ドリーム小説
かくして、『恋愛』について探る、の長い旅は始まった。
その終わりがどこにあるのかはわからないが、始まりの合図はスネイプの言葉によって切られた。
「無は、有によって上書きされてゆく。恋がわからぬというのなら、実践して知るべしですな」
両手を組んで顎を乗せ、にやりと笑うスネイプの楽しそうなこと。
「簡単に言ってくれますね」と困った顔をするを見て、スネイプはますます笑うのだった。
□■□わたしとスネイプ先生の奇妙な学園生活 <3>□■□
さて、恋愛を実践するにしても、まずは相手が必要だ。
は、同寮の生徒で相手を探してみた。
スリザリンでよく目立つ男子生徒といえば、クィディッチ選手のマーカス・フリントだ。
6年生ながらにキャプテンを務め、スリザリンではヒーロー的扱いを受けている。
ひとつ年下だが、も何度か話をしたことがある。
見知らぬ人ではないが、だが友人と呼べるほど親しい関係でもない。
恋人という概念など、の中にはそれこそなかった。
他にスリザリンで目立つ人物は、
「クラッブ、僕の靴を。ゴイル、箒の手入れを忘れるな」
「お、おぅ」
「わかってるよ」
寮の扉が開くや聞こえてきた威勢の良い声に、何気なくは読んでいた本から顔を上げた。
帰ってきたのは、綺麗な顔立ちなのに可愛げのない顔で命令ばかり言う少年だった。
ドラコ・マルフォイ。
2年生にして(親のコネで)シーカーを務める、スリザリンの小さな権力者だ。
「練習終わり?お疲れ様」
「・・・どうも」
一応はスリザリンの代表生徒として頑張っているので、励ましの言葉を贈った。
に声をかけられ、それまで友人に偉そうに命令していた王子様はそわそわした様子を見せた。
彼女から目をそらし、ぶっきらぼうな返事を返す。
雪のように白い耳が、微かに赤く染まるのを、は不思議に思った。
美人で賢くて優しい年上の先輩は、スリザリンの王子様には魅力的すぎるようだった。
そんな後輩の気持ちを知らず、の心情はといったら、
(マーカスもドラコも、弟みたいなものなのよね)
年下の男の子にはあまり興味を示さない様子だった。
同寮の同年代を探しても、興味をひかれるような相手は見つからなかった。
そんなときだった。
それはそれは偶然にも、なんともタイミング良く、に告白する男子生徒が現れたのだ。
彼の名は、ヴィルヘルム・テッド・マクミラン。
レイブンクローの監督生で、と同級の生徒だ。
夕食の帰りに、彼から「話があるんだ」と声をかけられたとき、は少なからず驚いた。
「僕のこと覚えてるかい?去年占い学で同じクラスだったんだけど・・・えっと、それよりずっと前に」
「えぇ、覚えてるわ。あのときの蛙カード、まだ持っているもの」
「ほ・・・本当かい。よかった・・・っ」
随分と緊張していた彼ヴィルヘルムは、の言葉にパッと明るい顔をした。
ヴィルヘルムのことは、とてもよく覚えている。
なぜなら、それは6年前、が1年生のとき、ドキドキしながら乗ったホグワーツ行き特急の中で
同じコンパートメントに座り、初めて言葉を交わしたのが、彼ヴィルヘルムだったからだ。
ホグワーツ入学の期待と緊張でガチガチだったに、
『これ、食べる?』
『え・・・・』
『よかったらカードもあげるよ』
『あ・・・・うん。・・・ありがとぅ』
あどけない笑顔で蛙チョコとカードを差し出し、緊張をほぐしてくれたのがヴィルヘルムだった。
あの後、汽車を降りてからバラバラになり、組み分けによって寮も別になった。
以降、スリザリンはグリフィンドールとの授業が多く、彼と会うことはほとんどないまま月日が過ぎた。
去年、占い学の授業で一緒になったとき、は彼に気づいていたが声をかけることはなかった。
ヴィルヘルムから話しかけてくることもなかったから、きっと自分のことを忘れているのだと思っていた。
