ドリーム小説
綺麗な発声で防寒の呪文を唱え、は杖をしまう。
「話したいことが多すぎてわからないわ。何から話せばいいのかしら」
リーマスの横に腰掛け、はふぅっと一つ息を吐いた。
「いいよ。一番初めから話してよ」
リーマスの笑顔につられるようにも薄く微笑む。
その笑顔にまた癒される。
「そうね。じゃぁまずは、私が生まれた時のことを話すわ」
そう言ってはまた一つ息を吐いた。
スピカ 第二十七夜
今からちょうど15年前。
マクゴナガル家の次女がその身に子を宿した。
父親からも母親からも愛情を注がれ、皆がその子の誕生を待ち望んでいた。
“前も言ったけれど、私の母はミネルバおば様の妹なの。母の名は、。・
。私は母の名を貰ったの“
マクゴナガル家は代々アニメーガスや変身術を得意とする家系だった。
長女のミネルバ・マクゴナガルもホグワーツ在籍中に登録を済ませた優等生だった。
続く次女の・マクゴナガルも登録をするはずだったが、受験間際になって同級の
・と結婚、妊娠が発覚。
アニメーガスの受験は先延ばしとなった。
それでも早く登録したいとの彼女の意志に応じて訓練だけは積んでいた。
“当時はまだ誰も知らなかったの。不安定な精神でアニメーガスになろうとする、その危
険性を“
そして臨月に入ってからも訓練は続けられた。
それはなんてことのない普通の春の日だった。
彼女は身重で精神的に不安定な状態のままアニメーガスになろうとして、結果失敗して発
狂した。
幸か不幸か、完全に発狂する前に彼女は女子を産み落とし、彼女自身はアニメーガスにな
ることに成功した。
夫であるの髪と同じ真っ白な体毛を纏った雪豹だった。
人としての意識を完全に失ったは、自分が産み落としたこともわからずにそばで
産声をあげる赤子を咥えるとそのまま家を飛び出した。
“それが私、・Jr.よ。私は、母のぬくもりを知ることなくこの世に
産み落とされたの”
事態を知った家とマクゴナガル家は総出で赤子と雪豹を探し回った。
父親のは自分を責め、仕事を無断欠勤して必死に2人を探した。
1週間ほどして赤子は遠くの森で発見された。
赤子は雪豹と一緒だった。
だがそれは母親が変化したものではなく、純粋に本物の雪豹だった。
発狂したが森に捨てていった赤子を、偶然発見したメスの雪豹が育てていたのだ。
その異例の事態は魔法省の一部を騒がせたらしい。
元来頭のいい雪豹はすんなりと赤子をに引渡し森へ帰っていった。
保護された赤子は健康体で、マクゴナガル家に預けられて5歳までそこで過ごした。
逃走していたアニメーガスは程なくして魔法省の部隊によって捕獲され、聖マンゴ魔法疾
患傷害病院に入れられた。
“私が母に初めて会ったのは5歳のとき。そのとき自分の生い立ちを全て聞かされたわ。
正直言ってショックだった。幼い子供にそんなことを受け入れろというのが無理なのに。
でも唐突に理解した。私が何をしなければいけないのか”
その日、少女は一晩中泣いた。
父親の胸の中で思いっきり泣き喚き、その日を境に少女は涙を見せなくなった。
次に涙を見せたのは、ホグワーツで鳶色髪の少年に心を見透かされたときとなる。
そして僅か5歳の少女は決意した。
「ミネルバおばさま。お願いがあります。わたしに・・・・・わたしにおばさまの術をお
しえてください」
病院の待合室でそう告げられてミネルバはひどく困惑していた。
「な・・なにを言うのです、」
「お願いします。わたしにゆきひょうのアニメーガスの術をおしえてください」
“母の代わりに、私が雪豹のアニメーガスになろうと決めたの。私の母は幻の生物保護団
体の会員で雪豹の保護を担当していたらしいの。母の夢を叶えると同時に、赤ちゃんだっ
た私を育ててくれた野性の雪豹に恩返しがしたかった。でも・・・そんなの言い訳かもし
れない”
「・・・過酷な訓練となります。あなたの母と同じ目にあうかもしれないのですよ?」
なんとか説得してやめさせようとするミネルバに、だが幼いはその蒼眼に炎を宿
して頷いた。
そしてはホグワーツへ入学すると同時にミネルバの下でアニメーガスの訓練を始
めた。
“私は・・・そうすることで自分の運命に決着を付けたかったのかもしれない”
そしてはゆっくりと白い息を吐き出した。
「学校に流された噂は本当のことよ。私は母に捨てられ、野生の雪豹に育てられていた」
自分の生い立ちを話すの横顔は穏やかだった。
「父もおば様も全力でそのことを隠し私を育ててくれた。私が寂しくないように、いつも
誰かがそばにいてくれた」
そこまで言って、“でもね?”と言葉を区切る。
ふとリーマスが横を向くと、の目には止まったはずの涙が薄っすらと滲んできて
いた。
「一度でもいい。母に“ママ”って言って・・・抱きしめて欲しかった」
涙を落とさぬように唇を噛み締める姿が痛々しくて、リーマスはの頭を引き寄せ
て自分の肩に乗せた。
「泣いていいんだよ、。僕の前でまで、我慢しなくていいよ」
そっと頭に手を置くとの小さな震えが伝わってきた。
リーマスは流れる銀髪をそっと撫でる。
「スピカは、“お母さんの星”だったんだね」
不意のリーマスの言葉には顔を上げる。
「・・・知っていたの?」
「が教えてくれた。“スピカを象徴する女神デメテルは本当に自分の娘を愛していた”
