ドリーム小説


の杖先から生まれた光はきらきらと光りながら小さなスクリーンを作り出した。さながら小さな映画館。はそれを両手で持ち上げるようにして皆に見せた。
「ドラコに頼まれて、映像魔法でスリザリンの練習風景を記録として撮っていたの」
後で練習内容を振り返るためにドラコがに頼んでいたものだった。そこには先程のフィールドでの様子が撮られていた。ドラコが大声で指示を出している。それは練習最後の10分間の映像だった。
「ここだよ。・・・おかしいと思わない?」
映し出された映像を見ていた人々はみな一様に目を見開き、「あ・・・」と口を半開きにした。は眉をひそめ、杖を振って映像を消した。光が消えるや、その場にいた皆が一人の少年へと視線を向けた。何十個もの目玉に見つめられ、―――ジャックの顔は引きつり、指先は微かに震えていた。





□ 魔女の条件U 〜The Adventure of Lovely Twins〜 <12> □





映像は真実を語っていた。ブラッジャーを打つ瞬間、ジャックの顔には悪巧みをする人間の笑みが浮かび上がり、その視線は明らかにの方を見つめていた。それ以外にもジャックが練習中に何度ものいる位置を確認する姿が映像に残っていた。もはや言い逃れはできず、ハリーとロンはジャックと、それからドラコに詰め寄り、謝罪を要求した。だがプライドの高いスリザリンの生徒がグリフィンドールに謝ることなどできるわけがなく、状況は更に悪化しようとしていた。
「いい加減にしろよ!お前らがに謝れば済むことだろう!」
「謝るだと!?ふ、ふざけるなよ。なんで俺がグリフィンドールの奴に!」
真実が明らかになっても、ジャックはなお無駄な抵抗を続けていた。引きつった笑みを浮かべたまま、詰め寄るロンからずりずりと後退し続ける。ドラコも身内の失態とはいえ、グリフィンドールに頭を下げることなど彼のプライドと家柄が許さなかった。それはニコルをはじめとする他のスリザリン生も同じだ。そんな前にも後ろにも進まない状況を動かしたのは、証拠映像を持ってきただった。
「ジャック。もうやめようよ」
はやってきたときと同じように静かな口調でジャックを諭すように告げた。の顔は怒っていると言うよりも哀しげだった。自分の寮の仲間の罪を知り、ましてやそれを暴露するのはだってつらかった。それでも罪は罪。きちんと償わなければならないとは決意していた。
「な、なんだよ、。俺は!」
「試合に勝ちたい気持ちはわかるよ。ジャックがスリザリンのために頑張ってくれているのもよくわかってるから。・・・だから、こんなことは止めようよ」
「・・・・・っ」
「スリザリンが勝てるようにドラコも一生懸命考えてくれてるから。だから、みんなで頑張ろうよ」
は哀しげに笑い、ジャックを見上げた。に見つめられ、ジャックはそれ以上言い訳することもできなかった。の言葉はみなとは違った。強く責めるわけでもなく、彼の罪を許すわけでもなく。これからジャックがどうすればいいか諭してくれる。そこまでされて、これ以上みっともない言い訳などできるはずもなかった。
「・・・くそ・・っ」
「ジャック、」
「わかったよ、・・・・の言うようにするさ」
ジャックはもう誰の顔も見れなかった。俯き、ただ耳だけを傾けていた。は肩で息をつき、それからドラコと目を合わせ、「いいよね?」と視線で問いかけた。ドラコもの気持ちを察し、不満はあったが「しょうがないだろう」と視線で返事し、目をそらした。は苦笑し、すぐ真剣な顔に戻すとみんなの方を見て告げた。
「監督生の権限をこんなふうに使うのは私も苦しいです。でも、いくら寮の仲間とはいえこんなことは許されませんから」
の言葉に、俯いたままジャックが拳を握りしめた。
「スリザリンから10点減点します」
はきっぱりと言い切った。いまだかつて監督生が自分の寮を減点することなどあったのだろうか。ハリーとロンは勿論、スリザリンの生徒たちも驚きに目を見開く。中にはの判断に納得しないスリザリン生もいた。ジャックの部下的存在のニコルがそれだ。
「そ、そんな!先輩、何もそこまですることは、」
当たり前のようにに食ってかかってくる。それもは予想していた。そのために用意していた言葉もある。は息を吸い、反発する仲間を納得させようとした。だが、の代わりに悪役を引き受けてくれたのはドラコだった。
「ニコル、何か文句があるのか。の判断が間違っているとでもいうのか」
突然リーダーであるドラコに割り入られ、不満をぶつけたニコルも流石に怯んだ。
「い、いえ。・・・でもですね、」
「くだらないことを言って、これ以上スリザリンの名を貶めるな」
「・・・ですが、マルフォイ先輩。ジャック先輩は寮杯のことを考えてやられたことで。このままでは今年もスリザリンは寮杯を、・・・」
「そんなもの、試合に勝てばいいだけの話だろう」
いじけながらぶつぶつ呟くニコルを、ドラコは鼻で笑ってはじき返す。ドラコはようやくいつも通りの不敵な笑みを浮かべた。そしてハリーとロンの方をじろりと睨んだ。
「おい、貴様ら。今が下した判断で文句ないだろう」
「あ?・・・ま、まぁ・・・が決めたことなら間違いはないだろうな。なぁ、ハリー」
「あぁ。今回はこれで終わりにしてやるさ。だけど、もしも本番の試合で同じ事をして勝利しようなんて考えているなら、」
「はっ。くだらんな。そんなことしなくても、最後に寮杯を掴むのは我々スリザリンだ」
ドラコは尖った顎を突き出してハリーたちを見下ろすようにして宣言した。実際、スリザリンは初戦でグリフィンドールに負けはしたが、その後の試合はすべて勝ち進んでいる。一方でグリフィンドールは先週の試合でレイブンクローに負けたため、互いに一敗ずつ平行線だ。どちらにも寮杯を掴む可能性はある。
「望むところだっつーの!そのいけ好かない鼻柱をへし折ってやるよ!!」
ロンは拳を眼前に突き出し、ドラコを睨み返した。





