ドリーム小説
あぁ、いいさ
君のためだ
後悔なんてしていないさ
まぁ、ボーバトンの高給には少なからず未練があるけれど
□■□わたしとスネイプ先生の奇妙な学園生活 <23>□■□
アルベールには、もう一つやらなければならないことがあった。
アルベールはスネイプに殴られて痛む頬をさすりながら、ホグワーツからボーバトンの船へと走って戻った。
途中すれ違う生徒が、アルベールの頬の痣に振り返ってきたが、気にすることなく自室を目指して走った。
アルベールは自分の部屋の扉を静かに開けると、ローブの中からタイムターナーを取り出し、テーブルの上にそっと置いた。
「これでよし、と」
任務完了と、アルベールはニッと笑った。
頬を動かすと殴られた傷がずきりと痛み、アルベールは表情を引きつらせた。
引き出しから軟膏を取り出し、唇の端の傷に塗った。
「さて。行くか」
アルベールは扉のノブに手をかけた。
その瞬間、不思議な感覚にとらわれた。
突然足が重くなり、部屋に繋ぎ止められているような錯覚を覚えた。
アルベールは後ろを振り返った。
誰もいない、見慣れた自室だった。
それなのに、何故かひどく寂しく、もう二度と戻ってこれないような気がした。
アルベールは頭をかき、気のせいだと思い、部屋を後にした。
船の中を歩いていると、途中生徒とすれ違った。
「あれ?グラン先生。先程、外へ行かれたのでは?」
声をかけられ、アルベールの頭は高速で事態を把握した。
生徒が見たのは、きっと全速力でを探しに行った過去の自分だ。
アルベールは生徒の方を向かず、軽く手を挙げた。
「ずいぶん急いでいらっしゃいましたが、何かあったのですか?」
「あぁ。大丈夫。もう用は済んだよ」
アルベールは誰にも見せることなく、満足げに笑みを深くした。
そしてアルベールはホグワーツの温室へと戻った。
ここがタイムターナーを回した場所だった。
アルベールは外から見えない場所を探して身を隠した。
しばらくじっとしていると、温室の前を通るホグワーツ生の声が聞こえてきた。
「ねぇ、聞いた?スネイプが森で大怪我して保健室に運ばれたんだって」
「うそ、知らない。何かあったの?」
「わからないけど。ボーバトンの子も運ばれているのを見たわ」
アルベールは生徒の噂話を耳にしながら、ホッと胸をなで下ろした。
どうやら、過去の時間は順調に進んでいるようだ。
温室の隅の木陰に座り込み、アルベールは壁に背を預けた。
そのまま、何時間が過ぎたことだろう。
温室の心地よさに、時折うとうとしたりしてしまった。
ここが過去の世界なのか現実世界なのか、意識がぼやけだした頃、誰かが息せき切って走ってくるのが聞こえた。
アルベールは目を覚まし、陰からこっそりと顔を出して様子をうかがった。
温室の前に現れたのは、
「(来たか)」
アルベール本人だった。
正確に言うならば、過去の自分だ。
自分自身を客観的に見る日が来るとは、なんだか不思議な気分だった。
過去のアルベールは、周りをうかがっている。
そして、何かに気づいたかのように動きを止めて、こちらをじっと見つめていた。
アルベールは、「あぁ」と気づいた。
あのとき、誰か人がいるような気がしたのだ。
気のせいだと思っていたが、あれは今こうして隠れている自分自身の気配だったのだと合点がいき、アルベールはふっと笑った。
過去のアルベールがタイムターナーを回した。
その瞬間、過去のアルベールはその場からフッと霞のように姿を消した。
過去へと旅立ったのだ。
アルベールはようやく温室から外へ出られた。
何時間も座り込んでいたので、体が悲鳴を上げていた。
太陽はきらきらと輝き、肌に触れる風がとても心地よかった。
「任務完了」
奇妙な達成感とともに、アルベールはボーバトン目指して足を進めた。
歩きながら背伸びをし、完全にリラックスしていた。
今頃、は調合に専念しているのだろう。
どれ、の様子でも見に行こうかと考えていた。
だがアルベールの表情は、ボーバトンの船の入り口で整列して待つ黒い服の人々を見た瞬間に凍り付いた。
魔法省のバッジを胸に付けた役人たちは、ロボットのような無機質な顔でアルベールを待ちかまえていた。
「アルベール・グランだな」
確認する声にもまた感情はなかった。
アルベールは無表情で役人たちとにらみ合っていたが、やがて瞼を下ろし、唇の端に小さな笑みを作り、ため息をついた。
それは観念したような笑みだった。
「魔法省時間管理局の者だ。無許可の時空間移動の件で話が聞きたい。もちろん、任意だが」
「はは。魔法省は仕事が早い。構いませんよ。隠すつもりはありませんしね」
アルベールは余裕の笑みを浮かべて、真正面に立つ役人と視線を合わせた。
自分がしたことを認め、すぐに白状しますという態度をとるアルベールは、何とも潔い罪人に見えた。
役人は厳しい顔つきでアルベールに問いかけた。
「タイムターナーをどうやって手に入れた」
「さぁ。わかりません。突然私の部屋に置いてありました」
「そんなことがあるわけがなかろう」
「本当ですよ。私が教えてほしいくらいです」
「・・・まぁいい。それで。今タイムターナーはどこにある」
「あぁ、あれね」
まさか今さっき過去の自分が持ち去りました、なんて言えるわけがなかった。
正直に話せば、管理局は性急に回収に向かうだろう。
