ドリーム小説
『機会がありましたら、またお会いしましょう』
時は流れ、カレンダーの日付は2月半ばに迫っていた。
もスネイプも、日常の流れに身を委ね、親しい人の訃報から立ち直り始めていた。
・とセブルス・スネイプ。
スリザリン生と魔法薬学教授。
あの日、雪原で寄り添い、互いの胸の痛みを共有した二人の関係は、今までとは違うものに変わり始めていた。
□■□わたしとスネイプ先生の奇妙な学園生活 <9>□■□
2月に入った頃から、寮を関係なく、男子生徒がそわそわし始めていた。
週末のホグズミードは、女子よりも男子でごった返していた。
2月14日の一大恋愛イベントに向けて、雑貨屋やスイーツ店は大繁盛していた。
女の子たちも、意中の男の子が自分に贈り物をしてくれないかと胸を躍らせていた。
そんな男女の賑わいに浮かれることのない生徒と薬学教授もいた。
二人は、今日もまた温室で薬草の手入れをしていた。
雪の積もる冬でも、ここ温室だけは春のようにあたたかだった。
「スネイプ先生。こっちのニガヨモギが根腐れしかけています」
「先週の当番の生徒の仕業ですな。あれほど水をあげすぎるなと言っても、これだ」
「わ・・・こっちはもう枯れています。抜いちゃいますね」
軍手をはめた手で、は枯れた草を引き抜いた。
あたたかい温室内での作業に、汗が流れた。
は、ふぅと息をついて、軍手の甲で頬の汗をぬぐった。
その様子を見ていたスネイプは、
「。泥がついているぞ」
「あ、軍手をしているの忘れていました」
は軍手を外そうとするが、汗でひっついてなかなか脱げず、まごついていた。
思わず、スネイプの口元が緩んだ。
「別嬪が台無しですな」
スネイプは親指での頬についた泥をぬぐった。
触れられた瞬間、の心臓は少しだけ鼓動を早くした。
は、雪原でスネイプに抱きしめられたときのことを思い出していた。
「取れたぞ」
「ありがとうございます・・・」
あの日から、はスネイプを意識し始めていた。
の心はスネイプを拒絶してはいなかったが、迷っているのも確かだった。
の思い違いでなければ、スネイプから彼女へ接触してくることも増えていた。
決して嫌なわけではないけれど、の心には葛藤があった。
「これが終わったら、お茶にしよう」
「はい。(・・・あれ?)」
薬草畑に目を戻したは、ニガヨモギ群生の端っこに、別の種類の植物が植えられているのに気づいた。
明らかに薬草ではない、花の茎の一番上で、大きな蕾が揺れていた。
(バラに似ている)
薬草学のスプラウトが趣味で植えたのだろうと、はそれ以上深く考えなかった。
*
スネイプの地下研究室で、二人はあたたかな紅茶に疲れを癒していた。
「せっかくの休日だというのに、すまないな。薬草の手入れで一日終わってしまった」
「構いません。土いじりは、むしろ好んでやりたいくらいですから」
「それは結構。あぁ、そうだ。来週の土曜は、手伝いはいい。急遽出張が入ったのでな」
「今回はどちらに」
「ロンドン市街だ」
スネイプが杖を振って、お茶のお代わりを注ぐのを、はカップを抱えて見つめていた。
杖を優雅に振るスネイプの手を見て、
(男の人の手って、みんな違うんだ)
スネイプは魔法薬学を教えているのに、手は意外と綺麗だとは思った。
「あの人」の手は薬品で荒れていたな、と思い出して、そしては我に返るのだった。
無意識にスネイプと「彼」を比較してしまったことに、は目を伏せた。
「今日の葉は、口に合わなかったかね」
「いえ。おいしいです。ごめんなさい。ちょっと考え事をしていて」
「ゴートンのことをか」
「・・・・・」
スネイプは、容易にの心の中を読んだ。
だが、の哀しげな表情を見て、今度はスネイプの方が後悔した。
「すまない。今のは我輩が悪い」
「いえ。気にしていません」
「泣くなよ。」
「泣きませんよ。子ども扱いしないでください」
むきになるが可愛らしかった。
スネイプが、ふっと吹き出して肩を揺らすから、もつられて笑顔になれた。
*
研究室のドアをノックする音がした。
スネイプはスッとで杖を振り、二人分の紅茶のセットを消した。
スネイプが入室の許可を出すと、ドアの隙間からスリザリン寮の監督生が泣きそうな顔を見せた。
「お話し中、申し訳ありません。スネイプ先生・・・あの」
