第四夜
僕とが両手いっぱいに羊皮紙を抱えて歩いていると、提出帰りらしいセブルスとあの子と出くわした。
暗い廊下に4人分の足音がこだまする。
セブルスと目が合って、彼は嫌そうにふいっと目をそらした。
彼の向こうにいる女の子にチラリと目を向けるも、あの子は目線を廊下やセブルス、壁やセブルスとクル
クルめぐらせていて僕と合うことはなかった。
僕の横を歩いていたがセブルスを発見して嬉しそうに声をかける。
「お帰り、セブ。ねっ!これ届けたら、雪だるま作りに外行かない?」
らしい突発的な発言に、案の定セブルスは目を白黒させている。
「・・・部屋で本を読みたいのだが」
「いいじゃない。ねっ!一個だけ!」
眉間に皺を寄せていたセブルスだけど、の粘りに負けたのか、軽く頷いた。
あ〜ぁ、知〜らない。
一個だけっていうのに妥協したんだろうけど、きっとのこと。
その一個って、きっと頭だけで直径1mくらいある雪だるまに決まってるよ。
セブルスがんばってね。
そんなことを考えて僕は苦笑して。
不意に視線を遠くに投げる。
また目が合ってしまった。
確かさっきも図書室で目が合った人だわ。
あのときは気まずくて。
私が見ていたものに気付いたのじゃないかって焦って目をそらしてしまったけれど。
そんなことあるわけない。
さっき失礼なことをしてしまったから、今度は軽く会釈してみた。
ちょっと驚いているようだった。
スリザリンの人間がスリザリンらしからぬことをしたからだろうか。
スネイプ君と・・・さんは相変わらず話をしているようだけど、申し訳ないけれど私は早く
図書室に帰りたい。
それに・・・。
申し訳ないけれど、スネイプ君と彼女の会話を長く聞いていると、また私の胸に針が刺さるから。
全ては自分のため。
「グリフィンドールさん。そろそろ提出の時間が」
できるだけ穏やかに言ったつもり。
冷たい・・・スリザリンらしい女だと思われたかしら?
そう思っていたら、鳶色の髪の少年も、黒髪の少女も、私に笑顔を向けた。
「あ。そうだね。ありがとう」
「わっ!ごめんなさい、引き止めちゃったね」
あぁ、いいなぁ、と思う。
その笑顔が。
あの2人が立ち去って、静かになってしまった廊下。
私は同寮の、同学年の、この男の子と2人で歩いていた。
願ってもないことだけで、何だかその沈黙に耐えられなくて結局私が口を開いた。
特に話題もないから、さっきあったことを。
「・・・さん?本当に元気な方ね」
別に嫌味でこの話題にしたわけじゃない。
嫌がるかな?と思っていたら、スネイプ君は小さく、でも嫌悪感とは違う溜め息を吐いた。
「全くだ。あのエネルギーはどこから来るのか」
なんていうか、自分の娘を・・・大事な子を語るような口調。
以前のスネイプ君とは違う、そのスリザリンらしくない声色に、私の胸はまたチクチク痛み出す。
嫌味の一つでも言ってやりたい。
「一緒にいて、うんざりしないの?」
(あぁ、なんて醜い質問をしてしまったのだろう)
急に胸が、チクチクからドキドキに変わった。
スネイプ君を悩ませたい、振り回したい。
そんなおかしな気持ちに駆られる。
でも、振り回されるのは、彼ではなく私だった。
「いいや。逆に物静かなあいつなど・・・・・もうこりごりだ」
フッと、何かを思い出すように苦笑する彼は、本当にスリザリンらしくない。
スネイプ君にこんな顔をさせられるのは彼女しかいないんだろうなぁ。
そう思うと、なんだか無性に泣きたくなった。
それを我慢するために、私は一人唇を噛み締めた。
無事時間前にレポートを届けた帰り道、僕はずいぶんとボォッとしていたのか、に呼ばれているのに
気が付かなかった。
「リーマス。どしたの?リーマス」
「え。あ・・・うん」
生返事を返す僕の顔をが覗きこむ。
「さっきの・・・スリザリンの女の子」
名前を知らない女の子。
先生が呼んでいたかもしれないけど、よく覚えていない。
そうしたら、聞き覚えのない名前がの口から飛び出した。
とても綺麗な旋律の名。
「・さん?」
知ってるような知らないような。
でもどこかで聞いたような名に、僕は?マークを頭に掲げてを見る。
「知ってるの?」
「うん。女の子ならだいたい彼女のこと知ってるよ」
