ドリーム小説
・は、三日以内に毒に身体を侵され命を落とす
アルベールは、食堂で朝食の紅茶を飲むを正面の席に座って見つめた。
彼にしては珍しく、笑顔以外の生真面目な顔だったので、は何だかいつも以上に居心地が悪かった。
「何なの」
「いや。見とれているだけさ。お構いなく」
「言われなくても、構いません」
は不機嫌な顔で残りの紅茶を一気に飲み干した。
その間も、アルベールはじっとを見つめていた。
彼女に、特に不自然なところはなかった。
気づくことと言えば、目の下の隈が濃くなっていることぐらいだった。
「昨夜も悪夢を?」
「何をいきなり。そんなこと聞いてどうするの」
「答えてくれ」
アルベールの声は珍しく真剣で、は少し圧された。
そして渋々ながら、「見たわ・・・」とため息付きで答えた。
アルベールはゆっくりと椅子の背もたれに体を預け、何もない空中をぼぉっと見始めた。
どうかしてしまったのだろうかと、は怪訝な顔でアルベールをちらりと見た。
だが、今がチャンスだと思い、は忍び足で席を立った。
*
がそぉっと席を立つのを、アルベールはわかっていながら引き留めなかった。
それよりも今の彼の中で重要なのは、あの占いが真実かどうかということだった。
神経を疑うようなことをする男だが、アルベールの占いは90%以上の確率で当たっていた。
その的中率を買われて、ボーバトンから教鞭の誘いを受けたぐらいだった。
自分の占いが外れるとは思っていない。
「本当に、あと三日の命なのか」
アルベールは足を組んで、窓の外の風景を眺めた。
空は小鳥が飛びかい、地上には雄大な湖が広がり、朝陽に美しく輝いていた。
世の中はこんなにも平和だというのに。
アルベールは、食堂の入り口付近で生徒たちと笑顔で話をするを遠目に見つめた。
彼女はあんなにも美しく輝いているというのに。
「本当に、変えられない運命なのか」
アルベールは腕を組み、唸り声を上げた。
変えられない運命、変えられない未来なのだとしたら、これを彼女に伝えるべきか。
なんと伝えればいいのだろう。
君の命は三日後に尽きると、だから残された三日間でできることをしろとでも言うのか。
そんなことを言って、彼女はどう感じるだろう。
アルベールという男の精神が疑われ、さらに嫌悪されるだけだろう。
容易に想像がつき、アルベールはふっと肩を揺らして笑った。
きっと冗談だと片付けられてしまうのだから、言っても言わなくても同じか。
だが、ふとアルベールは笑みを引っ込めた。
もしも、このまま運命が悪戯に彼女の命を奪ったら、とスネイプはどうなってしまうのだろうと考えた。
「(すれ違ったまま、もう二度と会えなくなる。まるで、おとぎ話のようですね)」
愛する人を残し死んでいくも、愛する人に死なれ独り残されるスネイプも、哀しみの量を天秤で量れば
きっとどちらも同じはず。
美しい悲恋だ、とアルベールは再び肩を震わせた。
□■□わたしとスネイプ先生の奇妙な学園生活 <19>□■□
顔を合わせないように細心の注意を払っていたのに。
「そんな怖い顔で睨まないでくださいよ。スネイプ教授」
授業を終えて、薬学教室を出たところでスネイプはアルベールと鉢合わせしてしまった。
アルベールは、スネイプを待っていたかのように壁に寄りかかっていた。
口元の妖しい笑みに、スネイプは吐き気すら覚えた。
スネイプはアルベールを無視し、彼の前を通り過ぎた。
アルベールは気にした様子もなく、スネイプの後を追いかけた。
「と仲直りできましたか?」
「貴様には関係なかろう」
「おや。まだのようですね。待っていても、時間が解決してくれる問題ではありませんよ」
「自分で種を蒔いておいて、よくもそんな口が利けるものだな。神経を疑う」
スネイプの声にはあからさまな険が混じっていた。
アルベールは言葉を抑えるどころか、スネイプを怒らせるような言葉ばかり選んだ。
「ねぇ、スネイプ教授。抱いているときに名前を呼ばせるのは、貴方の趣味ですか。実に可愛らしい」
アルベールは悪魔のような笑みでスネイプを挑発した。
だが、スネイプが振り返ることはなかった。
ただ、スネイプの拳はきつく握りしめられ、怒りに震えていた。
「お怒りですか」
「・・・・・」
「当然でしょうね。自分以外の男に恋人を弄ばれたのですから。ですがまぁ、私は後悔などしていませんが」