「どうかしたのかね。リゼット」
訪れたのは、スリザリンの監督生マルクス・リゼットだった。
神経質で、いつも眉間に皺を寄せて人を疑う、猜疑心と虚栄心の塊とも言える彼が、今は萎縮してしまっていた。
スネイプに怒られるのを、心底恐れているようだった。
「先生、寮に来ていただけますか。実は、・・・みんな寮に入れなくて」
「入れない?何かあったのかね」
「実は・・・グリフィンドールの双子に」
「ウィーズリーか。何があった」
マルクスがウィーズリーの名前を出した途端、スネイプの表情が険しくなった。
悪戯好きの双子の悪名は、も知っていた。
スネイプ、、そしてマルクスは、早足でスリザリン寮へと向かった。
階段を走るように昇り、見えてきた寮の扉に、スネイプとは絶句した。
スリザリン寮の内部から溢れ出した百味ビーンズが、入り口周辺に散乱していた。
スネイプのこめかみに青白い筋が浮き出て、唇がわなないていた。
「これを・・・ウィーズリーたちがやったのか」
「はい・・・。申し訳ありません。他寮の、しかもグリフィンドールの下級生の悪戯を止められませんでした」
監督生であることに誇りを感じているマルクスは、がっくりと肩を落としていた。
「あなたのせいじゃないわ。マルクス。自分を責めないで」
「・・・・・すまない。」
「早く片付けましょう。談話室はどうなっているの?」
「・・・ビーンズだらけで足の踏み場もない。臭くて、下級生たちはみな部屋から出られない状態だ」
ぶちん、とスネイプの堪忍袋の緒が切れる音を、は確かに聞いた。
スネイプの拳は怒りに震え、唇はめくれ上がっていた。
「神聖なるスリザリン寮を穢すとは何たることだ!」
「スネイプ先生。落ち着いてくださ」
「グリフィンドールから50点減点!!ウィーズリーらはどこにいる!?」
ローブを翻し、スネイプは鬼のような形相で足早に寮から離れていった。
は、せめてグリフィンドールの双子が五体満足でいられることを祈った。
は、マルクスに協力して、スリザリン寮の清掃に取りかかった。
しばらくして、鬼と化したスネイプから逃げられるはずもなく、フレッドとジョージはあっさりお縄となった。
大広間の前で正座させられ、その後やってきたマクゴナガルにも、
「まったくあなた方は!恥を知りなさい、恥を!!」
こっぴどく怒られ、次の週末のホグズミード行きを禁止されてしまったのだった。
*
夕飯を終え、グリフィンドールの名物トリオと双子は、図書館の奥のテーブルで談笑していた。
「ちぇ。なーんだよ、スネイプの野郎。俺たちの愛をありがたく受けとれっての」
「あなたたち、何がしたかったの?」
ハーマイオニーは、呆れて何も言えないという目で双子を見た。
「どうせスリザリンの奴らはバレンタインにプレゼントなんてもらえないだろうからさ」
「そうそう。だから、俺たちから愛のこもった贈り物をしてやろうと思ったのに」
「どうやって、スリザリンにビーンズをばらまいたんだよ」
「お。流石は我等が弟よ。いいところに興味を持ってくれた」
「ピーブズさ。奴と物々交換して、スリザリンにビーンズをばらまいてもらったってわけよ」
「なるほど」
自慢げな双子と、兄たちに感心するロンに、ハーマイオニーは重たいため息をついた。
「お願いだから、これ以上の大型減点はやめて頂戴。授業中、何回手を挙げてもおいつかないわ」
「大丈夫!ハリーがクィディッチで活躍してくれるって。な!」
「あんまり期待しすぎないでほしいな」
*
グリフィンドールの集団から少し離れた席で、は読書をしていた。
彼らの話を聞いていると、一番年下のハーマイオニーが一番まともなことを言っていて、なんだか可笑しかった。
思わず本で口元を隠して笑っていたら、そのハーマイオニーと目があってしまった。
盗み聞きして笑っているのがばれてしまったかな、とは目をそらした。
一方で、ハーマイオニーは、「あ!」という顔をして、の方へと近づいてきた。
「あの。・さん、ですよね」
「えぇ。あら、あなた」
「覚えていてくださいました?以前、課題用の本を教えていただいた・・ハーマイオニー・グレンジャーといいます」
「覚えてるわ。本は役に立った?」
「はい、とっても!おかげで、レポートで145点取ることができました」
