ドリーム小説


生傷に湯が沁みて、風呂を嫌いになりそうだ。
「いっ・・・たぁ・・」
呪文解除の戦いを始めてから1週間が経過した。あらゆる呪文と格闘するは、今や全身傷だらけ。風呂の湯は沁みるし、服は傷に触れて痛いし。シーツですら痛みを呼び起こし、安らかに眠れぬ日々も続いた。
だがのんびりはしていられない。その間にもの身体はますます透けていく。バスタブの中で両手で湯をすくえば、その下にある自分の身体の色が見えるほどだ。
「気持ち悪・・・」
自分の身体ながら、気色が悪いと思った。は膝を抱え、その上に額を乗せて目を閉じた。
(キリがないなぁ・・・。本当に解読できるの・・?)
1週間も戦っているのに、一向に呪文の終点に行き着かない。不安ばかりがを包み込む。





□ 魔女の条件U 〜The Adventure of Lovely Twins〜 <21> □





月曜日の午前中最後の授業は、魔法薬学だ。グリフィンドールとスリザリンの合同授業が、その日も地下牢教室で行われていた。もくもくとあがる鍋からの湯気に視界が悪い。煮えたぎる薬草の香りも良いとはいえない。そんな状況でも、疲労のたまったは睡魔に襲われ、首をかくかくさせながら鍋をかき回していた。危なっかしいにも程がある。スネイプは事情を知っているとはいえ、苦々しげな顔での背後に立つと、
「起きんか」
「へ・・!?」
重厚で冷たい声でを一喝した。びくりと背筋を伸ばしたは、慌てながらかき混ぜ棒を持ち直し、ゆっくり慎重に混ぜ始めた。
「疲れているのはわかるが、ここで気を抜いた方が死ぬ確率が高まるぞ」
「わ、わかってますよ・・・」
は虚勢を張り、唇を尖らせて鍋を混ぜ続ける。だが、彼女の眼の下に浮き出た黒いくまが彼女の心身の状態を良く表していた。

そんなやり取りを少し離れた席からドラコは見ていないようなふりをして見ていた。の身体が透けていくのに比例して、徐々に彼女から覇気がなくなっていくのも感じていた。以前は寮内でばったり出くわすだけで鬼のような形相でドラコを睨み付けてきたのに、最近はまったくない。自分の身体の疲れで精一杯なのか、ドラコがいることにも気付かず、亡者のような足取りで女子寮へ歩いていく姿が見られた。そして、そんなの姿を見るたびにドラコが思うことはやはり、「自分にできることはないのか」ということだった。
(奴のためじゃない・・・、全てはのためだ)
のため、のため。そう自分に言い聞かせ、を心配している訳じゃないと必死に頭を振っていた。







それは偶然だった。
その日の夕食後、たまたま例の見えない部屋に続く壁の近くを歩いていたら、ガコンという音とともに壁が動いたのだ。周囲には誰もいなかった。ドラコは「奴らだ」と見当がつき、さっと近くの物陰に身を隠した。予想通り壁から現れたのはだった。ドラコは物陰からそっと顔を出し、様子を窺った。そして、に抱きかかえられたの姿を目にし、驚愕した。
・・!、しっかりしろ!」
の大きくはない叫びが聞こえた。を床に下ろすと、すぐに彼女の身体の上に杖をかざし、
「ヴァルネラ・サネントゥール」
傷だらけのに治癒呪文を唱えた。杖先から生まれた光がの身体を包み込む。床に寝かせられたの衣服はぼろ布のように裂け、透ける肌には無数の切り傷があり、そこから大量の血を流していた。自身は気を失っているようで、ぴくりとも動かず、首は死人のようにぐったりとのけぞっている。の呪文によって、彼女の姿は怪我をする前のように戻っていった。
(すごい・・)
高等治癒呪文を楽に操るの技術にドラコは素直に感嘆する。
「エネルベート」
静かに詠唱すれば、の瞼がゆっくりと開かれていった。「う・・」と唸るの声を聞き、はホッと胸をなで下ろす。物陰で見ていたドラコも同様に安堵の息をつき、すぐに何故自分がそんな気持ちに?とムッとした表情に変えた。
!」
「う・・・、だい、じょうぶ。死んでないわよ・・」
、・・・よかった」
が苦しげな顔で、それでもニッと強がって笑ってみせるから、は泣きそうな顔で笑って応えた。の背中を支えて上半身を起こしてやった。
「驚かせるなよ・・・。一体、何の魔法を受けたんだい」
は自分のローブをの肩に掛けてやる。はゴホゴホと苦しそうな咳をした。
「セクタムセンプラよ・・・。パパが考えた呪文だわ」
「切り裂き呪文か。随分と強力な魔法だ」
「ホント。対抗呪文が何も効かなかったわ」
「そうじゃなくて。それを暴発した魔法に混ぜ込んだのは君だろ、
「あ・・・。そうだったわね」
は「忘れていたわ」と自嘲気味に笑う。そして、
「パパに叱られている気分だったわ。ママを攻撃した罰だって」
「はは。違いないな」
の頭をクシャクシャと撫でた。「帰ってきてくれてよかった」と、の黒髪に鼻を押しつける。
「聞いて、。あと少しよ。あと2〜3個の呪文を受ければ終わるわ」
「本当かい?」
「えぇ。あとちょっとってところでセクタムセンプラにやられたの。だから、あと1回飛び込めば終わるわ」
は喜々としてに報告する。はまた泣きそうな顔で笑い、の頭を抱いてやった。
そんな兄妹のやり取りを物陰から見ていたドラコは、麗しい兄妹愛にどういうわけか苛々を募らせていた。何に対して苛ついているのかはわからない。けれど、面白くないのだ。
(訳が分からない・・・)
自分の気持ちが理解できない。すっきりしない気分でドラコは足音を立てないようにきびすを返した。最後に一度だけ、ちらりと後ろを振り返った。に抱きかかえられたが疲労の濃い顔で目を閉じているのを見て、何故か胸の奥がざわめいた。







