ドリーム小説


信じてる
信じてる
信じてる
それなのに、・・・どうしてこんなにも不安なのだろう
疑心が生んだ心の闇が、二人の関係をゆっくりと蝕んでいく
二人の間に生まれた小さなひびは、ほんの少し力を加えただけで脆く崩れていく





□ 魔女の条件U 〜The Adventure of Lovely Twins〜 <14> □





薄暗闇に包まれた幻想の世界
地下牢にあるスネイプの部屋に、は今いた。のことがあり、更にはとの疑惑の噂もあり避けがちになっていた部屋に、は助手の仕事だと理由をつけて来ていた。
明日の授業の材料を揃え終え、薬品棚の整理も大方片付いた。はスネイプに勧められてソファーに腰掛けて休憩を取っていた。スネイプはまだ仕事机の書類を片付けている。いつもなら自然と弾む会話も今日はない。どことなく居心地の悪い空気が室内に流れていた。
はスネイプにのことを問いたくて、スネイプはとのことを問いたくて。互いに遠慮しあい、会話が始まらないのだ。
(あ・・・)
ふと、の視線がテーブルの端に向く。そこに山積みにされた本は、スネイプが好んで読むようなものではなかった。すべてが持ち込んだものだろう。
「・・・・・」
の視線がその本に釘付けになる。この部屋に彼女の痕跡があることが、何だか落ち着かなかった。まるで、自分の居場所を上書きされているような気がする。
が何を見ているのか気づいたスネイプは合点がいき、彼女の寂しげな目に小さなため息をついた。仕事机を離れると彼女の横に腰掛け、そっとの頭を引き寄せた。そして大きな手での視線を覆い隠した。
「せ、先生?」
「君が何を見て不安に感じているか、手に取るようにわかる」
「・・・・・」
「ここに入り浸るあの娘が嫌いかね」
スネイプの質問は鋭くの本音をついてくる。は哀しげに視線を伏せる。スネイプの胸元に頬を寄せ、しばらく沈黙を保った。それから、
「嫌い・・・じゃありません。でも、・・・よくわからないんです」
自分の気持ちがよく分からない。のことは嫌いではない。けれど、スネイプを奪おうとするのことを考えると、言いしれぬ闇に心が包まれる。
「スネイプ先生・・・」
「なんだね」
「あの、・・先生ならとっくに感じていらっしゃると思いますが、は、・・・」
はゆっくりと目を閉じ、自分の心を落ち着かせた。
は、・・・あなたのことを愛しています」
―――それは教師への敬愛ではなく、私があなたを愛するのと同じように心から
スネイプは目を丸くする。に問い返そうとすると、はスネイプに寄り掛けていた体を離し、スネイプの顔を見上げてきた。突然じっと見つめられ、スネイプは戸惑う。だが目をそらすことはしなかった。は揺れる瞳でスネイプを見上げ、そしてはっきりと告げた。
・・・?」
はあなたを愛している。でも、・・・だからって、・・・が先生にキスするのを許せるほど、私は寛容ではありません」
の哀しげな瞳がすがるようにスネイプを見つめていた。スネイプの細い目がいつもより大きく見開かれる。なぜがそのことを知っているのかという驚きが現れていた。
「・・・が言ったのかね」
「いいえ。薬品棚のガラスに映る二人の姿が見えました。あのときは、・・・正直ショックの方が大きくて何も言えなかった。・・・でも、今なら落ち着いて訊けます」
は気持ちを固めるようにきゅっと唇を噛みしめた。
「先生は、・・・とあんなことがあっても、これからもあの子がここに来るのを受け入れるのですか?」
はスネイプを見つめ問いかけた。問いというよりも、それは懇願に近かった。の蒼い瞳が揺れる。スネイプからの返事はなかなか返ってこない。の表情が次第に泣きそうなものに変わっていった。
視界の隅にテーブルの端に積まれたの荷物が見えた。がこの部屋で楽しく過ごしている証。には見せてくれない笑顔をスネイプに振りまき、自由気ままに振る舞い、スネイプの唇さえも奪っていく少女の姿が脳裏を掠めていく。それだけでの胸は嫉妬に押しつぶされそうになった。
・・」
「正直、私は嫌です・・・。ずっと我慢していましたが、もう・・・耐えられません」
「・・・・・」
「先生を信じていないわけじゃありません。でも、それでも、私は不安で・・・、だから、」
苦しいくらい眉間に皺を寄せ、は伝えたかった想いを初めて口に出して言った。
「ここに、あなたとあの子を二人で居させたくない・・・」

