ドリーム小説
ねぇ、お母さん。嵐が来るよ。早く逃げなきゃ
『そうね。でも、どこに逃げるというの。』
わかんない。でも、逃げなきゃ。嵐は怖いよ
『そうね。でも、どこまで逃げても来てしまうものを避けることはできないわ』
じゃぁ、どうすればいいの?
『大丈夫。怯えないで、。嵐は怖いだけじゃないわ。嵐が吹くとね、』
学生時代はいつも、ホグワーツ城の中からの景色ばかりを眺めていた。
ボーバトンの馬車から眺めるホグワーツ城は、また違った顔をしていた。
夕陽に照らされ、湖が広大な黄金の草原のようだった。
は自室の机に向かい、生徒のレポートをチェックしていた。
大量の羊皮紙と格闘し、ようやく最後の一枚をチェックし終え、羽ペンをころんと転がした。
「ふー・・・やっと終わった」
は、凝った肩をトントンと叩いた。
背伸びをすると、窓際へと歩み寄った。
窓から見えるホグワーツ城は、夕陽に照らされ、光と影の美しいコントラストを描いていた。
は腰の高さほどの出窓に腰掛けると、植木鉢に咲く一輪のバラの花に手を添えた。
蒼い花びらをそっと撫で、は目を細めた。
この花をくれた人は、今頃何をしているのだろう、何を考えているのだろう。
誰のことを想っているのだろう。
鉢のそばに横たわる何通もの手紙へと、は視線を向けた。
『I always think of you.』
愛する人からの手紙に書かれた一文が、の心をここに繋ぎ止めていた。
それはずっと、フランスで生活するの支えだった。
この言葉が、寂しいの心をどれほど救ってくれたかなど、スネイプは知らないのだろう。
「(私ばかりが彼を求めて、・・・。1年前と何も変わってない)」
は狭い出窓の上で膝を抱え、自分の身体を抱きしめた。
もしかしたら、これはだけの独りよがりの恋なのかもしれない。
だとしたら、なんて愚かなことだろう。
は膝に額を押しつけた。
陽はゆっくりと落ちていき、橙色の空は徐々に夕闇に浸食されていった。
コンコンと、部屋のドアをノックする音が二度聞こえた。
「はい。どなたですか」
の問いかけに対して、返事は返ってこなかった。
は出窓から降りると、薄暗い部屋を横切り、ドアノブに手をかけた。
ねぇ、お母さん。嵐が来るよ。早く逃げなきゃ
□■□わたしとスネイプ先生の奇妙な学園生活 <17>□■□
「スネイプ先輩の愛し方は、単純なようで難解な魔法薬学のようですね」
ダイアゴン横丁の一角に佇む小さな薬剤店。
スネイプはカウンター越しに魔法薬の材料を受けとりながら、にこにこと微笑むゴートンを怪訝な顔で見つめた。
「どんな調合方法なのかもわからないし、できあがった愛を理解するのにも根気がいる」
「なんだ、いきなり」
「いえ。最近、アリシアが恋占いにはまりまして。その人の愛し方を診断することに凝っているのですよ」
「恋占い、かね。結婚して3年も経つのに、愛が冷めず羨ましい限りですな」
スネイプは呆れた顔で皮肉った。
慣れているゴートンは、「これがなかなか当たるもので」と、穏やかな笑みを崩さない。
「スネイプ先輩は、一見すると冷たく無感情で、人の愛情を冷めた目で見下しそうに見られますが、」
「当人を目の前にして、そこまでズケズケと言える君の度胸もまったく大したものですな」
「実は愛情が深く、愛した女性は命に代えても守ろうとする騎士道を胸に秘めている」
「もうよい、ゴートン。いい加減にせんか」
「ただ、大切に想うあまり、無垢であることを女性に強要しすぎてしまう。また、当人も節操を遵守しすぎて、
己が身を滅ぼすことになるでしょう」
スネイプを見つめるゴートンの目は、まるで予言者か占術士のようだった。
だがそれもすぐに解け、ゴートンの顔は甘い笑顔に変わった。
「まぁ簡単に言えば、少しは人間の本能に任せて生きてもよいでしょう、ということです」
「そんなにあっさり片付けられる問題かね」
スネイプは半分も興味がないようで、ため息一つついて、材料の代金をカウンターに乗せた。
「また来る。次の材料も用意しておいてくれ」
「毎度ありがとうございます。あぁ、先輩」
「なんだ」
「恋をするなら、もう少し肩の力を抜いて方がよろしいですよ。でないと、長続きしませんから」