そうすれば、過去はまた違うものになってしまう。
アルベールの予言通りの「が助からない過去」が成立してしまう可能性もある。
様々な可能性を想定した。
アルベールの頭の回転は、常人には理解できないほど速かった。
そしてまた、アルベールの思考はやはり常人には理解しがたいほど異常だった。
アルベールは突然にっこりと笑った。
役人たちは、怪訝そうに眉をひそめた。
「何を笑っている。早くタイムターナーの居場所を教えたまえ」
「ちょっと待ってくださいよ」
アルベールは笑っていた。
そして、ローブの胸元に手を差し入れた。
砂時計を差し出すのかと役人は思った。
だが、アルベールが手にしていたのは杖だった。
役人は構え、気を引き締めた。
次の瞬間、笑顔のアルベールは優雅な仕草で杖先を自分の眉間に刺すようにあてがった。
役人たちは目を見開いてアルベールに向けて手を伸ばした。
「何をしている・・・・、待てっ!!」
「遅いですよ。・・・『オブリビエイト!』」
アルベールの唇から静かな詠唱が流れた。
杖先から小さな光が放たれ、魔法の衝撃にアルベールの首が勢いよく後ろにのけぞった。
それから数秒をおいて、アルベールはゆっくりと、壊れたからくり人形のように倒れた首を戻した。
起こした顔には、崩れない笑みが浮かんでいた。
役人たちの背筋は凍り付き、そしてぞっとしながらも予想だにできない事態に表情を強張らせた。
「貴様・・・っ!!」
「タイムターナーの場所、でしたね。・・・・・さて。どこに置いてきたかな?」
薄く目を開けて笑うアルベールの姿は、己の悪行に悦を感じる悪魔のそれだった。
アルベールは自ら、タイムターナーに関する記憶を消し去ってしまった。
これではアルベールをどんな拷問にかけても、脳内に記憶がない限り、秘密を吐かせることはできない。
狂人のごとき笑みとその薄気味悪さに、役人たちですら僅かにおののいた。
アルベールは、満足そうに笑った。
これで秘密は守られ、過去は変わっていく。
の命も、スネイプの命も守られる。
犠牲になるのは、アルベールの未来ひとつ。
役人たちはさっきよりも警戒心を高め、アルベールを捕らえるべくゆっくりと近づいてきた。
アルベールは役人たちに杖を取り上げられ、身柄を拘束されながら、その口元に穏やかな笑みを浮かべていた。
「(これでチャラになりますかね)」
*
アルベールがタイムターナーを使って過去へ戻り、スネイプに経緯を説明したということを知り、はショックを
隠せないでいた。
驚きに口を押さえ、呑気そうに笑うアルベールを信じられないという顔で見つめた。
「占いで出たのは、君の死だった。私は、それを伝えただけだ。あとはスネイプ教授の自由さ」
僕は何もしちゃいない、とアルベールは軽く両手を掲げてみせる。
「よかったじゃないか」
「え?」
「本当に喧嘩して嫌いになったのであれば、僕の助言を無視して何もしなければ良いだけのことだった。だが、スネイプ
教授は自分の命と引き替えに、君が死ぬはだった未来を変えたんだ」
「・・・・・」
「格好いいね。ちょっと見直したよ。君が愛する人を」
アルベールはベッドで眠るスネイプをちらりと見て、笑った。
もスネイプの顔を見下ろした。
どんな想いで自分を助けに来てくれたのだろうかと、は考えていた。
アルベールの話を聞き、は目頭が熱くなった。
愛しそうにスネイプを見下ろすを見て、アルベールはゆっくりと目を閉じて笑った。
「さよならだ。」
アルベールが短く別れの言葉を告げた瞬間、保健室の扉が開き、魔法省の役人たちが入ってきた。
「時間だ、グラン」
「はいはい、わかってますよ。本当に仕事熱心ですね」
軽口を叩いて、アルベールは自分のローブの前を合わせた。
は慌てて椅子から立ち上がった。
そしてアルベールのもとへ駆けよろうとして、彼の横顔を見て足を止めた。
アルベールの目が、こちらへ来るなと言っていた。
はその場に立ちつくしたまま、胸元で両手を抱いて口を開いた。
「あ、」
「ありがとう、なんて言うつもりじゃないだろうね?」
アルベールは全てを見透かすかのようにの言いたかった言葉を遮った。
は開いた口を閉じ、何も言えずにヤキモキした表情でアルベールの横顔を見つめた。
アルベールは両側から役人に掴まれながら、不敵な笑みを浮かべていた。
「お礼なんて聞きたくないね。だったら、キスしておくれよ」
こんな状況でも彼のペースが崩れることはなかった。
何も言えないに満足したようににっと笑い、アルベールは部屋を去っていった。
静かに閉まる扉。
追いかけることなんてできるわけもなく、は再び椅子に腰を下ろした。
さわさわと流れ来る風に、の短い髪が揺れる。
小さなため息がひとつ零れた。
「最後まで、・・・本当にずるい人」
ねぇ、とは同意を求めてスネイプに問いかけた。
返事が返ってくることはなく、穏やかに眠るスネイプに苦笑し、は窓の向こうに広がる空に視線を投げた。
「ありがとう」
届けることを許されなかった感謝の言葉は、穏やかな風に乗って外へと流れていった。
そして、2人の間を掻き乱した道化のような男は、静かに去っていった。
季節は巡る。
一年は早い。
もうすぐ、また別れの時が来る。
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