ドリーム小説
目を閉じているはずなのに、瞼の裏は夕陽のような橙色に染まっていた。
それが炎の色だと気づいたのは、じりじりと肌を焼く熱さに耐えられず、が目を開けた瞬間だった。
両腕の下には、気絶したままのケヴィンとシャルロット。
ほっとして顔を上げ、は目の前に広がる地獄絵図に目を見開き、息をのんだ。
「死んでる・・・、」
植物の焼ける焦げ臭さと、生き物の焼ける匂いには腕で鼻を覆った。
数百匹といた呪詛蜘蛛たちは、すべて地面に落とされ、ぶすぶすと煙を上げて腹を上にして死んでいた。
余程の術者でなければ、あれだけの大群を一気に焼き尽くすことなんてできない。
は驚き呆然としていた。
の背後で、どさりと誰かが膝をついた。
「・・・・ごほ・・・っ、」
咳とともに血を吐き出す耳障りな音をは聞いた。
はゆっくりと後ろを振り返った。
黒焦げになった地面に両膝をついていたのは、スネイプだった。
口を押さえる指の間からは、ぼたぼたと大量の血がこぼれ落ちていた。
それは人の血だと思えないほど、どす黒い赤をしていた。
呪詛蜘蛛は、自分を殺した相手に毒の呪いをかけて死んでいく禍々しい生き物。
これだけの量の蜘蛛を殺して、無事でいられるはずがなかった。
の体は恐怖にがたがたと震えた。
「スネイプ先生・・・・・・・っ!!」
は倒れるスネイプに駆けより、彼の体を受け止めた。
スネイプには最早、自分で体重を支える力も残っていなかった。
完全にに体重を預ける彼の姿に、は哀しみを通り越し、恐怖を覚えた。
「先生・・先生っ!・・・スネイプ先生!!」
はスネイプの体を慎重に地面に横たえた。
そして、普段の土気色を通り越し、死人の顔色となっているスネイプを見て背筋が凍った。
「先生・・・っ、スネイプ先生・・・!」
「・・・・・無事かね・・・、」
スネイプの声は掠れていて、もはやほとんど聞きとれなかった。
はできる限りスネイプの口元に顔を近づけた。
「・・・先生、・・・先生っ!」
「そんなに呼ばずとも、・・・聞こえている・・」
何か話すたびに、スネイプの口から血が吐き出された。
スネイプの呼吸がどんどん弱くなっていった。
は眉を寄せ、泣きそうな顔でスネイプの頬に手を添えた。
「・・・冷たい・・・っ、」
「・・・・・」
「せ、先生・・・・?・・・や、・・いやだ・・・・先生!スネイプ先生・・・っ!」
ゆっくりと目を閉じていくスネイプに、は何度も呼びかけた。
震える両手でスネイプの頬を包んだ。
それでもスネイプからは何の言葉も返ってこなかった。
「いや・・・・・こんな別れ方、・・・いやだ・・・・・っ!!先生・・・ーーーっ!!」
はスネイプの頭を抱いて、森中に響き渡る声で悲鳴を上げた。
□■□わたしとスネイプ先生の奇妙な学園生活 <20>□■□
の悲しい叫びがどこまで聞こえたのかはわからない。
だが、その後すぐにやってきたアルベールの手を借り、スネイプは直ぐさま保健室に運ばれ、集中治療を受けた。
だが、スネイプは最早瀕死の状態で、マダム・ポンフリーですら助からないと言った。
気絶したケヴィンとシャルロットは、窓際のベッドで穏やかな顔で眠っていた。
二人には、どこも異常は見られなかった。
スネイプは保健室の一番奥のベッドに横たわり、マグルの患者のようにたくさんのチューブに繋がれていた。
「ポピー。セブルスは治らぬのか」
「これ以上の治療は無理です。ただの怪我ではありません。これは、呪詛蜘蛛の死に際の呪い毒です。毒を吸い
出しても、スネイプ先生の奥深くに入り込んだ毒を治療することはできません。そもそも、解毒剤すら存在し
ない毒ですから尚更、」
マダム・ポンフリーは、無理だと首を横に振った。
