ドリーム小説
「しかし、本当に君は悪運が強いね」
保健室のベッド脇の椅子に腰掛け、ジェームズは白い歯を見せて笑う。
まだ起き上がれないリーマスは苦笑で返した。
「まぁね。自分でもたまに驚くよ」
あの後すぐに保健室に運ばれたリーマスはマダム・ポンフリーの治療を受け、半日で順調
に回復にむかっていた。
夕飯を早めに食べ終えたジェームズとピーターがリーマスのベッドのそばに腰掛けていた。
しばらく談話していたが、ジェームズは呆れ顔になると首だけ回して背後に声をかけた。
「ほら、シリウス。いい加減入ってこいよ」
ジェームズに呼ばれても保健室のドアにもたれかかってむすっとしているシリウス。
「・・・うっせぇ」
「駄々っ子」
“しょうがないなぁ”とジェームズは重い腰をあげ、嫌がるシリウスの首根っこを引っ張
って椅子に座らせた。
スピカ 第二十八夜
「やぁ、シリウス」
リーマスの弱々しげな呼びかけにもシリウスはむすっとしたまま答えないでいた。
相変わらず事件前と同じ調子のシリウスにリーマスは苦笑する。
その場の3人はシリウスがまだリーマスとの言い合いの尾を引いていると思っていた。
「い〜つまで根に持ってる気だい?パッドフット」
「いい加減にしなよ、シリウス」
「うるせぇ!そのことじゃねぇよ!」
ジェームズとピーターの呆れたような言葉に、だがシリウスは激昂する。
相変わらずリーマスの方は見ないまま、シリウスはひどく不機嫌な顔でいた。
わけが分からないという面々にシリウスは余計イライラした。
「シリウス。何を怒って」
「お前が黙って行くからだろぉがっ!!」
突然リーマスは怒りの言葉を投げつけられ、ベッドに横になったまま目を点にする。
顔面真っ赤のシリウスの額に筋が立っている。
「ヒゲ校長が崖崩れで危険だっつったのに、何でそういう勝手なことすんだよ!あん時俺
と会ったくせに、なんか言うことあっただろっ!?」
吼えきった後の犬のように息を切らせるシリウスをリーマスは呆然と見つめていた。
今にも食って掛かりそうなシリウスにリーマスは真剣な目を向ける。
「・・・シリウス」
さっきとは違うリーマスの目の色にシリウスも真剣な表情をする。
ジェームズもピーターも口を紡ぎ、辺りが静寂に包まれる。
リーマスの口が静かに開いた。
「血圧上がるよ?」
「そうじゃなくって!!」
“おちょくってんのか!?”とシリウスは思いっきり頭を抱える。
後ろの2人が噴出したのを見て思わずリーマスも笑ってしまった。
シリウスは自分の怒りが全然伝わらないのを諦めたのか、ぐしゃぐしゃと頭をかく。
リーマスは大笑いしたいのを必死にこらえているらしく、ベッドの掛け布団が上下に揺れ
ていた。
「わぁかってる、わかってるよ、シリウス。・・・ごめん、悪かった」
「・・・おぅ」
簡単に謝罪の言葉が言えてしまうリーマスにシリウスは拍子抜けしてぽりぽりと頬をかく。
不意にシリウスの顔が赤くなる。
今が全て言えるチャンスだと思ったのだろう。
「その、俺もあいつのことで・・・悪かった」
今更に照れくさいのか語尾が小さくなるところがシリウスらしい。
割に純なシリウスの精一杯の勇気だからこそ、リーマスはからかってやろうと思った。
「シリウス君、聞こえませーん」
「うっせぇ!!2度は言わねぇ!」
照れると大声になるところも相変わらずでジェームズはにやりと笑う。
「かぁわいぃ〜、シリウス君。相変わらずリーマスには弱いなぁ」
「んだよっ!」
「何だかんだ言ってシリウスはリーマスが大事なんだよね?」
「ピーター、てめっ!」
「だよねぇ〜。あれだけ喧嘩腰だったくせに倒れたリーマスのこと一人で担ぎ上げて保健
室まで運ぼうとしたしね」
「黙ってろ、鹿っ!!」
沸騰した薬缶のように真っ赤になって怒り暴れるシリウス。
からかいやすいシリウスの前では3人は最早悪魔であった。
「「「シリウス、おっとこまえ」」」
「うっせぇぇっ!!」
遂に最大音量で叫んだシリウスの声は廊下中に響き渡り、すぐに飛んでやってきたマダム
によって3人は追い出されることとなった。
それでも4人の表情は以前と同じ、何のわだかまりもないものになっていた。
その頃はマクゴナガル先生の寝室で静かに寝息を立てていた。
同じようにマダム・ポンフリーの治療を受け、“アニメーガスの使いすぎによる過労”と診
断された。
の自室に連れていってもよかったが、は大多数の生徒たちの前でその術
を解いて正体をばらしてしまった。
一人にして何をされるかわかったものではない。
部屋に運んできたときは全身汗びっしょりで体中の筋肉が痙攣を起こしかけていたが、今
は穏やかな眠りについている。
マクゴナガル先生はベッドサイドに腰掛けるとの額にかかった銀髪を払ってやる。
