ドリーム小説
これが『恋』かどうかなんて、わからない。
ただ、今はこれが『恋』だと信じていくしかなかった。
彼の気持ちが嬉しかったから、彼をがっかりさせたくないと思った。
たとえそれがスネイプの言うとおり、『恋』じゃなかったとしても・・・・・。
□■□わたしとスネイプ先生の奇妙な学園生活 <4>□■□
とヴィルヘルムの交際は、順調に続いていた。
二人でたくさんの時間を共有した。
中庭のベンチに腰掛け、のんびりと話をして過ごした。
クィディッチ観戦が好きな彼に付き合い、時折競技場に足を運んだ。
図書室で向かい合って座り、一緒に勉強した。
ホグズミードに買い物に行って、帰りに三本の箒でお茶をしたりした。
は、少しずつヴィルヘルムのことを知っていった。
彼の好きな食べ物、好きな本、好きなクィディッチ選手、好きな音楽。
彼がよく使う言葉、彼がよくする仕草や癖。
男の子にしては繊細な指、でも広げてみると女の自分とは違う大きな手。
騎士のように手の甲や額にキスをすることを好み、を抱きしめるとき鼓動が早くなること。
二人の交際は、とても順調に進んでいた。
少なくとも、周囲から見ればそう思えた。
だが、二人のが歩く道は、ゆっくりと歪曲し始めていた。
「。今週末どうする。ホグズミードにでも行くかい?」
「んー・・・あ。今週末?」
「そう」
「ごめんなさい。今週末はスネイプ先生の手伝いが入っているの」
「そっか。じゃぁ、しょうがないね」
そう言って、ヴィルヘルムはちょっと残念そうに笑った。
彼の哀しそうな笑顔に、は胸がちくりと痛んだ。
「ごめんなさい、ヴィル。でも・・・休めないか先生に聞いてみるわ」
「いいよ。気を遣わないで。先生の仕事を優先しなきゃ」
「ごめんなさい・・・」
は肩を落として申し訳なさそうに頭を垂れた。
それを見ていたヴィルヘルムの口からため息がこぼれる。
そのため息が、更にを追い込んだ。
「ヴィル・・・ごめん」
「3回。いや、今ので4回だよ。」
「え?」
「僕に対して謝ったの」
「私、そんなに謝ったかしら?」
自分で何度「ごめん」と言ったかなんて覚えていない。
ヴィルヘルムはの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「謝りすぎさ。は何も悪いことしてないんだから、謝らなくていいんだよ」
「でも、せっかく誘ってくれたのに」
「また次の週行けばいいことさ。気にしないで」
優しく笑うヴィルヘルムに、は申し訳なく思った。
「ヴィルはどうしてそんなに優しくできるの?」
「さぁね。のことが好きだからじゃないかな」
そう言ってを見つめて笑う。
彼の優しい笑顔に救われる気がした。
*
二人の道は、少しずつねじ曲がり始めていた。
彼女を見つめるヴィルヘルムの笑顔に、以前にはなかった憂いが混じり始めていた。
それはいつも彼が決まった言葉を言った後の笑顔に見えた。
それは、
「のことが好きだからじゃないかな」
彼が恋人であるに愛の言葉を伝えた後だった。
ヴィルヘルムがに「好きだ」と伝えると、彼女は柔らかく笑う。
「ありがとう」
彼女に不満はない。
ただいつからか、少しずつだが不安を覚えるようになっていた。
それをに伝えたことはない。
余計なことを言って、彼女を心配させたくなかった。
「」
「うん?」
「あのさ・・・」
ヴィルヘルムは聞きたいことがあった。
だが、それを聞いたらとの関係が崩れてしまいそうな気がして、怖くて聞けなかった。
「なんでもない」
笑って、続きを飲み込んだ。
不思議そうな顔で見上げてくるの頬にそっと手を寄せて、反対の頬に軽く口付けた。
「時間だ。また明日ね」
「えぇ。おやすみなさい、ヴィル」
「おやすみ、」
絡めた指を名残惜しげに放して、二人は別れた。
が廊下の隅に消えるまで、ヴィルヘルムはその背を見守っていた。
*