もちろんそれが100点満点のテストであることは言うまでもないことだった。
「また、良い本があれば教えていただけませんか」
「えぇ、いつでも。ここにはよく来るから、見かけたら声をかけてね」
憧れる聡明な先輩と話ができて、ハーマイオニーの頬は僅かに紅潮した。
ハーマイオニーとの楽しげな会話を、ハリーとロンは離れた席で興味深げに眺めていた。
しばらくして、はハーマイオニーと握手をして去っていった。
ハーマイオニーが戻ってくると、ロンはすぐさま、
「ハーマイオニー。誰だよ、あの美人」
「知らないの、ロン。スネイプ先生の秘書で、よく薬学教室に出入りしているじゃない」
「あぁ。あの人か」
「えぇ!?なんでハリーも知ってるのに。俺だけ?」
「あなた、いつも授業の最初に私のレポート写してるから見てないだけよ」
腰に手を当てて、「宿題は自分でするもの!」とハーマイオニーはロンに言い含めた。
「すごく綺麗な人だよね」
「そうだな。ハーマイオニーじゃ、5年経っても、あぁはなれないよな」
「うるさいわよ、ロン。一言多いのよ」
「バレンタインには、花束もカードもたくさん届くんだろうなぁ」
そんなハリーの予想は、まさに的中することになるのだった。
*
2月14日(土)
その日の朝は、フクロウたちが大忙しだった。
女子生徒のテーブルに、花束やらカードやら宝石箱などを放り投げてはまた戻っていった。
意中の男子からプレゼントが届き、黄色い悲鳴を上げている女子がたくさんいた。
その中で一番注目を集めたのは、スリザリン寮ののテーブルだった。
「・・・(絶句)」
食事するスペースがないくらい、花束とカードで埋め尽くされていた。
「おはよう。」
「おはよう。マルクス。調子はどう?」
「制服がビーンズ臭くて吐きそうだよ」
「それは結構なことね」
「しかし、今年もすごいな。」
「どこでご飯を食べようかしら・・・」
はぁ、とは困ったため息をついた。
「こんなにたくさん、いら」
「ない、なんて言ったら、プレゼントをもらえなかった女の子たちから僻まれるよ。ありがたく頂戴したら
どうだい。捨てられたりしたら、勇気をもってカードを贈った男どもが泣いてしまうよ」
マルクスの言葉は正しかった。
は苦笑して頷き、カードを一枚一枚丁寧に読んでいった。
たくさんの愛の言葉に、は嬉しくないわけではなかった。
ただ、彼らの気持ちに応えられないのが申し訳なかった。
「あぁ、そうだ。。これを」
「なに?」
マルクスはに小さな菓子箱を渡した。
「先日の礼だ。片付けを手伝ってもらった」
「律儀なのね、あなたって。ありがとう。いただくわ」
が笑顔で受けとると、マルクスの耳が少しだけ赤くなった。
7年間も同寮で生活しているが、の柔らかな笑顔などほとんど見たことがなかったので驚いてもいた。
「君、変わったね」
「どこが?」
「何ていうか、性格が柔らかくなったっていうか。女の子らしくなったっていうか」
「そうかしら」
「誰が君を変えたのかな。興味があるね」
意味深な言葉を残し、マルクスは「お先に」と大広間を出て行った。
はマルクスに手を振り、再びカードの整理に取りかかった。
最後の一枚となったカードをは開いた。
二つ折りのカードを開いた瞬間、微かにローズの香りが漂った。
それで、は温室の片隅に植えられたバラの花を思い出した。
「蕾、咲いてるかも」
思い出すと、なんだか無性に花に会いたくなった。
は大量のカードと花束を抱えて、寮の部屋に急いだ。
*
ジーンズとパーカーという動きやすい私服に着替え、は軍手とじょうろを持って温室へと向かった。
まず、はニガヨモギの手入れを行い、それからイラクサ、アスフォデルに水をあげた。
それぞれ水の分量を間違えただけで枯れてしまうが、は一つ一つの手入れの仕方を完璧に覚えていた。
は手入れを素早く終え、温室の隅へ向かった。
気になっていたバラの蕾は、昨日より緩んでいた。
「何色なのかな」
ありきたりな赤だろうか、それともピンクか、白か。
少し楽しみなだった。
温室の作業で汗をかいた額を軍手の甲でぬぐった。
命短し 恋せよ乙女
『美しき五月となりて、花の蕾萌ゆるとき、わが胸も愛の想いに萌えいでぬ』 −ハイネ−
温室の中は夏のように熱く、は汗だくになってしまった。