だが、今目の前に立つ彼の、少し赤い顔を見ると、その予想は外れているようだった。
「覚えていてくれて嬉しいよ。すっかり忘れられているもんだと思ってた」
「正直、去年のクラスで一緒になるまでは忘れていたわ。でも顔を見てすぐに思い出したの」
「ひどいなぁ。僕は忘れたことなんてなかったのに」
わざとらしく傷ついた顔をするヴィルヘルムに、は「ごめんなさい」と笑って言った。
それから彼は、落ち着かない様子でと視線を合わせたり外したりした。
少し赤い顔で、照れたように左上を見上げ、意を決したようにと向き合った。
「あのさ・・・もし今、だれとも付き合っていないんだったら・・・その・・・僕と付き合って欲しいんだ」
ヴィルヘルムは額に緊張の汗を浮かべて告白した。
からの良い返事を期待し、彼は落ち着かない様子で後ろ手に組んだ指を動かしていた。
女子生徒から人気のあるヴィルヘルムから告白されたの反応はというと、あまりはっきりしたものではなく、
「付き合っている人はいないのだけれど」
「けど・・・なんだい。やっぱり他に気になる人が?」
「いないわ。ただ、私はあなたのことをよく知らないし」
簡単に”Yes”と答えるのは軽率で、相手に失礼だとは判断したのだった。
かといって、”No”と答える理由もない。
恋愛に慣れないの困った反応を見て、ヴィルヘルムは肩眉を下げてくしゃりと笑った。
「互いを知っていくために付き合うんだよ。恋愛って、そういうもんだろ」
「そう・・なんだ」
恋愛下手なの拙い返事が可愛かったらしく、ヴィルヘルムは可笑しそうに笑った。
ただ、その顔は彼女を想い、とても愛しげだった。
ヴィルヘルムは、はにかんだ笑顔で彼女に手を差し出した。
「君のこと、もっと知りたいな。僕のことももっと知ってほしい」
あのときの、コンパートメントの中で盛り上がった話の続きをしよう、とヴィルヘルムは笑う。
そんな彼のことをは、自分の心を素直に出せる純粋な人だと思った。
強気だけど、ロックハートのような強引さはない、気遣いのある真っ直ぐな想いが気持ちよかった。
はゆっくりと腕を上げ、彼の手を握りかえした。
「よろしく、ね。ヴィルヘルム」
はじめて触れる同年代の男の子の手のひらの大きさには驚いた。
それよりも、目の前に立つ彼の表情の変化に、は心底驚いた。
そのときのヴィルヘルムは、まるで自分が世界で一番の幸せ者だと言わんばかりの顔で笑っていた。
人って、こんなに嬉しそうに笑えるんだと思った。
「ヴィルでいいよ。そう呼んで。ありがとう、」
ヴィルヘルムの手は緊張に汗ばんでいた。
の白くて細い手を強く握り返す。
彼がどれほど長い間自分を想ってくれていたかをは知った。
自分の言葉ひとつで心の底から嬉しそうな顔をする彼を見つめて、は、
(なんで、だろう・・・・)
彼女の心は、ズキリと痛むのだった。
その痛みの意味を、彼女はまだ知らない。
とヴィルヘルムが付き合いだしたという噂は、すぐに生徒間に広まった。
スリザリンの才女とレイブンクローの俊才というカップルに、「お似合いね」という声が多かった。
だが中には、ヴィルヘルムを慕う女子生徒からの嫉妬による陰口も生まれた。
がどれほど優秀で美しかろうと、「所詮は狡賢いスリザリン」という寮の気質がついてまわるのだ。
ただ、それを当の本人が気にしているかと言えば、そんなことは全然なかった。
逆にが気になったのは、ヴィルヘルムの立場だった。
「スリザリンの私と付き合っていて、酷いことを言われていない?」
「あー・・・まぁ、良く思ってない友達もいるよ。でもそれは、君のことをよく知らないからだ。
周りの友達は、君のことを『スリザリンの人間』だからと一括りで考える。君の良さを知らないんだ」
中庭のベンチに腰掛け、紅葉した木々を二人で眺めながら話をした。