「恋愛話はもう結構だ。失礼するぞ」
「先輩の愛し方は、間違っていませんから。ただ、 」
店を出るスネイプの背中に、ゴートンは確かに何か言っていた。
スネイプは片手を上げて、彼の言葉を適当に聞き流して店を去った。
懐かしい、これはもう何年前の記憶だろうか。
あのときの他愛ない雑談が、まさか今頃になって蘇ることになるとはスネイプも思ってもみなかった。
ただ、思い出そうとするとゴートンの言葉に霞がかかり、鮮明に聞こえなくなるのだった。
あのとき、ゴートンは何と言っていたのだろうか。
薄暗い部屋の中に、ノック音が2つ。
は、ゆっくりとドアノブを回した。
そして部屋の前に立つ人物を視界に収め、目を見開いて驚いた。
そこに立っていたのは、黒いローブを纏った、のよく知る人物、
「スネイプ先生・・・・」
ボーバトンの馬車にいるはずのない人物に、の口は半開きになった。
驚いた顔のを見て、スネイプは苦笑した。
「失礼してもよいかね」
「は・・はい、どうぞ」
は扉を広げ、スネイプを部屋へと招き入れた。
扉を閉めて、スネイプが自分の部屋にいることを確認しても、たくさんのハテナがの頭を駆けめぐった。
「あの。何か御用ですか」
「用がなければ来てはいけないのかね」
「いえ。でも、どうやって。・・・入口の合言葉は、」
「ダンブルドア校長から、マダム・マクシームへの言伝を仰せつかってな。門番の許可は得ている」
「そうでしたか」
はまだ混乱していた。
自分の部屋にスネイプがいることに、とても違和感を覚えた。
は部屋に明かりを灯そうと机上の杖を取った。
だが、呪文の詠唱をする前に、スネイプの手がの杖先を掴んで止めた。
「スネイプ先生?」
「灯りは結構。このままでよい」
「あの、」
スネイプは、の手から杖を奪うと、それを机上に放り投げた。
そしての手を引き、彼女を強く抱きしめた。
突然の抱擁に、は戸惑った。
スネイプはの首筋に顔を埋めると、深く息を吸い込んだ。
「すまなかった」
「先生・・・・?」
「君が離れていって、ようやく君の存在の大きさを知った」
いきなりのスネイプの言葉に驚きはしたが、その声があまりにも悲しげで、は切なくなった。
スネイプの方から歩み寄ってくれたことが嬉しかった。
は自分を抱きしめるスネイプの背中に両手を回した。
「ひどい態度を取ったことを許してくれるかね」
「気にしていません。私も、勝手なことばかり言ってごめんなさい」
スネイプはの身体を放し、彼女の顔にかかった柔らかな髪を耳にかけた。
両手をの頬に添え、上を向かせた。
「和解しよう」
「はい・・・」
はスネイプを見つめて微笑んだ。
スネイプは、の額にそっと口付けた。
も背伸びをして、スネイプの唇に口づけようと顔を近づけた。
だが、スネイプの指がの唇を縦に塞いで止めた。
「あの、」
戸惑うに、スネイプはにやりと笑って言った。
「それは最後にとっておこう」
は抱かれながら、何度も何度もスネイプの名を呼んだ。
が甘い声でセブルスの名を呼ぶたびに、スネイプは口元を歪めて笑った。
「セブルス・・・・っ」
自分の身体の熱さに驚いた。
いつもとは違うスネイプの抱き方に、より一層熱を上げた。
自分が望むように強く激しく抱いてくれるスネイプに、は縋るように抱きついた。
ただ、きつく抱かれながらも、スネイプが一度も自分の名を呼んでくれないことが、は寂しかった。
「セブルス・・・お願い、キス・・して・・・」
「まだだ。今してしまったら、魔法が解けて夢から覚めてしまう。それでもいいのかね」
スネイプはにやりと笑っての頬を指で撫でた。
はしばらく彼を見上げていたが、泣きそうな顔を横に振った。
スネイプは満足そうに笑みを濃くして、彼女の身体を存分に味わった。
太陽はほとんど山の下に沈んでしまっていた。
窓の外の空は、闇色とまではいかないが、夜の帳が降り始めていた。
行為の余韻に浸ることもなく、スネイプは一人だけ衣服を整えてしまった。
はシーツに裸の身体をくるみ、ベッドの上にしゃがみこんでいた。
スネイプに求められ、激しく身体を重ね合い、熱を放出し、それはが望んでいた行為だったはずなのに、