「ねぇ、。子どもは何人ぐらい欲しいと思っているの?」

"は、はい・・!?"

保健室の天井をふらふらしていて突然そんな質問を投げかけられた。ゴーストのは上ずった声で返事を返し、逆さまに落ちそうになって宙で体勢を整えた。

"な、なんですか突然?"

生身ならおそらくの顔は赤くなっているのだろう。慌てるに、オリヴィアは彼女の姿を借りて微笑んだ。
「あら。そう遠くない未来でしょう?未来予想図を描くのも楽しいものよ」
そんなことを言ってはいるが、要はオリヴィアは暇を持て余しているのだった。の身体に乗り移っているため保健室からは出られず、同様にゴーストのも騒ぎになるのでここから出られず。オリヴィアの意地悪な質問に、素直なは真剣に答えを考えていた。

"子ども・・・。一人では淋しいですし、・・・二人くらいでしょうか"

「ふぅん。二人ねぇ。男の子と女の子ならどちらがいいのかしら」

"そうですね・・・。どちらも一人ずつがいいですね"

オリヴィアの話術に嵌められ、は次第に具体的な未来予想図を描き出していった。夢見るように斜め上を見つめるの幸せそうな顔に、オリヴィアも笑顔が絶えない。
「素敵な家庭ね。の思い描く通りになると思うわ」

"え、本当ですか?なんだかオリヴィアさんが言うと本当にそうなりそうですねぇ"

オリヴィアが冗談で言っているのだと思っているは、オリヴィアが「本当にそうなるのよ」と言いたくて仕方がないのを知るはずもなく。
「じゃぁ、頑張ってもらわないといけないわね」

"はい!・・・はい?頑張るって、何をですか?"

元気よく返事したはいいものの、オリヴィアの言葉の意味がわからない。純情な彼女をからかいたくて仕方がないオリヴィアは実に楽しそうに微笑む。
「何をって、スネイプ先生に頑張ってもらわなければ子どもはできないでしょう?」
オリヴィアは身を乗り出し、ゴーストのの唇を指で突っつく振りをする。妖艶な笑みの奥に潜む魔女の冗談を、はようやく理解した。

"へ?・・・あ・・・・や・・っ!オリヴィアさん・・!!"

からかわれたと理解するや、は目を白黒させて慌てふためく。ゴーストになっても変わらない愛らしさに、オリヴィアはを抱きしめたくて仕方がない。"恥ずかしいのでやめてください・・!"と透明な頬を紅潮させるに、オリヴィアはの姿で肩を揺らす。
「ねぇ、知っている?セックスのときの体位が生まれてくる子の性別に影響するそうよ」

"セッ・・!?へ、・・体位って・・・な、何言ってるんですかっ"

「身体が戻ったら是非実践してみたらどうかしら。そのためにはやっぱり教授の協力が必要でしょう?」

"や・・、協力って、そんな!ス、スネイプ先生にそんなこと言えるわけないじゃありませんか・・・っ!"