「ヴィルは私のことをよく知っているの?」
「少なくとも、他の人よりは。これからもっとよく知っていくけど」
の方を向き、ヴィルヘルムはにこりと笑う。
その笑顔は、確かに女子ならば誰もが好きになってしまいそうなくらいかっこよかった。
自分にはもったいないくらいだとは思って仕方がなかった。
ただ、彼の優しさと笑顔は、今まで感じたことのない暖かさをの心に与えた。
「時間だわ。もう行くわね」
「スネイプ先生の秘書も大変だね」
「えぇ。でも、ロックハート先生から助けてくれた恩人だから、これぐらいしないと」
「は先生方にもてるね」
冗談めいたことを言ってヴィルヘルムは笑う。
「またね」とは荷物をまとめてベンチを立った。
行こうとするの手首を、だが彼が掴んだ。
「」
腰掛けたままの彼に真っ直ぐに見つめられ、は視線をそらせなかった。
彼は、優しい笑顔で告げる。
「好きだよ」
彼女だけに向けられる真っ直ぐな心。
忠誠を誓うように、ヴィルは彼女の手の甲に軽く口付けた。
「いってらっしゃい」
名残惜しげに、彼女の指を撫でるように彼はその手を放した。
笑顔で手を振って送り出すヴィルヘルムに、も笑って時間をかけて彼に背を向けた。
中庭を抜け、レンガの回廊を通り、階段を降り、地下牢へと向かう途中。
歩きながら、は自分の顔と耳と、彼に触れられた手の甲が熱くなるのを感じた。
だが同時に、彼女の心は雪のように冷たくなっていくのだった。
『好きだよ』
(なんて答えてあげればよかったのかな・・・)
その答えを、彼女はまだ知らない。
彼女らの噂は、スネイプの耳にも届いていた。
明日の授業の準備をするため、地下牢教室で薬品を取りそろえていたときだ。
「恋愛について、何か得られるものはありましたかな」
作業する手を止めず、スネイプはそう問いかけてきた。
まるで水晶か何かでの心の変化を覗いているような、的確なタイミングだった。
「少し・・・ですが」
「それは結構」
「でも、まだつきあい始めたばかりですから」
わからないことの方が、圧倒的に多い。
本当に、次に何をしたらいいかもわからず、この先のことを教えてほしいぐらいだった。
「スネイプ先生」
「なんだね」
試験管の中で揺れる水色の液体を見つめながら、は問いかけた。
「恋をすると、心って冷たくなっていくものなんですか」
の質問に、スネイプは片手に読んでいた書物から彼女へと視線を移した。
はスネイプに横顔を向けたまま、試験管の液体を覗いていた。
彼女の横顔に、スネイプは憂いを見た。
それは、以前の彼女にはないものだった。
「のしているものが、果たして『恋』と呼べるものなのか」
「え」
「怪しいものですな」
スネイプの言葉に、彼女は液体から教授へと視線を移した。
だがもうそのときには、スネイプの目は難しい単語の羅列を追いかけていた。
「違うんですか・・・?」
「さて、な。それは当人にしかわからぬこと」
「そんなこと言われても、経験不足の私にはわからないから聞いているんです」
「残念だが。我輩は君の恋の応援団ではない。あくまで傍観者だ」
それ以上は、スネイプは何も言ってくれなかった。
の中に、不安ばかりが募った。
−−−−−今の自分がしていることは、『恋』ではないのか
「!」
地下室からの帰り、大きな声で呼ばれて振り返ると、そこにはヴィルヘルムがいた。
彼は笑顔での元へと走ってきた。
「手伝いは終わったのかい?」
「えぇ。今日の分はもうおしまい」
「じゃぁ、競技場に行かないかい。今、試合をしているところなんだ」
「え、でも」
一緒に座ってお互い違う寮を応援していたら変じゃないかというの懸念を、ヴィルヘルムは読んでくれた。
「大丈夫。今日の試合は、グリフィンドール対ハッフルパフだ」
