ドリーム小説


時空のトンネルを猛スピードで流されながら、は今向かう過去の世界に期待を膨らませていた。
「楽しみね、。昔のホグワーツってどんなところなのかしら」
人の心配も知らず、面倒ごとに巻き込んでおいて一人楽しそうにする妹には肩で息をする。
「さぁね。少なくとも(僕らが行くことで)平穏な日々は送れなくなるんだろうね」
その一番の被害者になるであろう若き日の両親に、は心の中で同情するのだった。


流される先に小さな光が見えた

長い時間の旅の終点だ

さぁ、新しい物語が始まる





□ 魔女の条件U 〜The Adventure of Lovely Twins〜 <2> □





新学期が始まってから1週間が経つ。ホグワーツは今年も多数の新入生を迎え、大いに賑わいを見せていた。まだ学校に不慣れな1年生たちが、迷路のような校内で右往左往する姿があちこちで見られた。そんなときいつも声をかけてあげるのは、
「迷っちゃったの?どこに行きたいのかな」
「あ、あの・・・えっと・・・、魔法薬学の教室なんですけど、地下牢への行き方がわからなくて」
「あぁ、それなら私もこれから行くところだから、一緒に行こっか」
にっこりと笑って丁寧に教えてくれる年上の先輩に、ハッフルパフのタイをしめた1年生の子たちはうっすらと頬を赤く染める。先輩の後を追いかけながら、一番先頭にいた小さな男の子がおずおずと彼女に声をかけた。
「あの、・・ありがとうございます」
「いぃえ。どういたしまして」
「えっと、その・・先輩はスリザリンの方・・・なのですよね」
恐る恐ると言う喋り方からうかがえる。寮の先輩から話をされているのか、1年生ながらにわかっているのだろう。「スリザリンの生徒には関わるな」という暗黙の了解を。そのことを分かった上で、前を行く彼女は首を後ろに向けてにっこりと笑った。
「うん。スリザリンの7年生です」
「あの・・・・・お名前をお聞きしても?」
スリザリンに接触するなと言われているはずなのに、なんとも勇気のある少年だと思った。後ろの方では、「ばか、やめろよ!」と止める小さな声が聞こえる。それを気にすることなく、笑顔で名前を名乗った。
だよ。。よろしくね」
着いた先、魔法薬学教室の前では振り返り、声をかけてきた少年の頭をぽんぽんと撫でた。少年は顔を赤くし、後ろでひそひそ話をしていた小さな仲間たちもの愛らしい笑顔に思わず見とれるのだった。
ホグワーツ最高学年7年生となった。4年生の頃より身長も伸び顔立ちからも幼さが消え大人びた雰囲気を醸し出すようになったが、性格は変わることなく誰にでも明るく優しく接する、寮の模範生として成長していた。その証に、彼女の制服の胸元には監督生のバッジがきらりと光り輝いていた。



