ドリーム小説


ダンブルドアはから杖を借りると、が暴発させた魔法を宙に浮かびだし、オリヴィアに見せた。
「どうじゃ」
「ふぅん・・・、随分と複雑な魔法が詰め込まれていますこと」
オリヴィアはの身体のままベッドから降りると、宙に浮かぶ魔法の渦を仰ぎ見た。
DNAの塊のような、巨大な糸くずの塊のような、不可思議な光る球体。
オリヴィアはそれを顎に指を押し当て、じぃっと見つめていた。そして、くるりと皆の方へ向き直ると、
「少々危険ではありますが、死ぬことはありませんわ」
「・・・・っ」
にこりと笑って物騒なことを言うものだから、眼を合わせられたは頬を引きつらせるしかなかった。





□ 魔女の条件U 〜The Adventure of Lovely Twins〜 <20> □





オリヴィアが導き出したもう一つの解決法は、こうだ。
「術を発動させた者がこの渦の中に飛び込み、混ざり合った魔法の一つ一つをその身に受けてくれば渦は徐々に消えていきますわ」
魔法を使ったのはだ。が渦の中に入り、このこんがらがった魔法を形成する一つ一つの呪文を身体を張って受けてくる。
そうすれば、次第に渦は小さくなっていくという。
その話をされたとき、は突飛な提案に顔を引きつらせて乾いた笑い声を上げた。
「な、・・・何よ、それ。信じられない!渦に飛び込んだ私はどうなるのよ!?無事じゃ済まないのでしょう!?」
「無事では済まないけれど、死ぬことはないわ」
オリヴィアは平然と言う。「大丈夫よ。死の呪文は混ざっていないようだから」と。
涼しい顔で言われ、の額に青筋が軽く浮き立つ。ギリギリと歯を食いしばって拳を握っていれば、いつの間にか後ろに来ていたに片腕を掴まれた。
?」
。詳しく話を聞こう」
「は!?なんで、」
「オリヴィアさん。渦の中で魔法を受ければ、渦は次第に小さくなっていくのですよね。それからどうすればいいのですか?」
に抗議をさせず、の代わりにオリヴィアに問いかけた。
オリヴィアは自分を見つめるに視線をやり、しばし考えた後小さな笑みを口元に浮かべた。
占術に長け、過去も未来も現在もすべてを見通せるオリヴィアには、がスネイプとの子どもであることなど見てすぐに見当がついた。
という少女にはスネイプの血が濃く出ているのがよくわかった。
ならばの血は?その答えは、今自分を見つめる少年によく現れていた。
が男の子になったみたいだわ)
正義感に溢れ、妹の失態を自らも抱え、なんとか(母)を助けようとする少年。
物腰柔らかで優しい顔立ちから、皆から愛されてきたのだろう、とオリヴィアには容易に見当がついた。そして、ちらりとに視線だけ投げる。
我が儘で、強情で、負けず嫌いで。素直になれないせいで、きっと損な生き方をしてきたのであろう屈折した少女。
誰にも愛されないと、硬い殻で自分を守る少女。が素直に自分の気持ちを表せるようになれば、何かが劇的に変わるだろう。
オリヴィアの「面白いわね」という呟きに、は首を傾げる。
「何か?」
「いぃえ、何でもないわ。それより、魔法を消化していった後のこと、だったわね」
「はい。一体、その先どうすれば、」
「簡単よ。絡み合った魔法を紐解いていけば、終点には必ず『こたえ』が待っている」
「『こたえ』・・・?」
嵐のような、竜巻のような、はたまた絡み合った荊(いばら)の城のような魔法の渦の中。その中心には必ず『こたえ』がある。
それがどんな形をしているのかはわからない。けれど、それを見つけ出せれば全てが解決するとオリヴィアは言う。
は唇を噛みしめていたが、不意に顔を上げオリヴィアに問いかけた。
「それは、でなければ駄目なのですか?・・・・僕が代わりに行くことは、」
「駄目よ」
の小さな期待は、オリヴィアがばっさりと切って捨てた。厳しい口調で却下され、は失望する。
「絶対に駄目よ。術を発動させた者がいかなければ駄目。これは、試練なのだから」
「・・・・・」
苦しい沈黙は、のもの。試練という言葉に、自分が犯した罪の大きさを思い知らされる。
考え込む皆の空気を壊すように、オリヴィアは飄々と言ってのけた。
「だから言っているでしょう。抱いた方が早いわよ?」
妖艶な笑みをスネイプに向ければ、彼はわざとらしい咳をしてそっぽを向いてしまった。ゴーストのは全力で首を横に振っている。
あぁ、なんて可愛らしい二人、とオリヴィアはの顔でくすくす笑うばかり。
「さぁ、お早く。決断を鈍れば、その透けている身体は完全に消えてなくなるわよ」
オリヴィアに指摘され、は両手を開いて手のひらを見つめた。半透明の不可思議な生き物になってしまった自分に眉をしかめる。
それはも同じ姿だった。
自分のせいでも消えることになる。
は、ゆっくりと静かに両眼を閉じた。
「・・・・
「・・・・・」
「お願い・・・・」
さっきまでの我が儘な言動ではなく、静かに、決意を固めた声でに声を掛けた。
「手伝って・・・」
小さな子どもがすがるように、の服の袖を小さく摘む。それは、小さい頃からが本当に困ったときにする癖だった。
は苦笑して、自分の袖を掴むの透けた手を握る。
「いいよ」
の意志は決まった。
の手を放し、反対側の肩をしっかりと抱いていた。は不満そうな顔は変わらないが、だが何かを決意したようだ。
「あら。どうするのか、決まったのね」
「はい」
「・・・・・」
の返事に、は握った拳に力を込める。それは決意の表れのようにも、悔しさに耐えるようにも見えた。
「『こたえ』を見つけ出します」
「では、が魔法の渦の中に飛び込むのかね」
「はい・・・」
「攻撃呪文も多数混ざり込んでおる。無事では済まんぞ」
ダンブルドアの言葉は重く、二人に重圧をかける。微かに震えるの肩を、は更に強く抱いて引き寄せた。
「僕が守ります」
力強い言葉だった。の意志は揺るぎなく、決意に満ちた眼でダンブルドアを見つめていた。
そんな兄の横顔を、はそっと見上げる。の顔には戸惑いの色が濃かった。

