ドリーム小説


どうしてだ
魔女の呪いは解けたはずなのに
どうしていつも
彼女ばかりが命の危機に晒されるのだ





□ 魔女の条件U 〜The Adventure of Lovely Twins〜 <16> □





用がなければ生徒は近づこうとすらしない地下牢に続く研究室。冷たく暗い雰囲気が、そこに住む住人を思い起こさせる。
そんな場所に血相を変えてやってきたスリザリン生は、スネイプの研究室の扉を叩き、荒い息で早口に寮であったことを寮監に告げた。断片的に話を聞いたスネイプは皆まで聞かず、慌てて保健室を目指して駆けだした。
冷たい廊下を駆け抜けながら、スネイプは数年前と同じ感覚に恐怖を感じていた。
3年前の悪夢が蘇る。
―――『あの時』もそうだった
ドラコが知らせにやって来て
駆けつけた保健室は大勢の人で溢れていて
マダム・ポンフリーが世話しなく動き回り
一つのベッドを皆が取り囲んでいた
ローブを翻し、急ぎ足で保健室に一歩踏み入れる。そこは、『3年前のあの時』と似た状況になっていた。違うのは顔ぶれぐらい。少女がいるベッドを取り囲むのは、ドラコにパンジー、マダム・ポンフリーにそれから、だった。奥にはダンブルドアもいる。皆一様に不安の表情を隠せない。スネイプの頬を冷たい汗が流れ落ちる。爪先を彼女がいるベッドの方に向け、一歩一歩近づく。足を踏み出すたび、鼓動が早くなるのがわかった。
「おぉ、セブルス」
「スネイプ先生!」
ダンブルドアがスネイプの名を呼ぶ。その声にドラコは反応して顔を上げ、握っていたの手を放した。
保健室を包み込む雰囲気は、3年前と同じだった。だが、状況はあの時とは少しだけ違った。あの時は、は皆に囲まれたベッドの上で上半身を起こしていた。だが今は、違う。は静かに横たわって『眠っている』ように見えた。
・・・」
白い肌は今や青白く、それはまるで死人のようだった。
(何を馬鹿なことを、・・・)
悲観的な考えにスネイプは自分を叱咤する。そしてスネイプは詳しい状況を訊こうとドラコに問いかけた。
「マルフォイ。これは一体どういうことだね。寮で何があったのか、詳しく話したまえ」
「・・・・・」
「どうした。何を黙っている。早く話を、」
「セブルス」
ドラコを問いつめるスネイプを止めたのはダンブルドアだった。スネイプは厳しい顔のままダンブルドアの方へ首を向ける。ダンブルドアはのベッドから少し離れたベッドの傍らにいた。そして、そこに黒髪の少女が上半身を起こして、ダンブルドアの影からスネイプを窺っているのが見えた。
だった。
とドラコの喧嘩がもとでにも被害が出たことは聞いていた。だが今はを叱ることよりもの心配の方が大きかった。『気を失ったまま』ののことの方が。スネイプは口を開かないドラコに痺れを切らし、何故ダンブルドアが止めたのかも追求せず、手っ取り早く話ができる人に声をかけた。
「マダム。の容態は?」
「え、・・・えぇ」
「マダム・・・?」
スネイプの問いかけにマダムも言葉を濁す。スネイプは眉間に皺を寄せて訝しんだ。よく見れば、その場にいる皆が何かを隠しているかのような顔をしていた。
「マダム、何故貴方まで黙っている。は、」
「セブルス、わしが答えよう」
困惑するマダムに助け船を出したのはダンブルドアだった。
「校長・・?」
生徒の病状を伝えるのが保健医ではなく大校長であることが不可解でならなかった。訝しむスネイプは、だが校長の次の言葉に息を殺す。
「よく聞くのじゃ、セブルス。はな、・・・・・今現在、息をしとらん」
あまりに静かな口調で淡々と告げられたものだから、スネイプはすぐには理解できなかった。だが言葉の意味を理解すると、険しい表情でダンブルドアを、マダムを、ドラコを見た。一人一人に確認するように。だが誰一人として「違う。は大丈夫だ」と言ってくれる者はいなかった。
「そんな、馬鹿な・・・・・。が・・・?」
スネイプは頬に汗を浮かべながらも、強がるように鼻で笑ってみせた。だが、それでも皆の表情は変わらない。スネイプはローブをかえし、のベッドサイドに駆けよった。青白い顔でベッドに横たわるを目を研ぎ澄まして見る。それは本当に、ただ眠っているようだった。だが信じたくない真実が確かにあった。息をすれば上下するはずの胸は静かに動きを止めていた。スネイプはの口元に手を寄せた。指先にかかるはずの吐息の感覚はなく、スネイプは絶望に満ちた表情で静かに手を引いた。
「どういうことだ・・・」
ローブの横に戻された手はきつく拳を握りしめられる。
「セブルス、落ち着きたまえ」
「何故だ・・・、何故。一体、何があったというのだ」
スネイプは厳しい口調でダンブルドアに向き直った。正確には、彼の後ろに隠れるようにいるへと視線を向けた。

