ドリーム小説



皆がのことを心配していたのだ。仮死状態で、このまま目を覚まさなかったらどうしようと。
それなのに、との再会がこんな形になろうとは、一体誰が予想できただろう。





□ 魔女の条件U 〜The Adventure of Lovely Twins〜 <17> □





ふわふわと宙に浮く、可愛らしい銀色のゴースト。
半透明のの姿を見上げる皆の顔には、だが喜びよりも戸惑いと不安の色が色濃く浮き出ていた。それもそうだ。現れた彼女は銀色の半透明のゴースト状態。誰もが不安に表情を曇らせ、同じことを思う。
―――それはつまり、が死んでしまったということを意味するのではないか
思ってはいても、誰も怖くて口にすることなどできずにいた。それはスネイプも同様で、普段から血色の悪い顔に更に絶望が混じる。
だが、そんな不穏な空気を打ち消したのは、他でもない本人だった。

"あの、・・・皆さんきっと同じことをお考えかと思いますが。私は「死んだ」わけではないようです"

「え・・・!?」
の言葉にドラコは驚きの声をあげる。スネイプも「どういうことか」と焦る気持ちが表情に良く出ていた。
「何故そう思うのじゃ、
ダンブルドアがに声をかける。ふよふよと宙に浮くは、空中でダンブルドアの方へと体の向きを変えた。銀色のローブがまるでオーロラのように揺れる。

"首なしニックさんと血まみれ男爵に言われたんです"

自分がゴーストの姿になってしまったと気付いたのは、魔法で倒れた数十分後のこと。だがそのときにはもう、魔法を受けたの身体は保健室に運ばれていた。
ゴースト状態になったは不安と恐怖に押しつぶされそうになりながら校内の天井を浮遊していた。そのとき、血まみれ男爵と首なしニックに会い、彼らの助言を受けたのだった。はじめは、
"おぉ、これはこれはスリザリンの姫君ではありませんか。なんと・・・その若さで我々の仲間に?"
と、ニックに歓迎されそうになったが、をまじまじと見ていた血まみれ男爵は、何かが違うことに気がついた。そして、不安に怯えるに助言をした。

"「君からは死の匂いがしない。魂が抜け出ただけだ」と。男爵にそう言われました"

「魂が抜け出ただけ・・・?」
スネイプはの言葉を繰り返す。だが、その意味がよくわからなかった。そんな話、聞いたこともない。ドラコやたちも同様に首をかしげていた。
だが、ダンブルドアこの人だけは違った。落ち着いた様子で、「なるほどのぉ」と長く豊かな顎髭を撫でつける。豊富な知識と経験を携えた最高の魔法使い。スネイプはダンブルドアの力にすがった。
「校長、何かご存じで。ならば、是が非でも貴方の知恵をお借りしたい」
「ふむ」
「ゴーストたちがに話したことが本当だとして、どうすれば彼女は元の姿に」

"・・・スネイプ先生"

真剣な表情でダンブルドアに助言を求めるスネイプの姿を、宙に浮かぶは上から見下ろした。複雑な心境だった。
こんな姿になる前、スネイプと最後に交わした会話は喧嘩話だったのだ。あれきり、二人の関係は何も変わっていない。今もきっと、スネイプはを許していないはずだ。それなのに、こんなにも一生懸命自分が元に戻る方法を探してくれている。
寮監として、自寮の生徒を守る教師としての義務に徹しているだけかもしれない。スネイプの本音が見えず、は宙に浮かび、スネイプの背中を見下ろしながら、哀しみに眉尻を下げる。
小さな期待をして問いかけた。だがその期待に反し、ダンブルドアの答えは同じだった。
「方法は変わらんよ」
が使った魔法を紐解くしかない。そうダンブルドアは言う。
「だが、それ以上に問題なことがある」
「問題?それは一体・・・」
緊張感が走る。話をしているのはスネイプとダンブルドアだったが、周りにいる皆が同じ不安を共有していた。ドラコももマダムも。そして、宙をさまよう自身も息をのんで待つ。
「ふむ。じっくり呪文の解読を行う時間はあまりなさそうじゃ。の身体から魂が抜け出てしまった今、今そこに横たわる彼女の身体は単なる肉の塊に過ぎん」
「・・・・・」
「に、・・肉の・・」

"・・・・・"

生々しい表現に、皆の表情が歪む。特に意外と繊細なドラコは、顔色を蒼くしている。
の精神はゴースト状態のまま死ぬことはあるまい。じゃが、このまま日が経てば、彼女の肉体の方が腐っていってしまう」
「そんな・・・」
「・・・う・・」
肉体が腐るという嫌な表現に不快なイメージを浮かべてしまい、スネイプは眉を寄せ、ドラコは蒼い顔で口元を押さえた。
だが、やはり一番不安そうにしているのは、身体の持ち主である本人だった。もはや泣きそうな顔で、ダンブルドアを見下ろしていた。