その日の授業をすべて終え、は薄暗い地下牢の先にあるスネイプの研究室を訪れていた。4年生の頃から変わらずスネイプの助手を務める彼女は、毎日放課後にその日の授業で使われた実験器具を片付け、翌日の授業の準備を手伝っている。また、授業中の助手も行っているために、1週間も経つとは新入生全員が知る存在となっていた。今日道案内したハッフルパフの生徒たちも、初めて受ける魔法薬学の授業で、なぜ厳しい顔をしたスネイプ教授の横に、先程道を教えてくれた先輩がいるのかと目を瞬かせていた。
「あ。スネイプ先生、明日使うアスフォデルの球根が足りません」
材料の仕分けをしていたは、軍手をはめた指先で球根の数を数え直し、「やっぱり足りない」と再確認する。机に向かい書類に目を通していたスネイプは、伏せていた顔を起こし片眉を上げた。
「それはおかしいな。きちんと予定分調達したはずなのだがな」
「うーん、・・・あ!3日前の授業でレイブンクローの子が調合に失敗したときじゃないでしょうか。確かストックしてあった分から数株お取りになりましたよね」
「あぁ、そういえば。・・・しかし、よく覚えているものだ。助かるな」
記憶力があると褒められ、は嬉しそうに笑う。
「スプラウト先生のところに行ってきますね。それから温室へ、」
「いや、それでは面倒であろう。スプラウト教授には後で話をしておく。直接温室へ行って球根をもらってきなさい」
「わかりました。急いで行ってきますね」
「あぁ。
「はい?」
軍手を脱いでテーブルに置いたところでスネイプに手招きされ、は何だろうと思いながらスネイプの座るデスクに向かった。スネイプは回転椅子に背を預けて座ったまま、やってきたの片腕を取り引き寄せた。何かの用事かと思いきや、引き寄せられた先に待っていたのはスネイプからのキスだった。唇にちょんっと乗せるだけの軽い口付けはすぐに離れてはいったが、いきなりのことにはほんのりと頬を染める。
「な、・・・なんですか、突然」
「いや。書類処理に疲れてな。癒しが欲しかったところだ」
「・・・こんなことで癒しになるんですか?」
「あぁ。まぁ、君からしてくれるともう少し回復するのだがな」
老眼鏡を外しながらを見上げるスネイプの目は実にしたたかでいやらしげだった。は嬉しいながらも照れくさいのもあり、一度そっぽを向いて「こほん・・・」とわざとらしく咳をした。それからスネイプの両肩に手を置き、ゆっくりと顔を近づけて自分から唇を重ねた。小さなリップ音を響かせて唇を離し、「ど、どうですか?」と問いかける。スネイプは満足げに口元を緩め、
「思った以上に回復した」
「そ、そうですか・・・っ」
「では頼んだぞ。急ぐ必要はない。気をつけてな」
の手を取り、まるで騎士のように手の甲に口付けを見上げた。
あれから2年の月日が流れていたが、二人の間に結ばれた愛は薄らぐことなく、より親密で強いものへ変わっていた。





が出かけていった後も、スネイプは部屋で一人書類処理を続けた。時折目頭を押さえながら、書類一枚一枚に目を通し、サインをしていく。単調な作業をひたすら続けての帰りを待っていた。

スネイプの部屋を後にし、はやや足早に温室へ向かった。放課後の誰もいない温室は静かで、生い茂る薬草が風に揺れて奏でる音しか聞こえてこない。薬草棚からアスフォデルの球根を拝借すべく、は一番高い棚に手を伸ばした。





ホグワーツの新学期が始まって1週間。すべては平穏に過ぎていた。そしてその穏やかな日常がこれから1年間続くのだと、誰もが疑わなかった。
「あの二人」がやってくるまでは・・・







薄暗い研究室で仕事を続けていたスネイプは、ふと手元の懐中時計に視線を向け、の帰りがやや遅いことを気にした。急がなくていいとは言ったが、ここと温室の距離を考えてもいささか遅すぎる。
(何かあったか)
気にはなるが、足を運ぶのも過保護すぎるとスネイプはため息をつく。そして書類に走り書きでサインをすると、羽ペンをインク壺に戻し椅子の背もたれに寄りかかった。ふぅともう一度息をつき、目を閉じて休ませる。暗闇にはじめに浮かんだのは、愛する彼女の姿だった。いよいよ最高学年を迎え、がこのホグワーツで学ぶのも―――自分の生徒として生活するのも最後となる。一年後、ホグワーツを卒業した彼女は、自分と新たな関係を築くことになる。その時を楽しみにしているのは、夢見る少女だけではない。
「長いようで短い学生生活であったな」
ぽつりと独り言をもらし、瞼の裏で笑うにスネイプは口元を緩めた。早く戻ってきて欲しいと望みながら。