小さな棘のようなものが、の中に刺さって抜けなかった。
「先生・・・」
掠れた甘い声で、はスネイプを呼んだ。
スネイプは振り返り、を見下ろすと妖しく微笑んだ。
ベッドサイドに腰を下ろし、不安そうな顔のの細い顎を掴んで引き寄せた。
「約束は守ろう。ただ、一つだけ言っておこう」
「なんですか」
「このキスは、夢の終わりを告げる目覚めのキスだが。それでも受け入れるかね」
はスネイプの言葉の真意がよくわからなかった。
ただ、スネイプを信じてはゆっくりと目を閉じた。
スネイプは唇を上げ、「良い子だ」と咽を鳴らした。
「愛している。」
唇が、ゆっくりと重ねられた。
目を閉じ、彼の薄い唇の感触に身を委ねた。
彼のローブから漂う薬草の香りを吸い込み、少し開いた口から流れ込む彼の熱に身を焦がした。
柔らかな唇の感触に、彼の舌がの口内を優しく撫でた、瞬間だった。
の顔色が、一瞬にして大理石のように真っ白に変わった。
*
「何の真似だね」
スネイプは口の端から流れる赤い血を手の甲で拭き取った。
そして、ベッドの上を壁際まで後ずさって自分を警戒するを軽く睨んだ。
の唇にも、赤い血が付着していた。
スネイプのキスから逃げるために、自ら彼の唇を噛み切ったのだ。
壁を背に、シーツで身体を隠すの顔は、完全に血色を失っていた。
「自分からキスを誘っておいて、何のつもりだ」
「それは・・・こちらの台詞よ」
「なに」
「何のつもり、・・・あなた」
の瞳は、困惑と恐怖に震えていた。
スネイプは変わらずを睨んでいた。
はごくりと生唾を飲み込み、スネイプを睨み付けた。
「あなたは、・・・誰なの」
「何を言っている」
「あなたは、・・・スネイプ先生じゃない」
「おかしなことを言う。余程疲れているようだな、は」
「違う。やっぱり違うわ、あなたは先生じゃない。スネイプ先生は、公私で私の名前を呼び分ける。呼び違えた
ことなんて一度もない。それに、」
は自分の口の中に残る香りに、眉間に皺を寄せた。
「間違いなくこれは・・・ポリジュース薬の匂いだもの」
口内に残る苦く不味い後味は、調合の難しい薬の味だった。
それを飲めば、誰であろうと望む人物に変身できる魔法の薬。
その味を、魔法薬学の助手を務めるが間違えるはずがなかった。
スネイプはしばらくを睨み続けた。
もまた、その鋭い眼光から逃げずに、頬を伝う汗を拭うこともせずにスネイプを睨み返した。
窓から注ぐ月の光を背に受けて、スネイプは突如唇の片方を釣り上げて笑った。
それは、が見たこともないスネイプの笑い方だった。
「ご明察。流石は薬草学の先生」
次の瞬間、は悲鳴を上げそうになり、自分の手で口を押さえた。
スネイプの顔が、ぐにゃりと歪んだのだ。
スライムが形を変えるように、ぐにゃぐにゃと変形していった。
スネイプだった物は、顔を片手で押さえて、肩を震わせて笑った。
黒髪は色を変え、頬は骨格を変え、変身の解けた魔物は、顔を覆っていた手をどけて、にやりと笑った。
薄暗い部屋に、窓から月の光が差し込んだ。
現れた人物に、は震える唇を引き結んで、彼を睨み付けた。
「・・・アルベール」
「あーあ。ばれてしまったか。残念。でも、非常に楽しい時を過ごさせてもらったよ」
ぺろりと舌なめずりする姿が、獰猛な爬虫類を思わせた。
アルベールが杖を軽く振ると、彼の身体に合っていなかったスネイプの服が、アルベールの衣装へと形を変えた。
は歯を食いしばり、ありったけの怒りを込めてアルベールを睨み付けた。
「最低よ・・・」
は身体を覆うシーツをきつく握りしめた。
アルベールは、それすら可笑しそうに笑った。
「熱を冷ましたかったんだろう。抱いてほしかったんだろう。よかったじゃないか、願いが叶って」
「やめて。あなたの勝手な妄想で傷つけられた私はなに、」
「傷つけられた?はっ。途中から気持ちよさそうに腰を動かしていたのは誰かな」
アルベールは見下すように顎を持ち上げ、嘲笑した。
はかっとなり、アルベールから顔を背けて両耳を赤くした。
「もう自分でもわかっているんじゃないのかい。いい加減認めたらどうだい。どんなに取り繕っても、性に対する