たまたま、夜の見回りで通りかかったら見つけてしまったのだ。
スネイプは廊下の壁に背を預けて、今の二人のやり取りを聞いていた。
腕を組んで、深いため息をつく。
「やれやれ」
とヴィルヘルムの関係がどうなっているか、人からの噂でしか知らなかったスネイプだが
今のやり取りを聞いただけで、二人の間に流れる不協和音に気づいた。
(傷が浅く済めばよいのだがな)
とヴィルヘルムの関係がこの先どうなるか、スネイプにははっきりとわかっていた。
おそらくは近いうちに、の今までに見たことのない顔を見ることになるだろう。
たとえそれがの心の傷になったとしても、スネイプは傍観者であり続けようと思うのだった。
それは週末の朝のことだ。
それは何ということのない、いつも通りの朝だった。
はスリザリン寮のテーブルで、ヴィルヘルムはレイブンクロー寮のテーブルで食事をしていた。
天窓からフクロウが飛んできて、荷物や手紙を落としていく。
はレイブンクロー寮に背を向けるようにして朝食をとっていた。
食後の紅茶を飲み、そろそろヴィルヘルムも食べ終わった頃だろうかと後ろを振り返ったときだった。
「え・・・」
の視界に入ったのは、レイブンクロー寮席に座るヴィルヘルムと、彼の手を握る少女の姿だった。
少女はヴィルヘルムと同じ色のネクタイをしていた。
何かを強く懇願するように瞳を潤ませ、ヴィルヘルムを見つめていた。
遠すぎて、何を話しているのかまでははっきりと聞き取れない。
ただ、少女の唇の動きで、ひとつの旋律だけは読み取れた。
『I really love you.』
それだけで、状況の9割が容易に予測できた。
少女は今にも泣きそうな顔で同じ言葉を呟いている。
手を握られたヴィルヘルムは少し困ったような顔をしている。
彼の首が、スリザリン寮の方を向いた。
と目があった瞬間、ヴィルヘルムは何か強く訴えるような顔をした。
それから、少女との目もあった。
少女は哀しげに眉を下げながらも、に対して威嚇にも似た、挑戦的な表情を見せた。
(わからない・・・)
の頭は混乱していた。
状況は理解できる。
だが、こういうとき、どんな行動をとればいいのか、どんな顔をすればいいのか、わからなかった。
だから彼女は、最悪ともとれる行動を選んでしまった。
そのまま見なかったことにして、レイブンクロー寮に背を向け、残っていた紅茶を飲み干した。
遥か後ろで、ヴィルヘルムがどんな顔をしているのか、全く予想がつかなかった。
予想することすら怖くて、できなかった。
*
(愚かな娘よ・・・)
それを教師席から見下ろしていたスネイプは、ため息をついて紅茶をすすった。
の心情も、ヴィルヘルムの心情も、スネイプには手に取るように分かった。
若すぎる彼らの心の未熟さなど、大人のスネイプにはお見通しだった。
「第一の試練も、間もなく終わりますな。ミス.」
見つめる先では、が席を立ち上がり、大広間を後にするところだった。
それを見つけてヴィルヘルムも立ち上がり、彼女を追いかけていく。
何もかもがスネイプの予想通り。
おそらく、数時間後に週末の手伝いの約束で地下研究室にやってくるであろうを待つべく、
スネイプもゆっくりと席を立った。
「!!」
大広間を出て中庭に続く石畳のトンネルの途中では呼ばれ、後ろを振り返った。
ヴィルヘルムが息を切らして走ってきた。
その顔は今まで見たことがないくらい必死な顔をしていた。
「待ってくれ・・・逃げないでくれよっ」
「私は逃げてなどいないわ。食事を終えたから散歩に来ただけよ」
「頼む・・・そんなに怒らないでくれよ」
「どうして?怒ってなどいないわ。第一、何を怒るというの」
の声は至って普通通りだった。
それがかえってヴィルヘルムにとっては恐ろしく、また哀しくもあった。
「怒っていないのだとしたら、君はさっきのを見てどう思ったんだい」
