事件って、何気なく起こるものなんだよね。
それもごくごく平凡に流れる時間のときに限って。
第六夜
実験は順調、すごく順調。
いつも遠目にしか見ていなかったけど、さんは本当に調合が上手だった。
僕が何かをしている間に、もう次の手順に進んでいて無駄な時間など一切ない。
この分だと、セブルスたちより早く終わるんじゃないかな?
そんなことを考えて、ふと顔を上げた。
彼女は何をしているのかなって。
ビーカーの中の液体をチャプチャプ揺らして。
青い液体が拡散されていく。
でもそれを誘導している少女はそれを見ていない。
彼女はやっぱり彼を見ていた。
「。刻んだ青の葉を」
「はいはーい。これでしょ?」
「・・・珍しいな。お前が間違えないなんて」
「なにそれ!ひどっ!!」
相変わらずうるさい一番前の席の二人。
でも今日の僕は苦笑を漏らすでもなく、そんな二人にチラリと視線を送り続ける少女を見ていた。
チャプチャプ揺れる液体が数滴ビーカーから零れた。
ちょっと危ないな。
「余所見は危ないよ」
あえて目を合わさず、僕は自分の仕事に眼を向けながら注意する。
さんがハッとするのが伝わってきた。
「そうね。・・・ごめんなさい」
その返事とともに、今度は規則的に液体が揺れる音が聞こえてきた。
僕は安心してトントンと百合の根を刻む。
そうだ。
何しているのだろう、自分は。
今は魔法薬学の授業中。
少しでも油断すれば、それは危険な物体へと変わってしまう。
集中しなければ。
注意してくれた鳶色髪のグリフィンドールさんに少しだけ感謝する。
注意されたときはかなり驚いたけれど。
(・・・・・ばれてしまったかしら?でもじっと凝視していたわけじゃないし)
そして私はまたビーカーに集中する。
集中。
集中。
集中。
でもどうしてだろう。
彼の声が聞こえてきて。
彼と彼女が話す声が聞こえてくると、私はそちらに意識がいってしまう。
光に吸い寄せられる蟲のように、馬鹿みたいに。
チャプチャプと規則正しく揺らしていたはずのビーカーの液体。
気付くと、それは大きく波を打っていた。
パタパタとテーブルの上に数滴落ちた音がして。
隣にいる少年が息を吸い込んで、何かを言うのがわかったの。
また注意されてしまうと覚悟を決めた。
でもそれは。彼の言葉には、そんな軽い覚悟なんて一瞬で消し飛ばす力があった。
「あきらめるか、想いを告げるかにしないと、心がもたないよ?」
「・・・・・・・・・え・・・・・?」
何を言われたのか、初め全くわからなかったわ。
「ただ見ているだけじゃ、セブルスは絶対に気付かないよ。君がそれでもいいなら、ずっと見ていればいいよ」
冷たい、でもどこか暖かい言葉。
「言いたいことがあるんじゃないの?」
世界が一瞬で、白く、赤く、そして真っ黒になった。
自分の全てを見透かされたようで、悔しくて、恥ずかしくて、情けなくて。
自分でもわけがわからず、私は考えるより先に手が動いていた。
気が付くと、私は目の前の彼にビーカーの水をぶちまけていた。
液体が彼の頭からかかって、バシャッというガラスが割れるような音がした。
鳶色の髪の先から、ぽたぽたと雫が落ちてテーブルや床に模様を描く。
突然の私の行動に、ざわついていた教室が静寂で満たされる。
聞こえてくるのは、他の誰かの鍋のコポコポと液体が沸騰する音のみ。
その音を聞きながら、震える手でビーカーを置き、私は自分から真っ直ぐに彼を見つめ、何か言葉を言
って教室を去った。
教室中の目が自分に向けられているのが痛いくらいよく分かったけれど、私にはそんなこと気にする余
裕なんてなかったの。
冷たいなぁ。
シャツや髪が肌に張り付いて気持ち悪い。
でもラッキーだったのは、かけられたのが実験中の薬品じゃなかったこと。
まさか彼女がこんな行動を取るとは思わなかった。ちょっと意外。
(傷つけちゃった・・・かな)
ちょっとだけ罪悪感。
濡れた髪から水を絞りながら、さっき去り際に言われた言葉を思い出す。
『余計な、お世話よ。・・・・・言いたいことなんて・・・何もない』
そればかりが頭の中でリフレインする。
初めて真正面からしっかりと見た彼女の瞳は、少しだけ蒼かった。
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