って」
「うん・・・・・うん。子供の憧れだったの、初めて本で読んだときから。それに私が生
まれたのも春で、きっとあの日もスピカが輝いていたんだろうなって思って」
あの日とはきっとが連れ去られた日だろうとリーマスは予測し、それを悲しそう
に言わない少女にほんの少し目を細めた。
「リーマスにはスピカの存在を知っていて欲しかったの。でも結果的にこんなことになっ
てしまって・・・・・ごめんなさい」
その目にはまた涙が溜まっていた。
リーマスは思わず噴出す。
「、泣きすぎ。僕は大丈夫だって」
「でも」
「それにと2人っきりになれたし。君の気持ちも聞けたし」
“役得、役得”と悪戯っ子のように笑うリーマスを見ては赤い頬を膨らます。
方法は人それぞれだけれど、こうやって自分を励ましてくれるリーマスがは好き
だった。
「何だか私、いつもリーマスにしてやられている気がするわ」
少しだけ怒ったように言ってみせる。
だがリーマスからの返事はなかった。
全く返事が返ってこないのをは不審に思う。
「リーマス。寝てしまったの?」
「・・・ん。ごめん、。ちょっとだけ・・・眠ってもいいかな」
そう言ってリーマスはの肩に頭を乗せた。
頬をくすぐる柔らかな鳶色の髪とリーマスの体温が心地よくては薄く微笑む。
慣れないアニメーガスの使用で疲れていたため、防寒の魔法に身を任せも目を瞑
った。
何もかも話してしまった。
誰にも話したことのないことを話してしまった。
自分の想いさえ告げてしまった。
もうこの少年に対して何も怖いことはない。
そう思いたかった。
後一つだけ。
少年の気持ちだけが聞きたかった。
瞼の奥に微かな光を感じては目を覚ました。
目を開けた瞬間の瞳に一筋の光が差し込み、あまりの眩しさに目を瞬かせる。
肩に少しの重みとぬくもりを感じ、全て夢ではないと実感できた。
と同時には現実に引き戻された。
「早く戻らなきゃ」
きっと帰ったらマクゴナガル先生にこっぴどく叱られるんだろうなぁと眉間に皺を寄せる。
「リーマス。大丈夫?」
まだ眠気の残る声で声をかける。
だがリーマスから返事は返ってこない。
「リーマス?」
ぴったりとくっついていた体を離しリーマスの顔を覗きこむ。
途端の背筋を汗が伝った。
「リーマスッ!」
リーマスの顔は薄暗闇でも分かるほど真っ白だった。
目を瞑り、血の気のない唇を閉じたリーマスはまるで死んでいるようだった。
「リーマス、リーマス!!」
何度名前を呼ぼうとリーマスは目を覚まさない。
自分に寄りかかっていた体がずるりと横に倒れた。
丸2日暗闇に閉じ込められた少年の体は思った以上に衰弱していた。
「ぁ・・・・マ・マ」
物言わぬ真っ白な彼の姿が病室に横たわる母の姿と重なり、の体を恐怖が駆け抜
けた。
だがそれも一瞬ですぐに現実に戻る。
「私が助けなきゃ」
は一つ息を吸い、精神を集中させると天井から降り注ぐ光の下、再び銀色の獣へ
と変化した。
“リーマス”
ぺろりと一度リーマスの頬を舐めると器用に体を使ってリーマスをその背に乗せた。
しなやかな後ろ足を蹴り、雪豹は天井の太陽を目指し駆け上った。
夜が明けてしまった。
だがグリフィンドールの窓から出て行ったきり雪豹は帰ってこない。
ジェームズ、シリウス、ピーター、リリーは一晩中談話室で起きていた。
マクゴナガル先生はホグワーツの玄関でが帰ってくるのを待った。
朝食をとるため大広間へ向かう生徒もちらほらと見受けられる。
徐々に騒がしくなる廊下の声は全く耳に入らず、マクゴナガル先生は半ば諦めたように目
を瞑ったときだった。
「リーマスッ!!」
不意に2階の方から叫び声が聞こえてマクゴナガル先生は伏せていた目を起こした。
視線のずっと先に真っ白な獣とその背に乗せられた人間を目に捉えた。
マクゴナガル先生は慌てて階段を駆け下りる。
後ろの廊下を歩いていた生徒たちも獣に気付いたようで様々な声が聞こえてきた。
「ちょ、何あれ!?」
「やだ!こっち来るよ!」
その声は次第に広まり、気付くとホグワーツの窓は開け放たれ生徒たちの好奇の視線が雪
豹に注がれていた。
背に少年を背負った雪豹はホグワーツの玄関に辿りつく前に歩みを止めるとどさりと少年
を地に落とした。
「ねぇ、あれルーピン君じゃない!?」
背後の声を無視しマクゴナガル先生は雪豹へと走り寄った。
昇りきった太陽が照らす中、雪豹はその銀毛を光り輝かせながら真の姿を露わにした。
その事実に窓から覗いていた生徒たちから奇声が挙がる。
「!!」
動かないリーマスとを見てマクゴナガル先生は冷汗をかく。
はその場にどさりと膝をつくと疲労の濃い顔でだが精一杯叫んだ。
「お願い・・・・・リーマスを助けて!!!」
マクゴナガル先生の後ろに階段を飛び降りてこちらに向かってくるジェームズ、シリウス、
ピーターが見える。
それだけを叫ぶとは力尽き、リーマスの横にどさりと倒れた。
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とりあえずリーマス救出!
そしての過去が。
大詰めです。もうすぐこの話も終了ですね。
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