再びギャアギャアと騒がしくなった場を早々に離れ、は一人が横たわるフィールドへと足を向けた。他のグリフィンドール選手がを守るように囲っている。が近づくと、それに気付いたディーンがのために道を開けてくれた。
、話はついたのかっ?」
「うん、もう大丈夫。・・・ごめんね、グリフィンドールのみんな。悪いのは私たちスリザリンなの。ハリーとロンに話はしてあるから、後で聞いて」
「そうか。お前が言うなら大丈夫なんだろうな。わかったよ」
「ありがと、ディーン。・・・それより、は大丈夫?」
は囲まれた中央で仲間に背を支えられて座り込むに目を向けた。
「あぁ。マダムがもうすぐ来てくれる。たぶん骨折してると思う」
のもとへと足を進めた。は蒼い顔で歯を食いしばり、脂汗を流していた。は哀しげに眉を落とし、の横に膝を下ろした。
・・・」
「あ、・・・さん。どうかしました・・っ?」
「・・・ごめんね、。私たちのせいで・・・、本当にごめんなさい」
のボロボロの左腕を見ると、哀しみと悔しさに唇を噛みしめた。この怪我を同じ寮の仲間がやったのかと思うと、監督生としての責任を強く感じた。は杖先をの腕に向けると、「フェルーラ」と杖を振って唱えた。現れ出た白い包帯が、の腕にくるくると巻かれていく。
、さん・・?」
「応急処置。ごめんね、こんなことしかできなくて・・・」
「いえ・・、十分ですよ。そんな顔しないでください、さん・・っ」
激痛に耐え、は息も切れ切れにに掠れた笑顔を向けた。
「クィディッチの練習で、今までで一番きつかったのはね、・・両足骨折ですから・・っ」
「え、・・えぇ・・?」
「だから、こんなの大したことないですよ」
こんなときでも相手を気遣い優しく笑ってくれようとするに、は胸が締め付けられた。は唇を噛みしめを見下ろした。が汗を流しながらもにこりと笑うから、も困ったように笑うしかなかった。
「会ったときもそうだったね」
「え・・?」
「怪我してばかりね、・・・
巻いた包帯の上から、はそっと添えるだけの仕草での腕に手を置いた。感触などない。けれど、その優しい仕草だけでは痛みが半分になった気がした。の優しい眼差し。それは未来の母を思い出させるものだったが、今のの目に映るのは、この時代を生きる、彼と同い年の少女のものだった。このとき、は僅かながらだががスネイプを想う気持ちに共感できてしまったのだった。目の前にいるは、母親であるではない。自分と同じ17歳の、一人の少女。
―――手に入れられるのならば、自分の大切な人にしたい。父さんには渡したくない
そう思ってしまった自分は愚か者だと、もうを叱ることはできなくなると、は静かに目を閉じ小さく笑った。





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