ドリーム小説
スピカ 第九夜
不意に掴まれた手首。
暖かい体温を服越しに感じながら、何をされるのかと不安になる。
でもそんな私の不安とは裏腹に、鳶色髪の彼はふわりと微笑んだの。
そして、私が知っている男の子には到底出せないような柔らかい声が降ってきた。
「我慢しないで、泣いた方がいいよ。思いっきりね」
私のボロボロの心に、少しだけ暖かみが生まれて。
重い頭を少し起こす。
もう涙でにじんで何も見えなかったけれど、それでも最後に見たのは光に輝く鳶色と、彼の柔らかな笑顔。
それに安心してしまったのかもしれない。
私は、まるでダムが決壊したかのような勢いで泣いていた。
それまで溜めてきたものが一気にあふれ出して。
不意に口に流れ込んできた涙を、舌の上で味わったわ。
(・・・・・・しょっぱい・・なぁ・)
あぁ、これが現実なんだなぁと思い知らされた。
これでやっと認められる。
私の、負けなのね。
ひとしきり泣いたさんの目は真っ赤になっていた。
頬も林檎みたいに赤くなって、それに加えてグズグズと鼻を鳴らす仕草が思いのほか可愛い。
思わずくすりと笑ってしまったら、それに気付いたさんが
「・・・・・あまり、見ないでもらえる?」
笑ったんだ。
青い瞳を細めて。少し赤い頬を緩ませて。
これがスリザリン一の美少女の、誰も見たことのない笑顔か。
僕は眼を丸くして驚いたけど、でも同時にすごく嬉しいと思ったよ。
恥ずかしそうに俯いていたけど、彼女は最後の一滴を拭うと僕と目をしっかり合わせた。
「こんなに泣いたの・・・・・いつぶりかしら」
「そんなに昔なの?」
あまりに感慨深そうにするから思わず聞いてみた。
彼女はグスッと一度鼻を鳴らすと、何かを思い出すかのように目を閉じた。
そして小さく2度口を動かし、何かの単語を吐く。
何のことだろう。
とりあえず聞かない振りをしよう。
「数年分は流したんじゃない?また溜めなきゃね、涙」
ちょっと冗談めかして言ってみる。
彼女はまた笑った。
「あなた、おもしろいわね。・・・・・えっと」
あぁ、そうか。まだ言ってなかったね。
「リーマス。リーマス・J・ルーピン」
「リーマス・J・ルーピン・・ね。よろしく。私は」
「・」
彼女が言う前に先手を打ってみた。
案の定彼女は虚をつかれた顔をしている。
でもすぐに笑顔になり、彼女は手を差し出してきた。
「よろしく。そしてごめんなさい」
あぁ、そうか。水をかけたことだね。
謝るべきは僕なのに、律儀だなぁ。
だから僕も笑顔でその手を握り返したんだ。
彼女の細くて白い手は、予想通り冷たい。
僕の熱を少しぐらい分けてあげたいよ。
そして僕らは笑顔で手を離した。
そのときだ。
きゅうっという、ネズミが鳴くような音が聞こえてきた。
どうしてこんなときに鳴るのでしょう。
恥ずかしくて自分でも顔が赤くなるのがわかるわ。
でも仕方ないでしょう?
お夕飯抜きで罰掃除をしていたのだから。
こんな静かな教室で聴かれていないわけがない。
ほらね。やっぱり彼は笑っているわ。
私は恥ずかしくて恥ずかしくて、仕方なく頬を膨らませた。
「あははっ。たくさん泣いたから、お腹が減ったんだね」
違うとも言えずそっぽを向いていると、はい、と彼が何かを差し出してきた。
「僕の大好物」
それはハニーデュークスのチョコレート。
私はあまりホグズミードに行かないからあまり食べたことはないの。
でもまたお腹がなっても仕方がないし、私はひとかけらもらって口に入れた。
そのときわかったことがある。
(・・・・・あ・・。・・・この味・・・)
その味には覚えがあったの。
別にグルメなわけじゃない。
でもそのチョコの味はよく覚えていたの。
いつか図書館で寝てしまったときに私の上に降ってきたお菓子の中にそれはあった。
そうか。そうなのね。
あなただったのね。
私は思わず声を出して笑ってしまった。
「どうかしたかい?」
不審に思った彼が聞いてくるけれど、私は何も言わずに笑顔を返した。
「いいえ。別に」
「?」
言わないでおこう。
言ってしまったら、何だかとても勿体ない気がするから。
「ありがとう」
「ん?」
チョコのお礼と思ったのかしら。
彼は柔らかな笑顔で、どういたしましてと返してくれた。
いいえ。違うのよ。
それだけじゃないの。
でも言わないでおくわね。
そして私は彼の真似をするように柔らかく笑ってみた。
「本当に・・・・・ありがとう」
ありがとう。
私に笑顔を思い出させてくれて。
ありがとう。
そして何事もなかったかのように、また日常が始まる。
あぁ〜、今日は最後に占い学がある。
僕、あの部屋嫌いなんだよね、蒸し暑くて。
「リーマス、早くしろって。朝飯食いっぱぐれるぞ」
大広間のドアの前にいるシリウスに呼ばれ、僕は少しだけ足を速める。
シリウスがドアを開けて入ろうとしたとき、ちょうど出ようとしていた女の子とぶつかりそうになった。
「おっと、わり・・ぃ・」
シリウスがそこで言葉をとめる。
どうしたのかと顔を覗きこむと、眉間に皺がよっていた。
でもその理由はすぐにわかったよ。
「失礼」
流れる銀髪に乗せて涼やかな声が聞こえてきた。
シリウスはまだ仏頂面している。
それにリリーとジェームズは苦笑して、ピーターはおろおろしている。
お互い、下手に声をかけても仕方がないしね。
彼女は凛とした表情で僕らの横を通り過ぎた。
僕もシリウスを宥めながら大広間に足を踏み入れる。
そしてそこで足を止めた。
「おはよう。リーマス」
・からの挨拶。
それも昨日見た、最高の笑顔つき。
だから僕もいつものように笑った。
いつも皆に見せる笑顔。
「おはよう、」
それだけを告げると、彼女は踵を返して寮の方へと戻って行った。
僕はしばらくその後ろ姿を見ていた。
ジェームズが、リリーが唖然とし。
ピーターはあたふたとし。
シリウスはポカーンとしている。
の笑顔を偶然見た生徒たちがその場に立ち尽くしている。
僕はしばらくその後ろ姿を見ていた。
凛とした、・本来の姿を。
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ほふ〜。とりあえず一段落。
リーマスとヒロインの接触は完了。
だが!!これはラブドリ!!
今後の展開に乞うご期待!
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