ドリーム小説


「あなた、・・・一体誰よ・・!?」
床を後ずさりしながら睨み叫ぶに、「の姿をした何か」は優雅に口角を持ち上げて微笑んでみせた。
「無礼ね。人に訊ねる前に、自分から名乗るのが礼儀ではなくて?」
深蒼の瞳を細めては妖しく笑う。そんな笑い方、は絶対にしないとも知っていた。頬を汗が流れ落ちる。
「気の強そうなお嬢さん。あなたのお名前は?」
相手は血の気のない蒼い顔をした少女なのに、目に見えない重圧に圧されてしまう。の喉を音を立てて唾が落ちる。
・ダンブルドアよ・・・」
目の前の少女から目をそらせず、蒼い瞳を見つめたまま、今ここで生活する上での名前を名乗った。女はにやりと笑って、
「嘘おっしゃい」
ぴしゃりとの嘘をはね除けた。





□ 魔女の条件U 〜The Adventure of Lovely Twins〜 <19> □





清楚で可憐なとはまったく異なる、それは別の生き物だった。妖艶に眼を細めて微笑み、少女は起きたばかりでまだ血色の悪い唇を薄く開く。
「悪戯好きの妖精さん」
の姿をしたそれは、妖しく小首を傾げてを見つめて、驚くようなことを言った。
「わざわざ時空を超えてまでやってきた、あなたの“本当のお名前”は?」
「・・な・・・っ!」
は驚きに両眼を見開く。そして、怖れに満ちた視線をに向けた。何故この少女は自分の秘密を知っているのか。は戸惑う。焦る気持ちは黒い目によく現れ、視線があちこちに泳いでいた。もう一度、「名前は?」と問われ、目の前の少女が放つオーラに逃げられないことを察し、観念しては本当の名を告げた。相手を威嚇するように眉を上げ、やや下から睨むように見据え、
、・・・シルバニア・スネイプ」
「スネイプ・・・。ふぅん」
少女は楽しげに眼を細め、歌うように相づちを打った。そして、
「あの陰湿な教授の娘にしては顔立ちが随分と綺麗なのは、の血が濃いせいかしら?」
「・・・・!!」
今度こそ本当に、は心底驚愕し、恐れおののいた。肩が竦み、ごくりと息をのんだ。たった一言。自分の名前を名乗っただけなのに、目の前のこの少女はの全てを理解してしまった。は全身が総毛立つのを感じた。
(な、・・なんなのよ・・・っ)
今すぐこの場を逃げ出したいと思った。これ以上何か情報を与えれば、この少女に自分の全てを、心の奥底までを知られてしまうような気がした。だが、勿論の心中などすでに少女は手に取るようにわかっていた。
「逃げだしたい?この私から、早く離れたいのでしょう」
「・・・・っ」
「そうよね。母親の身体に入った得体の知れない化け物にいろいろと探られて、気味が悪いに違いないわねぇ」
「・・な、・・・なんなのよ、あんた!」
「あらあら。の娘にしては随分と口汚い言葉を使うのねぇ」
がっかりだわ、と少女はため息をつく。目の前の少女を気味悪く思いながらも、は言われた言葉にギリリと歯を軋ませた。こんな得体の知れない者にまで、自分のコンプレックスを突かれて傷つく自分が惨めで仕方なかった。

そのときだ。自分の身体に何かが起こっていると異変を感じ取ったゴーストのが、天井を浮遊して保健室にやってきた。は保健室に入るなりおかしなことに気付き、目を見張った。ついさっきまでベッドに横になっていたはずの、『動かないはずの自分の身体』が上半身を起こしてと話をしているのだ。いや、よく見ると話をしているのとは違うようだ。2人の間に穏やかな雰囲気はない。は歯を軋ませ、睨むようにの身体を見ている。一方で起きあがったの身体は、自身も知らない妖艶な笑い方で微笑んでいた。

"え・・・!?"

が驚きの声をあげると、の身体もゴーストのの方を向いた。は、飛んできたゴーストの自然な驚きと振る舞いに、やはり肉体のは偽物だと確信する。そしてゴーストは、勝手に動いている自分の身体を不可思議な気持ちで見下ろした。彼女の身体に入った何者かは、驚き慌てるゴーストのを見上げ、に向けるのとは違う優しい笑顔で告げた。
「久しぶりね、。ちょっと身体借りてるわよ」
その気さくな物言いに、は「え?」と声を上げて肉体と精神体のを交互に見やる。まるで知り合いのようなやり取りだ。そしてゴーストは、謎の少女の言葉と笑い方と、それから自分の身体であるとはいえ、彼女が放つ高貴なオーラに、彼女が何者であるか、推して知る。半透明のの顔に、じわじわと笑顔が浮かんでいく。

"オリヴィア、さん・・・?"