平穏に過ごしていたスネイプの日常は、次の瞬間から崩れることとなった

どぉぉんっ!!という物凄い爆発音が室内に響き渡ったかと思えば、次の瞬間には灰と煙が巻き上がり一瞬で視界が真っ白になってしまった。突然すぎる出来事に、だがスネイプは驚愕しながらも流れる動作でローブの胸元から杖を取り出し、煙の中心へと杖先を向けた。何か得体の知れないものが暖炉を使ってやってきたのだと知れる。スネイプは警戒し、杖を謎の存在に向け続けた。袖を口元に押し当て舞い上がる煙を吸い込まないようにしながら、スネイプは厳しい目つきで暖炉を睨んだ。すると、
「・・・ごほ・・っ!」
煙の中から咳をする声が聞こえてきた。その後も「ごほ、・・けほ・・・っ」と咳は続いた。声から推測するに、年の頃10代の若い少女のようだった。だがまだはっきりとはわからない。スネイプはますます警戒する。そうするうちに段々と舞い上がる煙が薄れてきた。謎の侵入者のシルエットが浮かび上がってくる。スネイプは怪訝な顔でそれを見つめた。それは明らかに年若い少女の影だった。おそらくはと同じくらいの年の少女。晴れていく煙の向こうに、スネイプは長い黒髪を見た。そして、
「ごほっ・・。もう!到着場所まで計算に入れてなかったわ」
少女の憤慨する声が聞こえた。どこかで聞いたことのある声だと、スネイプは違和感を覚えた。だがそれよりも今はと、スネイプは眉をひそませ冷たい口調で問いかけた。
「そこを動くな。貴様、何者だ」
「・・・・・」
返事は返ってこなかった。突然攻撃される怖れもある。スネイプは警戒を解かず、杖先を向け続けた。だが、スネイプにとって違った驚きがその後彼を襲うことになる。
「その声、・・・・・まさか!?」
「質問に答えろ。貴様は、」
「あなた、・・・セブルス・スネイプ・・・そうでしょう!?」
「なに・・・?」
少女の声はとても驚いているようだった。スネイプは何故謎の侵入者が自分の名を知っているのか、余計に不信感を抱いた。煙が晴れていく。スネイプは危険を察し、訳が分からないがとりあえず侵入者を捕らえるのが最優先と呪文を唱えるべく唇を開いた。だが、
「ロコモーター・モル、」
「やったわ、無事到着!!」
すっかり晴れた煙の中から飛び出してきた少女が、スネイプに体当たりで抱きついたのだ。全力の突進にスネイプはあろうことか杖を吹き飛ばされてしまった。しまった、と舌打ちしてももう遅い。少女に押し倒される形で、二人は絨毯の上に倒れ込んだ。背中と頭をしこたま打ち付け、スネイプは痛みに顔を歪める。事態が飲み込めない。一体自分の部屋で何が起こってしまったというのか。床に押し倒されたまま混乱するスネイプに、彼の上に乗った少女は黒く長い髪を垂らし、にっこりと微笑んだ。そして、とても信じられないことを言ってスネイプを更に混乱させるのだった。
「会いたかったわ、パパ」
「は・・・・・・・・?」
いつも厳しくつり上がったセブルス・スネイプの両眼が点になった瞬間だった。





温室の奥に備えられた備品棚を前に、は少しだけ苦戦していた。備品棚は真ん中から上が5段の棚になっており、それよりも下はスコップやバケツを片付ける広い収納棚になっていた。が用があるのはこの一番上の棚なのだがこれがなかなか高く、身長の伸びたが背伸びをしても手が届かないほどだった。160センチをゆうに超えたが届かないのだから、もっと身長の低いスプラウト教授は一体どうやって一番上の棚のものを取っているのだろう。そんなことをふと疑問に感じながら、は両手を腰に当てて息をついた。うーん・・・、としばらく考えて、考えて。
「あ・・・!」
は頭の左上に豆電球を光らせ解決方法を導いた。それが余りにも愚かすぎる答えで、思わず自分で苦笑してしまった。
「魔法使いなんだから、魔法を使えばいいのよね」
何をしてるんだか、とはローブの胸元から杖を取り出し、物体浮遊の呪文を詠唱した。一番上の棚に置かれていたアスフォデルの球根がふわふわと浮きながらの手の中に収まった。それを手提げ袋に入れ、紐をぎゅっと縛る。
(これでよし、と。さ、早く戻ってお手伝いしなきゃ)
は杖を懐に戻すと、両手で袋を抱えて備品棚に背を向けた。一仕事終え、は軽い気持ちで足を一歩前に踏み出す。

