ドリーム小説


頬を叩く音が冷えた廊下の壁に反響して消えていった。叩かれた黒髪の少女は一瞬呆然とするも、すぐに眼差しをきつくし、叩いた銀髪の少年を睨み付けた。
「何するのよ・・・、
冷え切った少女の瞳に、少年は怒りと哀しみに満ちた熱い瞳で返す。
「叩かれる理由もわからないのか、
自分の欲望に支配されて、そこまで愚かになってしまったのか。は同情するような目でを見下ろした。それがの癪に障った。ぎりりと奥歯を噛みしめ、を威嚇するように見上げた。
「なによ・・・。私ばかりが悪者なの?ただ、パパに好きだって伝えただけなのに」
「なら、それだけで良かったはずだ。その過程で母さんを傷つける必要はあったのかい」
「・・・・っ」
の言い分は正しい。だがそれを認めてしまえば、は自分が悪者だと認めることになる。
「母さん、母さんって・・・。も・・・パパも・・・ママのことばかり心配するのね」
いつだって注目されるのは。愛されるのは、容姿も性格もによく似た。どんなときも、兄が正しいのだ。評価されるのは、いつだって兄のなのだ。自分じゃないのだ。
―――誰も、私のことなんて見てくれない
憎しみばかりが増大していく。は肩を怒らせ、体の横で両の拳をきつく握りしめた。
「パパもママもも、・・・そうやってみんな私から離れていくのね」
の中で怒りの熱ばかりが膨れていくのがよくわかった。自暴自棄になりつつある妹に、は呆れたため息をつく。
「その原因を作っているのは誰だい。いい加減気付くんだ、
「いや・・・、気付きたくなんてない」
、」
「わかりたくなんてない!もう、・・・もう放っておいてよ!」
叫ぶの瞳には、うっすらと涙が滲んでいた。が止める声も聞かず、は彼に背を向けその場を逃げ出した。は追いかけはしなかった。走っていくの長い黒髪が揺れていた。はそれを哀しげに見つめていた。





□ 魔女の条件U 〜The Adventure of Lovely Twins〜 <11> □





雪が降ってきそうな灰色の空が広がっていた。吐く息は白く、こんな寒い日は飛行術の授業は勘弁願いたい。だがそんな日でも、寮の名を背負って立つクィディッチの選手たちは競技場で練習を重ねていた。今日はグリフィンドールとスリザリンがフィールドを使える日。この組み合わせで練習をすると、時折喧嘩が勃発することがある。今日は何もありませんようにと、練習を見に来る熱心な生徒たちは観覧席で見守っていた。

スリザリンのチームが競技場に着くと、もうすでにグリフィンドール勢がフィールドの向こう半分を使って練習していた。スリザリンチームのビーターを務める7年生のジャックは、その様子を見ていて一人の少年を視界に入れ、悪意のある舌打ちをした。
「はっ。飛び方からしてかっこつけてやがる。気にいらねぇな、の野郎」
「ホントですよね。プレーだけでも苛々するのに、あの顔。・ダンブルドアにそっくりで見てるだけで腹が立ってきますね。ねぇ、マルフォイ先輩」
ジャックに賛同するのは、スリザリンのチェーサーの一人、6年生のニコルだ。ニコルは、を嫌うドラコに良い話題を振れたと満足げに微笑む。ドラコからはどんな悪態が返ってくるのかと期待していれば、
「あ?・・・あぁ、そうだな」
いつもなら皮肉に笑って同意するドラコが、今は適当な答えで流してそっぽを向いてしまった。ジャックもニコルも、思いの外ドラコの反応が薄くて拍子抜けしてしまう。ドラコはを睨み付けることさえしない。ジャックらはひょいっと肩をすくめて練習着に着替えに行ってしまった。
(なんですかね。マルフォイ先輩、あんなにダンブルドア兄妹のこと毛嫌いしてたのに)
(あぁ、つまんねぇなぁ。先頭切ってのこと排除しようとしてたくせに)
そんな噂が後ろでされても、ドラコは聞こえているのかいないのか、まったく反応することはない。実際、最近のドラコはひどく大人しかった。に噛みつくこともなければ、に皮肉を言われても、「勝手に言っていろ」とさらりと受け流してしまう。それはに対してだけではなく、兄であるに対しても同じだった。クィディッチ初戦でにボロボロにされ、初めこそを煙たく思っていたが、今は少し気に入らない程度だ。
「ドラコ、みんな行っちゃったよ。どうかしたの?」
不意に上の観覧席から声が降ってきた。ドラコが上を見上げると、そこにはマフラーを巻いたがいた。
。スネイプ先生の手伝いは終わったのか?」
「うん。今日の分はもう全部終わっているから大丈夫よ」
「そうか。じゃぁ、頼んだぞ」
「了解。ドラコ、場所はこの辺りでいいの?」
「あぁ、そこからが一番フィールド全体を写せるからな」
「わかったわ」
がんばって、とは手すりから身を乗り出し、ドラコに手を振る。ドラコは照れ笑いを浮かべ、軽く手を挙げた。