「なんだと、」
「だってそうでしょう。肉体の喜びは、彼女の潜在的な願いでしたから」
スネイプは、記憶の中のの言葉を思い出していた。
『偽物とはいえ、我輩の形をした者に抱かれて満足かね』
『・・・いいえ』
の頼りない返事に、スネイプは憤りを感じた。
結局は、彼女が望むのはアルベールが言うような愛し方なのだろうか。
「は若い。遠くから贈られる愛の言葉だけで満足できるはずがないのですよ」
スネイプの心を読んだかのように、アルベールは追い打ちをかけた。
スネイプの歩みが、次第にゆっくりとなっていった。
それがスネイプの降参だと読んだアルベールは、口元の笑みを濃くした。
「それで勝ったつもりか。若造」
スネイプは決してアルベールを振り返らなかった。
だが、アルベールにどれほど言われようと、スネイプの背中が薄らぐことはなかった。
「愛の形は、一つではなかろう」
スネイプの声は静かで重みがあり、アルベールの目には前を歩く男の背中が頑丈な壁のように映った。
どんな魔法でも道具でも崩せないような気がした。
アルベールは、スネイプに対して初めて真顔になった。
「傍にいて抱いてやることだけが愛ではない」
「はは。ぬくもりを感じられない関係など、すぐに冷めてしまうに決まっています」
「それは、貴様がそういう愛し方しかしてこなかったからそう思うだけだ」
「なんです、急に自信満々の物言いで。お説教ですか。まるで、そういう愛し方をしてきたみたいな言い分ですね」
スネイプの足が、回廊の途中で止まった。
アルベールも距離を取って足を止めた。
そこは、ホグワーツ城と離塔を繋ぐ回廊の上だった。
目の前には、美しい湖と山脈が広がっていた。
「貴様には決して理解されぬだろうがな。貴様とはまったく正反対の愛し方で、生涯妻を愛した男がいた」
アルベールは、腕組みをして手すりに寄りかかってスネイプの話を聞いた。
スネイプをちらりと盗み見ると、彼の目は真っ直ぐに禁断の森を見つめていた。
「病床の妻に寄り添い、一生を終えた男の話だ。貴様には理解できんだろう」
「よくありそうな感動話ですね」
「あぁ、そうだな。どんなに声をかけても返事など返ってくることはない。愛していると囁いても、頬に触れても、
何も感じることはない。そんな女を、生涯愛し続けた男だった」
「はは。それはまぁ、なんとも、」
「無意味で滑稽だと、貴様は笑うだろう」
「えぇ・・・。当然でしょう」
「ならば、彼の愛は間違っていたということになるな。貴様が言うとおり、触れる愛が全てだというならば、
彼の愛は全くの無意味であると」
スネイプの声は静かで重く、ゆっくりと海底に沈んでいくような感覚にとらわれた。
饒舌なアルベールが、反論できない雰囲気を醸し出していた。
「彼の愛が間違っていたなどと、我輩は微塵も思わん。愛の形など、人それぞれ違う」
「それだけは理解できます。事実、貴方との愛の形は違う。だからすれ違い、歯車が回らなくなった」
アルベールは、可笑しそうに肩を揺らした。
「私がたった一つ歯車を狂わせただけで、音を立てて崩れていった。修復もできず、未だ彼女は悲しげな顔で日々を
送っている。所詮、形の違う愛など、噛み合うわけが、」
「そうだ。貴様の言うとおりだ。だが、貴様がその言葉を口にすることは、我輩が許さん」
「・・・・」
「ゴートンとアリシアもまた、噛み合わぬ歯車同士であった。それを互いに支え合いながら、命尽きる日まで寄り
添った、彼らの愛を否定する貴様の言葉を許すわけにはいかん」
スネイプの声が、アルベールの両肩にどすりとのしかかった。
陽の光が届いていた海中から、闇しかない深海に一気に引きずり込まれ、アルベールは息が止まった。
スネイプの横目が、アルベールを睨んでいた。
目の奥で燃える炎は、まるで地獄の業火のようだった。
ゴートンの愛を守ろうとするスネイプの意思は強く、深海のように深かった。
スネイプはローブを翻すと、呆然とするアルベールを置き去りにした。
アルベールは慌てて手すりから身を起こした。
「スネイプ教授」
「なんだ」
「それほどまでに愛を理解されていて、と和解しようと歩み寄らないのは何故です。つまらない男のプライド
ですか」
「くだらん。貴様には関係のないことだ。これ以上口を出すな」