「さっきのことって?」
「とぼけないでくれよ。さっきの広間での・・・僕とあの子のやり取りに決まっているだろう」
ヴィルヘルムの頬を汗が流れた。
今まで感じたことのない緊張と恐怖だった。
の態度が普通すぎて、どうしていいかわからなかった。
「あの子がなんて言ったか、聞こえたのかい・・・?」
「えぇ、聞こえたわ。『I really love you.』あっている?」
「・・・・・・・あぁ」
みんなが見ている大広間で告白をするなんて、なんて度胸のある子だろうとは思った。
という彼女がいることを知っていて、ヴィルヘルムに真正面から「好き」だと告げたのだ。
勇気を持って、自分の気持ちを正直に告げたのだ。
自分にはできないことだとは思った。
「・・・君は今どう思っているんだい」
「え・・・」
「僕は・・・他の子から告白を受けた。それを見て、君はどう思う」
「どう、って・・・」
何と答えればいいのか、にはわからなかった。
彼女が答えられないまま沈黙は続いた。
困った表情のに、ヴィルヘルムは自分から話を続けた。
「もし僕なら・・・。もし僕が同じ場面を見たら。もし君が、誰か他の男から告白されるのを見たら、
きっと嫉妬して、君を連れ戻しにいくと思う。『彼女は僕の恋人だ』ってはっきり言ってやる」
「なぜ・・」
「何故って・・・そんなの、君が好きだからに決まってるだろっ!」
石畳のトンネルに、ヴィルヘルムの大声は反響し続けた。
聞いたことのない彼の怒りを含んだ声に、は少なからずショックを受けた。
ヴィルヘルムは肩で怒りを抑え、深く息を吐き、自分を落ち着けた。
小さな声で、「ごめん・・・」とに謝った。
は、あなたは何も悪くない、と首を小さく横に振った。
嫌な沈黙がしばし流れた。
「」
「・・・なに」
「ひとつ、聞いてもいいかな」
「・・・うん」
ヴィルヘルムの声はもう落ち着いていた。
だが、昨日までの柔らかくて優しい色はもうなかった。
彼は緩く握っていた拳に力をこめ、意を決して問いかけた。
「君は・・・僕のことが好き?」
*
あぁ、とは心の中の一番奥にある部屋で、静かに目を閉じた。
それは、降参に似た感情だった。
いつかこの質問をされる日が来ると、自分でも分かっていた。
『好きだよ』
ヴィルは、いつも愛の言葉をにくれた。
彼にいっぱいの愛情を注いでもらった。
それを返さなかったのは、自分だ。
好きだよ、と。
囁かれるたびに、は嬉しく思った。
それと同時に、いつも胸が痛んだ。
その理由が、ようやくわかった。
「・・・・・・・・・ごめんなさい」
彼がくれる愛情に等しいだけの愛を、自分は彼に返せないとわかっていたからだ。
彼に「付き合って」と言われたあの日、彼の嬉しそうな顔を見てなぜ自分の胸が痛んだのか、ようやくわかった。
「あなたのこと、嫌いじゃない。でも・・・・・・ごめんなさい」
ヴィルの顔が見られなかった。
ひたすら石畳に向かって謝った。
それがとても失礼で、酷いことかもよくわかっていた。
頬を叩かれるかもしれない。
冷たい言葉を投げつけられるかもしれない。
でも、そうされて当然だとは思った。
沈黙がとても痛かった。
「」
名前を呼ばれただけで、肩が震えた。
彼の手が伸びてきて、叩かれると思った。
は覚悟を決めて、ゆっくりと目を閉じた。
「わかった」
暗い視界の中、優しくの頭を撫でてくれる手があった。
小さな子をあやすように、優しく丁寧に撫でてくれた。
暖かかった。
「を好きになって、短い時間でも君と付き合えて、一緒にいられて・・・・嬉しかったよ」
彼の声は、いつもと変わらず優しかった。
顔を上げられないの頭をずっと撫でてくれていた。
「これから廊下で会っても、無視しないでくれよ」
「そんなことしないわ・・・」
「よかった」
彼が笑っているのが声でわかった。
別れのときまで自分を気遣ってくれる彼を、は心の底から尊敬した。