がクィディッチの練習を見に来るのは本当に久しぶりだった。初戦でグリフィンドールに情けない負け方をしてからというもの、スリザリンの選手は気合いを入れて練習をしているようだった。よく談話室でドラコを中心にフォーメーションの打ち合わせをしているのを見かける。頑張って欲しいとは心から思った。特に熱心に練習に打ち込むドラコを応援したかった。程なくして緑色の練習着に着替え終わったドラコたちがやってきて、メンバーが一斉に箒に乗って練習を始めた。
(がんばって、みんな)
は生徒もまばらな観覧席に腰掛け、ローブの胸元から杖を取り出した。白い息を吐きだしながら、聞き慣れない呪文を唱える。杖先の周りに淡い光が散った。
「準備完了」
はにっと笑うと、空中で飛び回りながら真剣な顔でチームメイトに指示を出すドラコの様子を見守った。スリザリンの中で、ドラコを一番理解しているのはおそらくだ。ドラコはプライドが高くて、気に入らない者への敵意はとても強い。だがそのプライドの高さがドラコ自身をストイックに練習に向かわせ、二度と負けたくないという意識を強くさせている。
「そこじゃない!何度言ったらわかるんだ、ニコル!この場合のチェイサーのポジションはもっと右寄りだろう!」
フィールド内にドラコの檄が飛ぶ。鬼気迫る顔からは、グリフィンドールとに負けたくないという負けん気がにじみ出ていた。チームメイトもドラコの指示に従い上手く動いている、・・・ように見えた。だが元来スリザリン生は狡猾で卑怯という面を持ち合わせている。それは自分が追い込まれたり苦しい場面に遭遇したときにありありと表に出てくる。
「ジャック!ブラッジャーを打つ手を止めるな!攻撃し続けろ!!」
「お、おう!」(くそ・・・っ。こっちは精一杯やってるっつーの!)
返す言葉とは裏腹に、チームメイトの胸の内にはドラコへの不満が積もっていた。