私の知らないところで
私の知らない二人が
私の知らないことをする
そんなのもう耐えられない

苦しみに耐えかねて勇気を振り絞っては告げたのに。それなのに、スネイプはの望むような答えをくれることはなかった。
。君の気持ちはわかる。だが、我輩はの入室を禁止するつもりはない」
「・・・どう、して・・・」
望んでいたのとは違う答えに、の表情に失望が混じる。だが見上げる先にあるスネイプの目は、迷いなく毅然としていた。
「君が言うように、が我輩に好意を寄せていることは分かっている。そして、先日の彼女の気まぐれな行為に君が不安を感じているのも分かる。それでも、・・・今は」
スネイプの答えには不安いっぱいの顔を彼に向けた。何故、どうして・・・。スネイプの真意がわからない。はスネイプの黒い目を見つめる。
「今は、我輩を信じろ」
スネイプはどこか苦しげに眉を寄せてにそう告げた。それが余計にを不安にさせた。スネイプの指がの顔にかかる髪を払う。優しい体温に触れられているのに、それなのに何故かの心は怯えていた。脳裏を横切るのは、温室で宣戦布告されたときのの不敵な笑み。
、」
「先生、・・・あなたのことは、信じています。信じていたいです。でも、・・・怖いんです」
だって、があまりにも自信たっぷりにあなたを愛していると言うから。
「先生、・・・・・先生は、・・どうして、」
はそこで言葉を切り、なかなか続きを言おうとしなかった。スネイプは続きを促す。だがはなかなか口を開こうとしない。はスカートの上で両手をきつく握っていた。言葉にしようかどうか逡巡している。ずっと疑問に思っていたことがあるのだ。スネイプに訊いてみたいことがある。は意を決すると、ゆっくりと口を開いた。
「どうして、・・・どうしてにばかり、そんなに甘くされるのですか」
「・・・・・」
他の生徒にはとても厳しく冷たくするのに、にだけは違うのだ。はダンブルドアの親戚の子で、昔からスネイプと知り合いなのだとは聞いた。けれど、よく知る子の我が儘をただ聞いているのとは違う気がする。スネイプのへの接し方は、まるで娘の我が儘を聞いているかのようにすごく甘い。
スネイプは言葉に詰まってしまった。答えられるわけがない。それは実の娘の我が儘だから許しているなどと。に教えられるはずがない。
答えてくれないスネイプの態度に、は余計に不安が募っていった。
「先生・・」
「・・・今はまだ何も言えん」
「・・・・」
答えてもらえない。は唇を噛みしめた。それが哀しみなのか、悔しさなのかもわからず。
スネイプの重苦しいため息が聞こえた。それはとても面倒くさそうに聞こえた。自分がひどく拒絶されているように感じられた。心が傷つく。哀しくて、涙が流れそう。
「今まで通り、の入室を禁止するつもりはない。だが、君がくれば彼女には出ていってもらう。それでもまだ不満かね」
「・・・・・」