「・・・・・」
スネイプの呼びかけに、はびくりと肩を震わせ、気まずげに顔をそらした。それだけでわかる。がすべてを知っていると。スネイプは眉根を寄せ、硬質な足音をわざと立ててへと近づいた。は何かを覚悟するように自分の足にかけられたシーツをきつく握りしめた。

「・・・なんですか」
「君の仕業か」
「・・・だったら、どうなんです」
はシーツを見つめたまま淡々と答えた。事態を深刻に受け止めていないかのような態度に、スネイプは奥歯を噛みしめ怒りを抑える。知っていることを全て搾り出してやろうとスネイプはもう一歩足を進め、そしてそこでダンブルドアに行く手を遮られた。
「校長、」
「セブルス。今に聞くのは止めよ」
「しかし!」
「代わりに、わしが話そう」
一言一言、スネイプを落ち着かせるように、ダンブルドアはやドラコに聞いたことを話して聞かせた。

発端はやはり二人の喧嘩であり、それを止めに入ったの魔法が当たって暴発し、結果が仮死状態になってしまった。
そんな嘘のような話を聞けば聞くほど、スネイプの表情は険しくなっていった。そして同じくも穏やかではない顔でを見てため息をついた。
話を聞き終えたスネイプは、まずをきつく睨み付けた。はスネイプの厳しい視線を感じてか、一度ちらりと横目で彼を見上げただけで、すぐに気まずげに視線をシーツに戻してしまった。
それから、スネイプはの傍らに跪くドラコに体を向けた。ドラコはスネイプに見下ろされ、覚悟を決めて床を見つめた。
「マルフォイ」
「・・・はい」
「我輩が何を言わんとしているか、敏い君ならばわかるであろう」
「・・・・・・はい」
スネイプに冷たい視線で「監督生である君にも責任がある」と灸をすえられ、ドラコはますます頭を垂れる。ドラコの背中からは、十分すぎるほどの後悔と反省が感じられた。それなのに、
「はは」
深く反省するドラコの姿に、場に不似合いな小さな嘲笑が聞こえてきたのだ。スネイプは片眉をつり上げ、ゆっくりとゆっくりとした所作で後ろを振り返る。が、ドラコの方を見てくすくすと笑っていた。ドラコは低い位置からを睨みつける。
「・・・・・何が可笑しい」
「無様ね。いい気味」
不謹慎に肩を揺らす少女に怒りを覚えたのは、スネイプよりもだった。我が妹の無礼な態度に、は珍しく厳しい表情での横に立った。怖い顔でそばに立つ兄に、は横目を投げる。
「なぁに、
、撤回しろ」
「何故?」
「ドラコさんに謝罪するんだ。今の言葉は、非常識にも程がある。僕が許さない」
「何故あいつに謝罪を?必要ないわ。それに、の許しを請う必要も私にはな、い、」
全てを言いきる前に。の言葉を切ったのは、頬を叩く乾いた音だった。
叩いたのはではない。叩いた手をそのままにを睨み付けるのは、スネイプだった。
そばにいるはスネイプを見上げて目を丸くする。そして叩かれた自身も、頬を押さえながら驚き呆然とした表情でいた。
スネイプがを見下ろす。その表情は我を忘れて怒り狂った男の顔ではなかった。それは、血の繋がった近しい者を叱る父親の顔だった。
「・・・・・」
「もう少し大人になるんだな」
「おとな・・?大人って、何よ・・・何でまた私ばっかりっ」
「その考え方が変わらん限り、お前が望むものは一生手に入らん」
「何よそれ。望むものなんてな、い・・・やだ!ちょっと、何するのよ!?」
は牙をむいてスネイプに抗議する。スネイプがの傍らに置かれた彼女の杖を問答無用に取り上げたのだ。は無我夢中で手を伸ばす。スネイプはベッドから離れながら、それを視線で牽制した。
「返して!!」
「返して欲しければ、スリザリン生として、・・・人としてあるべき常識と品格を身につけたまえ」
「そんなものいらないわ!誰に教わればいいのかもわからない!」
「手本は身近にあったはずだ。スリザリンの監督生であり、模範生であり、君の魔法の犠牲になった、、彼女を真似ればいいだけのことだ」
「・・・・・っ」
それは暗に「母を見習え」と言っているようなものだった。の顔に、じわじわと怒りと悔しさと哀しみがにじみ出す。だがスネイプはそれを無視し、とっとと彼女に背を向けてしまった。「何よ・・・!!」と悔しそうに悪態をつくの声に、スネイプは完全に耳を閉ざした。


