ドリーム小説
カチャンと乾いた音が部屋に響いた。
その音で、は自分がティーカップを落としてしまったことに気付く。
「どうしました?」
「ぁ・・・すみません」
彼女らしくない失敗に、マクゴナガル先生は少し驚いたような顔をしている。
だがそれも試験が終わっての緊張が解けたからだと思ったのだろう。
先生は苦笑してカップを直すよう言うだけにとどまった。
硬質な床に叩きつけられて粉々になってしまったカップを悲しそうに見て、は杖
を構えた。
「レパロ」
修復の呪文を唱えると、割れたカップは見事なまでに元の形を取り戻した。
しゃがんでカップを手に持ち、ふと窓に目を向ける。
部屋の電光のせいで暗い外の様子は何も見えず、代わりに部屋の中を写している。
窓に映ったランプの光が、まるで星のように輝いている。
「・・・・リーマス・・・?」
カップを落とした瞬間、どうしてかその名がの頭をかすめた。
スピカ 第二十四夜
ピチョンと雨だれの音が脳に響いて目を覚ました。
覚醒した身体の感覚。
ゆっくりと押し開いた目には、ただひたすら広がる闇が。
音を拾おうと傾けた耳には、空洞を風が抜ける音が。
深く空気を吸い込むと、鼻を突くのは土の匂いのみ。
徐々に覚醒してきた感覚によって、不意に身体中に痛みが走り出す。
「いっ・・た」
ほんの少し腕を動かしただけなのに、まるで捻り上げられているような痛みが走る。
もしかしたら折れているかもしれない。
リーマスは下手に動かさないようにして、それでも何とか足と片腕の力だけで上半身を起
こした。
ゆっくりと肩で息を吸い、同じように吐き出す。
それでどうにか今の状況を把握することができた。
前日の豪雨で緩んだ土壌は、どうやら人一人分の負荷でも崩れやすくなっていたようだ。
徐々に暗さに慣れてきた目で辺りを見渡すと、どうやら今リーマスがいるところが洞窟で
あることが理解できる。
天井から巨大な氷柱の様なものが無数に垂れ下がっていることから、そこは鍾乳洞らしい。
「丘の真下に・・・こんなものがあるなんて」
吐き出す言葉に、時折苦痛に満ちた呼気が混じる。
小さな声で呟いただけで肋骨がずきりと痛んだ。
リーマスは思わず顔を歪めて目をきつく閉じた。
歯を食いしばって痛みが引くのを待つ。
(これは・・・・・相当まずいな)
現状を把握し、まだ冷静に動く脳に安堵する。
ゆっくりと開いた視線の先にリーマスが落ちてきた穴が見えた。
まるでリーマスを見守るかのように星々が輝いていた。
懐かしい夢を見た。
それは少女がわずか5歳の頃のこと。
“おばさま。ミネルバおばさま”
病院の待合室のソファーに腰掛けた少女は、横に座る伯母に真剣な目を向ける。
それは5歳児とは思えぬほどの強固な意志の宿った瞳だった。
“おばさま。お願いがあります”
呼ばれたミネルバは、幼い姪の膝の上できちんとそろえられた手を見つめる。
その小さな手がぎゅっと握り締められた。
“わたしに・・・・・わたしにおばさまの術をおしえてください”
ミネルバを真っ直ぐに見つめ返すその青い瞳は、揺らぐことなくその奥に青い炎を秘めて
いた。
ゆっくりと開いた目に最初に入ってきたのは、溢れんばかりの太陽の光だった。
窓を通した日の光はの目を細めさせるのに十分で、慣れない明るさに何度か目を
瞬かせる。
「起きられましたか。疲れが溜まっていたのですね」
不意に優しい声が聞こえてきて、寝惚けたはそれが誰なのか初めわからなかった。
小さく開いた彼女の口がその意に反して“Mamma”と呟きそうになり、慌てて閉じる。
「お・・はようございます、おば様」
気だるい体を起こして目をこすり挨拶すると、マクゴナガル先生の苦笑する顔が視界に入
ってきた。
「。そろそろ支度を。早くに出れば、お昼にはホグワーツに着きます。午後の授
業には出ますか?」
“疲れがあるなら休んでも構いませんよ”という先生のねぎらいの言葉を、だが
は穏やかな笑みで断った。
「いえ、大丈夫です。授業は出ます。早く戻って遅れを取り戻さないと」
懐かしい夢の余韻に浸る間もなく、時は急ぎ足で進む。
そしてはありったけの勇気を振り絞った舞台を去り、自分の学び舎へ戻る準備を
始めた。
「シリウス君。リーマス君どこ行った?」
「なんで俺に聞くのですか?ジェームズ君」
両者にっこりと微笑みながらも十分に棘を含ませた言葉を吐き合う。
大広間のグリフィンドールの食事テーブルはぎすぎすした空気に包まれていた。
「ほら2人とも馬鹿やってないで。ねぇ、シリウス。本当にリーマスどこへ行ったか知ら
ないの?」
「こいつは馬鹿だが俺は馬鹿じゃねぇ」
「リリーが言うのなら僕は馬鹿になろう」
「あぁ〜、もういいから!!シリウス、いい加減にしなよぉ。本当は知ってるんでしょ?」
進まない話にイライラしながらはシリウスを咎める。
だがシリウスは眉間に皺寄せて抗議した。
「マジで知らねぇって。確かに昨日の夕飯前に出てったけど、どこ行くかなんて言わなか
ったんだって」
真剣なシリウスに、他のメンバーの表情に緊張が走る。
「おかしい・・・よね。だって今まで単独で悪戯するようなことなかったし、用事なら誰
かに一言言ってくよね。忍びの地図持ち出していくなんて普通じゃないよ」
コーヒーカップを包むの手に自然力が篭る。
皆を心配させまいとする優しいリーマスだからこそ、この行動はおかしかった。