ダンブルドアは、眼鏡の奥の優しい目を細め、スネイプとその傍らのを見下ろした。
はスネイプの手を握り、額を押しつけて目を閉じていた。
ダンブルドアは、二人の関係に薄々気づいていたから、尚更胸が痛かった。
「ミス.。落ち着いたかね」
「はい・・・・」
「状況を話してもらえるかね」
ダンブルドアの希望に答え、は顔を上げ、森であったことを全て話した。
呪詛蜘蛛の毒液に魅入られたボーバトン生の少年のこと。
呪詛蜘蛛に導かれた少年と少女を助けるために森に入ったこと。
そこで蜘蛛の大群に襲われたこと。
そして、何故かが襲われるのを知っていたかのように、助けに来てくれたスネイプのこと。
話を聞いたダンブルドアは、思案げに豊かな顎髭を撫でた。
それから、の後ろに佇むアルベールへと視線を投げた。
「スネイプ先生は、何故か君が襲われることを知っていたと。不思議じゃな」
「・・・・・はい」
「誠に不思議なことじゃ。のぉ、そう思わんかね。グラン先生」
「は?あ・・・あぁ、そうですね」
突然話を振られてうろたえるアルベールを、ダンブルドアは鋭い目で見ていた。
先に視線をそらしたのは、アルベールだった。
居心地悪げに咳をし、アルベールはの背中に視線を移した。
*
アルベールはスネイプの手を握りしめるを見下ろした。
予言した未来が、全く違う方向へと進んでいることに彼は混乱していた。
アルベールの予言通りならば、今このベッドで瀕死状態で寝ているのは、だったはず。
それなのに、アルベールが森に着いたとき、毒を受けて倒れていたのはスネイプだった。
何故スネイプは、の身代わりになることができたのか。
どうやって、が蜘蛛に襲われることを知ったのか。
「(何故だ・・・・)」
アルベールは、がしがしと頭をかいた。
すると、ずっとスネイプの手を握り、祈るようにしていたがゆっくりと頭を起こした。
アルベールもダンブルドアも、彼女の動きに目を向けた。
は、スネイプの両手をベッドの上で組ませ、静かに椅子から立ち上がった。
「?」
アルベールの呼びかけに答えず、はベッドを離れ、マダム・ポンフリーに歩み寄った。
「マダム。スネイプ先生はあとどのくらいもちますか」
の顔は真剣だった。
マダム・ポンフリーもまた、ダンブルドアから二人のことを聞いていた。
恋人が瀕死状態でありながら気丈に振る舞うを見て、マダムは悲しげな顔で息をついた。
そして、「もって2日ね」と残酷な余命時間を告げた。
だがそれは、の表情を悲しみに歪めるどころか、かえって引き締めることとなった。
は深々と頭を下げ、
「スネイプ先生をお願いします」
「ミス.。どこへ、」
「スネイプ先生を助ける術を見つけます。できる限り早く戻りますから」
そう言うと、は足早に保健室を出て行った。
呆然としていたアルベールも、慌てて彼女の後を追いかけた。
*
はボーバトンの馬車に戻り、迷うことなく自室へと駆け込んだ。
机の引き出しを乱暴に開けると薬草の剪定用のハサミを取り出し、窓辺に咲いていた一輪の蒼いバラの茎を切った。
それはが丹誠込めて育てた大切な花だった。
それから、壁に掛かっていた薬品庫の鍵束をむしり取るように掴み、乱暴に部屋のドアを開けた。
「あっ、」
「おっと危ない。なんだい、慌てて」
部屋の前で、アルベールと鉢合わせした。
を追いかけてきたのは見え見えだった。
は何も言わず、アルベールの横をすり抜けた。
「どこに行くんだい」
「・・・・・」
「スネイプ教授の傍にいなくていいのかい?」
足早にどこかへ行こうとするの背中に、アルベールはからかう風ではなく真剣に声をかけた。
は一度だけ振り返り、何か決意を秘めた顔をアルベールに向けた。
「私が傍にいても、スネイプ先生が治るわけじゃないわ」