「他寮の試合なんて観ておもしろい?」
「あぁ。知ってるだろう。グリフィンドールの2年生シーカー」
「ハリー・ポッターのこと?」
「彼の動きはすごいよ。とても箒の乗り方を覚えて2年目の飛び方じゃない。彼のプレーを観ているとワクワクする」
ヴィルヘルムは目をキラキラさせて語る。
そして、は有無を言わさず競技場へと引っ張って行かれてしまった。
*
クィディッチ競技場は、すでに両寮の白熱した応援で沸き上がっていた。
とヴィルヘルムは、空いている席に腰掛けて試合を観戦した。
大歓声が上がる。
グリフィンドールの若きエース、ハリー・ポッターがたちの観覧席の目の前を高速で通り過ぎていった。
彼が呼んだ神風がの柔らかな髪を揺らす。
「いいなぁ」
「え?」
「あんなに自由に飛んでみたいよなぁ」
「ヴィルだって下手じゃないでしょう、飛行術」
「でもあんなに鳥のようには飛べないよ」
心底羨ましそうに彼は呟く。
その声にも表情にも、暗い妬みはなかった。
純粋にハリーの才能を賞賛していた。
「鳥のように飛べなくてもいいじゃない。あなたにはあなたの良いところがたくさんあるんだから」
はハリーを目で追いかけながら、傍らの恋人にそう告げた。
の言葉に、ヴィルヘルムがどれだけ驚いた顔をしているかも知らず。
そのときだ。
「危ないぞ、そこ!!」
誰かが叫んだ。
次の瞬間、たちの観覧席の手すりに剛速球のブラッジャーが激突してきた。
木片が飛び散り、女の子たちが悲鳴をあげる。
も咄嗟に目をつむり肩を縮めた。
「!!」
自分を呼ぶ声がして、大きな手と胸に抱きしめられたのが分かった。
目を開けても、目の前が真っ暗だった。
それもだんだん慣れてきて、目の前にあるのが青と銀のストライプのネクタイだとわかった。
彼の大きな手の温度を、頭と背中に感じた。
彼のちょっと早い鼓動を胸に感じた。
「大丈夫?」
顔を上げると、そこに心配そうなヴィルヘルムの顔があった。
はハッとする。
ヴィルヘルムの頬に、小さな傷ができ、そこから血が流れ出ていた。
「ヴィル、傷がっ」
「ん?あぁ、こんなのかすり傷だよ。問題ない」
「でも」
「それより、が傷つく方が問題だよ」
ヴィルは手の甲で頬の傷をぬぐった。
自分は平気だと言い張り、彼はどこまでもの心配をする。
の顔を見下ろしていた彼は、フッと肩眉を下げて苦笑した。
「なに泣きそうな顔してるんだい。大丈夫だよ」
大丈夫、と笑顔で言っても、の綺麗な眉は下がったままだった。
ヴィルヘルムは親指で彼女の頬を撫でると、彼女の額に軽く口付けた。
それでも、の顔から哀しみは消えない。
「ごめんなさい・・・」
「謝らないでほしいな。僕は君を守りたいんだ」
「でも・・・ごめん」
「はぁ・・・わかってないな、は」
「え」
何度も謝るを、優しく慰めた。
真正面から彼女の瞳をとらえると、その形の良い唇にキスをした。
それは一瞬のことで、周りにいる生徒も観戦に夢中で気づかれることはなかった。
唇に残る柔らかな感触に驚き、は自分の唇に指を添えた。
「僕がほしいのは君の笑顔と、『ありがとう』だよ。」
そう言うと、ヴィルヘルムはのローブのフードを彼女の頭に強引にかぶせた。
「な、なに?」
「それ被ってて」
「なんで?」
「だって、の顔まだ哀しそうだから。その顔見たら、またしちゃいそうで」
フードの上からポンポンッと頭を叩かれた。
場の主導権をすべて彼に持って行かれ、は大人しく、半分になった視界で試合観戦を続けた。
横にいる彼の存在を、前より強く感じた。
「よぉし!いいぞ、ポッター!」
握り拳で名シーカーを応援する恋人に、試合が終わったら、彼がほしかった笑顔と言葉を贈ろうとは思った。
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