ドリーム小説
スリザリン談話室のソファーで丸まる。
前からよく目が合うなとは思っていたの。
それでも、でもまさか、あそこまで心を見透かされているとは思わなかった。
誰にも言ったことのない私の心を、どうして一度も話したことのない人がわかるの?
それなのに、私が想ってやまない人は、私の心にまったく気付かない。
悔しいはずなのに、なぜか涙は出ない。
スピカ 第七夜
「何なんだよ、あの女!!」
「まぁまぁ、落ち着いてシリウス」
ガァガァと吼える友人を宥めながら、僕は濡れた髪をタオルで拭いていた。
談話室は暖炉が焚かれていてとても暖かい。
風邪ひく心配はなさそう。
「なんでお前が落ち着いてんだよ、リーマス!ちょっとは怒れよ!」
「静かにしろって、シリウス。お前が怒ったってしょうがないだろ?だけど、リーマス。君もちょっと落
ち着きすぎだよ」
そう言ってジェームズは苦笑するから、僕もそれに合わせて口端だけ上げて笑ってみせた。
まぁ確かに、普通は水をかけられてニコニコしている人なんていないからね。
本当は怒るべきなんだろうけど、今回は悪いのはどっちかっていうと・・・・・。
「や。彼女も理由なく水をかけたわけじゃないからね。悪いのはむしろ僕の方だから」
「さんに何か言ったの?リーマス」
乾いてバサバサになってしまった鳶色の髪を、リリーが後ろから梳いてくれる。
僕は子供になった気分でされるがままになっていた。
「ちょっと、ね。乙女心を傷つけてしまったかも」
首だけ上に向けて彼女を覗き込むと、リリーはジェームズと同じように苦笑していた。
「あらあら、それは。乙女の敵ね、リーマス」
傷つけたからには、ちゃんと薬を塗ってあげなきゃ、とリリーは僕の髪に最後の一梳きを入れてつぶやく。
まるで母親と話しているような錯覚におちいる。
僕はリリーの言葉を噛み締めて、よいしょっと重い腰を上げた。
「どこへ行くの?リーマス。もうすぐ夕食よ」
化粧ポーチに櫛をしまうリリーに、僕はニッコリと笑いかけて談話室を後にした。
「ちょっと薬を塗りに」
ソファーにかけておいたローブをばさりとはおう。
後ろでリリーが微笑んでいるのがわかった。
何というか。
彼女は、前にも後ろにも進めない感じに見えたんだよね。
彼女の周りだけ時間が止まっているような気がしたんだ。
それは数年前の僕みたいで。
誰にも自分の秘密を打ち明けられず、自分の周りの時間を自分で止めていた僕みたいで。
でも僕はジェームズたちに、信頼できる仲間に出会えて変わった。
足が前に出るようになって、そうしたら周りの全てが変わったんだ。
今まで時間を止めていたのがもったいなかったなって思えたんだ。
だから彼女にも前に進んで、その感触を味わってほしかった。
結局は彼女を傷つけるだけに終わってしまったけど。
あぁ。僕はいつからこんなお節介になったのかな。
そんな自分に、僕はちょっとだけ苦笑してみる。
冬にもかかわらずじめじめと湿った感じの抜けないスリザリン談話室。
煌々と燃える暖炉の前のソファーを陣取り、私はただひたすら丸くなっていた。
何をするでもなく、ただひたすら、今日の最後の授業で組んだあの少年の言葉を思い出していた。
余計なお世話、と言葉を返し、ビーカーの水をぶちまけてきてしまったあの少年のことを。
自分がしてしまったことよりも、彼の言葉に心が痛む。
ズキズキと痛む心臓を抱えて丸まっていると、不意に声をかけられた。
「」
聞きなれた、私の好きな声。
低く低く、地に沈むような声。
こんなことでも起きなければ私は笑顔でも浮かべられたかもしれない。
でも今は無理。
「・・・・・なに?スネイプ君」
「薬学の先生が、夕食前に地下教室へ来るようにと」
「・・・・・そう」
(・・・・・・・それだけ?)
言えない言葉をごくりと飲み込む。
先生からの言伝以外に、彼が私に何を言うというのか。
そんなことわかっているのに。こんなこと不純だけど。
こんなことでもいいから、彼と話すチャンスができたことが嬉しい。
こんな滅多にないチャンス、逃したくない。
たとえそれが自分の失敗から生まれたものだとしても。
「寮監は何かおっしゃっていた?」
「いや。そこまで知られていないだろう」
ただ私の質問に答えるだけの彼。
単調に答えるだけの彼。
あなたの脳にも呼びかけてみようかな。
「スネイプ君。あなたは?」
ちょっとだけ驚いた顔が返ってきた。
ちょっとだけ気分がいい。
お得意の、私の好きな眉間にしわを寄せた顔をして、スネイプ君は口を開いた。
「僕には関係ないであろう。君が好きでやったことだ。評価の仕様がない」
さらりと、何の抑揚もなく。
その涼しげな答が、どれだけ私の心に傷をつけるかも知らずに。
私はぐっと唇を噛み締める。
どうがんばっても私はあなたの目には留まらないのね。
あなたの心には、彼女以外の女の子が入る余地はないのね。
よくわかったわ。でもね。
それでも私はあなたが好きです。
薬学の先生から言い渡され、薄暗い地下教室に一人、罰掃除をするためにやってきた。
黙々と掃除をしながらも、気を緩めるとすぐにため息が出てしまう。
(暗いし、寒い。まるで私の心みたいね)
そしてまた私はため息を吐く。
不意にいつもの私の席の下を見て、はっとする。
始末されていない水溜りができている。
これをやってしまったのは他でもない自分。
何の関係もない彼を巻き込んでしまった。
(・・・・・最低ね)
そしてまたため息を吐く。
そのとき、私の耳に呼気とは別の音が入ってきた。
木製のドアが静かに開く音。
先生が見回りに来たのかしら。
ゆっくりと扉の方に目を向ける。
外の光を受けて、鳶色が微かに揺れていた。
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うぬ〜。進んでるような進んでないような。
時間の経過はあまりないですねぇ。
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