「それはそうだが・・・。けれど、」
「だったら、今の私にできることをするだけよ」
はきびすを返し、どこかへ行ってしまった。
アルベールはそれ以上、彼女を追いかけることができなかった。
彼女のあんな意志の強い目は、初めて見た。
スネイプが倒れて、絶対に泣きじゃくると思っていた女は、思わぬ強さを見せてくれた。
「(ふん。・・・愛の力、ね)」
アルベールは後頭部に手をやり、降参に似た苦笑いをした。
*
は、薬品庫からベゾアール石とマンドレイクの乾燥粉末、その他諸々の薬剤を持ち出した。
調合室に入ると、テーブルの上に調合の材料と、大きなハサミを投げた。
そして薬品棚に向かうと、はごくりと生唾を飲み込んで、一つの小瓶を取り出した。
ケヴィンが持ち出したのと同じ赤い液体は、もう仲間を求めて揺れてはいなかった。
今スネイプを苦しめている紅い毒を握りしめると、の頬をつぅと汗が流れ落ちた。
ひとつ大きく息を吸って、は決意を秘め両目を閉じた。
誰かが呼ぶ声が聞こえた気がした
『スネイプ先輩』
あぁ、なんだお前か
『先輩の愛し方は、間違っていませんから』
またその話か。何年経っても変わらんな
『ただ、傷つけまいと穢すまいと怖がって近づかずにいたら、きっと後悔しますよ』
結構だ。我輩の人生だ。好きなように生きる
『あなたは、傷つけ合うことを恐れている』
もうよい。いい加減にせんか
『大丈夫。たとえ傷ついても、互いを許し合い、理解し合おうとすれば。傷はゆっくりと時間をかけて癒え、
より深い愛に変わることでしょう』
ふん。詭弁を並べおって。だが・・・悪くないな
スネイプは夢の中で亡きゴートンと再会していた。
思案げに顎をさするスネイプを、ゴートンはにこやかに眺めていた。
じろじろ見るなと睨んでも、ゴートンの笑顔が崩れることはなかった。
今になって思い出した、あのときのゴートンの言葉。
そうだ、とスネイプは気づいた。
傷つけ合うことになっても、傷は時間をかけて癒え、より強いものに変わっていく。
恐れることはない。
恐れることは、
『ただ、今の貴方には、もう時間がない』
突然、声がアルベールのものに変わった。
スネイプは驚き振り返った。
穏やかに笑っていたゴートンの姿は、にやにやと嘲笑するアルベールに姿を変えていた。
スネイプは警戒し、杖をかざそうとしてローブに手を差し入れた。
だが、掴んだものは木の感触ではなく、足の長い気色の悪い生き物の感触だった。
ローブから引き抜いたスネイプの手には、無数の呪詛蜘蛛が張り付いていた。
スネイプは目を見開き、声にならない声を上げた。
夜になっても、は調合室から出てこなかった。
内側から鍵がかかっていて、飲まず食わずのまま何をしているのかわからなかった。
アルベールは何度か扉をノックしてみたが、からの反応は皆無だった。
夕食後ものもとを訪れたが、何も返事がないまま、ため息だけついてアルベールはきびすを返した。
廊下を歩きながら、アルベールはのことも気になったが、もう一つ気になることがあった。
それは、どうしてスネイプがを助けることができたのか、ということ。
何者かがスネイプに事情でも話さない限り、こんなにも劇的に未来が変わることなどない。
アルベールは謎が解けず、不可思議に思いながら部屋に戻った。
「ん・・?」
そして部屋に入ってすぐに、テーブルの上に見知らぬ魔法道具が置かれているのに気づいた。
それは金の鎖が繋がった砂時計だった。
アルベールの手荷物にはないものだった。
「まさか、・・逆転時計?誰だ、こんなものを置いていったのは、」
それは魔法省厳重管理の超一級魔法道具だった。
アルベールの部屋にポツリと置かれているなど、明らかに不自然だった。