「何かあったのかもしれない」
ポツリと呟いたジェームズの言葉に真剣さが宿る。
そのときダンブルドア校長の手拍きが大広間に響いた。
「あぁ、食事中の皆。ちょっといいかのぉ。お知らせがある」
相変わらずマイペースな校長は一つ咳払いし、ゆっくりと大広間を見回した。
「実は昨日の雨で土砂崩れが起きての。地盤が緩んで危険ゆえ、本日の屋外実習は全て中
止とする。クィディッチの練習もだめじゃ。安全が確認されるまで外出も禁止とする」
その言葉に大広間のあちこちからざわめきが起こった。
実習がなくなって喜ぶ生徒や外で遊べないため肩を落とす生徒がいる中、グリフィンドー
ルの一角では頬に汗する生徒たちが見られた。
「まさか・・・な」
ジェームズの言葉により一層真剣さが加わる。
だが彼の言葉を否定する者はいなかった。
かつてない不安が彼らを襲った。
結局リーマスは風邪ということで口裏を合わせ、メンバーはその日の半分の授業を上の空
で受けた。
昼食の時間になっても戻らないリーマスに、皆の不安はどんどん大きくなっていく。
「ねぇ。先生に言った方がいいよ」
最早泣きそうな顔で告げるの肩をリリーは優しく叩く。
「でもそれでリーマスが帰ってこれたとしても、リーマスへの懲罰はいつもの悪戯の比じ
ゃないよ」
同じく青い顔のピーターが震えながら呟く。
「でも・・・でももし事故に巻き込まれてたら」
「落ち着いて、。とりあえずもう少しだけ待とう。リーマスが自力で返ってこれれば、
それが一番いい」
いつもメンバーの中枢にいるジェームズはいつでも頭がきれる。
的確な判断には渋々口を結んだ。
メンバーが各々食事を再開し出したとき、不意に扉の方にざわめきが立った。
大広間の入り口に視線を向けると、不在だったマクゴナガル先生と少女が入ってくるとこ
ろだった。
何やら各寮のテーブルからヒソヒソ話が立ち始めたが、マクゴナガル先生が付き添ってい
るので大っぴらには言えない。
先生とはダンブルドア校長に何かを告げるとそこで別れた。
ダンブルドア先生がいつも以上にニコニコしている。
「なんだ、あいつか」
まるで興味がないようにシリウスはコーヒーをすする。
いつも抗議するも今はリーマスの心配で頭がいっぱいで何も言わない。
不意に視線を上げた瞬間、シリウスはと目が合ってしまった。
だがの方がすぐに視線をそらしたため、シリウスは面白くなさそうに眉間に皺を
寄せ、コーヒーを一気飲みした。
「なに百面相やってるんだい、シリウス」
「別に。なんでもねぇよ」
一層不機嫌になったシリウスに、ジェームズは肩をすくめた。
グリフィンドールにリーマスがいない。
その事実がの心を妙に不安にさせる。
たまたま席を外しているとかいったことも考えられたが、だが不意にの脳裏を割
れたティーカップがよぎった。
だが預言者でもないにはそれが何を意味するかわからない。
ただの思い過ごしだと自分に言い聞かせ、は今日の午後最初の授業へと向かった。
だがの不安は増大するばかりだった。
「Mr.ルーピンはどうしました?」
「風邪でーす」
点呼をとる教師に向かっていつものグリフィンドールのメンバーはそう答える。
平然と答えるジェームズ・ポッターの声に、は本当に風邪なのかと思った。
それなら近いうちにすぐ会えるだろうと、騒ぐ胸を抑える。
だがは目にしてしまった。
彼らに隠れるように座る少女、・の顔が蒼白なことに。
途端静まりかけていた胸騒ぎがぶり返す。
その日の授業が全て終わり、は図書館で読書をしていた。
もしかしたらリーマスが来てくれるかもしれないと思い、いつもの席に座っていた。
たった一日で状況が変わるはずもなく、相変わらずに視線は突き刺さる。
煩わしい視線を忘れようと気を取り直してがページを捲ったときだった。
「どうした、」
聞きなれた同寮の少年の声が耳に入った。
が座る席から少し離れたところに座っているらしいセブルスとの会話が聞こ
えてくる。
「どうしよう、セブ」
「だからどうしたのだ?」
は最早顔面蒼白で、今にも泣きそうな表情をしていた。
が何を伝えたいのかわからず、セブルスはをあやすようにその頭を撫でる。
「どうしよう。帰ってこなかったら・・・何かあったら」
「。ゆっくりでいい、話せ。何かあったのか?」
落ち着かせるように肩を叩き、セブルスはが口を開くのを待った。
不安でいっぱいのは、それでも片言の言葉を発した。
「セブ。リーマスが・・・」
「・・・・・何があったの?」
不意にセブルスの背中に声がかかり、振り向くとそこにはが立っていた。
何の感情も見出せない表情ではを見つめる。
「。久しいな」
軽く驚くセブルスはの肩から手をどける。
も真っ直ぐにを見つめた。
「さん、教えて。リーマスに何があったの?」
一言発するたびに大きくなる胸騒ぎを抑え、はの返事を待った。
そして震えるの返事を聞くやいなや、は出した本も片付けずに図書館を走り
去った。
「!」
セブルスが呼ぶ声も聞こえず、はただひたすら走り向かった。
足は、迷うことなくグリフィンドールを目指していた。
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わーわー!超久々!!
グリフィンドール出張り気味。
リーマス行方不明です。
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