ドリーム小説
会えない。
会っちゃいけない。
今会ってしまったら、きっと自分の想いに歯止めが利かなくなる。
やっぱり僕には人並みの恋愛なんて無理だったんだ。
だって僕といたら君は幸せにはなれない。
この気持ちを忘れなくちゃ。
だから会えない。
今ならわかるよ、君の気持ち。
君もこんな想いでセブルスを見ていたんだね。
スピカ 第三十夜
がリーマスと親しくなったのは1月末のまだ寒い時期だった。
あの頃はまだはセブルスが好きで、前にも後ろにも進めない心は冬の風よりも冷
たくていつも凍えていた。
そんなときの心に一陣の風が吹いた。
咲きたくても咲けないでいた蕾の上に積もった雪を溶かすかのような暖かな風。
リーマスは全てを包み込む春の人だった。
リーマスと出会ってから月日が経ち、もうすぐ冬が終わる。
グリフィンドールを発って外に出たの頬を心地よい風が撫でる。
目を瞑ると瞼の奥にリーマスがいた。
あの日、を冷たい心の牢獄から連れ出してくれた日からの中にはいつも
リーマスがいた。
父や母やミネルバ、それにセブルスがいたところとは別のところにリーマスはいた。
もうそんな簡単に忘れられるものじゃない。
リーマスのいない世界なんてには考えられない。
リーマスは自分に会えないと言う。
リーマスが自分を拒んだ瞬間、の中の何かが切れた。
暖かな日差しの下、は高くそびえる獅子寮の塔の前で立ち止まった。
ドアをノックする音がして返事を返す。
開いたドアからシリウスが入ってきた。
何をするでもなくベッドに寝転がっていたリーマスはチラリと目を向ける。
「シリウスか。何か用?」
まるで感情の篭らない声にシリウスは“暇そうだなぁ”と苦笑する。
「おら。これでも飲め」
そう言って2つ持ったマグカップのうちの一つを渡す。
「ありがとう。シリウスがココア淹れてくれるなんて何かの前触れ?」
「悪かったな。俺はその甘ったるい粉触るのも嫌なんだよ」
そう言って仏頂面でコーヒーを飲むシリウスにリーマスは苦笑してもう一度礼を言う。
リーマスが熱いココアを一口啜ったところでシリウスは軽い口調で告げた。
「今さっきが来たぞ」
その名にリーマスの手が止まる。
「が?」
「おう。お前に会いたいって。今は無理だから手紙かなんかにしとけって言っといた」
そう言ってコーヒーを啜るシリウスをリーマスは物珍しげな目で見る。
「・・・んだよ」
「シリウス、と普通に話したの?彼女のこと嫌いじゃなかったっけ」
「・・・お前もジェームズと同じこと言うのな」
が帰った後もシリウスは一部始終を見ていたジェームズにからかわれた。
意地悪なジェームズは何か言いたげににやにやしながら小躍りしていたのでシリウスはま
たガーガー吼えることになった。
「スリザリンだし、確かにちょっと気にいらねぇとこあるけど。別に嫌いじゃねぇよ、あ
いつのこと」
そう言うシリウスの頬はコーヒーの蒸気のためか、はたまた別の理由でか、ほんの少し赤
くなっている。
リーマスはそのことに目聡く気付いたがあえて言わないことにした。
「なんで会ってやんねぇの?なんか泣きそうだったぜ、あいつ」
シリウスの言葉にリーマスの胸の奥がちくりと痛む。
そのときのの顔が鮮明に想像できてしまう。
「あいつのこと、好きなんだろ?」
唐突なシリウスの言葉にリーマスはカップを落としそうになる。
「やっぱそうなんだな」
「・・・・・」
リーマスの沈黙を肯定ととったシリウスは口元を緩める。
リーマスも観念したように苦笑するとココアを啜った。
「何が問題なんだよ」
「何がって・・・わかるだろ」
真剣な表情のシリウスにリーマスはそれ以上の深刻な表情で応える。
それはどこか自嘲じみている。
どこか遠くを見ているようだった。
「僕が人狼であることを彼女は知らない。知ったら、きっと彼女は僕を拒絶する。たとえ
拒絶しなかったとしても、僕じゃを幸せにはできない」
カップを持つ手に自然と力が入る。
「彼女は強いよ。・・・僕が臆病なだけだ」
力の入ったリーマスの指先をシリウスは一瞥する。
リーマスの話を静かに聴いていたが、冷めてしまった手元のコーヒーを飲み干すとシリウ
スは至って軽い口調で言葉を告げた。
「んなのわかんねぇじゃん」
カタンとカップを置く音が響く。
リーマスの不思議そうな目がシリウスに向く。
「お前の与えたい幸せとが望む幸せは一緒とはかぎらねぇぜ」
それは重い言葉のはずなのにシリウスが言っているせいかリーマスの頭の中に空気のよう
に自然に入ってきた。