「そんな悠長に構えているから、私のような人間に引っかき回されるのですよ。少しは急いだらどうなんです」
「貴様は、自ら引っかき回しておいて、我々に和解させたいのかね」
「いえ、このまま崩れてくれればいいというのが本音ですが。貴方がたがあまりにものんびりで」
「余計な世話だ」
遠ざかるスネイプの背中に、アルベールは最後に一つだけ声をかけた。
「もしも、明日彼女が死んでしまったらどうするんです。後悔なさいますよ!」
スネイプは、足を止めずに一度だけアルベールを振り返って、じろりと睨んだ。
だが、スネイプは何も言わず、アルベールの視界から消え去っていった。
取り残されたアルベールは、再び手すりに寄りかかり、空を仰いでため息をついた。
「なに、助けるみたいな真似してるんだろうな・・・」
すれ違ったまま、二人の仲を壊してやろうと思っていたのに。
初めてスネイプと長く話をして、彼の奥深さと彼の愛の深さを知ってしまったからだろうか。
馬鹿なことをした、とアルベールは肩を震わせて自嘲気味に笑った。
*
占いに出た日から、アルベールはそれとなくを見守り続けた。
だが、が危険な目に遭うことはほとんどなく、アルベールの退屈な観察に終わっていた。
唯一危険だったのは、が階段を踏み外して転びそうになったこと。
周りにいた生徒たちにからかわれ、は苦笑いしていた。
の命にかかわるような危険なことなど、起こる素振りもなかった。
「久々に、ハズレかな」
アルベールは、から離れたテーブルでコーヒーを飲みながら彼女を観察した。
「先生、おはようございます」
「おはよう。シャルロット」
「先生。今日の薬草学は、教室でいいんですよね?」
「えぇとね・・・。違うわね。このクラスは、まだ野外実習が終わっていなかったわね」
「はい。前回は小雨が降ってしまい、中止になりました」
「じゃ、みんなに伝えてちょうだい。今日は実習セットを持って、湖のほとりに集合って」
「はい。わかりました」
何てことはない、いつもと変わらぬ日常に、アルベールは欠伸が出そうだった。
やれやれと頭をかき、アルベールは席を立って授業の用意をするべく占い学の教室へ向かった。
ねぇ、お母さん。嵐が来るよ。早く逃げなきゃ
『そうね。でも、どこに逃げるというの。』
わかんない。でも、逃げなきゃ。嵐は怖いよ
『そうね。でも、どこまで逃げても来てしまうものを避けることはできないわ』
じゃぁ、どうすればいいの?
誰かの声が聞こえた気がした。
はたくさんの生徒を引き連れ、湖の湖畔に来ていた。
生徒たちは出された課題の薬草を血眼になって探していた。
「あったー!ひとつ見つけた!先生、これですよね?」
「んー。残念ね、ロベルト。それはただの雑草よ」
「えー?」
見つけた薬草の数で評価が決まるものだから、生徒たちは必死だ。
そんな姿が可愛らしく、は思わず笑ってしまった。
そよ風がほんの少し強さを増して、の髪を乱した。
ざわざわと草木が奏でる音が一層強くなった。
は顔にかかる長い髪を耳にかけ、視界をクリアにした。
「え?」
長い髪に邪魔されていた視界が開け、の目に禁断の森が入った。
たちがいる湖の畔から森へと続く緩やかな芝生の丘を駆け上がる、2つの小さな影が見えた。
先へ行くのは少年、それを追うのは少女。
おそらく、ケヴィンとシャルロット、どちらもがよく知る生徒たちだった。
「まったく。あの子たちは」
は困った顔でため息をついた。
きっとケヴィンの勝手な行動を止めようと、シャルロットが彼を追いかけているのだろう。
「どうしようもない悪戯っ子ね」
は級長のマリアに声をかけ、ここを離れずに課題に取り組むよう伝えた。
そして、二人を追いかけて足早に丘を登っていった。
*
風のように駆け抜ける。
アルベールは全速力で湖畔を目指して走っていた。
綺麗にセットされた髪を乱し、激しく息切れしながらもスピードを落とさず走った。
視界の隅に、のクラスの生徒たちの姿が映った。
「ロベルト!」
「グラン先生?」
猛スピードで駆けてくるアルベールの珍しい姿に、生徒たちはみな薬草から彼へと視線を向けた。
アルベールは、寝癖が特徴のロベルトに走り寄ると、彼の小さな両肩をわしづかんだ。
「せ、先生?どうかされたんですか?」
「はぁ、はぁ・・・っ。おい、先生はどうした!?どこにいる?」
