ドリーム小説
アルベール・グラン
ボーバトン魔法アカデミーの占い学担当の若手教師。
ボーバトンの同僚の中で、が一番苦手な男性だった。
「何なのだ、あの男は。ロックハートよりもたちが悪い」
「悪い人ではないのですが・・・」
「悪い人ではない?いきなり他人の恋人に手を出しても、悪い人ではないのかね」
「まぁ、良い人でもありませんね・・・」
アルベールをフォローしようとしたつもりが、結局撤回してしまうことに。
は苦笑して誤魔化した。
「ボーバトンでは、いつもあんなことをされていたのかね」
「いつも、ではありませんが・・・。確かに、こちらが困るようなことをしてくるときもあります」
はため息をついた。
スネイプは無言での小さな頭を抱いた。
「スネイプ先生?」
「こうして守ってやれるのは、今年一年だけだ。心配でボーバトンへ帰せんよ」
スネイプは心配でしかたなかった。
できれば、を目の届くところに置いておきたかった。
は、スネイプの想いが嬉しかった。
目を閉じて、スネイプの胸に頬を寄せた。
守られてばかりではいけないとわかってはいたが、今だけは彼の腕の中で幸せを噛みしめたかった。
□■□わたしとスネイプ先生の奇妙な学園生活 <15>□■□
アルベールのちょっかいは、その後も止まることはなかった。
が一人でいれば声をかけてきたし、スネイプといれば二人の邪魔に入った。
また、の知らないところでスネイプに接触して、彼を苛々させたり挑発したりもした。
基本的にボーバトン関係者は空飛ぶ馬車で生活することになっている。
スネイプの目の届かないところで、自分はいつでもに手が出せるのだとアルベールは笑うのだ。
挑発に乗ってはいけないとわかっていても、スネイプはのことが心配でならなかった。
「君の首に鈴でもつけておくかね」
「本気ですか。ペットじゃあるまいし」
スネイプの冗談に、はクスクスと笑った。
スネイプにもにも仕事があり、二人で過ごせる平穏な時間はあまりなかった。
ときどきスネイプの部屋でお茶をするくらいで、甘く愛し合える時間は少なかった。
はもっとスネイプと一緒にいたいと願った。
できることなら、四六時中そばにいたい、彼に触れていたいと。
だがスネイプは、彼の手が空いたときしか相手をしてくれなかった。
スネイプの方が仕事も多く、責任ある立場にいるとわかってはいたが、抑えられない熱がの中にはあり、
その熱が時折燻るのだ。
「ぁ・・・駄目、ですよ」
「何故だ」
「痕つけないでくださいね。見られたら何を言われるか」
「どうせ服で隠れるだろう」
「目聡い同僚がいるんです」
「隠そうとするからばれるのだ。見せびらかしてやればよかろう」
「何馬鹿なこと言って、・・・ん」
スネイプの唇が、の首筋を這っていく。
の唇から零れる甘い声が、薄暗い部屋を満たした。
はいつもスネイプが仕事を終えるのをソファーで待った。
忙しいときに自分から求めてもスネイプは相手をしてくれないから、は燻る熱を抑えながら、彼が
来てくれるのを待つしかないのだ。
「・・セブルス・・」
身体を重ねるときだけは、は彼の名を呼ぶことを許された。
スネイプは満足げに笑み、に快楽を与えていった。
スネイプは夢中でを抱いた。
アルベールに渡したくないというエゴと、が自分の物であると自分に言い聞かせるように。
「・・・・」
「セブ、ルス・・・キスして・・」
は愛しげにスネイプの頬を両手で包んだ。
唇を重ね、はスネイプの首に腕を巻き付けた。
できることなら、四六時中そばにいたい、彼に触れていたい。
ただそれだけなのに、叶わない願いに胸焦がれながら、はスネイプを放さんと腕に力を込めた。
スネイプに抱かれながら、は幸せの中に生まれる小さな黒いしみに怯えた。
秋の太陽は、穏やかにホグワーツを照らしていた。
は、温室前の陽のあたるベンチで読書にふけっていた。
時折吹く風が、の長い髪を揺らしていた。
近くをゆく生徒たちの明るい声や芝を踏む音をBGMに、パラリと本のページを捲った。
「(気持ちいい・・・)」
は空を仰ぎ、ゆっくりと目を閉じた。
暖かな陽の光が瞼の裏を照らし、暗闇の中で星がチカチカと点滅した。
全身の力を抜いて風に身を委ねると、スネイプの姿が脳裏に映った。
時折、時と場を顧みず、夜の行為の残像がの意識を支配するときがあった。
若さ故の熱が、彼女の身体をむしばんでいた。
の唇から、艶めいたため息が零れた。
の背後にゆっくりと近づく者がいたが、彼女がそれに気づくことはなかった。
「」
「きゃぁ!」
突然後ろから抱きつかれ、は悲鳴を上げた。
