ドリーム小説
走りながら考えていた。
Dadもあの日の夜、こんな想いで走っていたのだろうかと。
風が体をすり抜ける様に流れていくのが心地いい。
Mammaもいつも、こんな想いで走っていたのだろうかと。
走りながら考えていた。
でも走るたびにそれらは消え去り、気が付くと頭の中はリーマスのことでいっぱいになっ
ていた。
スピカ 第二十六夜
はひたすら走った。
にもリーマスがどこにいるのかわからない。
でもなぜリーマスが外に出たかはすぐにわかった。
“ねぇ、リーマス。乙女座のスピカという星を知っているかしら”
が魔法省へと発った日、リーマスへ宛てた手紙には確かにそう書いた。
きっとリーマスはスピカを見に行ったに違いない。
はそう確信していた。
この時期真夜中にスピカが見えるのは東南の方角。
もしそこにリーマスが行ったとして運悪く土砂崩れが起こったとしたら。
は背に冷たいものが走るのを感じ、一層足を速め、嗅覚を最大限にまで高めた。
そのときの前を一陣の風が抜けた。
その風が運んできたのは明らかに自然の匂いとは違う、人間の血のにおい。
そして感じたことのある人間のにおいだった。
は走った。
風が吹いてきた方角には確かに崩れた丘があった。
頬に落ちた水滴で目が覚めた。
相変わらず目の前は暗い。
昼間も薄暗かったが夜は全てを覆い隠す闇だ。
天井の穴から注ぎ込む星の明かりが唯一の光だった。
地下を流れる清流のおかげで喉の渇きは癒せたが食物は全くない。
まる2日何も食べておらず、リーマスの体力は完全に消耗していた。
怪我も相まって意識が朦朧とする。
「このまま・・・ここで死ぬのかな」
人狼になって自傷行為で死ぬのとどっちが惨めだろうかなどと考える。
殺伐なことを考え始めた自分に気付き、リーマスは軽く頭を振った。
ズキンと後頭部が痛む。
頭に響く痛みがリーマスの感覚を鋭敏にさせ、かえって意識をはっきりさせる。
こんな状況でもリーマスは一人の少女のことを考えていた。
「・・・もう帰ってきたのかな」
きっと自分がいないことを不審に思っているだろう。
「言いたいことがあるって言ってたっけ」
いなくなってしまった日に受け取った手紙にそう書いてあった。
手紙が送られてきたとき、自分だけに事情を教えてくれたという事実がリーマスはとても
嬉しかった。
「聞かなきゃ。あの噂のこと」
きっとまだあのおかしな噂がを傷つけている。
自分には何も出来ないかもしれないが、せめて話を聞きたいと思った。
「聞きたいことが・・・たくさんある」
と知り合ってまだ日は浅いけれど、リーマスの知らないがたくさんいる。
もっと彼女のことを知りたいと思った。
自分にもとても言えない秘密があるけれど、いつか願いが叶うならお互い何も隠すことな
どない関係になりたかった。
“どうか私の帰りを待っていて欲しい”
「待ってる。僕も・・・言いたいことがあるんだ」
一言話すたびに胸の骨がずきりと痛む。
途切れ途切れに息を吐きながらもリーマスは意識を保つために一人呟いた。
また一つ頬に雫が落ちてきた。
リーマスはゆっくりとした動作で天井を見上げた。
天井の穴にリーマスには名前のわからぬ星が一つ輝いていた。
(あぁ。綺麗だなぁ)
白い息を吐きながらゆっくりと目を閉じる。
瞼の奥に銀色の髪を携えた少女がちらついた。
出合った頃には決して見せてくれなかった笑顔を浮かべて。
あの笑顔をもう一度見たい、とリーマスはゆっくりと重い瞼を押し上げる。
そのときリーマスの視線の先に不可思議なものが存在していた。
天井の先で輝いていた星に白いものが重なっていた。
「え。な・に」
それは微かに動いてみせた。
リーマスがそれが生き物だと判断した瞬間、その白い何かはしなやかな動きで急勾配の崖
を下りてきた。
リーマスの1m先で立ち止まったそれは白とも銀ともとれる美しい毛皮を携えた獣。
いつかリーマスを助けてくれたのと同じ雪豹だった。
「あ。・・・雪豹?」
最初は血の臭いをかぎつけて獲物を捕らえに来たのかと思った。
リーマスは激痛の走る足を引きずって数歩後退するも、雪豹はそれを追うようにじりじり
と近づいてくる。
ずっと前にリーマスが森で怪我をしていたときはあの雪豹はリーマスの傷を癒してくれた
が、それはリーマスが同じ獣の人狼だったから。
人間の姿のリーマスを仲間と判断するわけがない。
リーマスがそう腹をくくったときだった。
目の前の雪豹はゆっくりとリーマスへ近づき寄り添うと、ぺろりと顔の傷を舐めたのだ。
足も腕も後頭部の傷も順に舐めていく。
リーマスがその意外な行動に驚いているとあの時と同じように舐められた部分が青白く発
光し出した。
「う・・わ」
光が止んだときにはリーマスの傷は完全に治っていた。
