魔法道具が所狭しと並べられており、部屋に通された―――特にはきょろきょろと室内を見渡し続けていた。
(おもしろい部屋。マクゴナガル校長の部屋とは全然違うわね)
、静かに。・・・ちょっとは空気を読みなよ)
ひそひそ話をする二人を、先程からスネイプとマクゴナガルの二人の教師がじぃっと睨むように見つめていた。その冷たい空気を意にも介さない妹に、は肩でため息をつく。だが厳しい眼差しの二人の教師とは正反対に、二人の間に立つダンブルドアはを見つめ、白い髭を揺らしてにこにこと笑っていた。まるで二人のことを「素敵なお客さん」とでも言うかのように。ふと、ダンブルドアとの目があった。は心を読まれるような気がして、うっと気を引き締めた。するとダンブルドアは、スネイプたちにばれないようにに向かってウィンクしてみせた。は拍子抜けしてしまう。だが、それだけで分かった。偉大なる魔法使いは、が何者であるか、わかっているということを。
(ほんと。未来のあなたも凄いけれど、過去のあなたにも敵う気がしませんよ・・・、ダンブルドア大校長)
相対するは、ホグワーツ校長アルバス・ダンブルドア。たちの世界では、ホグワーツを影から見守る大校長の座に就いていた。その横に立つ厳格な雰囲気の女性は、ホグワーツ副校長ミネルバ・マクゴナガル。未来では、ダンブルドアの跡を継ぎホグワーツ校長として校務に尽くしていた。
そして、3人の中で最も厳しい目で2人を見下ろす冷厳な魔法薬学教授セブルス・スネイプ。二人の父でもある彼は、18年後の未来ではホグワーツ副校長として学校を支える支柱の一人となっていた。そんなことを目の前のスネイプが知るはずもなく、浮かれる妹を横に、は一人落ち着かない雰囲気の中で再びため息をつくのだった。





□ 魔女の条件U 〜The Adventure of Lovely Twins〜 <3> □





ある日突然、どこからともなく現れた奇妙な双子の兄妹がいた。
兄だという少年はホグワーツ裏手の温室の備品棚から突然現れた。妹だという少女はスネイプの研究室の暖炉から突然現れた。
二人が何者であるのか、どこからやってきたのか、何もかもが分からない。スネイプはダンブルドアに相談すべきだと判断し、をほとんど引きずるような形で校長室へ連れてきた。その途中で、の怪我を手当てするべく保健室へ行こうとしていたたちと出逢い、事の次第を話し合わせ、スネイプがをまとめて校長室へと連れてきたのだった。のことを心配そうに見つめ、ついてきたそうにしていたが、あえてその場に残した。それにはスネイプの優しい気遣いがあった。

「さて、二人とも。少しは落ち着かれたかな?」
はソファーを勧められ、校長に出された紅茶を御馳走になっていた。はカップを置くと正面に座るダンブルドアと向き合った。
「はい。ご迷惑をおかけしてすみません・・・」
「いやいや、気にすることはない。しかし、礼儀正しいところも物腰の柔らかさも。見れば見るほど『彼女』にそっくりじゃな。のぉ、セブルスや」
「・・・・・」
声をかけられたスネイプは仏頂面を更に険しくし、ダンブルドアの後ろに立ちを見下ろした。冷たい視線が刺さるようで、は目を合わせたがすぐにそらしてしまった。だがの横に座るは、緊張する兄とは反対にやたらと浮かれていた。
「ねぇ、大校長先生!」
「おぉ、これはまた。わしにはもったいない称号じゃな」
「いいんですよ。いずれはもっと偉くなるんだから。ねぇ、大校長先生。私は?」
「ん?」
「私は、誰に似てますか?」
は期待に満ちた目でダンブルドアを見つめた。恐れ多くも偉大なる魔法使いに何という態度。この柔軟すぎる妹の行動に、は頭を痛めることが多かった。一方で質問を受けたダンブルドアはの瞳をじっと見つめ、彼女が期待する答えを笑顔で与えた。
「そうじゃな。黒い髪も黒い目も、それから好奇心旺盛なところも。君は『お父さん』によく似ておるよ」
「本当!?嬉しい!さすが、大校長先生。よくわかっていらっしゃる!」
望み通りの答えを貰い、は満面の笑みを浮かべる。ダンブルドアはちらりと背後に視線を向け、『お父さん』にあたる薬学教授にウィンクしてみせた。スネイプが「厄介ごとはご免だ」とうんざりした顔をしても、校長はスネイプの気持ちを知って知らずか面白そうに笑うだけだった。