の身体の前で、アルベールの両腕が交差していた。
後ろから羽交い締めにされて、振り向くことも立ち上がることもできず、は抗議した。
「ちょっと、やめてっ。放して」
「今日はスネイプ教授はいないのかい」
「スネイプ先生は出張です。それより、早く放して、」
「ふーん。出張か。それはいいね」
アルベールの声のトーンが少しだけ落ちて、はぞわりと総毛立った。
だが、怒りに任せればアルベールの思う壺だと悟り、は冷静にと自分を落ち着かせた。
「放してください」
「断る。せっかく邪魔する者がいないのに、こんなチャンスを見逃さないよ」
耳元でしゃべるアルベールから、は顔を僅かに背けた。
だがアルベールにとっては、嫌がるの仕草すら可愛らしく感じられた。
アルベールはくすりと笑って、の耳の後ろに口づけた。
これには流石のも耐えられず、拘束から逃れようと抵抗した。
「や、やめなさい!いい加減にして、アルベール」
「そんなに嫌かい」
「嫌です。はっきり言わせてもらうわ。気味が悪いの」
「スネイプ教授には同じことをされても喜ぶくせに」
「だから、そういう品を欠いた発言をやめてと言っているの」
は眉をしかめ、彼の腕の中で暴れた。
だが男の力には敵うはずもなく、アルベールは尚一層強くを抑え込んだ。
アルベールは蛇のように舌なめずりをして、唇を釣り上げた。
「ねぇ、彼のどこが良いんだい。性格?容姿?とても女性に好かれるとは思えないけれど」
「スネイプ先生をよく知らない人が、彼を悪く言わないで」
「身体かい?淡泊そうに見えて、夜はすごいとか」
は、怒りと恥ずかしさにかぁっと顔を赤くした。
の表情や態度の変化一つ一つに、アルベールは咽を震わせて笑った。
「あんな爺で満足できるのかい?私の方が君と年も近いし、良いと思うけどな」
「・・・やめて。これ以上、あなたを嫌いにさせないで」
は膝の上で両手をきつく握った。
アルベールを振り切れる力も、彼を黙らせることもできない自分を無力に感じた。
いつもスネイプが守ってくれると、甘いことを考えていた自分を恥じた。
「アルベール。あなたの愛は、身体だけなの?私に何度も声をかけるのは、私と関係を持つことだけが目的なの?」
「いいや。君の美しい容姿も、凜とした性格も、全てが好きさ」
「私の何を知っているの。私のことなど、さほど知らないでしょう」
「知っているさ。もしかしたら、スネイプ教授よりもね」
「何を知ったような口を、」
「ならば、教授はご存じなのかな。君の本音を」
「私の本音・・・?」
「そうさ。本当はもっと触れてほしいと、抱いてほしいと思っていて、それを口にできず耐え忍んでいる君のことを」
アルベールの言葉に、はカッとなった。
だがそれは激怒ではなく、隠していた秘密がばれたときに感じる羞恥に近かった。
誰も・・・スネイプだって気づいてくれることはないと思っていたことだったのに。
アルベールの言葉は、の心の隙間にスルリと入ってきた。
生暖かい吐息が、の心を内側からじわじわと腐らせていくようだった。
「望むときに傍にいてくれず、抱いてもくれない男を、君は愛しているのかい」
アルベールの問いかけに、は黙ってしまった。
アルベールは、の本音を簡単に読むことのできる男だった。
恋人であるスネイプだって気づいてくれないことを、この男は正確に核心をついてきた。
スネイプよりも、アルベールの方が自分をよくわかっている。
はその事実を受け入れたくなかった。
「愛しているわ・・・」
口にした愛の言葉は自分の意に反して掠れていて、はスネイプに罪悪感を覚えた。
*
それは突然に、自分の背中に張り付いていたアルベールが離れていった。
離れるというよりも、しがみついていたものを無理矢理引きはがしたような離れ方だった。
は振り返り、状況を把握した。
「留守を狙って来るとは、ボーバトンは随分と狡賢いハイエナを飼っているのだな」
スネイプがアルベールの肩を掴んで、から彼を思いきり引きはがしたのだ。
スネイプはアルベールを睨み付けていた。
放り投げられたアルベールは、気にした様子もなく服の埃を払っていた。
「お早いお帰りで、スネイプ教授」
「嫌な予感がしてな。早めに帰ってくれば、これか」
スネイプはベンチに座るの前に立ち、アルベールから彼女を隠した。
自分を守ってくれるスネイプに、は胸が微かに痛んだ。
アルベールに浸食された傷がじくじくと痛み、スネイプの顔を見ることもできなかった。
「に何をした」
「特に何も。彼女のガードが堅くて、キスすら許してくれませんよ」