どうして
どうしてそんなにも強くあれるのだろう
同じ日、同じ時に生まれた分身のはずなのに
どうしてこんなにも私と違うのだろう
どうして、どうして、どうして・・・
どうしてこんな駄目な妹を守ろうとしてくれるの・・・?

泣きそうな顔での横顔を見つめていると、の視線に気付いたが彼女の方を向いた。
眼が合うとは困ったように笑ってくれた。それだけで、は胸が締め付けられそうになった。
は唇をきつく噛みしめると、の肩に頭を預けた。強がりの妹が見せるSOSのサインに、は苦笑して頭を撫でてやる。
そして、ゴーストのを見上げ、は彼らしい優しい笑顔を見せた。
さん。必ずあなたのことを助けます。待っていてください」

"・・・、・・・"

二人の名を呼ぶの姿が、未来の母の姿と重なる。それからはスネイプへと向き直り、小さく頭を下げた。
スネイプはぴくりと片眉を動かしただけで何も言葉をかけることはなかった。ただ、二人が保健室を後にしてその姿が消えるまでずっと背中を見守っていた。





生徒は誰も来ない隠し部屋に二人。
はそれぞれの手にきつく杖を握りしめ、向き合っていた。
・・・、いいね」
「・・・・・」
呼びかけられたは数秒考え込み、そして静かに頷いた。その瞳に前向きな光はない。だが、けじめをつけようとする意志はあった。
「危険だと思ったら、そこで止めてすぐに戻ってくるんだ。絶対に無理は、」

心配するの言葉をは中途で止める。そして、今までよりも少しだけ落ち着いた冷静な顔つきで、杖を頭上に掲げた。
「大丈夫。無理はしないけど、行けるところまでは行ってくるわ」
「駄目だ、無茶なことは、」
「いいの。癒しの呪文を用意して待ってて」
・・?」
上を見上げるの顔を見つめ、は何かが違うと感じた。さっきまでの駄々をこねていたとは何かが違う。
の心は、確かに変わっていた。それは本当に小さな変化でしかなかったが、それでも彼女の心を変えてくれたのは、「妹を守る」と言ってくれたの愛だ。
彼がいなければ、は今でも保健室で意地を張り続けていただろう。
に、伝えたかった。
―――・・・ありがと・・・
そう伝えたいのに、まだ言葉にできるほどの心は素直になれなかった。
は頭上を見据えたまま、明瞭な声で直前呪文を唱えた。杖先から溢れ出たのは魔法の光の大渦。きらきらと光り輝く塊は、今は強大なモンスターに見える。
はごくりと喉を鳴らし、早鐘のように脈打つ胸元をきつく掴んだ。そして、
「行ってくるね」
一言だけ告げて、渦の中へと飛び込んでいった。




