の素性を初めに知ったのはスネイプだった。研究室の暖炉を通じて飛び込んできたが、スネイプに事の次第をすべてばらしたのだ。
『私ともう一人、っていう子がいて、私たちはあなたとの子どもなの!』
が満面の笑みでそう話したとき、冷静沈着で多少の事態にも動じることのないスネイプもクラッときた。一体何を馬鹿げたことを言っているのかと、半信半疑どころか少女を全否定して校長室へ連れてきたが、―――判断を仰いだダンブルドア校長は、たちの話すことを真実だと言ってのけたのだ。これにはスネイプも、呼ばれてやってきたマクゴナガルも腰を抜かした。しかもマクゴナガル女史はスネイプとの交際を初めて知り、トレードマークの丸眼鏡を吹き飛ばすほど驚いていた。
「セ、セ、セブルス・・・っ。あなたという人は、・・・一体いつの間に!?」
「・・・・・」
これには流石のスネイプもぐうの音も出ず、ダンブルドアが「まぁまぁ、ミネルバ」とマクゴナガルを説得してくれた。2年前にを襲った不幸もスネイプのへの愛があって今の彼女が存在することを話し、マクゴナガルも渋々納得はしてくれた。

さて話を元に戻す。そんなことがあり、時空を超えてやってきたをこれからどうするかを話し合うことになったのだが。
「あなた方は一体何の目的でこの世界にいらしたのですか。しかも、時空魔法などというハイリスクな魔術を用いてまで」
マクゴナガルは眼鏡の縁を指で押し上げながら二人に問いかけた。だがもそれについては一向に口を開かず、マクゴナガルもスネイプも呆れるばかり。何を質問しても沈黙しか返ってこず、マクゴナガルもいい加減に痺れを切らした。
「もういい加減になさい。何も答えられないのであれば、謎だらけの危険人物をこの学校に置いておくわけには、」
「・・・すみません」
ようやく口を開いたのは兄の方で、だが謝罪したきりやはり答えとなる言葉が出ることはなかった。
「何もお答えできません。お答えすれば、未来が変わってしまう可能性がある。だから、」
「その通りです。何よりも、この時代に存在しないはずのあなた方が来てしまった時点でもうその可能性は出ているのです。そのリスクが分かっていて、あなた方は時空魔法を使ったのではないのですか?」
「・・・・・」
マクゴナガルの言うことは正しい。も何も言えず、俯くしかなかった。スネイプも腕組みをしてため息をつく。それに気まずげに視線をそらすのはの方だった。
進まない話に小石を投げて変化を生んだのは、ダンブルドアだった。緊迫した雰囲気の中、ダンブルドアは「では」と提案を切り出した。
「では、こうしよう」
ダンブルドアはぽんっと一つ手を打った。その場にいた全員が彼の方を向く。ダンブルドアは、何の心配もいらないと言うかのように始終にこにこしていた。
「二人が元の世界に戻る日が来るまで、このホグワーツで我々の監視の下暮らしてもらおうか」
「「は・・・!?」」
「え・・・」
「うそぉ・・」
声を揃えて驚愕したのは二人の教師。は、あまりに嬉しいサプライズにびっくりした顔でダンブルドアを見つめた。
「生きる時代が違おうと、君たちはまだ就学の義務がある年じゃろう。ここで学んで帰るといい。どうじゃ。名案であろう」
「ちょ、ちょっとお待ちを、校長!」
「まさか、・・・本気でおっしゃっているので?」
「ほっほっほ。もちのろんじゃ」
決定じゃ、と告げる言葉は陽気だが、その声には絶対的な色が濃く浮き出ていた。こうなってはもう誰が何を言っても決定が覆ることはない。ダンブルドアのハチャメチャな思考に慣れているマクゴナガルは、もはや諦めぎみに渋い顔で目を閉じる。一方でスネイプは開いた口が塞がらないでいた。何が楽しくて同じ空間で未来の息子たちと生活しなければいけないというのか。
「校長、我輩は反対で、」
。君たちは元の世界ではどの寮であったのかな」
「校長、もっとじっくりお考えになってから、」
「制服やその他諸々の生活用品は、・・・おぉ、トランクに詰めて持参済みか。準備がよいの」
「校長!!」
スネイプが怒鳴ろうとも、もはやダンブルドアによる双子の入学準備は着々と進められていくのだった。ダンブルドアはくるりと振り返り、怒り肩で抗議するスネイプとようやく向き合った。やっと話を聞いてくれるのかと思いきや、偉大な魔法使いなそれはそれは極上のスマイルで、
「君の未来の子どもたちであろう。しっかり面倒を見てやるのじゃよ、セブルス」
本日3回目のウィンクに、スネイプは大声で怒鳴り散らしたいのを体を震わせて耐えるのだった。は、ダンブルドアという超強力な支持を得て、かなり安心しているようだった。二人ともソファーから立ち上がると、は頭を下げ、は後ろ手に両手を組んで満面の笑みを浮かべていた。
「よ、よろしくお願いします。父さん」
「パパ。しばらくの間、厄介になりまーす」
「〜〜〜先生と呼ばんか、馬鹿者が・・・っ!!」
やっと出せたと思った怒鳴り声はそんな台詞で、スネイプはぐしゃぐしゃと頭を掻き乱し、これから訪れるであろう災難に今から頭を悩ませるのであった。
「ほっほっほ。楽しい年になりそうじゃの」
こうして未来からの客人を交えた、ホグワーツの新しい一年が始まろうとしていた。





  



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