「当たり前です。誰があなたに、」
「おや。欲求不満な顔で色っぽいため息をついていたのはどこのお嬢さんかな」
「なっ、何を馬鹿なことを・・・」
アルベールはスネイプの影から顔を出すを見て、にやりと笑った。
は否定の言葉を返すも、恥ずかしさに頬は赤く染まっていた。
アルベールの言葉が出任せではないと言っているようなものだった。
「」
「・・・・」
スネイプが怪訝な顔でを見下ろした。
はスネイプの顔が見られなかった。
アルベールはぎくしゃくする二人を見て、ますます笑みを濃くした。
「。スネイプ教授で満足していないのならば、呼んでくれればいつでも私がお相手しますよ」
アルベールは捨て台詞を吐いて、さっさと背を向けて行ってしまった。
去っていくアルベールの背中を、スネイプはずっと睨み付けていた。
そして自ら隠した恋人に向き直り、と目を合わせた。
「さて。」
「はい」
「本当に何もされていないのかね」
「はい。しがみつかれましたけれど、それだけです」
「そうか。ならばよいが」
スネイプは幾らかホッとしたようだった。
二人の近くを、授業を終えた生徒たちが通り過ぎていった。
何人かの生徒はスネイプに挨拶をして去っていった。
は、パタパタと走り去る生徒たちの後ろ姿を見送った。
スネイプはの頭に手を置いた。
「それで。我輩で満足していないというのは本当かね」
「そ、そんなこと思っていません」
忘れていると思っていた話の内容を、スネイプはちゃんと覚えていた。
は頬を赤くし、眉を寄せて抗議した。
スネイプは、周りに人がいないのをいいことに、の形のよい唇に親指を押し当てた。
「欲求不満な顔でため息をついていたのは、この唇かね」
「不満なんて・・・ありません。スネイプ先生は、彼の言葉を信じるのですか」
「奴を信じ切っているわけではないが、奴が君を見る目は確かだと思っている」
同じ女を好きになった男として、アルベールのを見る目は鋭いとスネイプは悟っていた。
スネイプの指が、の唇をつぃと撫でた。
「我輩に不満があるのなら言いたまえ」
スネイプの目は真剣で、そして不安そうだった。
は、自分の欲求があまりにも幼稚で、とても本音など言えるはずがなかった。
ハニーブラウンの柔らかな髪が、ゆっくりと横に揺れて否定を表した。
「そうかね」
スネイプはそれ以上追求しなかった。
にとっては、それがありがたくもあり、そして未練もあった。
嘘をついて抑えられた欲求が、の中で確かに熱を蓄えていた。
はスネイプの背中を見つめ、溢れ出しそうな我が儘を抑えるように両腕で自分の身体を抱いた。
トライウィザード・トーナメントは順調に進み、大いに盛り上がりを見せていた。
クリスマスのダンスパーティーに向けて、男子生徒たちはパートナー探しに躍起になっていた。
ドレスを取り寄せたり、髪に飾る装飾品を選んだり、女子生徒たちはおめかしに余念がない。
ホグワーツ内は、明るい話し声に満ちていた。
当然のようにアルベールはをダンスに誘い、そして当然のように断られた。
「当日は見回りがありますから」
「それで、その帰りにスネイプ教授の部屋に行くのかな」
「行きません。仕事とプライベートを分けるぐらいの分別はあります」
は眉をつり上げ、アルベールに背を向けて行ってしまった。
残されたアルベールは苦笑し、やれやれと頭をかいた。
傍で見ていたボーバトンの生徒が、アルベールを見てクスクスと笑って通り過ぎていった。
「グラン先生。また先生にう(ふ)られたーのですか」
「懲りませーんね」
「私は諦めが悪いからね。応援しておくれよ」
アルベールは肩をすくめて、ボーバトン生に軽く手を上げた。
そのときだ、タイミングよく手近の扉がゆっくりと開いた。
*
扉から現れた人物を一瞥し、アルベールは目を閉じて鼻で笑った。
暗い教室から現れたのは、授業の用意を脇に抱えたスネイプだった。
スネイプは眉根を寄せて、にやにやと笑うアルベールから目をそらした。
「振られ話を盗み聞きですか。人が悪いですね」
「聞こうと思って聞いていたわけではない。薬学教室の前で談話する方が悪い」
スネイプはアルベールの前を素通りした。
アルベールはスネイプの後を追いかけた。
スネイプはそれをわかっていて、あえて歩調を早めたりはしなかった。
コツコツと、二人分の硬質な足音が天井に響いた。
途中、スリザリン生が何人かスネイプに挨拶をして通り過ぎていった。
しばらく歩くと、生徒の姿も見かけなくなった。
スネイプは前を向いたまま、自分の後をついてくる彼に話しかけた。