本能が理性を食い破っているのは明らかだ。だが、熱に耐えられずとも何らおかしなことはないさ。どんなに
大人びた物言いをしても、君はまだ19才なのだからね」
「・・・やめて。そんなんじゃない」
「自分の気持ちに正直になったらどうだい。要は、スネイプ教授に抱いてもらえず、寂しかったのだろう」
「・・・違うわ」
「仮の姿とはいえ、スネイプ教授に激しく求められた感想はどうだい。天にも昇るようかな。それとも、熱を冷ます
ためなら、教授じゃなくても、カラダの相性が合う相手なら誰でもよかったのかな」
「・・・違うわ・・・。違う、そんなんじゃない。そんなふうに言うのはやめて・・・っ」
「どんなに言葉で拒絶しても、君の脳みそも肉体も、非常に正直だったよ。抱かれることに、求められることに、
歓喜していた。君は魅力的でいやらしい、素敵な女性だったよ」
アルベールの声から逃れようと、は自分の両耳を塞いだ。
それを鼻で笑われても、は何も反論できなかった。
なぜなら、彼の言葉の全てが間違っているわけではなかったから。
「ねぇ。さっきの淫靡な姿を、スネイプ教授にも見せてあげたらどうだい。・」
は両耳を塞ぎ、蜂蜜色の長い髪を横に振って彼を拒んだ。
アルベールはまるで、最後の審判を下しに来た悪魔の遣いのようだった。
命短し 恋せよ乙女
『恋は悪魔であり、火であり、天国であり、地獄である
快楽と苦痛、悲しみと悔いが、そこに住んでいる』 −バンフィールド−
アルベールは最後に嘲笑を残して部屋を去っていった。
は気だるい身体を起こして衣服を身につけ、ベッドの上にどさりと横たわった。
アルベールの言ったとおり、熱は確かに冷めていた。
スネイプに相手にされず、行き場を失っていた熱は静まっていた。
だが、その代償は大きく、のカラダを内側からじくじくと腐らせ始めていた。
こんなのを望んだんじゃない
は暗い天井を見つめ、両手を顔の前で交差した。
ただ、少し寂しかっただけなのだ。
スネイプに自分を見てほしかった、相手にしてほしかった・・・もっと愛してほしかっただけなのだ。
寂しくて切なくて行き場のなかった我が儘な気持ちを、スネイプに知ってほしかっただけなのだ。
それなのに、こんなしっぺがえしが返ってくるなんて。
『キスだってセックスだって、寂しい心を繋ぎ合わせる手段でしかないのに』
かつて、そういうふうに考えていた自分をは思いだしていた。
恋に無関心で、恋人たちの甘い触れ合いをそんなふうに見下していた。
だから、きっと、
「(バチがあたったのね・・・・)」
アルベールが化けていると知らずとも、は確かに彼とのセックスを楽しんだ。
スネイプに愛されることよりも、スネイプに抱いてもらえることに幸せを感じていたのだ。
愛を軽んじたの心を、愛の神様はちゃんと見ていて、彼女に罰を与えたのだ。
目を閉じれば、真っ暗な瞼の裏にぼんやりと光が生まれて、そこに愛する人の横顔が映った。
振り返ってくれたスネイプは、だが蔑むような顔でを穢れた虫でも見るような目で見ていた。
は耐えられず、両目を開けた。
暗闇に沈む天井が、涙で滲んでいた。
「(馬鹿だ・・・・なんて、愚かで・・・、)」
自分がしたことの代償は大きく、は両手で顔を覆い、うずくまったまましばらく泣き続けた。
ねぇ、お母さん。嵐が壊してしまったよ。綺麗に咲かせた花も何もかも、壊してしまったよ
「相変わらず、草花の手入れがお上手ね。ミス.は」
スプラウトは、の手つきを見てにっこりと微笑んだ。
は「笑顔を作って」、そんなことないですと答えた。
日曜のお昼時、の足は自然とホグワーツ城の裏手の温室に向かった。
偶然居合わせたスプラウト先生の手入れを、は自ら進んで手伝った。
綺麗に咲いた花々や瑞々しい薬草の群生を見下ろすの目は、だが笑っていなかった。
まるで道ばたの石ころのように、どうでもいいものを見る目で見下ろしていた。
植物を愛するの瞳の光は消え去っていた。
「ねぇ、ミス.。私が引退したら、ここの薬草学を引き継ぐ気はない?」
「え?そんな。突然何をおっしゃいます、スプラウト先生」