半信半疑のの問いかけに、肉体のは正解と言うように口角を高く上げて笑って応えた。ゴーストのは弾けるような満面の笑みを浮かべ、天井近くから彼女―――オリヴィアの元へと急降下した。生身のと半透明のが向かい合う姿は異様ではあった。同じ形の人間が向き合っている。だが、笑い方も口調も異なる2人は向き合って話をしていても、まるで別々の人間が話をしているようで違和感が感じられなかった。
「大変なことになったわねぇ」

"オリヴィアさん、どうして・・・突然・・・"

再会が嬉しいのと突然の登場に訳が分からないのと半々で、は眼を白黒させてオリヴィアを見つめる。オリヴィアはの身体を借りてにっこりと笑った。
。あなたを助けに来たのよ」
オリヴィアはゴーストのの頬をするりと撫でるように指を動かし、もう一度、自信に溢れる優雅な笑みを浮かべた。

それは、かつての命を救った運命の預言師
オリヴィア・ローレンスの帰還だった







事態の急変を知らされた者たちが続々と保健室に呼ばれ集まった。―――精神だけの身体に入ったオリヴィアのベッド周りにスネイプとダンブルドア、マダム・ポンフリー、それにがいた。オリヴィアがの中にいることは知らされたが、まだ慣れないスネイプとマダム、は戸惑いの表情を浮かべていた。ただ一人、ダンブルドアだけは納得した顔でいた。
「ご無沙汰しておりますわ、校長先生」
「おぉ、よく来てくれた。オリヴィアや」
ダンブルドアは教え子の再来に笑顔で頷く。そして、オリヴィアの再来はダンブルドアが彼女に声をかけたからだと皆は知らされた。
「今のこの状況を変えるには、オリヴィア。君の力が必要じゃ」
の魔法解読が済むまでの肉体を保つには、誰かに『の身体に入っていてもらうこと』が最良と考えた。それで、ダンブルドアはと繋がりの濃いオリヴィアに依頼した。オリヴィアはの顔でにっこりと微笑む。
「あなたのご命令なら何なりと。それに、のためなら私は何処へでも飛びますわ」

"オリヴィアさん・・・"

オリヴィアの言葉にゴーストのの顔にじわじわと笑顔が広がっていく。溢れるような嬉しさをどう伝えて良いかわからない。オリヴィアはの気持ちを十分に理解し、彼女に向かってにこりと笑うと、それからスネイプへと視線を送った。スネイプはの顔をしたオリヴィアに見つめられ、どんな顔をしたらいいかわからずにいた。それを面白がるようにオリヴィアはくすくすと笑う。
「ご安心を。が元に戻れるように、できるだけのことを致しましょう」
オリヴィアはスネイプを見つめながらも、全員に向けて力強く言った。それにほぼ全員がホッとした顔をした。ただ一人、だけは不満そうに眉をつり上げ、怒り肩でオリヴィアを睨み付けていた。
「き、気味が悪いわ・・・!」
希望に向かいそうな雰囲気をぶちこわすの叫び。皆が彼女の方を向く。たくさんの眼に見つめられ、は一瞬怯むも、強気な態度をとり続けた。
「私たちの力だけで解決できるわ。こ、こんな得体の知れない人の助けなんて必要ない・・・っ」
は自身の高い魔法力や成績に自信があった。プライドを保たんと虚勢を張る。だが周りから見れば、それは最早自分の力を過信する者の見苦しい強がりでしかなかった。オリヴィアは眼を細めてを流し見、不敵に笑う。
「あら、図々しい子ね。さっきは助けて欲しいようなことを言っていたくせに」
「な、なによ!」
の耳がぼっと赤くなる。一瞬でも助けを請うようなことを言ってしまったことを後悔する。揺らぐの虚勢に、オリヴィアはぐさぐさと針を刺していった。
「自分の我が儘で時空を超えてきたのでしょう。そのくせ帰るべき未来の危機を自ら作り出しておいて、その責任も満足にとれない。 それでも強がりを言うのだけは一人前なのね」
そしてオリヴィアは、にだけ聞こえるぐらいの小さな声で追い打ちをかける。
「よく穢れなきのお腹からこんな子が産まれたものね」
その言葉に、の表情は今までで一番強張った。彼女のプライドを一瞬で砕く言葉だった。カッとなったは拳をきつく握りしめてオリヴィアに怒鳴りつけた。
「ママと比べるのはやめて・・・っ!!」

そんな台詞、未来では嫌と言うほど言われ続けてきた
をよく知る大人たちから
蔑むような眼で見据えられ、言われ続けてきた
優しく、気高く、誰からも愛されるに対して
なんて可愛げがない娘なのだろうと
そんなわかりきったこと、過去の世界でも言われるなんて

はぎりりと歯を食いしばり、床を凝視する。
(どうせ誰からも、)
「どうせ誰からも愛されないと思っているのでしょう?」
「!?」
の醜い心の声などオリヴィアにはお見通しだった。心を読まれたことには目を剥き、オリヴィアを見つめる。の方を見てにやりと嗤うオリヴィアに、は顔をクシャクシャにして悔しさと嫌悪を露わにした。
「本当に気味が悪いわ・・・。私、あなたのこと嫌いよ!」
!」
あまりに直接的な物言いに、兄であるが牽制する。だがオリヴィアは気にした様子もなく、くすくすと笑っていた。
「あら。随分とはっきり言うのね。正直な子、私は好きよ」
明らかな子ども扱いに、は「ふん・・!」と鼻息荒くそっぽを向いてしまった。

の我が儘な発言に止まってしまった議論をオリヴィアは静かに再開した。
「さてと。では話を戻しましょう。の魂を身体に戻す方法ね」
「今現在、が呪文を解読中じゃ」
ダンブルドアが近況を説明する。オリヴィアは静かに頷くと、宙に浮くに視線を送った。
「他にも試す価値のある方法はいくつかありますわ」

"え!本当ですか?"