魔法の渦の中は、言い表すのならまるで暴風雨のようで

攻撃性の高い魔法呪文が四方八方を高速で飛び交っていて

顔の横をすり抜けていく瞬間はまるで亡者の叫びのようで

一瞬でも気を抜いたら魔物に命を喰われるような気がして

瞬きすることすら許されず

苦しいぐらい呼吸は速く



ほら、獲物を見つけた魔がやってくる



『インセンディオ 燃えよ』



声が聞こえた。向かい来る炎上呪文。ぶつかる寸前では杖を構え、口早に反対呪文を唱えた。
「アグアメンティ!」
杖先から水を噴出し、襲い来る炎を相殺させる。上手くいったと思った。だがそれは失敗だった。
火と水の衝突で生まれた大量の水蒸気が辺りを包み込み、何もかも見えなくなってしまった。
(しまった・・・っ)
は杖のない方の腕で口元を覆う。そして、先程自分にインセンディオを唱えた者の声を思いだし、苦々しい表情を浮かべた。
(あれは、・・・私だ・・)
それは確かに自身の声だった。
あの日、に向けて唱えた暴発呪文。それを形成する呪文たちが今暴れ回り、自身に襲いかかってきているのだ。
「まさに自業自得、ね・・・」
自嘲するしかない。自分自身を嘲笑し、は杖を構え直した。
水蒸気が晴れる。次の瞬間、二つ目の呪文が正面からに襲いかかってきた。



『ステューピファイ』



麻痺呪文。対して効果があるのは、
「プロテゴ、護れ!!」
は杖を横に構えて両手で麻痺呪文を受け止めた。押し返されないように両足を踏ん張る。
ぶつかり合った2つの呪文が音を立てて弾けた。頬を汗が流れ落ちる。
ホッとした瞬間を、3つ目の呪文が狙って待っていた。



『エクスパルソ』



爆発呪文が背後から襲い来る。の杖は構えられていない。
「しまっ・・!」
目を瞑る暇もなく、火の玉のような呪文がの右肩に直撃した。
少女の黒曜石のような両眼が見開かれる。そして、の悲鳴が渦の世界に響き渡った。
























「果たして上手くいくじゃろうかの」
保健室の椅子に腰掛け、ダンブルドアはベッドに腰掛ける―――オリヴィアに問いかける。
が行動を起こしてから3日目の朝だった。外は晴天、優しい風がカーテンを揺らす。
オリヴィアはの姿でふわりと笑ってみせた。
「大丈夫ですわ、あの二人なら。とスネイプ教授の血を引いているのですから」
オリヴィアは自信ありげに答える。ダンブルドアも同じ考えらしく、白い髭を揺らした。
「それに、今回の件で何かが劇的に変わるかもしれませんわ」
オリヴィアは窓の外を見やり、優しい笑顔を浮かべた。風が銀色の髪を揺らす。オリヴィアが何を見守っているのか、ダンブルドアにも予想はついていた。
「ほっほっ。未来を見通せる君のことじゃ。もう全て視えているのではないのかね?」
早く答えを知りたい子どものような顔をする校長に、オリヴィアは首を傾げて微笑む。
「初めから最終回がわかっている物語など、何の面白みもありませんわ」
だから、秘密です。
オリヴィアは唇に人差し指を押し当てて自身の言葉を封印する。ただ、少しだけチャックを緩め、
「大丈夫。すべて上手くいきますわ。愛し合うあの二人の子どもたちが、愛を知らないはずがありません」
それだけ告げて、また鍵をかけた。
そして、幸せそうに空を見上げて微笑んだ。を愛する魔女の、の幸せを願う微笑みだった。



3日が経過した。
の行動は、すでに周囲の人々にも知れ渡っていた。
スリザリン寮内でが暴発させた魔法がを襲い、はずっと気を失っており、彼女を回復させるためにが魔法の解読を行っている。
物議を醸しそうなところのみ都合良く省かれた、ていの良い噂だった。
だが、を非難するのには十分すぎる噂だった。
ってあれでしょ?結構前にマルフォイに魔法をけしかけたっていう)
(あぁ、覚えてる!そんなこともあったわね)
(一時期、スリザリン内でも省かれてたらしいよ)
、かわいそう・・・。ずっと保健室で寝てるらしいよ)
(あいつの身体が透けてるのって、を攻撃した反動なんだろ?)
(それで、双子の君にも影響が出てるの?なぁに、それぇ)
(で?を助けるために、今度は自分が怪我してるって?)
(なんか、すごい怪我して、血まみれで部屋から出てきたこともあるらしいよ)
(は。自業自得だろ、そんなの)