「・・・・・・・私は、・・・嫌です」
スネイプに、こんなにも我が儘を言ったことなどない。でも、今だけは譲れない。はスカートのひだをきつく握りしめながら訴えた。今にも泣きそうな顔で必死に告げた。それなのにスネイプは面倒くさそうにため息をつく。それが余計にの胸を抉った。
、君はそんな聞き分けのない子だったか。何が不満なのだ」
「では、・・・では先生は私に何を信じろと言うのですか?先生とが2人でいるだけで私は、・・・私は、・・おかしなことばかり考えてしまう・・・っ」
自分の言っていることがひどく恥ずかしくて、みっともなくて。は両手で乱暴に自分の顔を覆った。スネイプはを落ち着けようと彼女の手首に手を添える。だが、嫌々をするはスネイプの手を振り払い顔を覆った。
、やめないか」
「いやっ、・・・放してください」
・・」
いつもは聞き分けよく素直に従うが、今日はまるでのように我が儘に振る舞う。いつもはにそんな感情を抱きなどしないのに、今日に限ってスネイプは軽い苛立ちを覚えた。我が儘はで十分だと、余裕のない心がスネイプを苛々させた。だから、普段は絶対に言わないようなことをに告げてしまったのだろう。
「いい加減にしたまえ。ならば言わせてもらうがな。君はどうなのだね」
「え・・・?」
突然スネイプの口調が鋭いものに変わり、はハッとして彼の顔を見上げた。スネイプは生徒を叱るときのような厳しい顔つきをしていた。
「先生・・・」
「めっきりここに来なくなったかと思えば、いつの間にかと良い噂が流れるような仲になっている。我輩のところに来ない間、随分と親密になったようだな」
「良い噂?何のことです、・・・どうしてそんな話になるのですか。違います、は、」
「ただの友人だと言うか。ならば、何故こんなにも甘い噂が飛び交うのかね。不思議なものだ」
「私は、そんなつもりで彼と一緒にいるわけでは!」
「ならばどんなつもりで一緒にいるのだ。二人仲睦まじく寄り添い歩き、語り合い。誰が聞いても見ても、立派な恋人同士ではないか」
が何を言ってもスネイプの口調も表情も和らぐことはなかった。それどころか、スネイプの表情は厳しかったものから徐々にを蔑むような嘲け笑いに変わっていった。スネイプのその顔を、は以前見たことがある。
「結局は君も一般的な女子が望むような恋愛事を夢見ているのであろう。年相応の男子と付き合い、皆に祝福されながら陽の下を歩く。我輩では、君が望むようなことはしてやれんからな」
「違います・・っ。そんなこと、私は望んでなどいませんっ」
が哀しげに眉尻を下げても、スネイプの態度は変わらない。あぁ、・・・覚えている、あなたのその顔を。2人が恋人同士になる前のこと。スネイプが、に想いを寄せるドラコに嫉妬し、彼女に冷たく当たったときとまったく同じ。いや、あの頃よりもその炎は強くなっている。
「スネイプ先生・・・っ」
心が、スネイプに届かない。私が望むことはただ一つなのに。あなたの優しい手と優しい笑顔が欲しい。他の子じゃなくて、私だけを特別に見て欲しい。ただそれだけなのに。
は視線を伏せる。言いしれぬ淀んだ雰囲気に、互いに気まずくて仕方がなかった。スネイプの重たいため息が聞こえてくる。空気が痛い。こんな喧嘩をするつもりなんてなかったのに。だが、スネイプもも感じ取っていた。今更、仲直りへの道は進めないと。
「お互い、気持ちがすれ違っているな」
そう切り出したのはスネイプだった。はまだ俯いたままだ。だが、その後に続くスネイプの言葉に、は蒼い瞳を見開いてスネイプを見上げることになる。

その声は冷たく、重く、そして疲れていた。
「しばらく離れよう」
「・・・・・・え・・・?」
は弾かれたように顔を上げ、スネイプを見上げた。だが、スネイプは視線を合わせてもくれなかった。それどころか、ソファーから立ち上がり、のそばを離れた。
「お互いに距離を置き、自分の心を落ち着けるのも大事だ」
スネイプはソファーに座るに背を向けて机の傍に立ちつくしていた。こちらを向いてもくれない。スネイプに拒絶されたことにの心はひどく傷つけられた。そして同時に、自分の想いに気付いてくれないスネイプへの怒りが沸き上がった。
「そんな綺麗事で、・・・私を遠ざけるのですか」
「違う。お互い、冷静になる必要がある」
「そんなの、・・・我が儘なことを言う私を、ただご自分から遠ざけたいだけじゃありませんか・・・っ」
スネイプへの怒りが、の心の奥底で燻っていた闇を吐き出させる。本当は言いたくなどなかった。でも、もう耐えられない。の本音を、だがスネイプは一蹴する。
「君がそう思いたいのならそう思えばよい」
まともに受け止めてももらえない。自分が可哀想な存在に思えてきた。卑屈になる自分が、心の奥の闇を際限なく放出する。スネイプを想う心が裏返り、意地悪なことばかりが頭をよぎる。
「同じ我が儘を言っても、ならそばにいるのを許されるのでしょうね・・・」
「・・・・・」
その問いかけに、スネイプは答えてくれることはなかった。冷たい背中をは見つめ、悔しさに唇を噛みしめる。の視界が次第にぼやけ始めた。は歯を食いしばるとスネイプに何も告げずに部屋を後にした。ばたんと扉が閉まる音が、2人の間に冷たくて堅い壁を作り上げる。