練習も終盤にさしかかった。途中に何度か休憩を入れてスリザリンチームは練習を続けていた。フィールドの向こう側ではグリフィンドールの選手たちが練習していた。キーパーのロンは様々な角度から投げられたクアッフルを止める練習を、シーカーのハリーはハーマイオニーが作った擬似スニッチを必死に追いかけている。そして率いるチェイサーチームは空中でのパス回しをしていた。
はグリフィンドールの練習を遠目に眺めていた。その中でも特に目を惹くのは銀色の髪のだ。クアッフルを操る動きがずば抜けている。
(すごい・・・、プロみたい。本当に同い年なのかな)
ホグワーツの4つの寮の選手の中にもセンスのある生徒は数人いる。マクゴナガルにスカウトされたハリーもそうだ。でもの動きはそれとは違うのだ。学生選手のような汗まみれの根性プレーではなく、洗練された動きは観る者の目を惹く。そしてその素晴らしいプレーは観客を魅了するのと同時に、彼に追いつけないプレーヤーの嫉妬心を掻き立てるものでもある。強豪チームの注目選手を潰してやろうと考える非道な考えを持つ者を作り出すのだ。
フィールドでの練習時間も残り10分。両チームともに最後の追い込みにかかっていた。選手はみな声を張り上げ、興奮状態で練習に打ち込んでいた。
「よっしゃ、ロン!ラスト10本だ!」
「よーし、どっからでも来やがれ!!」
「チェイサーチームはポジション交替だ。、センターに入れ」
「はい、これで最後ですね。みなさん、頑張りましょう!」
グリフィンドール勢は一斉に気合の声をあげ、追い込みにかかった。スリザリンでも同様に最後のフォーメーション確認と擬似ゲームを行っていた。司令塔はドラコだ。額いっぱいに汗をかいて指示を出している。
「次!チェイサーがキーパーの左下を狙って投げろ!」
「おう!」
「そのタイミングでビーターが敵のチェイサーを狙う!・・・おい、ジャック何してる!ぼぉっとするな!!」
「わかってる!」
「わかってるんなら、さっさとやれ!そんな余裕のある動きで敵のチェイサーに当たるわけがないだろう!!」
「・・・・っ!!」
ドラコの檄に、ジャックは屈辱的な顔を浮かべた。
(畜生・・・っ。なんだってんだ、そんなに敵のチェイサーが怖いのかよ!!)
ジャックは舌打ちをして、ちらりとフィールド反対側のを視界に入れた。ひょいひょいと軽々とクアッフルを操る彼を見て、ぎりりと奥歯を噛みしめる。
「もう一度今のフォーメーションで行くぞ!これで今日の練習は最後だ!」
ドラコの声に、ジャック以外の選手は声を張り上げる。そしてクアッフルがチェイサーからチェイサーの手へと高速でパスされ始めた。キーパーはクアッフルから目を離さないようにしている。そしていよいよビーターがブラッジャーを叩く場面がやってきた。
「今だ、ビーター!叩け!」
ドラコが大声で指示を出す。ジャックは鬼気迫る顔でクラブを振り上げ、そして何故かギョロリと動かした黒目でグリフィンドール勢の方を盗み見た。次の瞬間だった、ジャックはみんなに見えない角度で、気味が悪いくらい唇を釣り上げてにやりと笑ったのだ。ジャックが打ったブラッジャーが空気を切り裂いて勢いよく飛んでいく。


練習時間の終了を告げるホイッスルが競技場全体に響き渡った
だが競技場は、予想だにしていなかった事態に騒然としていた


は両手で口を覆い、青ざめた顔で観覧席からフィールドを見下ろした。フィールド上では地面に降りた両チームの選手たちがそれぞれに固まって物議を醸していた。スリザリンのベンチではドラコが額に青筋を浮かべてジャックを睨み付けていた。その一方でグリフィンドール勢は、皆が一様に厳しい顔つきでスリザリン勢を睨み付けていた。
、平気か!?」
「おい!誰かマダム・ポンフリーを呼んでこい!!」
グリフィンドール勢の中心では、が皆に囲まれてうずくまっていた。は脂汗を流して左腕の二の腕部分を押さえている。そこにあてられていたプロテクターは粉々に割れていた。跪くの横には、スリザリンが使っていたブラッジャーが転がっていた。ロンは鬼の形相でそれを掴むと、ハリーとともにスリザリン勢が固まる場所へ向かった。
「ハリー、・・・行くぞ!」
「あぁ。あいつら、絶対に許さない」