の胸に期待が満ちる。オリヴィアは宙に浮かぶに手招きをした。呼ばれたはふわふわと揺れながらオリヴィアのところへ。自分の肉体の横に腰を下ろした。オリヴィアはを見つめて微笑むと、それから少し離れたところにいるスネイプにも笑みを送った。
「・・・なんだね」
オリヴィアの笑みに、スネイプは嫌な予感しかしなかった。楽しげな彼女の笑みは、悪戯を試みるウィーズリーの双子の笑みに似ていた。果たして、スネイプの勘は当たっていた。
「一番は、やはり結合でしょう」
オリヴィアは流れるように告げる。だが意味がとれず、皆が首をかしげる。
「愛する者同士の身体の結合。身体を繋げることで相手に自分の存在を高めてもらい、魂を引き戻すのです」
「・・・・・」

"・・・えっと・・・つまり・・・"

きょとんとするのはゴーストの。意味が理解できず、まだ首をかしげている。一方でスネイプは理解したようで、渋い表情を浮かべ、顔をそらした。オリヴィアはにっこりと甘い笑顔で、にわかりやすく説明した。
「つまり、セックスするってことよ」
の顔で、の声で告げるその言葉は、純情可憐な彼女のイメージに合わず、ひどく違和感があった。ゴーストのは衝撃的な言葉に、"セ、・・セッ・・・!?"と声を上ずらせていた。生身の身体であれば、間違いなく首から上が真っ赤になっているのだろう。近くで話を聞いていたもうっすらと頬を染め、それより離れたところにいるは信じられないという顔をしている。それに構わず、オリヴィアは更なら衝撃をに告げた。
「だからこの場合はスネイプ先生と、の代わりに私が身体を繋げればいいのかしらね」

"へ・・・?"
「・・・・・」(スネイプ)
笑顔のオリヴィアに、の眼が点になる。スネイプは無言で口元を手で覆い、顔を背けた。数秒後、意味を理解したの絶叫が保健室に木霊する。

"え?え、・・・えぇぇーーー!?セッ・・?!えぇーーー!??"

ゴーストのはずなのに、の顔が真っ赤に染まっているのがよくわかった。何を想像したのだろう。どことなく蒼い目も潤んでいた。

"ス、ス、スネイプ先生と、オリヴィアさんが・・・!?"

「あら、駄目かしら?安心して。身体はのものよ。まぁ、感じるのは私だけれど」
笑顔ですごいことを言うところは在学時代と変わりない。校長と保健医がいることも気にせず堂々とする姿は、彼女らしいといえばらしい。慌てるを尻目に、オリヴィアはスネイプの方を向き、の身体と顔で薬学教授を誘う。
「ねぇ、スネイプ先生。一晩いかがですか?」
まるで娼婦のような笑い方は、にはまったく合っていない。その笑顔も誘い文句も、すべてオリヴィアが楽しんでやっていることだ。素直で純情なをからかってやろうという悪戯心がむき出しだ。そんな簡単な策略に引っかかるのはばかり。ゴーストのは今にも泣きそうな顔で両頬に手を押し当て慌てていた。流石のスネイプも呆れながらため息をついて、
「・・・丁重にお断りさせていただこう」
オリヴィアをあしらった。オリヴィアが「あら。残念ですわね」と笑顔で言うから、は余計に不安そうな顔になる。オリヴィアに嫉妬する恋人の慌てふためき様は可愛らしいが、これ以上いじめてやるのは可哀想だ。スネイプは、「(を)からかうな」とオリヴィアに短く告げ、彼女もまた楽しげに笑ってぺろりと舌を出すのだった。
一つ目の解決法が却下され、希望の道が一つ閉ざされた。だがオリヴィアの策は尽きることがないようで、
「ならば、もう一つの道を提示いたしましょう」
ゆったりとした口調で新たな道を皆に指し示す。だが、オリヴィアが導くもう一つの解決方法は、とても突飛なものだった。オリヴィアは静かに首を傾げ、遠くにいる人物に視線を投げる。

の声に乗せて、オリヴィアはの名を呼んだ。
「え・・・」
呼ばれた本人も、まさか自分に矛先が向けられるとは思ってもいなかった。先程「嫌い!」と宣告した相手に名を呼ばれ、は不機嫌を露わに片眉をぴくりと上げる。託宣の魔女に選ばれたへと、皆の視線が集中する。は居心地悪そうに視線を泳がせる。
「・・・な、何よ」
警戒心を最大にオリヴィアを睨み付ける。オリヴィアはにっこりと微笑み、へともう一つの道を提示した。その内容を聞いたは、不機嫌になるどころか、頬を引きつらせて笑うことしかできなかった。





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