"校長先生、・・・私には何かできることはないのですか?"これは私の問題です。私にもできることがあるのなら、何でもやります"

自分にも何かできるなら、全力で協力したかった。
がこんなことになってしまったのは全てとドラコの喧嘩、そしての魔法のせいだというのに、はそんなこと少しも非難しない。自分のことで皆に迷惑がかかることに気をやるの心優しさに、皆が胸打たれた。
だが、ダンブルドアは無情にも首を横に振るのだった。
「無理じゃ、こればかりはの。解除できるのは、魔法を仕掛けた本人にしかできんよ」
「本人・・・。つまりは、」
スネイプ、ドラコ、、マダム、ダンブルドア皆が同じ方向を向く。宙で浮遊するも、少し気にしながら彼女の方を向いた。
「な、・・なによ」
ベッドの上に座るは皆からの何か言いたげな視線を受け、綺麗な眉をつり上げ、敵意を剥き出しにする。勿論、みんなが何を言いたいかは理解していたが、受け入れるのとは別だった。兄であるが、静かな声で諭すようにを呼ぶ。

「なに?なんなの?・・・私に、魔法解読をやれってこと?」
「わかっているのなら話は早い。大した怪我もしていないようだし、早速今から図書室に行って始めよう」
「な、何言ってるのよ!そんな突然・・・。あんたも見たでしょ、あの複雑にこんがらがった魔法を!」
「大丈夫。僕も手伝うさ」
「そういうことを言ってるんじゃないわよ!なによ、・・・なんで私が、」
・・・まさか、本気でそんなこと言っている訳じゃないだろうね」
「・・・・・っ」
を見る・・・いや、睨むの目は、冷たさを通り越して、絶対零度の刃に近かった。の背中をぞわりと恐怖が駆け上っていく。17年もともに生きてきて、のこんな冷たい目を見たことはない。
を、本気で怒らせたのだと気付く。
我が儘を言い続けていたも従わざるを得なかった。それでも不満が消えたわけではないが、は俯き、下唇をきつく噛んで、
「・・・・・・・わかったわよっ」
悔しげな声でそれだけを言うと、それ以降ずっと口を閉ざした。

を連れて図書館に行くと皆に告げた。兄の威厳に負けたは不機嫌な態度と表情で、に背中を押されて保健室を後にした。
は去り際、保健室の入り口で後ろを振り向き、
さん」
ふよふよと宙に浮く銀色のに視線を送った。
妹の、―――あなたの娘の失態を、僕が代わって謝ります
口に出して言うことはなかったが、はその想いを伝えるようにに向かって哀しげに微笑んでみせた。そしてに、ダンブルドアとマダムに、ドラコに、・・・そしてスネイプに順に小さく頭を下げ、
「必ず、解除呪文を見つけ出しますから」
一言だけ。静かな、だが力強い声を残し、きびすを返して保健室を去っていった。
そのすぐ後に、ダンブルドアもまた何かを調べるために保健室を出て行った。マダムはドラコに声をかけ、の衣服などを保健室に運ぶ手伝いにと彼を連れてスリザリン寮へと向かっていった。
残されたのはベッドに横たわるの身体と、宙をさまようの精神体と、スネイプのみ。おそらくはダンブルドアもマダムもドラコも2人に気を遣って2人きりにしてくれたのだろうが、まさかただいま喧嘩中ですとも言えず、
「・・・・・」

"・・・・・"

取り残された2人の間には何とも言えない気まずい空気が流れていた。静まりかえる保健室。痛い沈黙を先に破ったのは、ゴーストのだった。

"スネイプ先生・・・"

目線よりも高いところを飛んでいたは、スゥッと音もなくスネイプの目線にまで降りてきた。スネイプは半透明のと一度だけ目を合わせ、すぐに自分から目をそらしてしまった。が気にしているのがわかったが、それも見て見ぬふりをした。

"こんな状況で不謹慎かもしれませんが・・・。先生・・・、怒ってらっしゃいますか?"

は言いにくそうに小さな声で呟く。"私と、の噂のこと・・・"と。それが最後の喧嘩の原因だった。
何故今のこの状況でとスネイプは眉間に皺を刻む。は哀しげな顔で俯き、それでも自分の気持ちを伝えようと試みた。

"すみません、今更蒸し返すような話題を出して。でも、・・・がうまく解除呪文を探し出せるか、保証などないから・・・"

「・・・・・」
たちを信じていない訳ではないが、でもこんな状況ではどうしても最悪の事態を考えてしまう。
何も言わないスネイプ。自分を見てもくれないスネイプに、は今にも泣きそうな顔で小さく笑った。

"このまま、お別れになるかもしれませんから・・・。だから、・・・最後に喧嘩したままなんて、嫌なんです"

それは、永遠の別れになるかもしれない。覚悟しなければならない。ゴースト状態でも哀しむ心は一緒だ。銀色のの目尻に、小さな雫が浮かぶ。
スネイプはそれを横目で確認し、そしてまた目をそらし、小さなため息をついた。面倒くさいと思われたのかもしれない。の心が軋む。