「あら。じゃあ、教授に伝えられれば実践してみるつもりはあるのね」

"実践・・?!いえ、そんなつもりは・・・っ。オリヴィアさん、もう止めてください・・・っ"

「あぁ。そろそろ許してやってくれるかね」
ゴーストがたまらず両手で顔を覆い隠した時だ。の後ろから姿を現したのは、渦中のスネイプだった。オリヴィアの「あら、教授」という飄々とした挨拶に、は慌てて後ろを振り向く。そこには確かに気まずげな顔をしたスネイプがいた。

"ス、ス、スネイプ先生・・・!!"

が生身なら、間違いなく真っ赤どころか頭から噴火していただろう。今し方までの会話はほぼ聞かれていたに違いない。は恥ずかしさに穴があったら入りたい気持ちでいっぱいだった。とりあえず穴はないので、オリヴィアの、正確には自分の身体の後ろに隠れてみた。
「なにを隠れているの、?」

"・・・も、・・・いやです・・っ"

「あらあら。本当には何年経っても可愛らしいのねぇ」
「・・・ローレンス。あまりをからかうな」
「ふふ。だってったら反応が新鮮で可愛いんですもの。教授だって、彼女のそんなところに惹かれたのではありません?」
「・・・・・」
沈黙は肯定を表す。スネイプの答えにオリヴィアは肩を揺らし、「さてと」とベッドからひらりと降りた。
「どうぞ、続きはお二人で。私は一番奥のベッドで休ませていただきますわ」
をからかってご満悦のオリヴィアは、足取りも軽く奥へと歩んでいった。言ったとおり、一番奥のベッドに入り、自らカーテンを引いた。オリヴィアのことだから、ここで寝たふりをして聞き耳を立てるようなことはしないだろう。残されたとスネイプは気まずげに、視線を合わせることもできずにいた。ゴーストのはオリヴィアがいなくなったベッドの上にぺたりと座り込む。


"は、はい・・!"

突然呼ばれ、またおかしな声で返事をしてしまった。その拍子にスネイプと眼が合ってしまい、透き通る肌がまた赤くなる。はあからさまにスネイプから目をそらしてしまい、それがかえってスネイプを呼び寄せることになった。
「何故、目をそらす」
スネイプはローブを翻し、静かにの横に腰掛けた。長い足を組んで、の顔を覗き込むようにする。
「やましい気持ちがあるからそらすのであろう」

"・・・いえ、そんなことは・・っ"

「ならば何故こちらを見ないのだ」

"だ、・・・だって・・"

あんな、セックスだの体位だのというあられもない話を聞かれた後で、どんな顔でスネイプと向き合えばいいのか。何も言えないの恥ずかしい気持ちなど、スネイプにはお見通しだった。肩を揺らして笑うスネイプに、は恐る恐る彼の方を向く。スネイプはおかしそうに笑っていた。

"先生・・・?"

「安心しろ」

"え?"

スネイプの言葉に、は首を傾げてきょとんとする。すると、スネイプはお得意のにやり笑いを見せた。
「君が我輩に言えずとも、想いは十分に伝わった」
そう言うと、スネイプはまだ訳が分からずにいるへと顔を近づけ、透明の感触のないの頬に口付けた。はキスを受け、"あの・・っ"と戸惑いがちに至近距離のスネイプを見つめる。
「体位で性別が、など迷信に近い。気にする必要などない」

"や、・・やっぱり聞こえてたんですね・・っ!"

再び羞恥心が高まり、は恥ずかしさに眉を落とす。もはや泣きそうな顔のに、スネイプはもう一度頬にキスをして笑った。
「男でも女でもよかろう。我々が愛し合った結果なのだからな」
そう言ってスネイプはの唇にキスをした。勿論感触はない。けれど、確かにはスネイプの低い体温を感じたし、スネイプもの柔らかな感触を感じていた。それよりもはスネイプの優しい言葉にじわじわと幸せを感じ、緩んでしまいそうな頬を引き締めるのに大変だった。


"・・・"



"・・・なんですか"

「顔が笑っているぞ」

"ふ、不可抗力です・・・!"

「そうだな」
自分の頬に両手を押し当ててそっぽを向いてしまった恋人に、スネイプはいつまでも肩を揺らして笑い続けた。そうだ。スネイプはの笑顔に思い知らされる。は知らないが、こんなにも身近に未来の自分たちの子どもたちがいるのだ。男でも女でも、どんな姿でも、どんな子でも、関係ない。
二人が愛し合った結果なのだから。
も、今を助けようと精一杯頑張っている。何をしに未来から来たのかはいまだに分からないままだが、それでも娘と息子を無事に未来に還すのが今の自分に課せられた使命なのかもしれない。
「愛してやろう」
スネイプの小さな呟きに、は頬に両手を押し当てたまま"はい?"と首を傾げるのだった。





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