「え?あれ、そういえばいないですね」
辺りを見回した後、ロベルトは首を傾げてのんびりと答えた。
アルベールの顔から僅かに血の気が引いた。
すると、近くにいた級長の少女が落ち着いた口調で告げた。
「先生なら、あの森に行かれました」
「森・・!?授業中に、なぜ持ち場を離れる?」
「ケヴィンとシャルロットが抜け出したからです。先生は彼らを追いかけて、」
「なんてことだ・・・!」
アルベールは焦った顔で、頭をがしがしとかいた。
周りで呆然としていた生徒たちも、アルベールのいつにない様子に何かあるのかとざわめきだした。
「マリア、ロベルト。君たちはここにいろ。絶対にここを離れるなよ」
「は、はい。あ、グラン先生っ」
それだけを告げると、アルベールは湖を後にした。
ローブをはためかして、来たときと同じように全速力で森を目指して走っていってしまった。
残された生徒たちは互いに顔を見合わせ、初めて見る必死な彼の背を見送った。
アルベールは焦っていた。
が危険にさらされていることに気づいたのは、自分の占い学の授業が終わったときだった。
馬車内の小窓から見下ろす風景に、たちの姿を見つけた瞬間、アルベールの表情は強張った。
「(馬鹿だ・・・。何故気づかなかったのだろう・・!)」
朝食の席で、と生徒が野外実習の話をしていた。
アルベールもそれを聞いていたはずなのに、どうやら彼のセンサーは退屈の魔物に邪魔され、かなり鈍っていたようだ。
「(彼女は毒で命を落とす。危険なのは、室内より屋外ではないか!)」
そのことに気づき、アルベールは急いで走ってやってきた。
だが、到着した湖畔に彼女の姿はなく、どこへ行ったかと思えば森だと生徒は答えた。
毒性の強い植物も生物も多い森へ彼女自ら出向こうとは、なんとおあつらえ向きな状況。
事態は、急速にアルベールが予言した未来へと進んでいた。
*
緩やかな丘だと思っていたが、早足で登るとよい汗をかいてしまった。
は息を整えて、森の入り口に佇む二人の生徒の名を呼んだ。
「ケヴィン、シャルロット。そこで何をしているのですか」
は腰に手を当てて、眉をつり上げた。
授業中に抜け出すなんて罰則を与えますよ、と強い口調で言ってやるつもりだった。
だが、振り向いたのはシャルロットだけだった。
シャルロットはを見上げ、泣きそうな顔で口をわななかせていた。
そこまで怖い顔をしたつもりはないのだが、とは少し表情を和らげた。
「どうしたんですか。実習の途中で抜け出すなんて、」
「先生、助けて!ケヴィンを助けてください!!」
「え?」
がよく見ると、シャルロットの左手は必死にケヴィンの制服を掴んで引っ張っていた。
森へ進もうとするケヴィンを止めようとして、シャルロットの手の甲には筋が浮き出ていた。
「何をしているの、あなたたち、」
「先生!ケヴィンを止めて!ケヴィンから瓶を取り上げてください!」
「え?」
はケヴィンの握られた拳へと視線を向けた。
そして次の瞬間、は両目を見開いた。
「ケヴィン・・っ!!あなた、どうしてそれを!?」
「・ア、・・ア、・・・・・アー・・・・・・、」
ケヴィンの口から、不思議な呼気が零れ出た。
振り向いた彼と目が合い、完全に正気を失っている瞳に、はぞっとした。
はケヴィンの手に握られた小瓶を力づくで奪った。
それは、いつか薬草学の時間にが教えた、呪詛蜘蛛の赤い毒液だった。
なぜケヴィンがこれを持っているのか、には容易に予想がついた。
「あのとき既に、取り憑かれていたのね・・・」
薬品棚を眺めていたときから、ケヴィンは少しずつ蜘蛛の呪いにかかり心奪われていたのだ。
それに気づいてやれなかったことに、は自分を責めた。
奪われた瓶を取り戻そうと、ケヴィンは俊敏な動きでの手首を掴んできた。
12才の少年とは思えない握力に、は眉をひそめた。
ケヴィンは呪いに操られている。
「離れなさい、シャルロット!」
はローブの中から杖を取りだし、ケヴィンに向けた。
すると、それを予想していたかのように、ケヴィンは自動的に自分の杖をへと向けた。
「エクスペリアームス!」
だがの詠唱の方が速く、ケヴィンの手から杖が吹き飛んだ。
それでもケヴィンは焦点の合わない虚ろな目でをじっと見つめ、拳を作って振りあげた。
はきつく目をつぶり、心の中で少年に謝った。