"先生、あの、"

「噂は本当かね」
スネイプがようやく口を開いた。それは厳しい口調で、最後に別れたあの時と同じ声で、まるで喧嘩の延長のようだった。は宙に浮きながら僅かに怯んで一歩退く。
やはりスネイプは許しくれてはいない。がこんな状態でも、同情して許してくれることなどないのだ。厳しい恋人に、は唇を薄く噛んだ。だが、
「君の言葉だけを信じよう。だから、本当のことだけを言いたまえ」

"え・・・"

は顔を上げる。スネイプと目があった。それは睨むような目ではなく、厳しさはあったがそれはいつものこと。スネイプは真っ直ぐにを見つめ、向き合っった。
と君が恋人同士だという噂を聞いた。君たちが抱き合い、熱く口付けるところを目撃したと」
その噂話を自ら口にするだけで自然と眉間に皺が寄るのが自分でも分かった。スネイプはできるだけ自身の心を落ち着かせながら問う。
「君のことだから、君から進んでしたことだとは思っていないが」
ふぅと落胆のため息をつき、ちらりとを見やる。は自分から望んでとキスしたのかと虚偽の罪を問われ、焦りながら首を横に振った。銀色の光が揺れる。

"あ、当たり前です・・っ。・・・でも、先生と喧嘩別れをして動転していて、冷静さを欠いていたのは確かです。のせいだとは言えません・・・、私にも責任があります"

は頭を垂れる。スネイプはそんな姿にまたため息をついた。は昔から自己犠牲の観念が抜けない。誰かのせいにすることなど、きっとこれからもずっとしないだろう。だが、のそんな性格を面倒だと感じたことはスネイプは一度もない。
「残念だ」
あからさまな失望の言葉に、は涙が零れそうで瞼を閉じることができなかった。後ろ手に組んだ両手をギュッときつく握りしめる。

"・・・・・ごめんなさい"

スネイプを相当怒らせた。肉体の死を待つ以前に、もうここでお別れになるのかもしれないと覚悟を決める。だが、の予想とは違う返事が返ってきた。
「君がゴースト状態なのが非常に残念だ」

"え・・・?"

涙を浮かべた両眼で再びスネイプに顔を向ける。スネイプは厳しいと言うよりも、ふて腐れているような不機嫌な顔をしていた。
「君を抱きしめて、キスして。あの悪ガキの唇の感触を消してやることもできん」
そういって目を閉じて、めんどくさそうにため息を零す。それはまるで恋人を盗られて嫉妬する年若い少年のように。

"な・・っ。スネイプ先生、何をこんな時に冗談を、"

は状況を忘れて思わずいつもの調子でスネイプに言い返した。だがスネイプは、
「冗談などではない。我輩はいたって真面目だ」
しれっとした態度でそう言うと、を横目で見つめ、―――にやりと口角を上げて笑った。

"(あ・・・)"

それは久々に見せてくれた、スネイプの不敵な笑みだった。思わずの目から涙が引っ込む。
それはむしろ懐かしくさえ思えた。スネイプがこうしてに向けて笑みを見せてくれたのは、一体いつぶりだろう。が現れてからというもの、二人のことに苛々しっぱなしで、こうして穏やかな時間を共有できたのは本当に久しぶりだ。
ゴースト状態なのも忘れて、思わず緩んでしまった気持ちが顔に表れていたようだ。
「何を笑っておる」
スネイプが片眉を上げて訝しむ。は、今度は別の意味で涙がこみ上げてきた。

"いえ・・・、なんだか嬉しくて。ごめんなさい。こんな状況なのに、おかしいですよね"

にっこりとスネイプに笑いかける。
スネイプもまた、の優しい笑顔を見るのは久しぶりだった。愛しさが募る。

スネイプは愛しい恋人の名を呼び、スッとゴーストのに向かって右手を伸ばした。触れることなどできない。そこには感触も、温度もない。それでも透き通るの頬に手のひらを押し当てた。
「疑ってすまなかった」
スネイプは片眉を下げ、自分が愚かだったと自嘲気味に笑む。はゆっくりと笑顔を作り、首を横に振り、"私も同じです。ごめんなさい"と告げた。スネイプの低い体温を感じられない、このもどかしい身体を恨んだ。
「愛している。君だけだ、

"私も。先生、・・・貴方だけを愛していますから"

もう一度、愛を誓おう。
スネイプは左手も彼女の頬に添え、触れられないの身体を引き寄せた。スネイプよりも少しだけ目線を高く宙に浮いたは、ゆっくりとスネイプに顔を近づけていく。
感触も、温度もない。けれど、決して薄らぐことのない愛のあるキスをした。
は請う。「元に戻れたら、まず最初に先生のキスが欲しい」と。それにスネイプが不敵に笑って応えたことは言うまでもない。





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