「いえね。冗談なんかじゃなくね。きっとダンブルドア校長も喜んで迎え入れてくれると思うの」
「そんな。私なんて、まだまだ教鞭を振るには知識が足りません」
「知識の量も大切だけれど、それ以上にね、植物を愛でる心を生徒に伝えられる人でなければ、薬草学の教師は
務まらないでしょう?貴女には、それができると思うから言っているのよ」
の手は淡々と、枯れた茎を切り落としていた。
チョキンチョキン、と無造作な音が温室に響き渡っていた。
「そんなふうに言っていただけて、恐縮です。ですが、私にはまだ荷が重いです。勉強し足りません」
「そうかしら。でも、あのスネイプ先生が、あなたは特別だとおっしゃっていたのよ。薬学の権威とも言える
スネイプ先生に認められるなんて、もっと自信を持っていいと思うけれど」
チョキンと、ハサミが音を立てて、の足下に腐った茎がぱさりと落ちた。
はゆっくりとスプラウトに顔を向け、残念そうに笑った。
「そんなこと言っていただける資格、私にはもうありませんから」
の意味深な言葉に、スプラウトは不思議そうな顔をした。
もうあの人の前で、素直に笑うことなどできないと思った。
だからは、泣きたいのを我慢して無理矢理笑った。
*
「レディのお話を中断してしまい失礼いたします。すみませんが、ミントの葉を少々わけていただきたいのですが」
突如として、温室の扉を開けて入ってきたのは、顔立ちのよい青年教諭だった。
その声を聞いただけで、の顔は能面のように表情をなくした。
若く美しいアルベールの訪問に、スプラウトは「まぁまぁ」と頬を緩めて喜んだ。
はアルベールに見つめられ、にやりとした笑顔を向けられ、眉をひそめて顔を背けた。
「ミントの葉ね。どうぞ。お好きなだけ持っていってちょうだい」
「これはありがたい。次の占い学で使いたいと思っていたのですが、フランスからの長旅でハーブ系の植物が
ほとんど枯れてしまいましてね」
「まぁ、それはお困りでしょう。他に足りないものがあれば、いつでも言ってちょうだいね」
「すみません、スプラウト先生・・・でよろしかったですよね」
アルベールに名を覚えてもらえていたことに、スプラウトは表情を緩ませた。
は静かに会話を聞いていたが、彼の声を聞くことに我慢ができなくなった。
園芸用具を元の場所に戻すと、スプラウトに声をかけて温室を出て行った。
*
「やぁ、。気分はどうだい」
アルベールは温室を出たところでの腕を掴んだ。
は力一杯腕を振って、アルベールの手を振り払った。
「わざとらしいことをするのはやめて。ハーブなんて、馬車の中に幾らでも生えているはずよ」
「君の身体を心配して見に来たっていうのに。つれないなぁ、君は」
「何の心配?余計なお世話よ。私が傷心から、自ら命を絶つとでも?」
「やりかねないだろう。もし、昨夜の情事がスネイプ教授にバレでもしたら」
「こんなところでそんな話をするはやめて!・・・・・あ、あなた!まさか、スネイプ先生に全てばらすために
ここへ・・・っ?」
「まさか。そんな、自ら暴露するような下劣なことはしないさ。ただね、」
アルベールは口の片方を持ち上げて笑った。
「偶然にも、この話を聞かれてしまうということは、ありえないとは言えないけれどね」
「何を言っているの、」
アルベールの目が、の目から外れ、彼女のはるか後ろを見つめて笑っていた。
何を見つめているのだろうと、は訳がわからない顔で眉を寄せた。
ねぇ、お母さん。嵐が来るよ。早く逃げなきゃ
背後から吹く風が、の長い髪をざわりと揺らした。
誰かの視線を感じ、は髪を押さえながらゆっくりと後ろを振り返った。
黒衣を纏った長身の男が、とアルベールの二人を見つめて立ちつくしていた。
とスネイプの目があった。
スネイプの表情は険しく、に対して衝撃と猜疑を含んでいた。
は目の前が真っ白になり、細い指先はカタカタと小さく震えていた。
どんな形でもいいから、今すぐにこの場から姿を消し去りたいと願った。
そうね。でも、どこに逃げるというの。
*変身薬は、の肩についていたスネイプの髪から調合
←
戻
→
SEO
掲示板
[PR]
爆速!無料ブログ
無料ホームページ開設
無料ライブ放送