誰かの悪戯か、罠だとしか思えなかった。
アルベールは砂時計を慎重に手に取り、眉を潜ませしげしげと眺めた。
一体誰が、と考え、・・・・次の瞬間、アルベールの頭にある一つのシナリオが浮かび上がった。
それは黙示録にも近い、運命を変えるだけの力があるシナリオだった。
「そうか・・・、なるほど。だから・・・」
アルベールが不可思議に思っていた謎が、彼の中で全て解けた。
彼の唇がゆっくりと弧を描いた。
アルベールは金の鎖を手に巻き付け、砂時計を握りしめた。
そして慎重に砂時計をひっくり返し、戻りたい過去へと姿を消した。
*
夜が明け、朝日が昇り始めた。
はまだ調合室にこもっていた。
鍋の火を消さないために、一睡もしていなかった。
が今作っているのは、まだこの世に存在しない解毒剤だった。
成功するかどうかもわからない。
だが、これに賭ける以外他になかった。
必要な材料は全て鍋に入れた。
後はこれを、一昼夜寝ずに魔法の炎で煮るだけだった。
そのためには誰かがずっと魔法をかけ続けるしかない。
途中で眠って炎が消えたりしたら、薬の効果は消えてしまう。
は自分の手にテープで杖をきつく巻き付け、絶対に手から離れないようにした。
強烈な眠気に襲われたときは自分の爪で腕をひっかいた。
の腕は幾重にも腫れ上がったみみず腫れと切り傷で痛々しい姿になっていた。
それでも、
「・・・お願い・・」
自分の体などどうなっても構わないと思った。
机に額を押しつけ、は両手で杖を握りしめ、祈った。
薬の完成を、スネイプの無事を。
スネイプの目が覚めたら、聞きたいことが、伝えたいことがたくさんあった。
どうして私を助けにきてくれたのですか
私は裏切りにも等しい、許されないことをしたのですよ
あなたの信用を裏切るようなことをした私を、なぜ命がけで救ってくださったのですか
スネイプに聞きたいことがたくさんあった。
それから、
「・・お願い・・・、逝かないで・・・」
伝えたいこともたくさんあった。
は今でもずっとスネイプを愛していた。
意地を張って喧嘩してスネイプの部屋を飛び出してしまった日から、ずっと後悔していた。
本当は離れたくなどなかった。
ずっとそばにいたかった。
愛している彼のそばにいたかった。
我慢して良い子のふりをする必要などなかったのだ。
一緒にいたいと、もっと我が儘を言ってもよかったのだ。
愛していると、もっと伝えるべきだった。
このまま伝えられずに離ればなれになってしまうなんて悲しすぎる。
は祈った。
杖を持つ手に力を込めて、彼の無事を祈った。
ねぇ、お母さん。嵐が来るよ。早く逃げなきゃ
『そうね。でも、どこに逃げるというの。』
わかんない。でも、逃げなきゃ。嵐は怖いよ
『そうね。でも、どこまで逃げても来てしまうものを避けることはできないわ』
じゃぁ、どうすればいいの?
『大丈夫。怯えないで、。嵐は怖いだけじゃないわ。嵐が吹くとね、新しい命が生まれるの』
あたらしい命?
『そうよ。嵐は、ときに美しい花々をなぎ倒して去っていく。でも、悲しいことばかりじゃないの』
どうして?わからないよ。せっかくある綺麗なものを、どうして壊してしまうの?
そのときは、わからなかった。
不安な顔の私を見下ろして、なぜ母が穏やかな顔で笑うのか。
その理由は、嵐が去った後になんとなく理解できた。
『ほら、嵐がいってしまったわ。風の強い、良い嵐だったわね。あら。浮かない顔をしているのね、』
ねぇ、でもお母さん。嵐が壊してしまったよ。綺麗に咲かせた花も何もかも、壊してしまったよ
『心配しないで、。壊れたわけじゃないわ。倒れた花はね、自分の力で起きあがろうとするの』
ほんとう・・・?