スネイプに休み休みやるように言われていたことを思い出し、外のベンチで休憩した。
水筒に入れてきた温かい紅茶を注ぎ、一口飲むと体の芯まで温まった。
両足を前に投げ出して、は空を見上げた。
雪が降りそうな空だった。
−−−泣いてやってくれ
雪原に響いたスネイプの切ない声を思い出した。
抱きしめられたとき背中に感じたあたたかな体温を思い出した。
は空に向かい、白い息を吐き出した。
吐息の色とは反対に、の頬は僅かに赤みを帯びていた。
自分の心に正直になりたいとは願った。
でも、ゴートンが好きだった自分がまだ心の中にいて、新しい恋に進んだら彼に悪いとを責めるのだ。
にとって見れば、どちらの気持ちも捨てられなかった。
だから、本当の自分の気持ちを、誰かに引き出してほしいと願った。
「さて、と」
は水筒をしまうと、ベンチから腰を上げ、温室へと戻った。
身も凍るような外の寒さから、真夏のような暑さへ体感温度が一瞬で変化し、はくしゃみをした。
少し寒気がし、両腕を抱えたときだった。
「わ・・・」
はニガヨモギ群生の端に植えられたバラが、蕾を開きかけているのを見つけた。
期待に胸を弾ませて、はバラの苗へと近づいた。
蕾は、が来るのを待ちわびていたように、ゆっくりゆっくりと花開き始めた。
そして、中から現れたのは、見たことのない蒼いバラだった。
「綺麗・・・」
素直な言葉が、の口から零れた。
瑞々しく光る蒼いバラを、いろんな角度から眺めようと、は身を乗り出したときだ。
花の奥に、何か白いものが詰まっているのを彼女は見つけた。
は怪訝な顔で、そぉっと指を伸ばして、開花したばかりの花の中から異物を取り除いた。
指でつまみ上げたそれは、小さなカードだった。
なぜ花の中にこんなものが、とは唖然としていると、真っ白なカードに文字が浮き出てきた。
『我が名は 恋の魔術師
貴方に問います
貴方は今 恋をしていますか』
水面に揺れるような文字を見て、は口を開けて呆然としてしまった。
誰かの悪戯か、もしくは呪いかとはじめは疑った。
だが、バラの蒼さと恋の魔術師の魔力が、の心を素直にした。
カードを見つめるの目は、誰かを想うように愛しげに細められた。
貴方は今 恋をしていますか
「はい」
すると、カードはの声に反応を示した。
カードの文字が消えて、新しいメッセージがスゥッと浮き出てきた。
『恋をしている貴方へ
貴方はその人を 心から愛していますか』
カードの凝った細工に、は逆に感心してしまった。
そしての頭の中には、その人の顔が思い浮かべられた。
は、はにかみながら「はい」と答えた。
カードの文字が揺れて、最後のメッセージが届けられた。
『では 目を閉じて
世界が終わるとき 傍にいて欲しい者の名を呼んでください』
は蒼いバラを見つめ、メッセージに従い両目をゆっくりと閉じた。
目を閉じると、バラの香りに包まれているのが鮮明に感じられた。
は、その人の名前を頭の中で反芻し、そしてゆっくりと想いを込めてその名を呼んだ。
「セブルス・スネイプ」
*
「寮監の名を呼び捨てにするとは、知らぬ間には随分と偉くなりましたな」
突然の声に、の両肩は跳ね上がった。
後ろから聞き慣れた皮肉な言葉が聞こえ、は弾かれたように後ろを振り返った。
そこには、腕組みをした彼女の寮監が立っていた。
怪訝な顔で、を見つめていた。
スネイプの姿を確認すると、の耳がぼわりと真っ赤になった。
「蒼いバラに向かってフルネームで呼びかけるとは。一体、何の呪いですかな」
「スネイプ先生・・・。出張は」
「予定よりだいぶ早く終わってな」
「ゆっくりされて来なかったのですね・・・」
「なんだね。我輩に早く戻られては困ることでもあるのかね」
「いえ、ありません」
はパタパタと手で扇いで、顔の熱を冷ました。
スネイプは、の後ろにある蒼いバラを見た。
「ようやく咲いたか」
「え?これは、スネイプ先生が植えられたんですか」
「あぁ。植えたのは先月だがな。種は・・・ちょうど一年前だったか。ゴートンがくれたものだ」
スネイプの声のトーンが少し落ちた。
スネイプがに気を遣ったのがわかった。
「ずっと机の奥にしまったままだったのだが、せっかくだから植えてみた」