「よくがんばりましたね。あなたという人は・・・全く」
生徒の前では決して見せない穏やかな表情で先生は微笑む。
不意に頭の片隅にあった記憶が蘇る。
それは家族中が止めても動物保護団体に入ると言ってきかなかった先生の妹の記憶だった。
「頑固なところは母親譲りね」
今度に会ったら言ってやろうとマクゴナガル先生は口元を緩めた。
それから3日が経過した。
もリーマスも完全に回復し、それぞれの生活へと戻っていた。
の噂は、彼女の変身を見た生徒によって尾鰭背鰭を付けすごいことになっていた。
だがその噂が当初とは一風違ったものになっていることを本人はまだ知らなかった。
それはいつもと変わらぬ朝食の席でのことだった。
全員が集まり、いつも通りに朝食をとっていたとき不意にダンブルドア校長が手を叩いた。
生徒たちは好奇の視線を職員席に送る。
「皆。おいしく朝ごはんを頂いているところすまないが、ちょいと重大報告がある」
その声に生徒たちの動かす手が止まる。
校長先生はぐるりと各テーブルを見回すと朗らかに微笑んだ。
「ふむ。実は先日魔法省にて年一度のある試験が行われた。それはとても危険で長年の訓
練の成果が試される試験なのじゃが・・・今年数十年ぶりに我が校から受験者が出た。そ
して今朝方魔法省から報告があった」
生徒たちの間にざわつきが起こる。
誰がその人なのかと生徒たちの視線はあちこちに飛ぶ。
それを楽しそうに見ていたダンブルドア校長の口がゆっくりと開いた。
「魔法省直下魔法不適正使用取締局長に代わり、わしが、スリザリン寮4年
・を魔法界6人目のアニメーガス登録者としてここに任命する」
校長の言葉が大広間に響き渡る。
ざわついていた室内が静寂で満たされる。
だが次の瞬間には、天井から下がる寮旗が揺れるほどの大歓声があがった。
全生徒の好奇の目は一斉にスリザリン寮の端に注がれる。
そこには目を満月のように丸くする一人の少女がいた。
「・・・・・え」
よくわかっていないはしぱしぱと瞬きする。
職員席の方を向くと楽しそうに笑う校長と目が合った。
まだよくわかっていないにさらに言葉がかかる。
「また、そのアニメーガスの術を駆使し、先日の土砂崩れから一人の生徒を救ったことを
称え、Miss.にホグワーツ特別功労賞並びにスリザリンに30点与える」
その言葉に大歓声を上げたのはもちろん蛇寮の生徒たち。
それまでに奇異の目を向けていた生徒たちの目も一斉に輝きの瞳に変わっていた。
蛇寮のあちこちからを賞賛する声が飛ぶ。
そのあからさまな変わりように他寮の生徒は呆れていたが、それに一番驚いているのはや
はりだった。
だが自分も長年この狡猾な寮で生活してきてその性格をよくわかっているのか、
の心に怒りが生まれることはなかった。
そんな自分の甘さに思わず苦笑が漏れる。
静かに目を瞑ると、大広間中の歓声がの耳に入ってきた。
それは決して不快なものではない。
雨音のような拍手の音は、の心を満たしていく。
目を開けると嬉しそうに微笑むマクゴナガル先生と目が合った。
少し視線を横にずらすと、影に隠れて薄い笑みを浮かべて小さく拍手するセブルスと目が
合った。
上を向いたの青の瞳に炎が宿る。
「当然です。私は高潔なるスリザリンなのですから」
堂々たる言葉にスリザリンの拍手はさらに大きくなる。
毅然と前を向く少女の瞳には薄っすらと涙が浮かんでいた。
大広間の大喧騒はそれからしばらく続いた。
生徒たちは朝食をとるのも忘れ、しばしそのお祭り騒ぎに浸った。
だが、その静寂を忘れた大広間を一人抜け出す影があった。
「いいのかよ。何も言ってやらなくて」
黙って席を立ち廊下に抜け出た友人にシリウスは声をかける。
「あんな状態で声なんてかけられないだろ?」
鳶色の髪を揺らして少年は苦笑する。
「まぁな。後で言うチャンスもあるしな」
「いや。ないよ」
シリウスの言葉に短く返すと、少年はスタスタとグリフィンドールへと向かう。
「あぁ?どしたんだよ、急に」
声をかけても少年の歩みは止まらない。
仕方なくシリウスは後を追う。
「おい、リーマス」
「シリウス。僕、しばらくの間と会わないから。協力して」
感情の篭らない声でそう呟くと、リーマスはひたすら足を前へと進める。
その横顔には陰のある哀愁が満ちていたが、後ろから追うシリウスがそれを見ることはな
かった。
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突然ヒーロー誕生!
・・・できすぎですね。出来杉君。
しかし黒犬君の砕けた言葉、書くの楽しいわい♪
ワイルド少年ラブ。
そしてリーマス、どーしたのー?
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