『えぇ、本当よ。何度嵐になぎ倒されても、生きようとする力があれば、何度でも立ち上がり、そしてその度に
強くなれるわ』
何度でも・・・?
『えぇ。だから、信じてあげて。花の命はとても短いの。生きようと必死にもがいているから、信じてあげてね』
・・・うん。わかったわ
いいわ、母さん。信じてみる。
私、あの人を信じてみるわ。
*
スネイプは闇色の海を真っ逆さまに沈んでいた。
底がどこにあるのかも分からない。
光などまったくない闇色の海は、恐怖ばかりをじわじわと増大させた。
スネイプの体はまったく動かなかった。
沈んでいく力に身を任せ、ずぶずぶと底へと潜っていった。
浮上しようという気持ちはなく、半ば諦めていた。
このまま楽になれたら、と心のどこかで思っていた。
だが、不意に見上げた先に、小さな光がぽぉっと灯った。
まるで夜の水面に映し出された月の影のように、それは儚い光だった。
(なんだ・・・あれは、)
スネイプはうっすらと目を開け、沈みながらその光を見つめた。
水面上を漂う光は、だんだんと波紋を広げていった。
だが、底へと沈んでいくスネイプはどんどん離れていくばかり。
たとえあれが希望の光だとしても、もう自分のもとへは届かないだろうとスネイプは観念して目をつむった。
沈んでいく・・・あぁ、どんどん沈んでいく。
深海に近づけば近づくほど、息苦しくなっていった。
中途半端なところを漂っているから苦しいのだ。
早く楽になりたい、全てを忘れたい。
深く、深く、光の届かないところへ、
『・・お願い・・・、逝かないで・・・』
小さな声が水を通してスネイプの鼓膜を揺らした。
それは聞いたことのある声だった。
スネイプはゆっくりと目を開けた。
そして、光の渦がゆっくりとスネイプの方へと近づいてくるのを見た。
闇の中に漂う恐ろしい光だと、スネイプは一瞬怯んだ。
だが、光は予想に反してあたたかく、ふわりと包むようにスネイプを抱きしめた。
そして囁くのだ。
『還ってきてください』
光は、泣いていた。
泣きながら、スネイプを優しく抱きしめた。
覚えのあるあたたかな感触だった。
久しく忘れていたぬくもりに、スネイプの体から力が抜けていった。
(あぁ・・・そうか)
光は、スネイプが沈むのを必死に止めた。
そして、ゆっくりゆっくりと、スネイプを水面へと導いた。
あたたかな光の感触に、スネイプはまどろみ、目を閉じて体を委ねた。
そして思うのだった。
(こうして・・・もっと触れてやればよかったのだな)
光は、泣いていた。
蜂蜜色の、優しい光だった。
水面は、もうすぐそこにあった。
事件から、二日目の朝を迎えた。
ボーバトンの調合室にこもっていたが、ようやく動いた。
両目の下には濃い隈が浮き出ていた。
杖をくくりつけるためにテープで巻き付けていた右手は、皮膚が赤くただれていた。
襲い来る睡魔から逃れるために傷つけた腕は、赤い血が幾重にもにじみ出ていた。
疲労と睡魔に頭がぼぉっとし、窓から差し込む朝日に目が眩んだ。
はゆっくりと椅子から立ち上がり、鍋の中をのぞき込んだ。
そして、鍋底で揺れるゲル状の蒼い塊を見つめると、はずるずると机に突っ伏した。
「・・・・・できた・・、」
全身から力が抜け、はそのまま床にぺたりと座り込んだ。
テーブルの脚に頭を預け、疲労の濃いため息をついた。
過度の寝不足に頭がズキリと痛んだ。
は眉をひそめ、髪をくしゃりと握った。
その量の少なさに驚いたのは自身だった。
だがすぐに「あぁ、そうだった」と思い出した。
こつんとテーブルの脚に頭をぶつけると、は目を閉じて小さく笑った。
早く会いたいと思った。
愛する人に、早く会いたいと願った。
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