今ある問題は一つ。
仮死状態のをどう救うか。
スネイプはダンブルドアとマダム・ポンフリーとともに話を進めた。単純に考えれば魔法を使ったが解除呪文を唱えれば済むのだが。
「無理じゃな」
ダンブルドアはスネイプが没収したの杖を取り、直前呪文を唱えた。キラキラとエメラルドの光を放ちながら現れた呪文の渦は、まるでこんがらがった染色体の集まりのように複雑な形をしていた。
が使用した魔法は多種の呪文が混ざり、複雑な魔法となっておる。このわしとて見たことも聞いたこともないものじゃよ」
「そんな・・・」
マダムは落胆の表情を見せる。だが、スネイプは諦めることなどできず、食い下がった。
「校長。なんとかなりませんか」
「ふぅむ・・・。なんとかは、なるじゃろう。この不可思議な呪文を解いていけばよいのじゃからの。ただ」
「ただ。なんです」
「これは難しいのぉ。簡単に言うならば、何十本もの細い糸で糸玉を作ったようなものじゃからな。本人でも解けん状態になっておるわい」
ダンブルドアは宙に浮かんだ光の渦を見つめ、厳しい顔で唸るばかり。スネイプの苛々は募っていく。
「ならばどうすればいいのですか!このままを放っておけと!?」
「そうは言っておらん。何か手立てがあるはずじゃ。それを探しだし、じっくり解読していくことが大切じゃ」
「そんな悠長にしている場合ではないはず!こうしている間にもの体は衰弱し、ともすれば・・・っ」
―――彼女のもとに、今度こそ「死」が
頭に浮かんだ最悪の結末を、スネイプは寸手のところで飲み込んだ。だが、スネイプが何を言いたいかは皆が分かっている。ダンブルドアもマダムも、離れたところで大人たちの会話を聞くドラコとも不安な表情を浮かべる。
を救う最適な手立てが見つからない。会話が途切れ、痛い沈黙が流れていた。

その時だった。

"あのぉ、・・・お取り込みのところすみませんが・・・"

「なんだね、我々は今忙しいのだ!」
緊迫した空気の中に突然割って入ってきた者に、スネイプは苛々を思いきりぶつけた。相手が誰かも分からずに。
だが、その声にあまりにも聞き覚えがあり、スネイプは怒鳴った後に、ふと我に返った。
「なんだと・・・・?」
まさか、と。驚きに両眼を見開き、スネイプは後ろを振り返った。
ベッドサイドにはドラコがいた。彼もまた、口をぽかんと開け、信じられないという顔で上を見上げていた。
ベッドにはが横たわっていた。息もせず、ただ静かにそこに彼女はいた。
だが、確かに聞こえてきたのは、スネイプに語りかけてきたのは『』の声だった。
その正体は、が眠るベッドの真上に浮かんでいた。
「な、に・・・?」
「そんな・・・!?」
「まさか・・・」
「・・・・うそ」
「まぁ、これは一体・・・」
「ふむ。面妖な光景じゃの」
順にスネイプ、ドラコ、、マダムの驚きの声があがる。年を重ねたダンブルドアだけが状況に慌てることなく落ち着いていた。
そこには、信じられない光景が存在していた。
のベッドの上でふわふわと揺れながら浮いているのは、銀色の半透明の存在。ホグワーツではよく見かけるゴーストだった。珍しいのは、それが制服姿の女子生徒のゴーストだということ。嘆きのマートル以外にもいたのかと関心したいところだが、そんな余裕はなかった。なぜなら、それは、
・・・!?」
さん・・・!」
!!」
ドラコ、、スネイプが同時に彼女の名を呼ぶ。

"は、はい"

それに返事を返す銀色の姿の彼女は、紛れもなくだった。





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