「なぜそこまで執拗にを追いかける」
アルベールは、スネイプの背中ににっこりと笑いかけた。
「彼女が可愛らしいからですよ」
「そんな単純な理由でか」
「勿論それだけではありませんが」
スネイプは後ろを振り向くことはなかった。
アルベールは、スネイプの歩調に合わせて歩き、昔を懐かしむように語った。
「初めて会ったときから、可愛らしいとは思っていましたよ。ですが、はっきり言って去年ボーバトンへ赴任した
頃の彼女に対して、興味など一切なかった」
スネイプは足を止めず、ちらりと後ろの男を振り返った。
アルベールは、スネイプの興味をひいたことに満足げに笑った。
「ただ賢いだけで、教職に関する知識は乏しく、おろおろする彼女を見ていると苛つきましたよ。若くて可愛らしい
新任教師は1年生には好かれていましたが、プライドの高い上級生の子女たちにはなめられていましたからね。
イギリス人であるということも嘲笑の原因でした」
スネイプの足がぴたりと止まった。
アルベールも距離を置いて、スネイプの後ろで立ち止まった。
スネイプが振り返ると、その表情を見たアルベールが優越感に唇を歪めた。
スネイプは、アルベールの言葉に少なからずショックを受けていた。
からの手紙には、そんなことは一切書かれていなかった。
「彼女なりに努力したのでしょう。はじめは頼れる存在もなく、しょっちゅう泣いていましたが、今では弱々しかった
一面は消え、厳しく躾のできる女教師に成長しましたよ。私好みの、とても魅力的な女性にね」
廊下の向こうから、ボーバトンの女子生徒が数名歩いてきた。
女子生徒たちは、アルベールに小さく会釈をして通り過ぎていった。
ホグワーツの場内を批判したり、ゴーストを見下す子女たちの姿をスネイプは思い出した。
我が儘で高慢な女子生徒たちを相手に、はスネイプの知らない苦労をしてきたのだろう。
だが、苦しさをひた隠しにして、つらい環境に耐えていたのだ。
そのことを知らず、悟ってやれなかったことにスネイプは自分を恥じた。
「私は、強い女性が好きなのです。は強く、そして美しい」
「そんなことは、よくわかっている」
「わかっていない。貴方は、のことをわかっていませんよ」
「なんだと」
スネイプは唇を歪めて、アルベールに食ってかかった。
だが、アルベールは秘密兵器を携えているかのように余裕の笑みを浮かべていた。
「彼女は愛に飢えています。もっと愛されたいと、貪欲に願っている。それは精神的な繋がりだけでは満たされない
ぐらい」
「だからなんだ」
「わかりませんか。ならば、率直に言いますよ」
アルベールは僅かに首を傾げて、勝ち誇った顔で笑った。
「貴方の愛し方は、間違っているのですよ」
「なんだと。貴様に何がわかる、」
「愛の言葉を囁くだけでは、足りないのですよ。貴方が傍にいて、もっと抱いてやればいいのに、貴方がそれをしない
から、彼女の中で熱は溜まる一方だ。だから、代わって私が彼女の相手をすると言っているのに」
「・・・色魔め。我輩は忙しい。そんなことばかりに構っていられぬ。ボーバトンはよっぽど暇だと見える」
「そうやってご自分の都合を押しつけるから、彼女が満たされず苦しむのでしょう」
アルベールの目が細められ、スネイプを真正面から真剣な顔でじっと見つめた。
一瞬で表情を変えた彼に、スネイプは一層警戒を強めた。
「半端にしか愛してやれないのなら、早く別れて、私に彼女をください。心も体も満たしてあげますよ」
アルベールは薄く開いた目を半月のように曲げて笑った。
無邪気とは言えない、何か闇を孕んだ笑みだった。
「断る。は我輩の女だ。声をかけても相手にもされぬ者は去れ」
「はは、確かに。今はまだ全く相手にされませんが、何度でもアプローチしますよ。100回振られようと、200回
振られようと」
「往生際が悪いな」
「いつどこで風向きが変わるかわからないでしょう。例えば、お二人が喧嘩をして、一時でも彼女の心が貴方から
離れた瞬間を狙えば、・・・どうなりますかね」
アルベールはにっこりと笑いかけた。
スネイプは眼光鋭くアルベールを睨み付けた。
そしてアルベールの視線を断ち切るように、バサリとローブを翻し、足早にその場から離れた。
「星回りは、私の方に傾いています。お気をつけください。スネイプ教授」
「・・・・・」
背中に投げかけられた言葉が、呪いのようにいつまでもスネイプの肩に重くのしかかった。
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