そして平穏に過ごしていたの日常は、次の瞬間から崩れることとなった

どしゃぁん、がらがらがらがら・・・!!という物凄い爆発音と何かが崩れる音が温室内に大音量で響き渡った。その衝撃で温室の地面に蒔かれていた土が巻き上がり、土煙が立ちこめた。茶色い煙はをも包みこみ、咄嗟にローブの袖を口元に当てて吸い込むのを防いだ。突然すぎる出来事に、は眉をしかめて数歩後ろへ後退した。一体何が起こったというのか。備品棚の下に爆発物でも仕掛けられていたというのか。は目を細めて土埃が立つ備品棚をじっと見つめた。すると、
「ごほ・・・、けほ、けほ・・っ」
「え・・?」
土煙の中から人が咳をする声が聞こえてきた。は驚きに目を丸くする。今し方までここには自分一人しかいなかったはずなのに。一体いつやってきたというのか。は戸惑った。だが、謎の人物の咳は止まることなく、その苦しそうな声がの足を動かした。
「だ、大丈夫ですかっ?」
アスフォデルが入った袋をその場に置き、は徐々に晴れてきた砂煙の中に飛び込んだ。手を扇ぎ風を起こし煙を払う。少しずつ見えてきたシルエットは、背格好からして自分と同じくらいの年の少年のものだった。謎の少年は備品棚に背を預け、大量のスコップや作業用手袋、バケツに埋もれて座り込んでいた。土煙が完全に晴れ、俯く少年の前には膝をついて座った。そして土煙をかぶってしまった少年の頭に手を伸ばし、パッパッと埃を払ってやった。少年の髪はと同じ美しい銀色をしていた。
「大丈夫?どこか怪我してないですか?」
「・・・・あ・・・・」
爆発音とともに突然現れた得体の知れない少年に、何の迷いもなく優しく手を貸す。そして聞き覚えのある甘く優しい声。少年は驚きに目を見開き、俯いていた顔をゆっくりと上げた。目の前にいる、心配そうな顔の少女を見上げる。そして、
「あ、・・・母さ、」
「え?」
「・・・!!」
言いかけた言葉を、少年は自分の両手で口を塞いで止めた。少年の奇行をは首をかしげて見下ろしていた。どうやら皆まで聞かれはしなかったらしい。少年はホッとし、口から手をどけた。だが安堵している場合ではない、と少年はハッと表情を引き締めた・・・瞬間だった。
「血が出てますよ」
「え・・」
「ほら、ここ。保健室に行った方がいいかも」
の手が伸びてきて、アイボリーのハンカチを少年の頬に押し当てた。スコップか何かで切ったのであろう、頬にできた切り傷はじんわりと血を浮かせていた。は真新しいハンカチが汚れることも構わず、そっと少年の傷にそれをあてがった。肌触りの良い生地に赤い血が吸い込まれていく。ぴりりと痛い傷は、だが今の少年にはさほど問題ではなかった。それよりももっと気になることが、気になる存在が、―――彼の目の前にいたから。
「大丈夫?」
「え・・・」
「他に怪我はしてないですか?」
「あ、・・・いや、・・・大丈夫・・・です」
「そう?なら、よかった」
少年と目線を同じくしてにっこりと笑うを見て、
「・・・・・」
少年の耳はじわじわと赤く染まっていった。穏やかで優しくて人を気遣う愛らしい少女。未来の姿とまったく変わらない彼女を目の前に、普段冷静な少年の鼓動はいつになく早く、少女が視線をそらしてくれるまで落ち着くことはなかった。





  



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