今にも噴火しそうな形相でハリーとロンがスリザリンのベンチに近づいていた。やってくる二人を見て、ドラコは頬に汗を浮かべて苦々しげに舌打ちをした。
「・・・何の用だ」
「何の用だって?よくもまぁそんなことが言えるな、マルフォイ。これは一体どういうことなんだ!?」
「・・・・・」
「俺たちが納得できるように説明してくれるんだろうな」
ハリーとロンは絶対に許さないとドラコを睨み付ける。ドラコは毛嫌いする二人に睨み付けられていい気がするわけもなく、歯を食いしばって二人を睨み返した。だが、その頬には汗が光る。それもそうだ、悪いのは自分たちスリザリンなのだから。

事態はこうだ。練習中にジャックが打ったブラッジャーが、どういうわけかフィールド反対側で練習するグリフィンドール領域へと飛んでいったのだ。スリザリンチームに背を向けていたは球を避けることができず、仲間の「危ない!!」という叫びを聞いた瞬間には時すでに遅く、物凄い勢いで飛んできた堅い球に左の二の腕をへし折られていた。近くにいた生徒は、メキメキと骨が砕ける嫌な音を聞いたという。は苦悶の表情で痛みに耐え、バランスを崩しながらも片手で箒にぶら下がり地面に降りた。皆がのもとへと駆けよった。命に関わる怪我ではないから皆ホッとしたが、だがその後が大変だった。花形選手のをわざと狙ったのだと、グリフィンドール勢は怒りに燃えあがった。しばらくの間睨み合いが続き、そして今に至る。

観覧席で見ていたも慌ててスリザリンのベンチを目指した。着いたときにはもう両者の怒鳴りあいが始まっていた。
「どうせを妬んでやったことだろう!?は!これだからスリザリンは。卑怯な手を使わなきゃ寮杯も手に入れられないんだろうな!」
「なんだと!?撤回しろ。貴様らグリフィンドール風情にそんなことを言われる筋合いはない!」
ハリーとロンはリーダーであるドラコをお構いなしに責め立てた。ドラコは自分のチームメイトの失態をどう解決したらいいかわからず、責めてくるハリーたちに真っ正面からぶつかるしかなかった。息切れするロンの目が、ブラッジャーを打ったジャックを捕らえる。
「おい!お前が打ったんだろうが!に何か言うことはないのかよ!?」
ロンはジャックを真っ直ぐに指さして怒鳴った。ジャックは引きつった笑みを浮かべて、両手を挙げて降参のポーズをとった。
「わざとじゃないさ。コースを狙おうとしたらつい力が入って、それでコントロールを失っただけだ」
「つい!?ついだと!そんな理由で許されると思ってるのか!」
「わざとじゃないって言ってるだろう。同じフィールドで練習しているんだ。そういう事故だってあるだろう」
俺たちだって真剣に練習していたんだ、とジャックは肩をすくめてみせる。その態度がハリーたちの神経を余計に逆なでさせた。熱くなったロンは握った拳を震わせる。ジャックを殴る気だ。そう感じたハリーは、いつでもロンを止められるように後ろで待機していた。そのときだ。
「わざとじゃない、というのは本当なのね?ジャック」
怒りの熱に燃え上がる場に、不釣り合いなほど静かな声が流れた。冷水が皆の熱を少しだけ冷ます。皆が声の方を向く。そこにいたのは、いつもとは表情が違う、真剣というよりは少し怒り混じりの顔のだった。綺麗な眉をいつもよりも少し高く釣り上げて、はジャックを真っ直ぐに見つめた。蒼い瞳に見つめられ、飄々としていたジャックの頬を初めて汗が流れ落ちた。
「なんだ、か。・・・何の用、」
の怪我のことで、みんなに聞いてほしいことがあるの」
「なに・・・?」
は静かにローブから杖を取り出した。
「ドラコ、・・・いいよね?」
は迷った末の苦しげな表情でドラコに問いかけた。ドラコは少し考え、だがの考えが読めると苦々しげな顔で目を閉じた。
「あぁ・・・」
重いため息をつき、の提案を了承した。は聞き慣れない呪文を唱えると、ゆっくりと杖を振った。光が溢れ、皆の前に小さな画面が現れた。





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