“2度も同じ奇跡に会うなんて”とリーマスが目を見開いて治った腕をしげしげと眺めてい
たときだ。
今度は目の前にいる雪豹が微かに光り出した。
ほんのりとした淡い光が獣の体を包み込むと、それは少しずつ形を変えていく。
光り輝く銀色の毛が長く束になり、猫科の細長い瞳孔が丸みを帯びていく。
そして雪豹はリーマスと同じ人の形へと姿を変えた。
それはリーマスがよく知る、知りすぎる人物だった。
目を満月のように丸くするリーマスの前には瞳いっぱいに涙を溜めた少女がいた。
「・・・。うそ・・だろ」
目の前で起こったことがわからず、リーマスは思わず自分で自分の頬をつねってみた。
でも痛いだけで夢から覚めたりしない。
「リー・・マス」
それまで我慢していた涙がどっと溢れ出し、は出会った頃のようにボロボロと泣
き出した。
泣きじゃくりながら、は驚き呆れるリーマスに飛びついた。
「えっ!本当に・・・?」
「よかった。リーマスが無事で・・・よかった」
ボロボロと流れる涙がリーマスの汚れたシャツに染みを作る。
嗚咽を漏らしながらもしっかりとリーマスの首にしがみつくの背を、リーマスは
そっと叩いた。
まだ頭は半分しか理解していなかったが、それでもの声も涙も本物だし何よりも
リーマスの冷えた体に伝わってくる確かな暖かさがリーマスを安心させた。
今ある現実が嬉しかった。
突然過ぎる出来事が何だか可笑しく、リーマスは衰弱した弱々しい笑顔を浮かべる。
「大丈夫。僕は大丈夫だよ、」
安心させるように撫でた柔らかな髪の感触が逆にリーマスを落ち着かせる。
リーマスは治ったばかりの腕に力を入れてを離すと、その青い目に溜まった涙を
そっと指で拭った。
「僕は平気。のおかげで怪我も治ったし」
安心させるようにリーマスは笑顔でそう告げる。
だが反応のないに目を向けると、はまた瞳に涙を溜めてリーマスを見つ
めていた。
その真剣な目にリーマスの顔から笑顔が消える。
一つ瞬きをした瞬間、の瞳から一筋の涙が流れ落ちた。
「本当に、心配だったの」
どちらも目を外さない。
瞳の色は違うのに、2人は確かに同じ目で見詰め合った。
互いの全てを理解しているかのように。
「わかってるよ」
リーマスのその言葉を合図に、2人はゆっくりと唇を重ね合わせた。
それはすぐに離れていってしまったけれどリーマスの冷たい体に確かな温度を与えた。
ホグズミードで叶わなかった夢が叶い、何だか照れくさくて2人は視線をそらす。
「リーマス」
不意の呼びかけにリーマスが顔を上げると、すぐそばにの顔があった。
真っ白な頬に僅かに朱がさし、薄い氷のような笑みが彼女らしいと思った。
もう一度、今度はからキスされた。
触れてすぐ離れてしまう、控えめな彼女らしい口付け。
それは小さな小さな呟きだった。
「・・・好き。私、リーマスが・・・好きです」
震える声がリーマスの耳の奥に静かに響き渡る。
リーマスの体全てがその言葉を受け入れていた。
「わかってるよ」
自分の全てを返すようにリーマスは穏やかな笑みで応える。
その言葉にの口元に笑みが浮かんだ。
流れるような銀糸を揺らして、瞳に涙を溜めて、薄っすらと微笑む彼女はなにものにも変
えられないくらい美しかった。
リーマスはまだ少し重い腕を起こすと両手を前に掲げて四角い窓を作った。
「リーマス?」
リーマスの不可解な行動には首をかしげる。
「“カシャ”」
シャッターを切る音が彼自身の口から出て、見るとリーマスが楽しそうに笑っていた。
「あ」
「誰かが教えてくれたんだ。綺麗なものはこうやって目に焼き付けるんだって」
いつか言った言葉をそのまま返され、それと同時に全てを理解したの頬がぼっと
赤くなる。
「。顔が赤いよ」
意地悪なリーマスにの顔が悔しそうに歪む。
出合った頃には見せてくれなかったの様々な表情を見せられ、リーマスは正直に
嬉しいと思った。
もリーマスの前では自然でいられる、そんな自分が嬉しかった。
「リーマス。あなたに話したいことがあるの」
どこか覚悟を決めたような彼女の顔に、リーマスは穏やかに微笑む。
「ちょうどよかった。僕も聞きたいことがあるんだ」
きっと言いたいことも聞きたいことも同じことだと2人は悟っていた。
何から話せばいいのか、は巡る頭の中に今までのことを思い起こす。
そしてゆっくりと息を吸い込んだ。
2人の頭上には、淡く青白くスピカが光っていた。
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リーマスめっけた。
よかった、生きてました。
姫の正体がばれるまで26話か。
ながっ!!
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