スネイプの部屋の扉に背を預けた瞬間、ぼろぼろと涙が流れてきた。
「・・スネイプ先生の、・・馬鹿・・・っ」
小さな声でついた悪態がスネイプに届くことはない。スネイプがやっぱり心配して扉を開けてを抱きしめてくれることもない。は両手で顔を覆い、こぼれ落ちる涙を自分の手で受け止めた。







きつく握りしめた拳が堅い机に叩き落とされ、重たい音を部屋に響かせる。
「くそ・・・っ」
苛ついた悪態と舌打ちとともに、スネイプは顔にかかる長い黒髪を乱暴にかき上げた。収まることのない苛立ちと怒りと、言いしれぬ後悔ばかりが襲いかかってきて息が詰まる。
あんなこと、に言うつもりなどなかったのに・・・
何故こんなことになってしまったのか。の学生最後の一年。平和に幸せに過ごさせてやるつもりだったのに、何故こんな事になった。何故自分はこんなことで苦しめられる。
その原因が、未来の自分たちの子どもたちだなんて、こんな馬鹿げたことはないだろう。
スネイプは自分の言葉を呪った。を傷つけ、きっと今を泣かせているであろう自分の言葉を呪い、心の底から後悔した。彼女を傷つけた自分が、泣いているを抱きしめて慰めてやることなどできない。
(くそ・・・なんて馬鹿なことを・・・っ)
自分がしたことを考えれば、何を甘いことをと思う。だが、せめて今彼女を慰めるのが、でなければいいと切に願った。