「ステューピファイ!」
の杖先から放たれた赤い閃光がケヴィンを直撃した。
ケヴィンは両目を見開き、だが次の瞬間失神して前のめりに倒れた。
は持っていた自分の杖を地に落とし、彼の体を受け止めた。
「先生!ケヴィンは・・・っ?!」
「大丈夫よ・・・、気絶しているだけ。医務室に運んで、エネルベートをかければすぐに意識を取り戻すわ」
「・・・よかった・・」
はケヴィンの体を地面に横たえた。
シャルロットはケヴィンの傍に駆けより、彼の手を握りしめて泣きじゃくった。
は額の汗を手の甲で拭った。
静かに眠る少年の顔を見下ろし、顔色がひどく青ざめているのにぞっとした。
まさか、たかが毒薬と思っていたものが、少年を森に導く程の力を持っていたとは。
の第六感が、早くここを立ち去った方がいいと言っていた。
「行きましょう。ケヴィンは私がおぶっていくから、シャルロットは私の杖を、」
はケヴィンの横に跪き、仰向けの彼の体に手を触れた。
だが、それが悪夢へと誘うスイッチとなった。
ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ
ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ
ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ
ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ
ざわざわざわざわざわざわざわ
ざわざわざわざわざわざわざわざわざわ
ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ
ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ
手が届くほど近くにいるのに、お互いの声も聞こえぬほどの生き物の蠢く音に森が支配された。
大量の何かがたちのところへ近づいてきていた。
は四方八方に視線を巡らせた。
だが、凄まじい音はすれど、姿は見えなかった。
姿なき恐怖に、の手は震えた。
「なに・・・・っ?」
何かが近づいてきていた。
だが、どこから来るのかわからなかった。
空を見上げたが、何もいなかった。
左も右も、何もいなかった。
リスの一匹も鳥の一羽もいなかった。
不自然なほどに、何もいなかった。
そうだこれは、全ての生き物が避難した後なのだとが気づいたときには、全てが遅かった。
たちが佇む地面だけが、巨大な影に覆われた。
『仲間ノ血肉、置イテイケ』
ざわめきとともに、地の底から這い出たような低い唸り声が聞こえた。
上を見上げたシャルロットが、断末魔のような悲鳴を上げて失神し、ケヴィンの上に倒れた。
上に何かいる・・・・・。
は恐怖にガチガチと鳴る奥歯を噛みしめ、ゆっくりと真上を見上げた。
額から流れ落ちた汗が、細い顎先から地面へとぽたりと落ちた。
の瞳孔は開き、ヒュッと音を立てて呼吸が止まった。
全身から冷たい汗がぶわりと噴き出した。
口の両端に生えた二本の鋭い牙をカチカチと鳴らして、数百匹の呪詛蜘蛛が密集し巨大な網と化していた。
がさがさがさがさと蠢く無数の蜘蛛の群れ、カチカチカチカチと鳴りやまない捕食のサイレン。
は蜘蛛から目を離さず、地面のどこかに落ちた杖を手探りで探した。
だが、手に触れるのはみな枯れ葉ばかりだった。
の動きを、蜘蛛は見ていた。
ざわめきが、一際大きくなり、そして・・・・・・・・・・・止んだ。
・・・・・・・・・静寂・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
だが次の瞬間そこに存在するすべての呪詛蜘蛛が一斉に鳴いた。
ガラスを爪でひっかくような耳障りな音にの鼓膜は激しく揺れた。
世界を裂くような悲鳴を上げながら、蜘蛛の大網がたちを喰らうべく急降下してきた。
は死を覚悟した。
せめて、生徒たちは守りたいとはシャルロットとケヴィンの上に覆い被さった。
目をつぶる刹那、の視界の隅を掠めたのは、真っ赤な炎の閃光だった。
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