どうして?と言う前に、その答はが教えてくれた。
「だってスリザリン一の美少女じゃない。有名だよ?」
そうか。女子はそういうことに詳しいからね。
ま、僕らの中じゃ、シリウスあたりが知っているくらいかな。
僕が相槌を打つと、はもう一つ情報をくれた。
「綺麗なのにね。さん、あんまり笑わない美少女で有名なんだよね」
笑えばもっと可愛いのに、っては自分のことみたいに悔しがっている。
なるほどね。
確かに僕も彼女が笑っているところをまだ見たことがない。
に気づかれないように苦笑する。
、僕もその意見に賛成だよ。
夕食後の図書館。
皆お腹いっぱいになってまったりしたいのか、夕食前ほど生徒はいない。
とセブルスもいないから(ただいま雪だるま創作中)、静かで僕には好都合。
借りていた資料を司書さんに返し、僕は馴染みの席に座る。
でも、すぐに立ち上がることになった。
また見つけてしまったからね。
あの窓際の席に。
夕闇を照らすオレンジ色のランプの下、銀髪を橙に変えて彼女は座っていた。
いや、正確には静かに眠っていた。
広げた羊皮紙の上に腕を組んで、その上に頭をのせて。
遠くからでも背中がゆっくりと上下に動くのが分かる。
その規則正しいリズムに、僕の動物的なところが反応して。
何だか面白くて、彼女の前の席に移動してみた。
流れるような銀色の髪に、それに映える真っ白な肌が思いのほか綺麗で、思わず見とれてしまう。
薄暗闇の中の銀色は、夜に浮かぶフルムーンを思い起こさせる。
僕の一等嫌いなもの。
でもどうしてか、彼女のそれは不思議と不快感を起こさせない。
もう少し良く見てみる。
ピクリと彼女の体が動いた。
「・・ス・・ネイプ・・君」
あぁ、やっぱり。
僕の予想は的中していたんだね。
思わず僕は苦笑する。
良く見ると、ランプで光っているのは君の髪だけじゃない。
目尻に溜まった水滴を僕は見逃さなかった。
それでも僕にはどうすることもできない。
誰かが幸せになると誰かが不幸になる。
世界はそういうふうにできている。
セブルスとの幸せが、たまたま君に跳ね返ってきてしまったんだね。
「ごめんね。でも、赤の他人の僕には」
涙を拭いてあげることもできない。
そんな失礼なことできない。
けれど・・・。
「**********!!」
小さな声で呪文を唱えて、杖を一振り、君の羽ペンに魔法をかける。
これくらいのことしかできないけど。
「僕の小さな幸せ。おすそわけ」
4人で悪戯するときみたいな、意地悪な笑みを浮かべる。
ジェームズたちに育てられた悪戯心が、僕をちょっとだけ大胆にする。
「おやすみ。Miss.・」
誰かに呼ばれた気がして目を覚ます。
おかしな体勢で寝ていたせいで体が痛い。
不意に頭の上に声がかかった。
「。こんなところで寝ていては風邪をひきますよ」
とても聞き覚えのある声だった。
「あ。ミネルバおば様」
「学校ではマクゴナガル先生とお呼びなさい」
なかなか直らない私の癖に、おば様は苦笑する。
だって仕方がないわ。
物心ついたときからそう呼んでいるのだもの。
「少し早いですが、私の研究室へ。今日の分の訓練をいたしましょう」
おば様の言葉に返事をして私は机の上を片付け始めた。
まず羽ペンを仕舞って。
私が羽ペンに手を触れた瞬間。
小さく、風船が割れるような破裂音が響いた。
「きゃっ!な、なに!?」
音はすぐに消えて、でも消えたと思ったら今度は不思議な光景が目に飛び込んできた。
「・・・・・何・・これ・・?!」
どこからともなくバラバラと降ってくるお菓子。
キャンディー、ゼリービーンズ。でも一番多いのはチョコレート。
思わず呆然となってしまう。
そのとき、私の前にヒラヒラと紙が舞い降りた。
綺麗な筆記体で一言。
『Happy days!!』
思わずミネルバおば様と顔を見合わせてしまった。
おば様が笑った。
一体誰の仕業なのだろう。
ちょっと得体が知れない。
でもどうしてだろう。
なんだかちょっとだけ楽しくて。
気が付くと、私は笑っていたのでした。
『ご機嫌よう!!』
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