「・・・・・」
嫌な噂ほど聞きたくなくても耳に入ってくるものだ。
噂通りの透けた身体のはスリザリン寮テーブルの隅で朝食をとりながら、聞きたくもないひそひそ話を耳に入れ、聞いていない振りをし続けた。
数日前までのなら、自分への陰口など絶対に許していないだろう。杖を構えて、悪口を言った奴に根こそぎ魔法をかけていただろう。
今それをしないのは、魔法を使うだけの体力も気力もないことも理由だが、それ以上に自身が自分の心に制限をかけられるようになったことが大きい。
自分が何かすれば、兄であるにも迷惑をかける。兄への想いがの怒りを抑制していた。
は紅茶にいれる砂糖をとろうとして腕を伸ばし、そして肩に走る激痛に眉をしかめた。
(いた・・・っ、・・・不便ね)
見えないように隠しているが、前髪で隠れる額には白い絆創膏が貼られている。服で見えないが右肩と左手首、左大腿骨に包帯が巻かれていた。
満身創痍。の身体はたった3日でボロボロになっていた。
それでもに掛けられる労いの言葉はなく、あるのは上のような陰口ばかり。
―――こんなに身を削ってやってるのに、なんで悪態ばかりつかれなきゃならないわけ!?
以前のなら、自分可愛さにそんな我が儘を言っていただろう。
けれど、今は違った。それは、一緒に戦ってくれるがいるから。
。食べ終わったかい?」
先に朝食を終えたがグリフィンドール寮テーブルから迎えに来てくれた。
は周りの厳しい視線に当てられながら席を立ち、二人は大広間を後にした。
「傷は痛む?」
廊下を歩きながらに問いかける。心配そうなに、は口角を上げて強がりを言った。
「大丈夫よ。致命傷はないし。なんてことはないわ」
「我慢はいけないよ。強がっても、怪我は良くならない」
「わかってる」
「本当に?に血まみれで帰ってこられる僕の気持ちも?」
「わかってるわ。のおかげでこの程度で済んでいることもね」
は並んで歩くに視線を投げ、笑ってみせる。の顔が驚きに変わる。のそんな真っ直ぐな笑顔、久しぶりに見た。
何かがを変えているのだろうと思った。そしてその要因が自身であることなど、彼が知ることもない。
「今日は土曜よ。授業を気にせず、一日時間を掛けられるわね」
は形の良い眉を上げ、すでに気持ちは戦闘態勢に入っていた。普段は午前中の授業に出て、午後は授業を免除してもらって呪文解読に当たっている。
だが、の言葉に眉をしかめる。
「駄目だ、丸一日なんて。、君の身体がもたないだろう」
「あら、大丈夫よ。心配しすぎよ、は」
「いや、半日にしよう。それ以上は駄目だ」
「もう、平気だって言ってるのに」
傍から見たら平穏な兄妹喧嘩を続けながら、二人は廊下を進んでいく。
そして、薄暗い廊下の隅で足を止めると、何もない壁に向かっては杖を掲げ、見えない部屋を開く呪文を唱えた。



そんな二人の話を大広間からずっとついて聞いていた人物がいる。ドラコだ。
ドラコは見えない壁に呪文をかけて隠し部屋に消えていく二人の姿をただ見つめていた。
(なるほど。そういうことだったのか)
合点がいった顔でため息をつく。ようやくの周辺の事情を知り、納得したようだった。
の呪文で失神し、を保健室に運び込んで、その直後にがゴーストになって現れて。
それ以降、ドラコはの身辺状況をまったく知らされていなかった。保健室に行っても面会謝絶を言い渡され、どういうことか入れてももらえない。
あれ以来、ゴーストのにも会っていなかった。
が魔法解読のために図書室に籠もっているはずが、図書室で見かけたのは最初の数日だけ。それ以降は夕食後にも図書館にいる姿を見ず。
嫌々言いながらに連れて行かれたのことだから、途中で投げ出したのではないかと憶測し、苛々していた頃だった。
ドラコは二人が消えた壁の前に立ちつくす。
「・・・あいつらなんかに、を救えるのか」
猜疑心でいっぱいの顔で壁を睨み付ける。
ドラコが苛つく原因は、彼自身にもあった。があんな状態になったのは、元はといえば自分との喧嘩が原因なのだ。
それなのに、ばかりが動き回り、原因の一人である自分はただ見ているだけどころか何も知らされず。
「ちっ・・・」
面白くないし、納得もいかない。だからといって邪魔できるわけもなく。
自分にできることはないのかとドラコは悶々とするしかなく、壁を蹴っ飛ばしてきびすを返した。





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