「そうでしたか。これは、新種ですか。綺麗な蒼ですね」
「ゴートンは薬剤師をする傍らで、薬草の新種開発チームにも所属していた。これは、彼が品種改良したものだ」
はそういう仕事もあるのかと、とても興味を抱いた。
このときのスネイプの言葉が、数ヶ月後のの進路希望に大きな影響を及ぼすことになるのだった。
とスネイプは、並んで蒼いバラを眺めた。
ゴートンが遺した花だというだけで、二人にはいつまでもその花を眺める理由になった。
は愛しげに花を見つめた。
スネイプは、花を見つめるの横顔を見つめた。
「それで。」
「はい」
「世界が終わるとき、君が傍にいてほしいのは、我輩でよいのかね」
「!?」
その一言で、の頬も耳も首筋も、隠せないくらい真っ赤になった。
「なぜそれを・・・」
「君が気づかなかっただけだ。我輩はずっと後ろにいたが」
「・・・・」
「もう少し、背後に注意すべきですな」
スネイプは本当に意地悪だとは思った。
にやりと不敵な笑い方をスネイプはした。
スネイプの顔が見られず、は顔をそむけた。
そして、
「先生は、狡いです」
「ならば、別の者に傍にいてもらうかね」
「そういうところが、狡いというんです」
スネイプは意地悪な言葉で、をいじめて楽しがっていた。
そして、そんなやり取りが嫌いではないとは自覚していた。
ふぅ、とため息をついて、は観念して赤い顔をスネイプに向けた。
素直になりたい、と心から願った。
「傍にいてほしいです。世界が終わるときは、先生に」
「上出来な答えだ」
スネイプは、の頬に手のひらを押し当て、親指で頬を撫でた。
スネイプに触れられた場所に、熱がたまっていった。
この熱の名前を、はよく知っていた。
「これからは、泥がついていなくとも、触れて構いませんかな」
「・・・どうぞ。スネイプ先生のお好きなように」
「ほぉ。これはこれは。ミス.は大胆なことをおっしゃいますな」
可笑しそうに肩を揺らして、スネイプは笑った。
の小さな頭を片手で抱いて引き寄せた。
スネイプのローブから微かに漂う薬草の香りが、心地よかった。
「世界が終わるときと言わず、君が望む限り傍にいよう」
「・・・・・・本当、ですか」
「あぁ。嘘はつかん」
「・・・・・・」
「泣くなよ。」
「・・・泣きませんよ」
ローブの中から聞こえるくぐもった声にスネイプは口元を緩め、彼女を大切に抱きしめた。
自分を抱きしめてくれる優しい温度に、は目を閉じて笑み、幸せと安らぎを感じていた。
おまけ
蒼いバラの中から出てきたカードは、一体誰の悪戯なのか。
は経緯をスネイプに話し、彼にカードを手渡した。
スネイプはじろじろとカードを眺め、杖を取り出して、先端でカードの文字をなぞった。
『セブルス・スネイプが命ず。汝の隠せし情報を差し出すべし』
スネイプが呪文を唱えると、一拍おいて、カードの文字がすべて消えた。
手元に残ったのは、真っ白な紙切れだった。
この後何が起こるのか、それとも何も起こらないのかと、とスネイプは息をのんで待った。
すると、カードに新しい文字列が浮かび始めた。
メッセージを読んだ二人は、驚きに目を見開いた。
『我が名は 恋の魔術師 ジャスティン・ゴートン
我が尊き友人 セブルス・スネイプの幸せを願う者なり』
とスネイプは、顔を見合わせて驚いた。
一瞬、ゴートンが蘇って、このカードを送ってきたのかと思ったが、そんなはずはないとわかっていた。
しばらくして、スネイプは合点がいったように肩を揺らして、そして鼻で笑った。
「あのお節介めが」
生前よく、独り身のスネイプを案じてくれていたお節介な彼のことを思い出していた。
早くいい人を見つけてください、とゴートンがしょっちゅう言っていたのをスネイプは思い出した。
これは、ゴートンがスネイプに宛てて仕掛けた悪戯だったと知る。
天国から届いた贈り物に、スネイプは感謝して笑った。
「スネイプ先生?」
「ゴートンに借りができてしまったわ」
それはもう返すことのできない大きな借りであり、感謝だった。
訳が分からずにいる愛しい彼女の頭を片手で抱きしめ、スネイプは蒼いバラを見つめた。
『機会がありましたら、またお会いしましょう』
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