彼の手が、ゆっくりとの頭から離れていった。
「さよなら。。・・・・・ありがとう」
「ヴィル・・・っ」
最後にお礼を言うなんて狡いと思った。
弾かれたように顔を上げた瞬間、ヴィルは風のようにの横をすり抜けていった。
*
彼の背中を追いかけることはできなかった。
それどころか、彼の背を見つめることもしてはいけないと思った。
すれ違った瞬間、笑っていると思っていた彼の目尻に涙を見てしまったから。
は彼のことを追いかけてはダメだと思った。
彼の足音ももう聞こえない。
石畳のトンネルの向こうでは、食事を終えた生徒たちの楽しそうな声が聞こえる。
不思議だと思った。
自分は今どん底のような気分だというのに、世界はいつもと変わらないのだ。
(・・・痛いな・・・・・)
胸が痛かった。
心臓が止まりそうなくらい痛かった。
ただ、マダム・ポンフリーにも治してもらえない痛みだということは分かっていた。
「行かなきゃ・・・・」
の心がどんなに痛くても、世界はいつもと変わらない日々を送り続けるのだ。
だから、つらくてもまた日常のレールに戻らなければならない。
は胸の痛みを我慢しながら、スネイプがいる地下研究室へと向かった。
命短し 恋せよ乙女
『みずから苦しむか、あるいは他人を苦しませるか
そのいずれかなしには恋愛というものは存在しない』 −レニエ−
静かなノック音が2回聞こえて、スネイプは入室の許可を出した。
時間をかけて、ドアはゆっくりと音を立てて開いた。
部屋に入ってきたのは、スネイプの秘書を務める生徒だった。
「失礼します。遅くなり、申し訳ありません」
「いや。時間通りだ」
スネイプはデスク上の書類から顔を上げず、黙々とサインし続けていた。
いつもと変わらない風景に、なぜかはホッとした。
「今日のお手伝いは何ですか」
「あぁ。結構だ」
「え?」
「今日やる分は、先程我輩一人で全て片付けた」
「そうなんですか。すみません。もっと早く来るべきでした」
「いや。大切な話し合いがあったのではないのかね。そちらをきちんとすべきだ」
スネイプのその言葉に、は目を丸くして驚いた。
の見つめる先で、スネイプは最後のサインを終え、老眼鏡を外して机上に投げた。
革張りの椅子にゆったりと背を預け、を見つめて薄く笑った。
まるで全てを知っている神のような態度だった。
「水晶か何かで御覧になっていたのですか。それとも盗み聞きを?」
「我輩にそんな趣味はない。全て長年の経験と、勘からだ」
スネイプは椅子から立ち上がると、部屋の中央にある黒革のソファーに足を組んで座った。
そして杖を一振りし、ティーセットを出した。
カップが二つあるのをが不思議に思っていると、
「。お茶をいれてくれ」
「いつも杖一振りでいれられてますよね」
「たまにはよかろう。良い紅茶をいれるのも、レディのたしなみですぞ」
「わかりました・・・」
仕方がない、とはため息をついてティーポットに手をかけた。
*
コポコポと夕暮れ色の紅茶をカップに注ぐと、優しい香りが広がった。
スネイプは紅茶を選ぶ趣味がなかなか良いとは思っていた。
「どうぞ」
ソーサーにカップを置いて、取っ手が右になるように回してスネイプの前に差し出した。
「いただこう」
「どうぞ」
「君も飲みたまえ」
「よろしいんですか」
「何のために二つ用意したと思っているんだね」
「いえ。まさかスネイプ先生にお気遣いいただけるとは」
にっこりとわざとらしく笑って、は自分の分のカップに紅茶を注いだ。
温かい湯気と良い香りに、胸の傷が少しだけ落ち着いた気がした。
「おいしい・・・」
彼女の小さな呟きが、湯気に吸い込まれていく。
スネイプがカップを置く音が聞こえた。
「それで」
「え・・・」
「勉強にはなったのかね。マクミランとのことは」
今のの心情を知っているはずなのに、気遣いのない不躾な質問がスネイプらしいといえばらしかった。