リーマスの中で堅く結ばれていた複雑な鎖が小さな音を立ててほんの少し解けた。
「たまにすごいこと言うよね、君は」
「たまには余計だっつぅの」
苦笑して冷めたココアを飲み干すリーマスにシリウスは口を尖らせる。
さっきよりも幾らかましになった心の内にリーマスが表情を和らげたときだった。
それは突然だった。
グリフィンドール寮塔にぶつかるかのように声が大音響で響いてきた。
今しかないと思った。
今ならリーマスは部屋にいる。
たとえ自分の姿を見ようとはしなくとも、声なら絶対に届くと思った。
だからはありったけの想いをこめて、恥や外聞など捨てて大声で叫んだ。
「リ―――マ――――――スッ!!」
自分でも信じられないくらいの声が出た。
生まれて初めて出した程の大きな声だった。
しばらくしての前にそびえたつ塔の窓が静かに開いた。
リーマスかと思ったがそれはの声を耳にしたグリフィンドール生だった。
聞かれたことを恥ずかしく思ったが、は構わずもう一度叫んだ。
「リ――マ―――スッ!!私の声、聞こえているのでしょぉ―――っ!?」
の声に反応するようにグリフィンドールの窓は次々と開いていく。
公衆の面前で大声を出して恥ずかしかったが、どこかにリーマスがいないかとは
チラチラと目を配らせる。
だがどこにもリーマスはいない。
物静かな・の珍しい行為に、窓から下を覗く生徒たちは好奇の目を
に注ぐ。
その視線にあてられ、の頬が真っ赤に染まる。
視線に耐えられずに一度は下を向いてしまうも、はこぶしをきつく握り締めて空
を仰いだ。
「リーマスッ!!出てこなくても構わない!だからお願い、そのまま聞いてっ!」
どうか私の声よ届け
「あなたに・・・・・あなたに言いたいことがあるのっ!!」
ずっと言いたかった
「ずっとあなたにお礼が言いたかったのっ!あなたは私を救ってくれたわ。そのお礼が言
いたかったの!」
暗い心の闇から救い出してくれた
「私は・・・私はとても弱い人間だった。過去に縛られて、いつも自分に自信がなくて。
本当に言いたいことは、何も言えなかった」
覚えているでしょう?私の恋は、ただ見つめるだけのものだった
「でもあなたと出会って、たくさんの喜びを知って、私は素直に笑えるようになれたわ」
あなたのおかげで私は変われた。もうあの頃とは違う
「もう・・・もう好きな人に好きだと言えずに終わった私じゃないわっ!」
のその言葉に反応するように生徒たちのざわめきは大きくなっていく。
遠くから見ることはできない。
だが確かにの青の双眸には薄っすらと涙が溜まっていた。
決して涙を零さんとはさらにこぶしを強く握る。
「リーマスッ!もし聞こえているなら」
溢れんばかりの想いを込めて叫ぶ。
「もう一度、今度こそ一緒にスピカを見に行ってほしいのっ!」
どうか私の声よ届け
「どうすんだ?」
部屋の窓に背を向けてベッドの上で丸まるリーマスにシリウスは声をかける。
「あそこまで言われて無視するきかよ」
シリウスの言葉には僅かながらの重みがあった。
だがリーマスは動かない。
の叫ぶ声が聞こえてきた瞬間こそ窓際に寄ろうとしたが、だが思いとどまったよ
うにすぐにベッドの上で丸まってしまったのだ。
「リーマス」
不意に声がしてシリウスが振り向くと、そこにはの声を聞きつけたジェームズが
いた。
ジェームズに隠れるようにピーターも部屋の外にいる。
勘のいい彼は何事かを悟ったのだろう。
悪戯するときは違う、穏やかな笑みを浮かべた。
「リーマス。僕らは彼女のことを何も知らない」
諭すようなジェームズの言葉にはいつだって力がある。
リーマスは膝に顔をうずめたまま耳だけを機能させる。
「彼女のあの勇気に応えられるのは、君しかいないんじゃないかい?」
ジェームズの言葉にの姿が脳裏に浮かぶ。
彼女はどれだけの勇気を振り絞って敵寮の前であれだけのことを言ってのけたのだろう。
自分ばかりが逃げてどうなるのだろう。
リーマスの中に小さくも開花前の何かが芽生える。
膝から顔を上げたリーマスの瞳は、決して死んだ者のそれではなかった。
ただ決してほぐれることのない苦悶が渦巻いていた。
狼が小さく吼える。
「今夜は、満月だ」
鳶色の髪で隠された細められた目の奥に、小さな炎が燃えていた。
NEXT
BACK
TOP
あぁぁ。何がどうなるのやら。
今回は男の子たちが出張っております。
長かったスピカ。次回でラストとなります。
さて。どんな結末になるのでしょうかね。
SEO
掲示板
[PR]
爆速!無料ブログ
無料ホームページ開設
無料ライブ放送