運命とは、なんと皮肉なものか

スネイプの部屋を後にしたは、止まらない涙を必死に拭いながらとぼとぼと冷たい廊下を歩いていた。もう何もかもが嫌で仕方がなかった。誰にも会いたくない。何も食べたくない。何も見たくない。何も聞きたくない。何もないところに行きたかった。
だが世界はの我が儘を訊いてはくれなかった。涙目を擦りながら歩いていれば、向こうからがやがやと賑わう声が聞こえてくる。やってくるのは、競技場でクィディッチの練習を終えた選手たちだった。涙でぼやける視界に見えた色は真紅。グリフィンドールの色だ。
(・・やだ・・っ)
今は泣いているところなんて誰にも見られたくない。は慌てて手近の大きな柱の陰に隠れた。びくびくして隠れていると、賑わう声たちがが隠れる柱の傍を通り過ぎていった。
「やー。今日の練習はなかなか良かったよな」
「あぁ、やっぱりメニューをちょっと変えたのは大きいな」
「ハリー、またよろしく頼むよ」
「あぁ。次はロンの練習をもう少しハードに、」
「お、おい!あれ以上厳しくされたら俺ついてけないよ!」
たくましい少年たちの剛気な笑い声が通り過ぎていく。
(・・・・・)
みんな楽しそうなのに、その影で隠れて泣いている自分がひどくみっともない存在に思えた。みんなの声が少しずつ遠ざかっていく。はすんっと鼻を鳴らして、床を見つめながら柱の影から姿を現した。
さん?」
「・・・・っ」
みんな行ってしまったと思っていたから、いきなり声を掛けられては肩が上がるほどびっくりした。真紅の練習着を纏って、そこに一人だけ残っていたのはだった。
・・・」
「どうされたんですか?さん」
驚いているのはも同じだった。何となくその場で足が止まり立ちつくしていたら、突然目を真っ赤にした泣き顔のが柱の影から現れたのだから。の顔は涙でぐしゃぐしゃになっていてひどく痛々しかった。は一歩二歩とに歩み寄った。
「何かあったのですか?」
「な、何も・・・何でもないの」
「何でもなければ、そんなに泣くこともないでしょう。一体何が、・・・」
そこで、の脳裏を何かが掠めた。まさか、という想いが横切った。
ですか」
「・・・っ」
が、また何かあなたにしたのですね」
「違う、・・・違うわ」
は首を横に振って否定した。だがが何か関係していると確信しているようで、厳しい顔つきでに近づいた。
、本当には関係ないの・・・」
「嘘ですね」
「嘘じゃないわ・・」
さん。あなたに、そんな嘘は似合いません」
のことをかばわなくていいですから、と。は優しい顔で笑い、にハンカチを手渡した。
「使ってないから綺麗ですよ」
受けとらないの目元に、は優しくハンカチを押し当てた。薄いハンカチ越しに伝わるの手の温かさにの心は癒された。止まりかけていた涙が、またぽろぽろとの頬を流れ落ちていく。
「僕でよければ話を聞きますよ」
優しいの言葉にの涙は止まることを知らず、スネイプではないその手を振り払うこともできず。誰にも会いたくない、誰にも話したくないと思っていたのに、ぽつりぽつりと単語をこぼし、に少しだけ話をした。恋人と喧嘩したこと。そこにが関わっていること。恋人がに奪われそうで不安なこと。そして、こんなにも不安を抱いているのに、恋人が自分の傍にいてくれないこと。
言葉にすればするほど、自分がなんて我が儘で傲慢な女の子か思い知らされた。恥ずかしくもあった。それでも、話せば話すほどのスネイプへの想いは消えるどころか増していった。
振り向いて欲しい。
スネイプに傍にいて欲しい。
我が儘だと分かってはいても自分の願いを聞いて欲しい。
話をするうちに次第にの心は落ち着きを取り戻していった。はずっと黙っての話を聞いていてくれた。足下を見てばかりでがどんな顔で話を聞いていてくれているのかはわからなかったが、きっと呆れているだろう。
「どうして分かってもらえないのかな・・・。私は、ただ、・・・そばにいて欲しいだけなのに」
ぽつりと我が儘な本音を漏らせば、最後の涙がぽたりと瞳からこぼれ落ちた。は重たい腕を持ち上げ、目尻を拭う。その瞬間、はその手首を掴まれ、いきなり力強く引っ張られた。
(え・・・っ)
何がなんだかわからなかった。ただわかるのは、ぼやけた視界でも目の前に広がるのが真紅の練習着で、自分がクィディッチで鍛えられたたくましい体に抱きしめられていること。
・・!?」
の手がの頭を彼の胸に押しつける。には何の抵抗もできなかった。パニックになるの耳元で、は静かに囁く。
「僕が、代わりにはなれませんか」
優しい声は真剣で、冗談なんかじゃなくて、を抱きしめる腕に力が入っていった。
「僕はさんを悲しませたりしない。泣かせたりしない」
あなたの恋人とは違う。の声から、そんな想いが伝わってくるようだった。
そのとき、を抱きしめるの姿に、遠くで女の子たちが黄色い声をあげるのが聞こえてきた。
(ちょっと、あれよね!?)
(やだ!やっぱり噂って本当だったんじゃん!)
女の子たちの声に男の子のざわめきも加わりだした。大勢に見られることには恥ずかしさに耳を赤らめて焦る。
、みんな見てるから・・っ」
「気にしませんよ」
「やっ、・・・お願い、放して・・っ」
「嫌です」
こんなにも強情な少年だったか。は恥ずかしいのも半分忘れ、の行動に眉を寄せた。冗談なんかでこんなことをする少年ではない。がもう一度彼の名を呼んだ瞬間、それまできつく抱きしめられていた腕からいきなり解放された。
、」
さん、僕はずっとあなたのそばにいて、あなたを守りますよ」
「え、」
刹那。目を閉じる暇もなく、の唇がの唇を塞いだ。すぐに離れていってしまったキスは、だが幻だと言うには感触がリアルすぎた。遠くで野次馬たちの歓声が大きくなるのが聞こえ、夢ではないと知れる。
いきなりのことに呆然とするの両眼に映ったのは、自分と同じ色の蒼い瞳。自分を見つめて優しく微笑む瞳。今のが一番望む安らぐ笑顔―――スネイプがくれない、安らぎの一時だった。





あぁ、もうもとには戻れない
僕もまたと血を分けた双子の片割れなのだと思い知らされる
恋心が絡むと、理性よりも自分の欲望を優先してしまいたくなる
もうをお説教できなくなるな
俯いて自嘲気味に笑いながら、僕は心に小さな火種が生まれるのを感じていた


―――さん、・・・あなたを父さんから奪いたい





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