むしろ変に気遣われることの方が、今のには鬱陶しかった。
だから素直に答えられたのだと思う。
「はい・・・・・・とても勉強になりました」
両手で持ったカップの中の、揺れる茶色い液体を見つめながら、はヴィルとのことを
始まりから終わりまでスネイプに話した。
が話をする間、スネイプは相づちも横やりも入れず、ただ黙って聞いていてくれた。
はじめてとも言える恋愛でした
優しくされること、守られること、心から愛を与えられることの喜びを知りました
そして、誰かを傷つけることのつらさを知りました
彼はいつだって私のことを想っていてくれました
でも私はそれに応えず、彼の優しさに甘え、自分の本音から逃げていました
彼は私を好きでいてくれた
でも私は彼と同じ気持ちになれなかった
そしてそれを隠していた
嘘の恋愛ごっこで自分を納得させ、彼を騙していた
「ヴィルを、傷つけてしまいました」
は懺悔するように告げた。
綺麗な眉は、哀しげに下を向いていた。
取り戻せない時間。
傷つけてしまった少年の心。
彼女はひどく後悔していた。
「傷ついたのは、君の心も同じではないのかね」
傷ついたのは、ヴィルだけではないはず。
スネイプの気遣いに、はふるふると首を横に振った。
「そんな資格ありません・・・・」
彼は全身全霊で自分を愛してくれたのに、自分はその半分も返してあげられなかった。
はっきりしない自分の態度が彼を苦しませたのだ。
胸が痛い、痛くて痛くてたまらない・・・けれど、それを口にする資格は、自分にはないと思った。
「恋がこんなに痛いものだなんて、知りませんでした・・・」
「それがわかれば上出来だ。で。ミスは、もう恋に嫌気がさしましたかな」
「いえ・・・。次は、誰かを傷つけなくて済む恋をしたいと思いました」
「結構。ひとつ、課題の答えが見つかりましたな」
「はい。・・・・・スネイプ先生」
「なんだね」
「ありがとうございました」
「我輩は礼を言われることなど何もしていないが」
「いえ。いいんです。ありがとうございました」
そう言って、は傷ついた心を隠して、泣きそうな顔で笑った。
そんな彼女を見て、スネイプは小さくため息をついた。
テーブルに置いた杖をとり、小さく振った。
すると、の手の中にあったカップに違う液体が注ぎ込まれた。
カップの中で揺れる焦げ茶色の液体からは、甘いカカオの匂いがした。
が顔を上げると、スネイプと目があった。
視線で「飲みたまえ」と示唆され、は温かなココアを一口すすった。
痛んだ心に、その優しい甘さがじんわりと沁みた。
すると、
「あれ・・・・・・」
ココアの中に、ぽたりと透明な雫が落ちた。
ぽたぽたと、雨はのスカートに水玉を作っていく。
泣いているのが自分だと気づき、は驚き、そして慌てて手の甲で涙を拭った。
「す、すみません」
「構わんさ」
真正面では、スネイプが肩眉を下げて笑っていた。
その笑い方が、先程まで一緒にいた少年の笑い方に似ていた。
優しいスネイプの気遣いに、彼女の中で我慢していたものが崩れてしまった。
堰を切ったようにぽろぽろとこぼれ落ちる大粒の涙。
「・・・・・・・・ふ・・・う・・・っ」
スネイプに見られていることも気にせず、は涙が止まるまで泣き続けた。
ただ黙って傍にいてくれるスネイプの存在が、今はありがたかった。
*
かける言葉など必要なかった。
ただ彼女が泣きやむまで、見守っていたいとスネイプは思った。
彼女がいれてくれた紅茶も、もうほとんど冷めてしまった。
口を付けると、冷めた分だけ紅茶の苦みが増していた。
まるで彼女の心の痛みのようだと思い、スネイプは苦笑して残った紅茶を飲み干した。
泣いた分だけ、傷は癒える。
彼女の『恋』を探す旅は、まだ続く。
←
戻
→
SEO
掲示板
[PR]
爆速!無料ブログ
無料ホームページ開設
無料ライブ放送